18、仕事の依頼
ジョンソンパンに入るとルラさんに挨拶した。
「こんにちは。ナンシーに言われて来ました」
「待ってたわよ。ユミちゃん、ルイス君。来てくれてありがとう!」
ルラさんは座っていたけど、立ち上がってカウンターに手をついて歓迎してくれた。
「話って何ですか?」
「それが、アイテムバターのことなんだけど、パンを作ったらすごくおいしかったから、取れる時でいいんだけどまた持ってきてくれないかな。商品で出したいの。お金は払うわ」
「え!?」
これは仕事の依頼ってこと? おお~、すごい。ルイスと顔を見合わせる。ルイスはうなずいた。
「いいですよ」
「物々交換にしませんか?」
私が返事をして、ルイスが提案した。ルラさんは少し驚いた。
「いいの? そのほうがうちも助かるけど……」
「はい。どうせパンを買うので」
「アイテムの買取が十ルトだったので、一個につきパン三個はどうですか?」
こないだは販売価格の六〇ルトで、パンをもらいすぎちゃったなと思った。普通のバターの価格はだいたい二〇〇グラムで五ルトだ。
「え!? いいの?」
「はい。安くしたほうが、みんなも安く買えますよね。高級パンとして、ジョンソンさんのほうで少し上乗せもできるし」
「ありがと~」
私が言うと、ルラさんは喜んだ。ルイスが聞いた。
「数はどのぐらい要りますか?」
「一個か二個あればいいわ」
「分かりました!」
ルイスは元気よく返事をした。私たちへの初めての依頼だ! 二人ともニッコリした。
それからソーセージを二本渡すと、ルラさんもすごく喜んでくれた。帰ってから、ララさんとナンシーにもソーセージを渡した。残りはルイスと二本ずつ分けて、その日の夕飯になった。塩分控えめで、うまみが強くて本当においしかった!
翌日。今日はミサたちと入るから遅れないようにしなきゃ。八時三〇分に家を出た。
子供ダンジョンの前には行列ができていた。ミサたちが私に気がついて小さく手をふってくれた。後ろから二番目にいる。
「おはよう!」
『おはよう』
「みんな早いね」
「うん。私たちはいいけど、各層は早い順だから」
ミサは私を前に入れてくれた。
「おはよう。君、サンテスの子だろ?」
後ろの男の子に挨拶された! 後ろは、同じ年ぐらいの男の子二人のパーティだ。挨拶されて、ちょっとうれしい。いなくなった子たちとは違うのかな? 私も挨拶する。
「おはよう。そうだよ」
「いつもいないから、全然会わなかったけど、今日は勇者の子はいないの?」
「うん。休み」
「へ~、平日に休むなんて呑気だね」
え? もう一人の子が言った。
「でも、あいつらを追い払ってくれたのは感謝してるよ」
「おかしくなってて、邪魔だったからな」
いなくなった子たちのことだ。私はミサに聞いた。
「あの子たちはどうなったの?」
「昨日荷物をまとめて、全員出ていったよ。いなくなった子は全員アトロス寮の子だけだった。トミーとクムンの荷物は管理人さんが実家に送るって言ってた……。
当分ダンジョンの子は入れないけど、他の仕事の子は入れるって言ってた」
「そのほうがいいよ」
後ろの子が言う。寮は国の管理だけど、空き室はもったいないからな。クムンのことを考えると心が痛む……。
地元の子たちはちゃんとルールを守っていたんだな。大人になるまで家に帰れないから、親に言われてたのかも……。
「見て、あの武器。店で売れ残ってたやつだよ」
前の女の子たちがこっちを見て笑う。この子たち……みんないなくなった子たちと同じだ……。私はちょっとイライラした。
この武器はルイスが選んで買ってくれたものだから、私の宝物だ! 前なら、泣いちゃったかもしれないけど、これのおかげで自信が持てたから、もう泣いたりしない! 私は無視した。
女の子たちは、短いスカートにスパッツを履いたキャスケット帽の子と、短パンにぴったりしたTシャツを着て胸を強調している子だ。リュックも小さくて、なんかおしゃれな格好だった……。武器は腰に短剣を差していた。
「本当、ふざけた武器だよな」
「聖剣があるから、マスコット的存在なんだろ」
その前にいる男の子たちも話している。女の子と同じパーティみたいだ。後ろの子がまた話しかけてきた。
「君たち、今どこにいるの?」
「……昨日は五層目に行ったよ」
「え!?」
「まじか。俺たちでも一か月はかかったのに……。やっぱり聖剣は早いな」
「私たち、一日一層ずつ降りてるの」
「……」
二人の子は黙った。へへーん。ちょっといい気味。
「でも、今日は私しかいないから二層目だけ」
「……そうだよな!」
「まだ、二週間たってないけど、私Eランクになったよ」
「本当!? ユミすごいね」
ミサが驚いた。
「あの後、たまたま上手くいったんだよね。それで、更新してもらったんだ」
「そうだったの」
「そうだよな。聖剣がいるから、おこぼれにあずかれてラッキーだよな」
男の子が言った。……その通りだ。ルイスが褒められてるから、私は気にしなかった。
「そうだよ。こんなどんくさそうな子が、すぐにEランクになれるのは、聖剣がすごいってことだ」
まあ、ルイスがすごいのは本当だと思う。ルイスは責任感があるし、優しいし、気遣いもできる。私がアストールでも逃がしたくないよな。二人の出会いを思い出してちょっと笑った。
メイアはしょぼんとしていた。ミサも申し訳なさそうに言った。
「ユミごめんね。みんなこんな感じだから」
「本当のことだから気にしてないよ」
「ユミらしいわ……」
ミサはちょっと笑った。
「それに今日は私が頼んだんだもの。……ごめんねメイア、嫌な思いさせて」
メイアは首を横にふった。でも私は、仕事の依頼を受けてるからちょっと優越感を持っていた。他の子たちは自分のランク上げしかしていないから、先に進んでる感じある。私は、フフンという顔をして後ろの二人を見た。それに気がついた二人は、
「お前なんか生意気だよな……」
「ちょっと! 同じ年なんだから、そんなことないでしょ。もういい加減にしないと、勇者のルイスはユミの保護者のような存在だから、多分怒ると怖いわよ」
ミサが言うと二人はビクッとした。ミサが大声出すなんてめずらしい。私のせいなのでちょっと申し訳なかった。
ルイスは確かに私を守らないとって言っていたから、そんな存在だな……。でも他の人に怒ったことはないな。注意はするけど大事にはならないから、ちゃんと私を守ってくれてると思う。ルイスは本当に穏やかだけど、この子たちはルイスを知らないから仕方ないな……。
「こいつは、トミーのこともチクったからな。お前、聖剣に言うなよ」
「もう! ユミはそんな悪い子じゃないわよ。ユミたちはトミーにポーションをかけてあげたんだよ」
『え?』
「いなくなった奴ら、そんなこと言わなかったぞ」
そりゃ、トミーしか知らないし……。そこへ遅れて、少し年上の集団が来て一番前に入った。一番前にいた子が頭を下げて挨拶していた。同じパーティなんだな。順番取りかな?
あの子たちだけ、十六から十七歳って感じだな。ここに年長者が少ないのは、普通ダンジョンにいるからだろう。あとは、十四から十五歳だな。
時間少し前に、門番のおじさんもやって来た。おじさんは一人で中に入ると、しばらくして出てきた。多分、中の鉄格子を開けたんだろうな。おじさんは時計を確認する。
「入っていいよ」
おじさんが言うと、みんな順番に中に入っていった。でも、誰一人おじさんに挨拶する者はいなかった。私も前に進む。おじさんに近づくと挨拶した。
「おはようございます」
『おはようございます』
ミサたちも挨拶する。おじさんが笑顔で返した。
「おはよう。今日は早いね」
「ルイスが休みなので、今日はミサたちと入ります」
「そうかい。気をつけて」
「はい!」
私たちも中に入って、みんなの後に続いてゆっくり進んだ。階段を下りて二層目に入った。ふー、やっと一息ついた。




