13、冒険者の店
カウンターで魔鉱石を出す。
「今日は早いじゃないか。……ずい分小さいな」
またいつものおじさんが出てきた。
「子供がごっそりいなくなったんだって?」
「そうですよ」
私が答えた。ダリアさんが魔鉱石を確認した。
「Eランクの魔鉱石ね! ランクアップよ。おめでとう! 二人とも?」
「俺です」
「そう、じゃあ冒険者証を更新するから出して」
ルイスが冒険者証をダリアさんに渡す。カウンターの下に刻印を変える魔法具があるようだ。すぐに、冒険者証をルイスに返した。見ると名前の後ろのランク表記が、Eに書き換わっていた。おお~! すごい。——私はずっとFだな……。
「今日は一五三〇ルトよ」
分割の百ルトを引いて、お金を受け取った。これで、私の稼ぎは千ルトを超えた。一週間で派遣の二か月分を稼いだ。すご!
ダンジョンツアーのお土産のことを聞いてみた。
「ダンジョンツアーのバージョンアップのお土産って、アイテムとかですか?」
「アイテムじゃないわよ。アイテムは協会の収入源なの。品薄だから貴重なのよ」
「そうなんだ」
さすがにアイテムじゃないか……。ダリアさんは、口に人差し指を当ててウィンクした。
「内緒だけど、アイテムで作ったお菓子やお茶だよ。アイテムを使った食べ物はすごくおいしいんだよ」
「へ~、いいですね」
バターはおいしかったから、それは食べたいかも! 協会を出ると、ルイスがこの後の予定を言ってきた。
「この後、冒険者の店に行こうよ」
「うん。……そのために早く出たんだね」
「うん」
二人で協会近くの冒険者の店に向かった。
「初めてだから楽しみだな。色んなものがあるんだよね」
「うん、と思う。俺も行ったことないから」
「そうなんだ」
特にルイスは、行く必要がないよね。私も今のところ困ってないし……。
「何を買うの?」
「ユミの武器だよ」
「えっ!?」
まさかの!
「何か持ってたほうがいいなと思って。防御にもなるから」
「そうだね……」
そうだな! 考えたことなかった!
「俺が買うから。経費を使わないと」
「あ、うん」
「簡単なモンスターなら、ユミもランクアップできるし」
「! そうだね!」
私も、本当はランクアップしたい! ——自分が狩りをするなんて思ってもみなかった。
「そしたら、稼ぎも増えるね!」
「うん」
「楽しみ! どんなものがあるかな」
冒険者の店は、間口は狭いが中に入るとうなぎの寝床で奥行きがある感じだった。なんだかいろんなものが置いてある。武器に、外套、テント、リュック、アイテムのショーケース、鍋にやかんなど。お客さんは数名いた。
「うわ! なんだかよく分からない」
「冒険に必要なものが全部置いてある感じだね」
武器は何がいいんだろう。他の子は、剣を持っている子が多いかな……。会った子たちはほぼ辞めてるから、参考にならないけど……。
武器のコーナーに行って物色する。剣がやはり多い。槍や、斧、トゲトゲの付いた丸い球体もある。武器を見るだけで、痛そうだ……。
壁には、鎌と鎖で繋がったトゲトゲの球体がある。どうやって使うんだろう? 振り回すのかな? トゲトゲの球が自分に当たりそうだ……。
「あれなんかどう? 柄が長くてリーチがあるから使いやすそう」
ルイスが上を見て言った。上を見るとピンクの細長い柄の木槌が、壁に飾ってあった。エプロンをした小柄な店のおじさんがやってきた。
「あのハンマーは、女の子用に作った武器だよ。軽くて、魔法付与でC級モンスターまで耐えられるようにしてあるよ」
「へ~、かわいい」
「取ってあげるよ」
おじさんが踏み台を持ってきて、ハンマーを下ろしてくれた。私は受け取ると両手で持ってみる。ヘッドの部分は、側面の両端に鋲の丸い彫りがある。その下はくびれて、中心に向かって丸みを帯びていた。ピンク色だから、見た目がすごくかわいい。軽くて持ちやすいし、振り回しやすそう。
頼りない気もするけど、これでいいかな?
「木は魔法付与とも相性がいいよ。属性を付けたり、強化すればずっと使えるよ」
「そうなんだ!」
「背中に差しても長さもちょうどいいでしょ。杖にもなるよ」
試しにリュックに差してみた。柄は引きずらない。でも、しゃがむときに気をつけないと。
「これがいいかも」
「よし、これにしよう。いくらですか?」
「一〇二〇ルトだよ。初めてのお客さんだから二〇ルトはサービスしてあげる」
「ありがとうございます」
ルイスは笑顔で返事をした。た、高い……。ルイスの今までの稼ぎの半分が、これで吹き飛んだ……。カウンターで、ルイスは小さい巾着から銀貨一枚を取り出しておじさんに渡した。
「ありがとね。また来てね」
「はーい。また来ます」
ルイスは機嫌よく答えて、私はなんだか申し訳なさそうに店を出た。……でも、武器が手に入った! しかもかわいい!
「いい店だったね」
「うん。明日、楽しみだな!」
「明日はユミの練習で、一層目に行こう」
「うん。分かった」
練習は必要だよね。部屋では振り回せないし。
「それと、明後日休みたいから、ユミはその日、ミサたちと二層目に行くのはどうかな?」
「そうなんだ。分かった。何か用事?」
「うん。この前、友達と遊びに行く約束をしただろ。それで、アイドルのコンサートに行くことになったんだ」
「……え?」
アイドルのコンサート?
「レイとショーンは、同じアイドルグループに推しがいるんだ。平日はチケットが安いから行こうって誘われたんだ。一度見に行ってもいいかなと思って」
「そうなんだ……そうだね」
レイはユメイナの劇場の清掃係として働いている。関係者は割引があるからとか言ってたな。
なんかルイスがアイドルとか意外だな。でも、ルイスも勇者だから注目される側だけど……。
「ユミは推しとかいないの?」
「うん、私はいないけど、ナンシーはいるよ。ハオ君っていう男の子のアイドルグループの子で、ブロマイドを買ったり、アイドルカフェに行ったりして会ってる。私もハオ君とは会ったことあるよ。
ナンシーは人混みが苦手なのと、チケットは高いからコンサートには行ってないな」
コンサートチケットは、銅貨一枚はする。でも、子供たちの楽しみとして、割と盛況みたい。未成年アイドルは恋愛禁止になっていて、大人のアイドルは結婚するとグループからは脱退しないといけない決まりがある。
「アイドルの子は普段カフェで働いてるから、チップを払えば話せるんだよ。ハオ君は地味だからあんまり人気ないんだって」
「へ~、アイドルも大変なんだな」
「ん~、でも普通に働いてる子より、給料は多いと思う。主に練習が多いらしいけど」
ハオ君は目立たないけど歌と踊りが上手で、リーダーとしてグループを支えている。人気があるのはやっぱり、見た目がいい子なんだよね。
一芸に秀でている子は優遇されている。楽器演奏もそう。芸術保護の一環で初心者でも無料で始められて、その後は素質のある子だけが残るようになっていた。
「私は今まで、お金がないからチップを払ってなかったけど、今なら払えるな。今日のお礼に日曜の昼、ナンシーも誘ってハオ君のいるカフェヴィエントでご飯を食べない? ハオ君に会わせるよ」
「うん、いいよ」
「じゃあナンシーに予約を頼もう。ジョンソンパンはヴィエントにパンを卸してるから、あの二人は割と仲がいいほうだと思う」
ナンシーがハオ君の推しになったのも、パンの配達で出会ったからだった。
「え? アイドルと仲がいいなんてすごいね」
「うん。でも、異性の場合は、ちゃんと君付けしないと他のファンに睨まれるから、私たちもハオ君って呼んでるの。多分ルイスは、呼び捨てでもいいと思う」
「そうなんだ。やっぱりなんか大変……」
ルイスは苦笑した。休みの予定ができて、また楽しみが増えたな。




