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「ウタハかっこよかったな。次の夜は盛り上がっちゃうんじゃねぇの?」
「うっせぇな。ちゃんと仕事しろ、ウツギ」
ゼロ達が病院に向かっている頃。ウツギとキリは狙撃手の少年を現場へ向かわせた者の所へ向かって車を走らせていた。
「しっかし、目をつけてた議員以外にも官僚やら何やら有力者がゴロゴロ出てくるとはな」
「担ぎ上げられてたのは例の議員らしいけどな。それが暴走した分、裏で動いてたってことかね」
「なら、裏には裏だな。俺達の出番だ」
気合いを入れる2人に指揮をとっているダダから通信が入る。
『2人とも頼んだぞ。トカゲが洗いざらい議員から記憶を取ったからうまく使え』
その内容に2人は苦笑いする。
ウツギが運転しながらやれやれとため息をついた。
「トカゲのヤツ、カグラを邪な目で見られてかなりご立腹だったからな。トカゲを働かすにはカグラを使うのが一番だな」
「あいつは年々ポンコツになってくな。もうリーダーはダダに譲ったほうがいいんじゃねぇか?」
『子供は容赦ないな。うちも色々言われないように気をつけないと』
だんだん大きくなる我が子に手を焼いてるダダが漏らした本音に、キリは「ダダんとこは大丈夫だって」とフォローする。
それを笑って聞いていたウツギが目的地についたことで車を止め、2人は己の戦場へと向かって行った。
13班ではジルバ救出の報にアギが脱力していた。
「……ジルバちゃん、今病院に向かってるって」
「そうですか……助かって良かった……」
胸が締め付けられるような思いをしながらも13班で報告を待つことしかできなかったビビが涙ぐむ。その肩にロクイが優しく手を置いた。
「アギさんかビビ君か、どちらかなら病院に行ってきても大丈夫ですよ。2人同時には無理ですが」
「あら。ならビビちゃんいってらっしゃい。ジルバちゃんに会いたいでしょ」
「え?でも……」
親のように見守ってきたアギのほうがよほどジルバの無事を確認したいだろうと遠慮するビビに、「お友達が顔見せたほうが安心するわ」とアギが背中を押す。
それに感謝してビビが部屋を出ようとした時、リトが帰ってきた。
「みんな、仕事だよ。狙撃手の使った銃の解析。できるだけ早く結果を伝えて出所を掴んでもらわないと」
まさかのタイミングにアギとロクイがビビを見る。だが、その瞳に迷いはなかった。
「わかりました!すぐかかりましょう!」
「でもビビちゃん…」
「ジルバは自分の役目を全力で果たしました!次は俺の番です!」
みんながそれぞれの戦場で戦っている。
その思いがまた誰かを動かし、誰かを救いたいという気持ちが広がっていくのだった。
そんな中で、キトラの戦場は痛く苦しいものだった。体ではなく心が。
「そうか。チマは銃の腕が良かったから別室に行けたのか」
「うん。作戦が成功したら美味しいもの食べれるから頑張ったよ」
チマは腕付きばかりが集められた施設で育った。おそらくは赤子や小さいうちに売られた子供ばかりが集められた所だったのだろう。
そこでは年齢関係なく子供達が倉庫と呼ばれる所で育てられ、何か特技があることがわかると別室と呼ばれる専門の訓練のできる場所へ連れて行かれた。チマは銃の才能があったので別室行きになったが、何も特技の見つからなかった子供は出荷されていったとチマは語った。
「今回は失敗?成功?僕、ケーキ食べたいんだけどなぁ」
「……あとでケーキ買ってきてやるな。どんなのが好きなんだ?」
「ほんと⁉︎チョコがいい!なぁんだ、成功だったんだ」
屈託なく笑う姿に心が軋む。
物のように売り買いされ道具として扱われた目の前の子供に、キトラは涙をこらえるのに必死だ。
「いや。成功じゃない」
「えっ⁉︎ならケーキ食べれない?」
「いや。ケーキは食べれるよ」
「?なんで?」
「……子供は、幸せそうに食べる顔が見たいって理由でケーキを買ってもらえるもんなんだ……それが当たり前になるべきなんだ」
よくわからなくてチマは首を傾げている。
その顔を見ながら、キトラはとうとう涙を流してしまうのだった。
「ほう。そうかそうか。実は辛いものが苦手で人前で無理して食べて翌日腹を下したと。しかも大切な演説の日だったからオムツを履いて出たと」
「……やめろ……もうやめてくれ……」
議員から洗いざらい記憶を取ったトカゲは、取調室でチクチクと恥ずかしい過去を披露して嫌がらせをしていた。
それをガラス越しに呆れて見ているカグラの隣へセキトがやってきた。
「トカゲ君は何をしているんだ?」
「情報収集という名の嫌がらせ」
全てを察してセキトはため息をつく。
「あれが僕がこれから紡いでいく物語の相棒なんだと思うと、ちょっと嫌になってきた」
「おや。なら実家に帰ってくるかい?」
「隣でしょ。っていうか、セキトの家が僕の実家なの?」
「そのつもりなんだがね。嫌かい?」
「……アギさんのご飯付きならいいよ」
珍しく照れているカグラにセキトが苦笑すると、取調室からはまだトカゲの声が聞こえてきていた。
「その演説に来ていたメンバーに腕付きの売り買いに通じてるヤツがいたのか。オムツがバレなくて良かったな」
その言葉にセキトが反応する。
カグラから話の中に出てきた演説の日付を聞くとすぐに調べに走った。
「……まあ、今のはちょっと格好よかったから、まだ愛想は尽かさないでいてあげようかな」
ご機嫌に呟くカグラの視線の先ではトカゲがまだ相手をいびっていた。
ジルバが麻酔から目を覚ますと個室のベッドの上だった。すぐに真っ赤に目を腫らしたゼロの顔が目に入る。
「……ぶさいくな顔になってる」
口を開くなりあんまりなことを言うジルバにゼロは怒り出した。
「何!何それ!心配したのに!誰のせいで大泣きしたと思ってるの!」
『そうですよ。ジルバも安心してるくせに』
まるで見透かすように苦情を言うイチに少し溜飲が下がって、ゼロはずっと握っていたジルバの手を胸まで持ってきた。
「ほんとに良かった。助かって」
「……俺の脚はダメなんだな」
自分のことは自分が一番わかるのだろう。ジルバは起き上がれない状態で視線を脚の方へと向けた。
「……撃たれたところは治療できたけど、膝から下は切断になった」
隠してもどうにもならないと、ゼロはせめて自分から真実を告げる。
だがジルバの反応は意外にも落ち着いたものだった。
「そっか。わかった。頑張ってくれてありがとうな。カイナを助けれた。それだけで十分だ」
自分の脚に対して礼を言ったのだろうか。ジルバは満足そうな顔をしている。
「……何諦めてるの。義足の技術は進歩してる。ちゃんと訓練すれば歩けるようになるよ」
「そうだな。今までみたいに飛べるようにはなれないだろうけど、贅沢言っちゃダメだもんな」
『なれますよ。飛べるように』
暗いまではいかなくてもどこか気落ちした空気を吹き飛ばすようにイチが声を上げる。
その言葉の意味がわからなくてゼロはミニイチに話しかけた。
「え?でも、義足じゃそこまでは…」
『フタバのデータを使えばジルバに合わせた義足が作れます。ハード面での開発に時間はかかるでしょうが、不可能ではありません』
「でもフタバを使うにもジルバのデータがないんじゃ」
『あります。私がずっと記録していたデータがあります』
ジルバもギアと同じように、部屋から飛び立ったあの日からイチと繋がっていた。それ以来イチはジルバのスマホにこっそり分身を忍び込ませてジルバのデータを取り続けていたのだ。
「は〜。まさかプチイチがずっと一緒にいたなんてな」
「全然気づかなかった…」
『ゼロに気づかれないようにこっそりやりましたから』
「なんで⁉︎」
『ジルバを守りたかったからです』
イチの思いに2人は言葉が出ない。
そしてそっとミニイチを2人の手で包み込んだ。
「ありがとう、イチ。いつも俺達を守ってくれて」
「イチのおかげで今の僕達の幸せがあるんだもんね」
幸せそうに笑う2人に囲まれて。イチの満足そうな声がジルバの頭にも響いてくる。
『やっと笑顔が見れました。私の望みはゼロとジルバを笑顔にすることです』




