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一連の騒動が起こっている間。診察室では相談者の相手は止められないといつも通りに患者を受け入れていた。
一息ついてスイレンは椅子から立ち上がって伸びをする。
「はあ〜。やっと終わったね。粒子センサーのおかげでオンライン診療もできるようになったから助かるね」
「カグラさんの負担も減って何よりです。私はちょっとツツヒ君に連絡入れてきますね」
「はいはい。ゆっくり話してきていいよ。俺はココア淹れてくるから」
そう言って診察室に人がいなくなったタイミングを狙って、1人の人物が忍び込んできた。
スイレンのパソコンに向かい、なぜかあっさりとパスワードを解除してデータをメモリに移そうとしている。
「……何してるの?」
ココアを淹れに行ったはずなのに手に何も持たずにスイレンが戻ってきた。忍び込んでいた人物は慌てて席を離れる。
「あの、画面が汚れてるみたいだったから拭いてあげようかと」
「まさか君が内通者だったなんてね。悲しいよ」
そこにいたのは、昔ゼロが相談に来た時に勘違いだと発言した職員だった。彼はその件に加えて普段の勤務態度も良くなかったこともあり、別の部署に異動になっていた。
「異動は君にも納得のいくようにシバさんが配慮してくれたはずだけど?」
「……犯罪者を働かせるために俺を異動させた奴らになんて俺の気持ちはわかんねぇよ。バカにされた仕返しをしただけだ」
「そう。でも君がしたのは情報漏洩という犯罪だ。警察に引き渡さないと」
「……できるもんならやってみろ」
職員が糸を出してスイレンを攻撃しようとする。だが、その体を白い霧が包み込んだ。
「……糸が出せない……?」
霧はすぐに止んだが職員は糸が出せなくなっていた。
「ヨル君、ありがとう。モガ君、連絡はついた?」
「はい。セキトさんが公安の人間をよこしてくれるそうです」
それぞれ別の場所からヨルとモガが部屋へと戻ってくる。それでやっと職員ははめられたことに気づいた。
「ふざけんなよ!どこまでもバカにしやがって!」
職員がスイレンめがけて襲いかかる。それをあっさりかわし、スイレンはあえて糸を使わずに職員の体を拘束した。
「これでも元捜査官なんでね。それにホムラさんに散々鍛えられてるんだ。お前1人くらい簡単に拘束できる」
腕を捻りあげ床に押し付けられて職員は苦しそうにもがいている。それを静観するヨルとモガの間からリイサが顔を出した。
「スイレンさん、やりすぎたらダメですよ。セキトさんから追加で指示です。『時間がもったいないからモガ君に洗いざらい記憶を見てもらえ』だそうです」
その言葉にその場にいた全員がニヤリと笑う。そしてモガがズイッと前に出てきた。
「そういうことなら仕方ないね。悪いけど、君のプライベートを丸裸にさせてもらおうか」
拘束されていることよりも記憶を全て見られることの方が恐ろしいらしく、職員は悲鳴をあげて許しを乞うのだった。
一方。狙撃手と対峙したキトラは困惑していた。
『コイツが狙撃手?』
目の前にいるのは小学生くらいの幼い少年だった。小さな体に不釣り合いな狙撃銃を担いで不思議そうにキトラを見ている。
「……誰?」
全く緊張感なく少年は首を傾げる。その姿は誰かを彷彿とさせた。
「……君が捜査官と爆弾を撃ったのか?」
「うん。そうだよ」
悪気もなく少年は自分のしたことを認めた。
「俺は警察の人間だ。君を捕まえにきた」
「そうなの?僕はあなたについてけばいいの?」
警察も逮捕もよく分かっていないようで、少年は抵抗もなくキトラについて行こうとしている。
「……なんで銃を撃ったんだ?」
「なんで?撃てば今日のご飯は好きなの食べていいんでしょ?僕、デザートにケーキ食べたいな」
そこまで聞いて、キトラは少年の状況を理解した。怒りで握りしめた拳が皮膚に食い込みそうになる。
「君、名前は?」
「チマ。ちっこいからチマだって」
「そうか。チマ、俺はキトラだ。なんでずっとここに残ってたんだ?まだやることがあったのか?」
「ううん。帰るように言われたんだけど、なんとなくここにいたくて」
それが何故だったのか、誰にもチマ本人にもわからない。でも結果、彼はキトラに保護されることとなった。
「そうか。とりあえず俺と行こうか。俺に掴まれば糸で飛んでいける」
「わかった」
差し出されたキトラの手を掴む小さな手は傷だらけだった。その温かい手をしっかり掴み小さな体を抱きしめると、キトラはビルから飛び立った。
崩壊したビルでは、まずカイナが助け出されていた。
「あの……俺……」
自分のしてしまったことを後悔するカイナに、ゼロは全力で抱きつく。
「良かった……助かって……」
責められるかすぐに警察に捕まると思っていたカイナは、抱きしめてくれる温かい体温に自然と涙を流した。
「……ごめ……ごめんなさい………ごめんなさい……」
次から次へと溢れ出てくる涙を止められず、カイナはゼロに抱きしめられたまま嗚咽をもらす。その肩にコハクが優しく手を置いた。
「話を聞くのはあとだね。まずは病院へ。俺が付き添うからゼロはジルバをお願いね」
コハクに優しく手を引かれるカイナを見送ると、次はジルバが救出されて担架で運ばれてきた。
「ジルバ!」
『大丈夫!生きてます!』
駆け寄るゼロの手の中で叫ぶイチにジルバは苦笑する。
「生きてるよ。勝手に殺さないでよ」
「……良かった……怖かった……怖かったよ………」
移動する担架について歩きながら、ゼロは堪えていた感情が溢れ出して大泣きする。その頬を温かい手が優しく撫でた。
「ゼロ……イチ……ありがとう……助けに来てくれて……あの子を助けてくれて……」
自分よりもカイナのことを考えるジルバに、ゼロは先ほどバイト先の人が言った「誇らしい」という言葉を思い出す。
「……ジルバ……あの子は大丈夫。ジルバの愛は伝わったよ。だから、あの子は大丈夫」
そして救急車に乗り病院へと向かう2人。ゼロの腕の中でイチが安堵と喜びの泣き声をあげているのを、ジルバは聞いていた。




