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静まり返った空間で人々は戸惑い動けずにいた。すると、シュカが隣にいた若い男性に話しかける。
「あれ、僕の元ルームメイトなんだよ」
「……え?あんたも腕付きじゃないのか?」
白い制服を着ているのは全員腕付きだと思っていた男性は驚く。シュカは袖を捲って傷を見せて腕付きであることをアピールした。
「でも、普通の奴とルームメイトって……怖くないのか?」
「全然。怖いどころかとんだヘタレだったよ。片想い7年でやっと恋人になれた相手に全く手を出せずにワタワタしてさ。ほんっとバカなんだよね」
珍しく屈託のない笑みを見せるシュカに男性は思わず笑ってしまう。すると近くで話を聞いていた女性から声が上がった。
「私の友達にもぜんっぜん告白できなくて1人空回ってる子がいるわ。一生懸命で可愛い子でね。その子は腕付きじゃないけどすごく仲良くて……このデモに参加することもずっと心配してくれてた」
それをきっかけに僕も私も俺もと色んな声があがる。あちこちで語られるエピソードは腕付きだ普通の人だと関係ない。
気づけば他の警備班のメンバー達も周りの人と談笑していた。
「俺の兄は腕付き専門の弁護士をしてるんです。困ったことがあれば相談してください」
「もしかしてアカリさんの弟さん⁉︎」
「はい。兄のことを知ってるんですか?」
「以前お世話になったんです!そうですか。そう言えば腕付きの弟さんがいるって言ってました。捜査官をしてる自慢の弟だって」
「……そうですか」
嬉しそうにはにかむホムラの近くではフチがパートナー自慢をしていた。
「ルナさんは本当に可愛い人で、でも僕を包み込んでくれる強さもあって、ルナさんの前では腕付きとかそうでないとか全て無意味です!」
「……俺も好きな人いるんだけど、腕付きじゃないんだ……うまくいくかな?」
「相手を大切に思う気持ちがあるなら大丈夫です!」
別の場所ではシエンがいつも通りキトラに悪態をついていた。
「私の先輩に、腕付きじゃないのに余計な世話ばっかり焼いてくる脳筋がいるんですよね。本当に迷惑で」
「はは。私の先輩にもそういう人がいたよ。歳取ってやっとそのありがたさに気づいたがね」
「……まあ。私もやっと素直に感謝できるようになりました」
温かい会話はどんどん広がり、人々の気持ちを落ち着かせる。そのまま警備班はデモ隊を道の左右に移動させるが、野次馬達と合流しても何も問題は起きなかった。
そしてジルバ達を助けるためにゼロが集めた車輌やロボット達が近づいてきた。開かれた道の先、崩壊したビルの前にゼロがあらわれると、その近くに1台のドローンが飛んできた。
「……君も自分の撮った映像がみんなの憎しみを生み出すのに使われて悲しかったんだね。大丈夫。君の見た全てが伝わった。みんな、ジルバ達を救うために協力してくれたよ」
ドローンに優しく微笑むと、ゼロは自分が呼び寄せた機械の方へ向き直った。道を開けてくれた人達へと深くお辞儀する。
「イチ。みんなジルバ達を救うために力を貸してくれた。ここからは僕達の番だよ」
『はい。必ず2人を助けます』
頭をあげたゼロの前に機械が並んで止まる。その1つ1つに視線で礼を伝えると、ゼロはショベルカーと共に瓦礫の山へと向かおうとした。
……のだが、
「こらーーー!何考えてんだ!」
唐突に怒声が響く。驚いて動きを止めたゼロに中年の男性が近づいてきた。
「瓦礫の下には人がいんだろうか!そんな重機でいきなり入って瓦礫が崩れたら死んじまうぞ!」
「え?そうなんですか?」
『そうなんですか?』
あっけに取られるゼロに男性は瓦礫の山を見回して話を続けた。
「俺は仕事でビルの解体もしてるし、地震の時に救助も手伝った。まずは瓦礫に埋もれてる奴の位置を調べるんだ」
「あ。それならもうわかってます」
ゼロがお願いするとビルの屋上を撮影していたドローンが飛んでいく。ある場所で止まるとゼロが「あそこです」と指差した。
「すごいな。にいちゃんは機械に何でも言うこと聞かせられんのか?」
「お願いしてるだけです。あの子達の意思に背くようなことはしません」
「良くわかんねぇが、位置がわかってんならまずは崩れないように瓦礫をどけてくぞ」
そこまで男性が話したところで、今度は女性が走り寄ってきた。
「待って!私は救急救命士よ。2人の怪我の具合は?」
「1人は特に怪我はないって。でも1人は足が瓦礫で潰れて感覚がないって……」
苦しそうに顔を歪めるゼロの肩に優しく女性の手が置かれる。
「大丈夫。必ず助けるわ。でも不用意に動かさないほうがいいわね。救急車の到着は…」
「あと5分で着きます」
いつのまにかゼロの隣にやってきたコハクが到着時刻を伝える。それを受けてまずは周辺の瓦礫を取り除こうとデモの参加者と野次馬達が一丸となって救出へと動き出した。それを機械達がサポートしている。
その光景に泣きそうになるゼロに、最初に声を上げた男性が近づいてきた。
「ジルバは絶対助かるさ。大丈夫だ」
「ジルバのことを知ってるんですか?」
驚くゼロに男性は豪快な笑い声をあげる。
「アイツの卒業旅行の相手はにいちゃんだろ?」
「……もしかしてバイト先の人ですか?」
ニッと笑って男性は瓦礫へと目を向ける。
「ジルバはよく働いてくれたからなぁ。いっそうちで就職してくんねぇかと思ってたが、捜査官になって良かったと今は思うぜ。誰かを身を挺して守るなんて簡単なことじゃねぇ。アイツと一緒に働けてたのは、俺にとって誇りだな」
そこまで言ってもらえる恋人が、たくさんの人の手で助けられようとしている。ゼロが握りしめた手の中で『隣の人の手は温かいのですね』とイチが呟いた。
その少し前。ビル崩壊とジルバの負傷を聞いたキトラは動けなくなっていた。
「先輩!生き埋めになってるのって先輩んとこの子でしょ!すぐ行ってあげてください!」
デモを妨害するものがいないかペアで警戒していた後輩に促され、キトラがビルの方へ向かおうとした瞬間。通信機に声が届いた。
『キトラ。ジルバ君と爆弾を撃った人物をトカゲ君のチームが見つけた。すぐ確保に向かえ』
ミソラからの指示だった。あまりにキトラの感情を蔑ろにした命令に後輩が吠えるがミソラは譲らない。
『ジルバ君は自分のやるべことを全力でやった。お前はどうするんだ?』
今この場で、離れたビルにいる狙撃手に一番早く着くのは誰か。捜査官としてキトラがジルバに見せるべき姿は決まっていた。
「了解。すぐ狙撃手の確保に向かう」
「先輩!」
心配する後輩にあとを頼み、キトラは糸を使ってビルの間を縫うように目的地へと飛んでいく。その耳に再度ミソラからの通信が入った。
『ちなみにジルバ君を救うためにゼロ君が動いてる。愛の力は偉大だな。ジルバ君は必ず助かるよ』
それを聞いて、キトラは更に移動の速度を増していく。
束ねた糸が風のように体を飛ばし、キトラは狙撃手と対峙した。




