55
爆発を確認すると狙撃手は役目を終えたとばかりにその場を去ろうとしていた。
『チマ。カイナを見張るために飛ばしてたドローンが帰ってこない。そこから見えるか?』
指示役からの命令にチマは爆発のあとをスコープで観察する。すると小さなドローンが瓦礫の上でウロウロと飛んでいるのが見えた。
「瓦礫の上で飛んでる」
『おかしいな。帰還の命令をしてるのにきかないんだ。壊れたか?』
「撃つ?」
『いや。壊れて証拠を残しても面倒だ。回収方法を考える。お前も帰ってこい』
「了解」
狙撃銃を下ろして再び去ろうとするチマ。だが、なぜかその場から動けずに立ち尽くしていた。
瓦礫の中ではかろうじて2人分の空間に押し込められて、ジルバが起爆役の少年に声をかけていた。
「なんか悪いな。こんな狭い空間にむさ苦しい男と2人なんて」
状況は予断を許さないものだが、少年の恐怖を少しでも和らげようとジルバはできるだけ明るい声で話す。
「あんたのせいじゃないだろ。……俺がバカだったんだ」
少年はチラリと瓦礫に挟まれたジルバの脚を見る。膝から先は瓦礫で見えないし、白い制服の太もも部分は真っ赤に染まっていた。
「それこそ君のせいじゃない。ん〜。あんたと君じゃ味気ないな。君、名前は?俺はジルバ」
「……カイナ」
「カイナか。心配しなくていいからな。すぐに仲間が助けに来てくれる」
安心させるために言った言葉だが、ジルバはなぜか助けが来るという確信があった。
「……なんで俺にそんな優しくすんだよ。爆発の時だってほっとけば良かっただろ。自業自得なんだから」
「ほっとくわけないだろ。そんなことしたらキトラを裏切ることになる」
急に知らない名前が出てきてカイナは不思議な顔をするが、ジルバは穏やかな表情で話を続けた。
「俺も昔バカなことしたんだよ。でもそんな俺を家に迎えてくれて親になってくれた人がいるんだ。捜査官になりたいって言ったら、全てを教えてれた。だから俺は捜査官としてその人に恥じるようなことはしたくない。あ、もちろんここで死ぬ気もないぜ。殉職しないって約束したからな」
ニカッと笑うジルバに、カイナはなぜか知りもしないキトラの姿が重なった気がした。
その頃。街中では不思議なことが起こっていた。
「何あれ。ドローン?」
ある工事現場の上をドローンが飛んでいる。通行人が不思議そうに見ていると、大きな音で警告を発しだした。
「今から工事車両が通ります。道を開けてください。今から工事車両が通ります。道を開けてください」
繰り返し道を開けるように警告するドローンに通行人達がその場から離れると、1台のショベルカーが出てきた。
「……え?今の人が乗ってなくなかった?」
ドローンの警告で開けた道をショベルカーは走っていく。まるで自分の意思でとこかへ向かっていくように。
人の操縦を得ずに動く機械達はあちこちで確認された。車両だけでなく物を運べるロボットなども動きだし、どこもドローンが先行して人に怪我をさせないように移動していく。まるで機械の行進だと様々な人が撮った動画がネットを賑わせていた。
そして人々の間に広まるもう一つの動画があった。
「あれ?これ、さっきのと同じ動画?」
カイナの動画を見た人達は同じ動画が流れてきたことに戸惑いながらも再生する。だが、それは編集されたものではなくビルの屋上であった全てを記録したものだった。
「……この子、こんな目にあってたの?」
「騙されてたのか……」
「なんで、こんな子供が……」
作られた憎しみの奥にあった真実に人々の心が揺れる。そんな中、機械の行進に付随してある情報がまわりだした。
「あの機械達、動画の少年を助けようとしてるって」
「瓦礫の中で生きてるって!」
「……助かって……この子を助けてほしい……」
小さな画面の中で起きていた出来事が現実に飛び出し、人々はただ1人の少年の無事を祈りだした。
一連のネットでの動きは、ギアの手を借りたイチの仕業だった。セキトはサイバー犯罪科から人の心が憎しみから変わってきている報告を受けて、少し胸を撫で下ろした。
「あとはジルバと少年を助けられるかだな。全く。最近は増えてきたとはいえ電動の車輌を探すのは大変だったよ」
「お疲れ様でした。でもその甲斐あって、もうすぐ全ての機械がゼロ君のもとに届きそうですよ」
「あとはデモ隊の誘導だな。まあそれは大丈夫だろう」
そう言うとセキトは警備班へ向けて、機械達が通行できるように道を開けるよう命令を出した。
幾分緩和されたとはいえ、デモ隊の緊張は続いていた。
「でもこの子を騙した奴がどっかにいるんだろ」
「まさかこの中に紛れて?」
「結局、腕付きを嵌めるための罠なんじゃねぇのか⁉︎」
ザワザワと騒ぐ声は止まず、さらに道路をあけるために移動させるにはデモを見にきた野次馬達と合流しなければならないため、警備班はなかなか動けずにいた。
『警備班。もうすぐ機械達がそちらに着く。通り道を確保してくれ』
セキトの声に捜査官達の間に焦りが滲み出てきた。何とか騒ぎを鎮めようと動くウタハも気が気ではない。
『早くみんなを移動させないと。手遅れになる……』
そんなウタハの横で1人の男性が悪態をついた。
「信じられるか。腕付きは腕付きが守るしかないんだ。腕付き以外信じられない」
その言葉を聞いてウタハは反射的に走った。
シュカのところへ行くとみんなの注目を自分に集めるように頼む。一瞬戸惑ったシュカだが、ウタハの真剣な瞳を見てすぐに動き出した。
「あそこの入り口の上に登って。みんなから良く見える」
ビルの入口のでっぱった部分にウタハを飛び乗らせ、シュカは銃を空に向けると空砲を3発撃った。
「何だ!今度は銃声か⁉︎」
近くにいた人達が驚いて音の方を見る。その先にはウタハがいて、「アイツが撃ったのか?」と騒ぐ声でどんどんと人の注目が集まっていった。
それを確認してウタハが拳を天へと突き上げる。
「何やって……?」
次の瞬間、ウタハは自分の肘から先を切り落とした。悲鳴があちこちから上がる中、切られた腕は灰となって消えて新しいものが生えてくる。
「俺は腕付きじゃない!」
シン……と、腕を切った衝撃と続く悲痛な叫びのような声に場が静まり返った。
「でも俺を地獄から救い出してくれたのは腕付きの捜査官だった!親のように愛を注いでくれたのは能力者だった!みんなに助けられて、外に出て、腕付きでも能力者でもない友達もたくさんできた!」
切られた袖は血の一滴もつかず、そこからのぞく腕は傷も何もなく美しかった。それなのに群衆にはそこに悲しみが詰め込まれているように見えた。
「だから俺は目の前の人が誰だとか関係なく救いたい!今あの瓦礫の下には心も体もボロボロに傷つけられた子供がいる!身を挺してその子を守ろうとしてる捜査官がいる!そして2人を救うために必死で能力を使ってる人がいるんだ!だからみんな話を聞いてくれ!苦しんでる2人を救うために道をあけてくれ!」
悲痛な声が、だけど人を信じたいと思いを込めた声が、空へと溶けていく。
その空はウタハが助け出された時とよく似た色をしていた。




