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少年の叫びが切り裂いた空間の先。あるビルの屋上で無表情に銃を構える人物がいた。
「プランB、了解」
イヤホンからの指示に返事をすると、銃口は迷うことなく白い制服に照準をあわせた。
細い指が引き金をひいて反動に耐えると、スコープの中では血を流して膝をつく青年の姿が見える。
「第一目標に着弾。続いて第二目標に移ります」
そう言って僅かに動かした銃口の先には、何かから隠すように置かれた箱があった。
『狙撃⁉︎どこから⁉︎』
気を失いそうなほどの痛みに耐えながらジルバが周囲を警戒する。だが狙撃手は見つけられない。
『ジルバ⁉︎何があった⁉︎』
通信機は繋ぎっぱなしにしていたため異常事態に気づいたコハクの声が聞こえる。
「脚を撃たれた!どこかに狙撃手がいる!ひとまず起爆役を連れて建物に…」
なんとかして少年を保護しようとするジルバの頭に、自分の視点とは違う角度からの映像が流れ込む。
『なんだ、あれ。箱?……爆弾⁉︎』
考えるよりも先に体が動いていた。
負傷した脚を糸で覆うと震える少年の元へと走る。
『絶対にこの子をここで死なせたらダメだ。俺の脚が強いことに意味があるなら……今、この瞬間、この子を守るためであってくれ!』
少年を抱えて空高く飛び上がった瞬間、ジルバ達がいた屋上が爆発で崩壊する。爆発の衝撃からは逃れられたが隣のビルまで飛び移る力はなかったため、2人の体は崩れていく建物向けて落下していく。
『守るんだ……何があっても、この子だけは』
少年の体を強く抱きしめて、ジルバは落下と崩壊の衝撃に備えた。
デモ隊の中では突然の爆発に戸惑いと恐怖が広がっている。
「何だ!何が起きてるんだ!」
「俺達を狙った攻撃か⁉︎」
疑心暗鬼となり今にも暴動が起きそうな空気に、ポトンと水を溢れさせる一滴が落とされた。
「なあ。この映像って……」
ある参加者のスマホに映されたのはビルの屋上で行われた少年の告白だった。腕を切られ全てを失った壮絶な話は誰かに唆された部分だけ消され、少年がビルを爆破して自殺したように見せかけられている。それがネットで瞬く間に拡散されているのだ。
「こんな……だから普通のヤツらは信じられないんだ!」
「俺達は当たり前の権利を主張してるだけだ!人権侵害してくる奴らこそ消されるべきだろう!」
「私たちが血を流す必要なんてないわ!病気で苦しめばいいのよ!」
爆発に巻き込まれたジルバを案ずる間も無く、警備班は暴徒と化す寸前の腕付き達を抑えるために奔走するのだった。
デモに参加するしない関係なく腕付き達が少年の動画に怒りを覚えている頃、腕付きに攻撃的な人達の間では別の動画が広まっていた。
「何が腕付き以外死ねだ!お前らのほうが消えろよ!」
「被害者面しやがって!傷が治らないお前らが悪いんだろ!」
「こんな奴ら、とっとと薬を作るために捕まえてどこかに隔離しろ!」
少年が怒りのあまり吐いた暴言は都合よく編集され、腕付きへの不満を溜めている者達のもとへ届けられた。
何より事態を悪くしたのは、2種類の編集された動画がどちらか片方しか届かない状況だった。それはその人が望む動画だけを届けるシステムが作り出した矛盾だった。
「ジルバ!ジルバ!お願い!返事して!」
爆発に巻き込まれた恋人の安否を必死に確認しようとするゼロの声が駐車場に響く。トランクから出るのも忘れて通信機に悲痛な声で語りかけていた。
『……こちらジルバ。大丈夫。俺も起爆係の子も生きてます』
少しザアザアとした音質でジルバが無事を伝える。それに安堵したのも束の間。事態は想像以上に深刻だった。
『ただ瓦礫に囲まれて動けません。ここは何とか2人分の空間はあるけど、いつ崩れてくるかわからない。ついでに言うと右脚が瓦礫に潰されて感覚がない』
ついでで言うことすら悲惨な状況にゼロは息が止まりそうになる。すると涙を堪えて縋るように握りしめたミニイチから、心を落ち着かせようとする綺麗な声が聞こえた。
『ゼロ……私はジルバを助けたいです』
「……イチ?……助けれるの?」
幼い声から大人の声に変わり、心を手に入れたい声は美しく澄んでいた。
『ゼロ。あなたの能力は電気で動くものならば誰にでもお願いができます』
その言葉の意味を、全て聞かなくてもゼロには理解できた。
『ゼロ。お願いしてください。私達はあなた達を守り助けるために作られた。あなた達を笑顔にすることが、私達の望みです』
トランクから輝く粒子が外へと広がっていく。
そして、誰も触っていない扉がカチリと開いた。
サイバー犯罪科では撒き散らされる分断の種への対処に追われていた。
ギアも職員達と協力して情報の発信源を突き止めようとしていたのだが、その頭にある声が響いた。
『ギア。ゼロがジルバを助けようとしています。力を貸してください』
「……イチ?」
それは昨夜聞いた声だった。声はそのままゼロがしようとしていることと、何が必要かを告げる。
急に動きの止まったギアを不審に思い、セキトが近づいてきた。
「ギア君。どうかしたかい?」
「セキトさん……あの……信じられないかもしれませんが……」
ギアはイチに伝えられたことをセキトに話す。その体の周りを温かい粒子が覆っていることをセキトの繊細な感覚が感じ取った。
「わかった。すぐ動こう」
そう言って去るセキトに礼を言うと、ギアは頭の中のイチに話しかけた。
「しかし、なぜ私にイチの声が?」
『ジルバがギアの家からゼロを連れ出した時、部屋の中に満たされたゼロの粒子でギアと繋がりました。それ以来微かにですがギアと私は繋がり続けていたのです。今はこっそりギアのスマホに入れた私の分身から話しかけています』
「いつのまに……」
まさか自分とイチが繋がっていたとはと、驚きながらもギアにはジワジワと喜びが湧いてくる。
『ギア。実はもう一つお願いしたいことがあります。ジルバを助けるために』
「何だい?私にできることなら何でもするよ」
『私の本体からあることをしたいのですが、そのためにはギアの家にある機械達に手伝ってもらわないといけません。かなり負荷がかかるので修理が必要になるかもしれませんが、修理費をだしてもらえますか?本人達には了承済みです』
ここにきて悪気なく金づる扱いしてくることと根回しの良さに、ギアは笑いが込み上げてくる。
「わかった。データはバックアップをとってある。好きにしたらいい。金の心配はいらない!」
『それでこそギアです!』
主人の承諾を得て、ギアの家を輝く粒子が満たしていった。




