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デモ警備の準備を進める14班の部屋で、ウタハは警察の制服によく似た白い制服に袖を通していた。
「しっかし普通の制服で良くないか?わざわざ作ったんだろ、これ」
今回の警備は14班とシエンの班が担当するのだが、特別に作られた制服が全員に支給されている。すでに着替えを終えて着こなしをチェックしているシュカが、ブツブツ文句を言っている元ルームメイトに反応した。
「目立ってなんぼだって管理官は言ってたからね。あと白は血が目立つから、血がつけば暴力の悲惨さを、つかなければ血を流すことなくデモを終えたって印象づけられる」
「理屈はわかるけどさ。なんか見せ物にされてるみたいで嫌なんだよ」
一方、動きやすさを確認しているフチとホムラ、ジルバは別の心配をしていた。
「税金の無駄だって言われませんかね?」
「今回結果を出して正規の警備服にする予定だと管理官は言っていたが」
「まあミソラさんなら何とでも言いくるめちゃいそうだしな」
そんな戸惑いや作戦への緊張感の漂う部屋にコハクとキリが入ってきた。
「みんな似合ってるね。かっこいいよ」
「さすがミソラ。センスだけはいいな」
部下達の晴れ姿に喜ぶコハクも同じ制服を着ている。しかし目立つことが好きではないウタハはまだ不満を漏らしているのを見て、キリが恋人へと近づいていく。
「何だよ。ウタハ、その服嫌なのか?」
「服っていうか、目立つのが嫌なんだよ」
「ふ〜ん。なら、やる気出させてやるよ」
そういう言うとキリはウタハの肩に手を置き、耳へと唇を寄せた。
「その服でカッコよく活躍するお前を見たら、次の夜はいつもより積極的になっちまうかもな」
いまだに拗らせを引きずっている男は、その言葉にあっさりと乗せられてやる気を出している。その姿をフチ、ジルバ、シュカが呆れた顔で見ていた。
「すっかり手のひらの上で転がされてますね」
「そうだな」
「ほんとバカだねぇ」
緊張感はいつのまにか無くなり、いつも通りのどかな14班に戻ったことに満足してキリは部屋を出て行った。ホムラがいったい何をしに来たのだろうと不思議そうにしているとコハクが笑って答えた。
「ウタハくんの制服姿、生で見たかっただけみたいだよ」
「……どっちもどっちですね、あの2人は」
苦笑するホムラは少し嬉しそうだ。
そんなやりとりをしていると作戦開始時刻まであと僅かとなり、14班はそれぞれの持ち場へと向けて出発した。
一方、診察室ではモガとスイレンが不安そうな顔でカグラとシバが出かけるのを見送っていた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それより今日は2人だけだから診察の方をよろしくね」
「それは任せてください。人手が足らなくなったらヨルさんも手伝ってくれますし、リイサさんもすぐ戻るって言ってくれてますから」
カグラを安心させようと精一杯なモガに、カグラは優しくその頭を撫でた。その隣ではシバがスイレンに留守を任せている。
「作戦は全て頭に入ってるね。こっちのことは頼むよ」
「はい。これでも元捜査官です。みんなのことは俺が守りますよ」
「頼もしいね。私も安心して自分の仕事ができる。じゃあ行こうか、カグラ君」
診察室を後にして車に乗り込んだ2人は、ある建物を目指して進む。
するとカグラが珍しく心細さの滲む声を出した。
「ねえ、シバさん」
「何だい?」
「僕はさ、運命とか、そういう非科学的なことは信じてないんだけど……」
カグラらしい考えだ。彼は仮説検証考察を繰り返し、いつでも客観的な事実のみを積み重ねてきた。
「でも、もし、僕の一族がその身の呪いを受け継いできたことに意味があるなら……それは今日のためだと思うんだ」
隣にいるのがシバだから吐き出せた思いかもしれなかった。金色の王の意志を継ぐ者だから。
「そうだね。私も村の一員として、今日のためにその思いを受け継いできたんだと思うと誇らしくなる。……でもカグラ君。私達の人生はまだ続いていくんだ。ここから先は君が大切な人達のために紡いでいく物語だよ」
シバの言葉にカグラの頭にはたくさんの顔が浮かんでくる。それほど多くの愛に包まれることになるとはと、カグラは人の生の不思議に思いを馳せずにいられなかった。
「じゃあ、今日だけ僕は呪いの使者になろうかな。人々の心を弄び命まで奪おうとする者達のね」
「おやおや、これは恐ろしい」
朗らかに笑うシバにカグラの表情も柔らかくなる。
そして車はデモの準備をしている一団の近くを通り抜けて目的の場所に向かった。
そしてデモが始まった。
『デモでは200人以上が集まり、警備には腕付きが中心となって作られたチームが……』
ニュースで流れる映像では、広場に集まった腕付き達が各々にプラカードを掲げたり声を上げたりして指定ルートを歩いている。その周りで白い制服を着たコハク達が周囲を警戒していた。
サイバー犯罪科では映像でデモの様子を伺いながらネット上で危険な動きがないか監視しているのだが、1人の職員がギアに話しかけた。
「デモに同調する声や批判は上がっていますが、今のところ致命的な動きはないですね」
「そうですか。やはり首謀者の狙いは読み通りということですかね」
「……ゼロ君は大丈夫でしょうか?」
何日も能力で捜査のために尽くしたゼロは、サイバー犯罪科の職員達にとって大切な仲間のような存在になっていた。今は別件のためにある場所にいるのだが、捜査官でもないゼロが危険に身を置いてることにみんな心配せずにはいられなかった。
「大丈夫ですよ。彼は強いですから」
その強さに救われた者として、ギアは自信に満ちた声で答える。
それに合わせたかのように部屋の扉が開いてセキトがやってきた。
「作戦は順調のようだね。みんなご苦労様」
今回はネット上の動きが重要になるため、セキトはサイバー犯罪科から現場に指示を出していた。
「まもなくデモ隊が問題のポイントを通過します」
職員からの報告にセキトは一層集中力を増す。
「さて、捜査官諸君。ここからは化かしあいの時間だ。敵の上をいったほうが勝つ。些細な違和感も残さず拾ってくれよ」
デモの映像を流すモニターには、わざとらしく光る白い制服が映し出されていた。




