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「英雄って、そんなになりたいものなのかな?」
デモの前日。作戦の確認のために本部を訪れたコハクが、出口まで見送るとついてきたキトラに溢した言葉だ。
「さっきの話か?」
「うん」
コクリと頷くパートナーにキトラは「そうだなぁ」と考えこむ。
作戦確認の際に今回の主犯についてミソラから推論を聞かされたコハク。いわく主犯は戦争を起こし勝利して英雄になることを目的としているとのことだった。さらに腕付きを昔のような弱い立場に落として人々の不満解消の矛先を作り、称賛を浴びることを望んでいるとも。
「俺は別に興味ねぇなぁ。目立つのは苦手だし」
「キトラは糸使ってるだけで目立つけどね」
「何だよ。人が真剣に考えてんのに」
文句を言うキトラにコハクが楽しそうに笑うと、キトラはふと答えがわかったような気がした。
「誰かの温もりが手に入らなかったのかもしれないな」
「温もり?」
「ああ。大切な人とか、温かい気持ちとか、そういったものが手に入らないから多くの人からの肯定が欲しいのかもしれない。もしくは人の温かさそのものが理解できないか」
「そう。寂しい人だね」
「わかんねぇけどな。ただの支配欲かもしんねぇし」
そうして主犯に関する話題が終わると、キトラはジッとコハクを見つめた。
「何?」
「………明日、頼むな……ジルバのこと」
ジルバには初めての大掛かりな作戦への参加だ。親として心配になるのだろう。キトラは金の瞳を不安に揺らしている。
「何があっても大丈夫なようにあれだけ鍛えたんだろ」
「そうだけどさ。あ〜、お前ん時でもこんだけ心配にはなんなかったのに」
「おや。妬けるね」
それだけ大切だということだ。それはとても愛しい感情で。
コハクは「大丈夫だよ。ジルバなら」と笑うと、キトラと別れて仲間の元へと帰って行った。
その夜。13班では銃を保管している棚の前でビビが座り込んでいた。
扉の前で立つオラガが嬉しそうに声をかける。
「しっかしお前も物好きだなぁ。俺達が見張ってんだからわざわざ座り込みなんてしなくてもいいのによ」
明日の作戦に向けて、再び銃に細工をされないように13班が全ての銃を確認した後2班が夜通し警備についていた。
それを聞いたビビが「俺も一緒に見張ります」と棚の前に陣取っているのだ。
「だって、俺達の仕事は完璧な状態の銃をみんなに届けることなんです。明日14班が作戦に参加してる間はうまくいくように祈ることしかできない。なら、銃の見張りくらいしたいじゃないですか」
「はは。いいねぇ。熱くて。嬉しいよ。お前みたいなんが後ろで支えてくれるから俺達は戦えるんだ」
新人の熱意にオラガは上機嫌だ。口笛でも吹きそうになっていると扉がノックされてアギが入ってきた。
「お疲れさま。夜食を持ってきたわよ」
「こりゃありがたい。アギさんの飯はやみつきになるほどうまいですからね」
「ふふ。今2班で待機してるみんなにも同じこと言われたわ」
オラガの分の夜食を手渡すとアギはビビの横に並んで座り、おにぎりを食べだした。
「すみません。アギさんまで泊まらせることになってしまって」
「あら。もともと夜食を作ったりするのに残る予定だったわよ。班長もいるし」
「えっ!班長いるんですか⁉︎どこに⁉︎」
アギの指差した先へ行くと、ちょうど棚からは死角になる場所に布団を敷いて寝ているリトがいた。
「いつのまに……っていうか、この布団はどこから?」
「常備してるみたいよ。ゼン班長が仕事で帰れない時はよく泊まってるから。なんだかんだ言ってゼン班長がいないと寂しいのね」
「うわ〜。ゼン班長、あんだけ家事してるの報われますね」
「うちもみんな明日に備えて早く寝てるだろうし、私はここでビビちゃんとお話してるほうが楽しいわ」
「はは。俺も楽しいです。……ジルバのために寮をあけてやりたいですしね」
意味深なことを言うビビに、その手の話題が大好物なアギはすぐにピンときた。
「ゼロちゃんね」
「はい。今頃寮についてるはずですよ」
「素敵ね。あの子達の幸せなそうな姿を見るのが、今の私の幸せよ」
「俺は一回ゼロさんに会ってみたいです」
「あら。なら、一度うちに遊びにいらっしゃい。みんなでご飯食べましょ」
「いいんですか⁉︎絶対行きます!」
見張りをしてるとは思えないほど穏やかな光景に、オラガは苦笑しつつも静かに2人を見守っていた。
その頃。寮のジルバの部屋には、ビビの言う通りゼロが来ていた。
「いいのかなぁ。僕は警察の人間じゃないのに」
「いいじゃん。捜査の手伝いあんだけしたんだし」
なんとなく申し訳なさそうにしているゼロに対して、ジルバはあっけらかんとしている。
「もっと疲れ切ってるかと思ったけど、元気そうで良かった」
「みんなが無理しないようにって気にしてくれたからね。ある程度の情報は集まったから昨日はゆっくり寝てたし」
「そうか。頑張ったな」
ギュッと、愛しさのままにジルバに抱きしめられてゼロが体から力を抜く。
「あとは俺達の仕事だ。絶対今回の件を仕組んだヤツを捕まえるからな」
「うん。信じてるよ」
『私も信じています』
2人を気づかって黙っていたイチが堪らず声を上げる。その言葉にゼロとジルバは顔を見合わせて笑った。
「イチもよく頑張ったな」
『はい。ジルバとの約束を守りました』
「そうだな。ゼロを守ってくれてありがとう」
そっとジルバがミニイチに触れると、ゼロは言葉にならない喜びがミニイチから溢れ出しているのが見えた気がした。
「さて、明日のために早く寝ないとな」
「一緒に寝るのは久しぶりだね。でもベッドが狭くない?しっかり寝れないと明日が心配なんだけど」
「ゼロを抱きしめるのが最高の安眠法だよ」
『性行為はしないんですか?』
イチからの問いかけに2人が吹き出す。
「いや!明日もあるし!今日は寝るよ!」
「そうだぞ!さすがに今日はしない!」
『なら、今日は電源を切りませんか?一緒にいれますか?』
期待と不安が無いまぜになったような声にゼロは驚くと、優しくミニイチを抱いてベッドに移動し枕の上に置いた。そしてそれを挟むようにジルバと並んで横になる。
「今日はイチも一緒に寝ようね」
「そうだな。どうせなら俺の夢も一緒に見れたらいいのにな。……おやすみ」
身を寄せ手を握る2人の間で、イチは幸せそうに『おやすみなさい』と呟いた。
ゼロを寮に送った後、ギアは自宅でイチの点検を行なっていた。
「特に問題なさそうだな。今回は大活躍だったな。よく頑張ったぞ、イチ」
そう独り言を言うとギアは部屋を出て行こうとする。ドアノブに手をかけると優しい声が頭に響いた。
『ギア、いつもありがとう。おやすみなさい』
驚きで部屋の中へと振り返るが、そこにはいつもと変わらない空間があるだけだった。
「……気のせいか?……おやすみ、イチ」
幸せそうにそう呟くとギアは部屋を出て扉を閉じた。
その瞳には映らなかったが、部屋の中はキラキラと輝く粒子に満たされていた。




