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ザワザワと報道陣が集まる中、手脚が動かなくなる病についての会見が始まった。
「……つまりこの病気の原因は脳による認識のズレであり……」
シバが所属する官庁のトップである高齢男性が病の原因を説明している。力を求めた進化の果てであるという部分は隠し、手脚が再生することへの代償というカタチでなされた説明が終わると、記者からは当然のようにネットの噂への質問が飛び出した。
「腕付きがこの病気に関係しているという噂がありますが、真実ですか?」
「腕付きは一切関係ありません。手脚が再生される我々だけの問題です」
「治療法はあるのでしょうか?」
「現在研究中です」
「なぜ病気の発表がここまで遅れたのでしょうか?」
「原因の究明に時間がかかったからです。中途半端な情報はかえって人の心を乱します」
「しかし実際に病気にかかっている人は周囲の理解が得られず苦しんだのではないですか?」
「罹患された方には家族等も含めて丁寧な対応を心がけてまいりました」
嵐のように襲いかかる質問に答えていく男性の後ろで、シバは予想通りの内容で終わりそうだと胸を撫で下ろした。しかしその期待は裏切られることになる。
「この病気について研究されているのはどのような機関なのでしょうか?」
てっきり腕付き関係の噂や発表が遅れたことに対する質問だけで終わると思っていたのに、思わぬ角度から投げられたボールに男性はたじろいだ。
「……専門の部署です」
「部署、ということは独立した機関ではなくそちらの職員ということですね。なぜ研究されている方から直接説明がないのでしょうか?」
「……彼は専門職で公の場で話をすることに慣れておりません」
「彼?ということは1人の人間の見解ということですか?信頼性はどれほどのものなのでしょうか?」
まるでカグラの存在を知っているかのような記者の質問に、これ以上は無理だと判断してシバが男性に代わり矢面に立った。
「代わりに質問にお答えします。私はその部署の責任者です。研究はうちの職員の1人が主体となって行われましたがチームで動いており、そこにはあらゆる個人的な見解、思想、恣意的な結果の改竄が発生する余地はありません」
「そのチームに問題はないのですか?例えば能力者対策をしているチームであるとか」
なぜそこまで知っているのか。会場にいたセキトはすぐトカゲに連絡をいれ、記者について調べるよう指示をした。
「職員の情報については回答を差し控えます。彼ら個人への攻撃に繋がりかねない。そもそもその質問の根拠はなんですか?」
「個人的なネットワークから仕入れた情報です。確かに個人攻撃に繋がるのは問題ですね。質問を終わります」
急に引き下がる記者に安堵よりもザラリとした不快感が残り、険しい顔のままシバは会見の終了を迎えた。
診察室で会見を見ていたゼロ達は思わぬ展開に各々動き出していた。
「スイレン君は受付に。今の会見を見た人が何かをしてくるかもしれない。警察からも応援に来てもらうよ。僕はシバさんに連絡を取るから、モガ君とゼロは診察室で患者さんからの相談がこないか待機してて」
走り出すカグラとスイレンを見送り、ゼロは不安そうにミニイチを握りしめた。
「ゼロ。大丈夫。みんながいるよ」
自身もツツヒのことがあって不安なはずなのにゼロの心配を優先するモガに、ゼロは自分ばかり弱いままではいけないともう一度ミニイチを握りしめる。
「ごめん、モガ。大丈夫だよ。僕は僕にできることをしないと」
強く握る手の中でピピッという音がした。
『悪意が拡がっています。あちこちで攻撃が始まっています』
「……イチ?攻撃って?」
戸惑うゼロに今度は個人スマホが鳴った。
「ギアさん?どうしたんですか?」
『ゼロ君!無事かい⁉︎さっきの会見を受けてネットが荒れてるんだ!能力者対策室へも根拠のないデマが撒き散らされてる!』
慌ててモガが能力者対策室で検索をかけると、対策室が関係してるなら病気は能力者のせいだ、腕付きと能力者で結託してる、ほんとは治療法があるのに隠してるといった内容が次から次へと出てきた。
『私はサイバー犯罪科へ行く。君達はすぐに身の安全を』
「僕も連れて行ってください」
安全の確保を指示するギアに、ゼロは強い声で自分のなすべきことを伝えた。
「ゼロ……」
「モガ、ごめん。今、僕の戦場はここじゃない」
ゼロから粒子が漂い出る。それが電気を帯び、まるでゼロを守るようにその身を包むのを見た時、モガは全てを理解した。
「こっちのことは任せて。イチ、ゼロのことよろしくね」
『任せてください。必ずゼロを守ります』
ゼロの頭に響く声は相棒と呼ぶに相応しいほど逞しくなっていて。
迎えに来たギアの車に乗り、ゼロとイチは彼らの戦場へと向けて走り出した。
悪意も噂も、小さな画面の中では一瞬で伝わるのが今の世界だ。
手脚の動かなくなる病に怯える人達は、恐怖を攻撃に変えてその矛先を向ける相手を探していた。
『腕付きが病気を広めてんだろ』
『呪いだ腕付きは存在が呪われてるんだ』
『アイツらから薬作れんだろ強制的に集めて作れよ』
『いや能力者のせいだろ捕まえろよ』
切先を突きつけられた者達はこれまで押さえつけられてきた恨みと怒りが混ざり、過剰なまでの思想に行き着く。
『手脚が動かなくなるとかざまあ』
『とっとと全員滅べよ』
『頭おかしい奴らに何されるかわからん国は腕付き全員に銃を配布せよ』
止まない攻撃の連鎖がいつ画面の外に飛び出すかわからず、警察は警戒体制をとけない。14班もすぐに出動できるよう交代で署に詰めていた。
今は公安とのやり取りのため不在にしているウタハ以外が部屋に集まっている。
「フチくん、ルナくんは大丈夫?」
「はい。お店ではみんなが守ってくれてますし、うちの親や姉が仕事の送り迎えをして、家にはルナさんの弟が泊まってくれてます。都会暮らしだって喜んでるってルナさんは笑ってました」
「そっか。なら今回の件が落ち着いたら観光に連れてってあげなきゃね」
能力者を公表しているルナは危険があるかもしれないので、フチは仕事を休ませようかとコハクは考えていた。だが、どうやら助けてくれる人がたくさんいるらしい。
「ツツヒくんは?」
「モガ君も忙しくなったので、大学の友達が泊まりに来たり泊まりに行ったりしてるようです。ありがたい話ですね」
穏やかに笑うホムラに場の空気が和む。
「セイくんは相変わらず実家暮らしに文句言ってる?」
「やたら干渉してきてウザイって反抗期みたいなこと言ってました。お義父さんもお義母さんも凄く心配してくれてるのに。まったく」
「シュカくんはセイくんのご両親とすっかり仲良しだね」
セイは能力者を公言していないとはいえ大事をとって実家に帰っている。というより、心配したシュカに実家に放り込まれた。
「……表層だけ見ると分断が広がってるように見えるけど、個人を見ればそんなことはないんだよね。みんな隣にいる人と手を取り合って生きてる。……俺達も俺達の役目を果たそうか」
隣にいる人の手は実は温かい。みんながそれを忘れないように。
決意を確認した14班はそれぞれ仕事へと戻っていき、部屋にはコハクとジルバが残った。
「ゼロくんが心配?」
みんながいなくなったことでコハクが少しだけ親の顔を見せる。
「……ゼロは自分の闘いを、自分にしかできないことを必死にやってるんだ。信じれないならアイツの恋人失格だ」
「そうだな。ここで心配して泣き言いうようなら兄さん達のお墨付きを取り消そうかと思ったが」
「さすが俺達が認めただけはあるな」
「ウタハくん、おかえり。キリくん、いらっしゃい」
いつの間に部屋に入ってきたのか、ウタハとキリがジルバを両側から挟んで腕を組む。
「な!いつの間に!」
「みんなが出てくのと同時に入ってきてたよ」
「その辺はまだまだだな。尊敬するウタハ先輩がきちんと鍛えてやるからな」
「公安に来るならいつでも歓迎するぜ。その時はキリ先輩って呼ぶんだぞ」
まるでゼロを相手にしているかのような猫可愛がりをジルバは鬱陶しそうに、コハクは微笑ましそうに見ている。
「仲が良くて何よりだけど仕事しようか。キリくんが来たなら重要な要件でしょ」
そうでしたと一瞬で捜査官の顔に戻るとキリは来訪の理由を話しだした。
「近々腕付きによるデモがある」
「デモ?」
「ああ。薬を作るために腕付きを無理やり協力させるって噂が広まってるからな。自分達の体を好きにはさせないって主張するためのデモだ」
「でもまだ腕付きの血のことすら発表してないのに」
「発表されてからでは遅いと思ってるんだろ。それだけ疑心暗鬼になってるってことだな。まあ、わからなくはねぇよ」
キタカ達に協力しているからか、キリは腕付き達が搾取されている現状をよく理解している。
「それで、うちの班は警備でもすればいいのかな?」
「そうだな。今回はちょっと派手に活躍してもらう予定だぜ」
「?派手に?」
警備に派手も何もないだろうと不思議そうにするコハクに、キリはニッと笑った。




