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病の公表のためにシバが動き回っている間、それでも世間はいつも通りの時を過ごしている。その日は14班が出動を終えて戻ってくると隣の部屋に慌ただしく人が出入りしていた。


「ビビ?なんかあったのか?」


ちょうど部屋から出てきたビビを捕まえてジルバが話を聞こうとするが、その顔は真っ青で今にも倒れそうだった。


「大丈夫かよ⁉︎顔真っ青だぞ!」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ。ただ…」

「シエン君の班で銃が使用中に爆発した。使っていた捜査官は今病院で処置を受けているところだ」


事態に怯えて混乱しているビビに変わり、ロクイが冷静に状況を説明する。だがその顔も僅かに緊張が滲み出ていた。


「班長が向こうの銃担当の班へ行って原因を調査してる。しばらくうちもこの件で忙しくなると思うから、班に人が不在の時はスマホの方に連絡してくれ」

「わかりました。うちはひとまずシエンくんの班に応援が必要か確認してみます」

「よろしく頼むよ。……シエン君のことも」


自分達が作り上げた信頼できるはずの武器で部下が負傷した。そんなパートナーの心の内に胸を痛めるロクイに、コハクは「任せてください」と強くその背中を押した。

そんなやりとりの間、ジルバはビビへと声をかけていた。


「ビビ。ほんとに大丈夫か?」

「……爆発した銃の画像を見たんだ。血がベッタリとついてて。使ってたのは腕付きの捜査官だろ。いったい今どんな状態なのか……俺達の扱ってるのがあんな恐ろしい物だなんて……」


もし自分の整備した銃が爆発したら。その危険を初めて実感し、ビビは己の仕事に恐怖を抱き始めていた。

すると、その背中をジルバが思いっきり叩いた。


「いっ……何すんだよ!」

「お前はチャラく見えるけど、ほんとはすっごく真面目で慎重なヤツだ」


ビビが寮に帰ってからもプラモデルの訓練をしたり資料を読み込んだりしているのを、ジルバは知っていた。仕事の内容をメモしたノートがぎっしりと書き込まれていることも。


「俺は銃の訓練もまだだけど、持てるようになったら俺の銃はお前に整備して欲しい。命を預ける相棒は信頼できるヤツに任せたい」


ルームメイトだからこそ知っていることがある。

一緒に生活してるからこそ見える本質がある。

寮が共同生活なのは仲間を信頼するということを学ぶためでもあるのかもしれない。


「……みんなの足手纏いにならないように頑張ってくる」

「ああ。俺もフォローしてもらってばっかだからな。頑張るよ」


新人とは思えない覚悟があって大いに活躍してると思っていたジルバの言葉にビビは驚く。そして強く頷くと、ロクイのあとに続いて自分の戦場へと向かって行った。




「……嫌な流れだな」


銃爆発の一報を受けて、セキトはトカゲのチームに召集をかけていた。


「爆発は確実に仕組まれたものですね。私達の能力で技術班は全員シロであることはわかりましたが、それなら銃の知識のある外部の者を署内に手引きした人物がいることになる」

「全く。腕付きの銃に関しては完全にイタチごっこだな。この間の高校生の件で警戒はしていたが……よりにもよって国が例の病の公表に動くこのタイミングか。とりあえず私はシエン君の所へ行ってくるよ」

「では、私達は引き続き捜査を進めます」

「ああ。頼むよ」


冷静に、淡々と、為すべきことを為す。

公安の捜査官としての覚悟を見せるトカゲのチームは、セキトにとって何よりも頼りになる仲間となっていた。




怪我をした部下に付き添い病院へ来ていたシエンの元へ、コハクがやってきた。


「コハクさん……」


いつも姿勢正しく捜査官の見本のような立ち振る舞いをする後輩が、乱れた髪で不安に瞳を揺らしている。おそらく部下の前では気を張っていたのだろう。麻酔が効き眠っている部下しかいない空間にコハクが現れて、抑えていた感情があふれ出した。


「今14班のみんなにはそっちの班に行ってもらってるよ。みんな不安だろうからね」

「ありがとうございます……」


手術が終わり眠っているシエンの部下を見る。腕そのものが吹き飛ばされたわけではなさそうだが、分厚く巻かれた包帯は傷の深さを物語っていた。


「指や手が無くなるまではいきませんでしたが、神経にもダメージを受けているらしくて。リハビリである程度動くようにはなっても、おそらく復帰は無理だと」

「そう。悔しいね。必死に努力して捜査官になったのに」


腕付きの班同士、シエンの班と14班は交流が多かった。怪我をした捜査官は真面目でおとなしく、人一倍努力していたこともコハクはよく知っていた。


「……これからどうしたらいいかわからなくて。銃は安全に使えるという前提があるから扱えていた。それが崩れるともう現場に持ち込めない。俺達は捜査官としての武器を失うことになる」

「シエンくん。俺達は捜査官だよ」


迷い立ち止まった時、いつも背中を押してくれた声が響く。技術よりも能力よりも、その心で捜査官達を照らしてきた先輩が真っ直ぐにシエンを見ていた。


「セキトさんから連絡があった。爆発は外部の人間の仕業だって。それなら俺達の仕事は犯人を捕まえることだ」


初めて人が死んだ現場に入った時。コハクは吐き気を堪えながら被害者の無念を思っていた。いつだってこの先輩は捜査官として真っ直ぐだった。


「それに、みんなが銃を使えてたのは技術班が少しのミスも許さず安全な物を持たせてくれてたからだ。捜査官はチームで動くものだけど、それは警察という組織だってそうだ。みんなが支えてくれるから俺達は全力で犯人を追える。そんな仲間を侮辱されて、俺は今凄く怒ってるよ」


冷静に見えて、仲間思いで懐が深い。この人に憧れたから、腕付きのチームを新設する時リーダーを依頼されて即答したんだったとシエンは思い出した。


「コハクさん、先にみんなの所へ行っててくれますか?もう少しで麻酔が切れるそうなので彼に全てを説明したら俺も行きます」

「わかった。待ってるよ」


昔、心を掴まれた温かい笑顔を向けられる。自分もそんな風に相手に安らぎを与えられたらと、シエンは傷つき眠る部下の横でその目覚めを待つのだった。




病への対応で診察室のほうが人手不足になったため、ゼロはシフトを増やして働いていた。

その日も診察を終えて事務処理をしていたのだが、ギアからの連絡が入ったので休憩室に移動した。


「ギアさん?どうしました?もうすぐ仕事が終わるからそっちに行きますよ」

「いや。今から私がそっちに行く。少し気になることがあるんだ」


『気になること?』


通話を切り普段とは違うギアの雰囲気にゼロが戸惑っていると、イチも『ギアは焦っています』と心配そうな声をあげた。




通話の後すぐに家を出たのだろう。最短時間で診察室まで来たギアは席を外していたカグラ以外の3人にネットのある投稿を見せてきた。


『友達が手脚が動かなくなる病気になったんだけど、これって腕付きがウイルス撒き散らしてるってマジ?』


あまりにも荒唐無稽な話に、だが病そのものは存在するので複雑な表情になる3人。ギアはどんどんと他の投稿も見せていく。


『腕付きの血を飲んだら治るって聞いたよ』

『腕付きの血とか無しだろ気持ち悪い』

『細菌テロなんじゃないの?腕付きの』

『実は能力者の能力説が有力』

『銃とか病気とかそろそろ腕付きも能力者も退場いただくのが正解なんじゃないの』


悲しいがネットの中ではありふれた悪意に、しかし微妙に含まれる真実に嫌な足音がヒタヒタと近寄る感覚を3人は感じた。


「手脚が動かなくなる病の噂は前からあったんだ。でもここ数日で腕付き関係の話がジワジワと広まりだした。サイバー犯罪科にも連絡したが、病気の関係ならこちらに情報があるかと思って」

「……シバさんとカグラさんを呼んでくるね」


走るスイレンを見送り、残った2人はセキトへと連絡をとった。


「そうか。ギア君、ありがとう。この状態を放置すれば大変なことになる所だった。私もすぐ動くので、2人はギア君に病について説明しておいてくれ」


病の原因や腕付きの血について聞いたギアは事態の深刻さに言葉を失っている。

そんな空気の中、ゼロの手の中でイチが『悪意が撒き散らされています』と悲しげに呟いた。

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