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粒子を測定できるセンサーは予想以上の活躍を見せ、ジルバやウタハ達が集めてきた情報もあわせてカグラは早々に研究の結果を出した。
今日はそれについて話すため、14班、診察室の4人、ヨル、シバ、公安からはトカゲとキリとセキト、本部からはキトラが診察室に集合していた。
「センサーのおかげで検証がとても早く進められたよ。モガ君とゼロのおかげだね」
部下を労うカグラは少し笑顔を見せていたが、次の瞬間には一切の表情が消えた。まるで一族の奴隷だった頃のように。
「結論から言うと、この病の原因は脳の認識のズレだ」
「認識のズレ?」
病の原因としては理解しづらいものに、コハクが言葉を反芻する。
「そう。まずは科学捜査部の資料だけど、これは60年前の手脚の再生に関する研究結果だ。実は手脚の再生に関してはこれが最新の研究結果になっていて、それ以降更新されていない」
「えっ⁉︎60年前のですよね⁉︎」
驚くフチの反応に予想通りという感じでカグラは話を進める。
「再生される手脚は医療が必要ないし、体から離されれば灰となって何も残らない。そんな物に研究費を出すなんて馬鹿だと国は考えたんだろうね。その結果、今回の病が広まった」
人類の歴史を嘲笑うかのような、その愚かさに愛想をつかしたような、そんなカグラの言葉に一同は言葉もない。
「……なぜ手脚を切り続けた時、命の危険に晒されても再生が止まらないんだと思う?」
フチの体がビクッと反応してかたまる。隣にいたシュカがそっとその肩に優しく手を置いた。
「答えは脳の認識がズレてしまっているから。白の人の時代は、手脚は切れても灰になどならなかった。何度も切られれば切られた所の傷を塞いで体力が戻るまで無理に再生はされなかった。それが手脚が再生する人が増え優位に立ちたいと争いを望むようになると、再生できる回数を増やすために簡素な構造に作り変えられた。結果、再生を止める機能も失ってしまった」
キトラが自分の手を見る。糸の強さに比べて力の弱いその手を。
「60年前の研究結果では、手脚は糸によって再生されると書かれている。そこで僕が注目したのがキタカ君の糸の手の研究だ」
キリが「あ」という声を漏らした。
「キタカ君の糸の手は、失った部分と同じ形に糸を張り巡らせて皮膚の代わりの物質を生成している。それと同じことが手脚の再生でも行われているんだ。作られる物質は若干違うし、こちらは常時糸を張り巡らすのではなく粒子状になって物質と同化しているけれどね」
トカゲが不思議そうに自分の手を見るので「体の一部となってるから僕達の目でも粒子を追えないよ」とカグラは付け加える。
「でも、そうやって手脚を都合良く扱ってきたツケが今になって現れた。他の部分との連携も何も考えられず再生される手脚など、異物以外の何物でもない。更に糸に力ばかり求め続けて繊細なコントロールを失ったことで、脳は手脚をついに不要な物だと決定づけた。手脚へのあらゆる供給をストップしたんだ。それがこの病の正体だよ」
ジワリと、長い時間をかけて人は自分達の手でその存在を殺そうとしているのだ。その傲慢の果てに。
「……治す方法はないのでしょうか?」
ホムラが苦しそうに呟いた。ツツヒのことを思って辛いのだろう。
「……糸が物質を作る仕組みはね、僕は散々研究してきたんだよ」
ふと、ウタハの方を見てカグラがやっと表情を変える。優しい表情が、少しの後悔を混ぜて言葉を紡いでいく。
「そして腕付きの人達のことも昔、散々実験した。その経験から、腕付きの人達の血液にしか含まれない物質がこの脳のズレを解消してくれることまで突き止められた」
見えた希望に、だが自分の罪を背負って辛そうに話を続けるカグラを気づかって、シバがその先の説明を引き受けた。
「物質そのものは公に認知されているものだ。腕付きの血液にしか含まれないが他の人に輸血されても問題はなく、特に医療の分野でも重要視はされていなかったのだが。この物質が手脚と体の連動や、糸の繊細さに必要な脳の働きに関係していることがわかったんだ。つまり、この物質を摂取できれば脳のズレを解消することができる」
そこから先はヨルが説明を引き継いだ。
「定期的な摂取が必要となれば薬での服用が望ましい。その物質を薬に生成するのは今ある技術で十分対応できますが、問題はその物質を作り出す技術が無いことです」
「それってつまり……」
不穏な結末にジルバが呟くと、ヨルはしっかりとそこにいる腕付き達の目を見て説明を続けた。
「薬を作るには腕付きの方達からの血液の提供が不可欠です」
何だそんなことかと、そう言えるほど社会の状態は明るくない。虐げられ苦しめられてきた腕付き達が、手脚を失う恐怖と闘っている者達が、あなた達を苦しめてきた人達が手脚が動かなくなる病になったので血を差し出してくださいと言われて簡単に頷くだろうか。
その答えをフチが冷たい声でカタチにした。
「なんで腕付きを苦しめる人達のために協力しなくちゃいけないんですか。手脚が動かなくなるとかざまあみろでしょ。苦しめばいいんですよ」
腕付きを代表するような冷徹な言葉に一同が凍りつく中、続いて出たのはその奥にある真実だった。
「って、前の僕なら言ってたでしょうね」
捜査官として日々苦しむ人達を見続けてきたピンクの瞳は、この瞬間も救いの手を求める人へと向けられている。
「でも今はそうは思いません。苦しんでる人とそれを助けたい人で考える。僕が捜査官になって最初に学んだ心得ですから」
ニコリと笑う顔は迷いはない。それを受けてシバは覚悟を決めた。
「近々、病に関しては国から公表することになっている。今の内容をどこまで公表するかは調整中だが、薬を作るためには腕付きの血が必要なこともいつかは明らかにしなければならない。そうなれば混乱が起きるのは必至だ。だから、ここにいる者達に先に話をした。……分断の果てに先の戦争のようなことが起こるのだけは阻止しなければいけない」
暗い影が忍び寄る世界に闘いを挑む。幼馴染のその覚悟に一番に反応したのはセキトだった。
「心配いらない。ここにいる者達はとんでもない曲者揃いだ。それにたくさんの協力者もいる。決して戦争など起こさせないさ」
その場にいた全員が強く頷く。
異なる人同士を繋ぎたい。生まれ育った村の教えのために働き続けた幼馴染2人は、いつしかそれが自分自身の夢になっていた。
そしてもう1人の幼馴染を思ってシバが楽しげに笑う。
「ミソラに文句を言われるな。この光景を自分も見たかったと」
「仕方ないさ。派手に活躍したいと表向きの仕事を選んだのはアイツだ」
「そもそもアイツは騒がし過ぎて裏向きの仕事は無理だろ」
確かにと笑うセキトの視界の先では、それぞれに情報交換やお互いを鼓舞するので忙しい仲間達がいる。
その輪に加わるべく、シバとセキトは並んで歩き出した。
みんながそれぞれに話をする中、ジルバはゼロのもとへとやってきた。
「ゼロ。センサーの件聞いた。イチと一緒に頑張ったんだな」
捜査官になり精悍さが加わった恋人に褒められ、ゼロは顔を綻ばせた。
「うん。エテル君も協力してくれたしね。……僕達の力は未来を作る力だって信じたからできた」
ミニイチを胸の前でギュッと握る恋人を、ジルバは優しく抱きしめる。
「たぶんこれから世の中は荒れる。ほんとはゼロをそばで守りたいけど、捜査官達も忙しくなると思う。だから、イチ、ゼロのことを頼むな」
『はい。ゼロを守るのが私の望みです』
ミニイチに表示された文字を見て、ジルバは優しくその金属の体を撫でた。




