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薬品の臭いや機械の駆動音に満たされた廊下をジルバが進む。目指す部屋を見つけてノックをして入ると、まるで揃いのような薄いピンクと水色の髪をした男性達がいた。
「失礼します。14班のジルバです。ヌイさんから資料を預かるように言われてきました」
ビシッと敬礼するジルバに「ご苦労様」と微笑みながら水色の髪の男性が近づいてきた。
「僕がヌイだよ。彼はトリト君。頼まれてた資料は奥の部屋にあるよ」
そう言って通された部屋では大型のスーツケースくらいあるバッグが3つ並べて置かれていた。
「昔の資料だからデータ化されてなくて。1人で運ぶのは大変でしょ。僕も手伝うよ」
「いえ。大丈夫です。このために俺が選ばれたんで」
ヌイの申し出を断るとまるで中身はスカスカの綿でも入ってるかのように軽々とバッグを抱えるジルバ。実際の中身は紙だから相当重たいはずなのに全く気にしていない。
「はぁ〜。さすがコハクさんとキトラさんが育ててる子だねぇ」
「……2人を知ってるんですか?」
感心するヌイに不思議そうにするジルバ。するとヌイとトリトは同じように笑った。
「僕達の人生を変えてくれた人達だよ」
「あの人達がいなかったら、今頃理不尽に対して何もできず潰れてたかもしれないね」
「……それって」
聞き返そうとするジルバの声を遮って外から大声が響いてきた。
「部長!いい加減戻ってください!」
部長?と訝しむジルバの横でトリトが申し訳なさそうに声の元である職員の所へと走る。
「ごめんごめん。どうしても会いたい人がいて」
「ヌイさんなら家でも会えるでしょ!ラブラブなのはいい事ですが仕事はちゃんとしてください」
部下らしき職員に叱られながらトリトは廊下の向こうへと姿を消す。だがその会話の内容を理解してジルバは驚きの声をあげた。
「部長⁉︎科学捜査部の部長⁉︎あの人、ここのトップなの⁉︎」
「あ〜。構えてほしくないから言ってなかったんだけど、ごめんね」
てへっとどこかの誰かのように笑うヌイにジルバもすっかり敬語を忘れてしまう。
「なんでわざわざそんな偉い人が…」
「だって会いたいじゃない。あの2人が大事に育ててる子だもん」
そんな風に言われたら何も返せないジルバは、少し恥ずかしそうにポツポツとあるお願いをした。
「……今度コハクとキトラとの話聞かせてくれる?」
「もちろん!うちに遊びにおいで。期待の新人捜査官君の話もぜひ聞きたいしね」
自分に向けられる笑みはとにかく温かい。それはコハクとキトラのおかげなのだと思うと、くすぐったいような嬉しさをジルバは感じた。
また別の日。ウタハとキリは、カフェでキタカとアイヒに会っていた。
「はい。これが頼まれてた資料だよ」
キタカが出してきたSDカードを受け取りながら礼を言うも、ウタハはなんとなく納得していないような顔をしていた。
「別にメールで送ってくれりゃいいのに。そっちも忙しいだろ」
「そう言ってお前全然顔見せないだろ。カグラ大好き甘えた坊ちゃんだったお前を心配して何度も様子を見に行ってやった恩を忘れたのか?」
「……昔の話を出してくるなよ」
カグラ譲りの膨れっ面にアイヒは楽しそうにしている。
そんな2人は放っておいて、あとの2人はキタカ達が運営している腕付きの支援団体の話をしていた。
「キリ君が手伝ってくれるようになって本当に助かってるよ。うちは裏社会関係の支援が多いから」
「仕事の合間でしか手伝えねぇけどな。まあ、仕事で身についたことが役に立つんなら俺も嬉しいし」
キリは14班への研修をきっかけに、腕付きのことをもっと知りたいとキタカ達の団体の手伝いをするようになった。その団体は犯罪に巻き込まれたり裏社会ギリギリのところにいる人達の支援が中心なので、キリは大いに活躍している。
「ただしばらくは手伝いに行けねぇかも。ちょっと忙しくなりそうだから」
「ああ。このデータのことだね。俺達も手伝えることがあればなんでも言ってくれ」
「……ありがとう」
キタカの言葉に予想外みたいな顔をするキリ。どうしたのかと視線で問いかけるキタカに少し申し訳なさそうに理由を話した。
「……キタカは腕付きを利用するヤツに苦しめられたから、この病気治すのに進んで協力する気にはなれないかと思ってた。ごめん。失礼なことだったな」
素直な言葉にキタカは怒るどころか優しくキリに微笑みかける。
「みんながみんな、腕付きを苦しめてるわけじゃない。それに俺の大切な人だって病気になるかもしれないんだ。その時になって協力しておけば良かったと後悔するのは嫌だからね」
隣にいるアイヒを見るキタカの瞳は優しい。
大切な人を守りたい。助けたい。そんな気持ちを力に変えていければ、世界はもっと優しくなれるのかもしれなかった。
そうやって病克服のためにみんなが動いている頃、ゼロはエテルと共にツチ教授の研究室に来ていた。付き添いでエテルの両親と、家庭教師としてすっかり懐かれたギアも一緒である。
「凄い!色んな子がいる!みんなキラキラしてて楽しそう!」
研究室にある珍しい機械にエテルは興奮しっぱなしだ。だが、ある装置の前に来ると心配そうに冷たい金属を撫でた。
「この子は元気がないね」
「ああ。それは最近調子が悪くてね。近々修理に来てもらう予定だなんだよ」
「……治る?」
まるで病気の人を心配するかのようなエテルの態度に、ツチは驚きながらも安心させるようにそっと機械を撫でた。
「大丈夫。必ず直してもらうよ。この機械は私が教授になる前からの相棒なんだ。まだまだ一緒に頑張ってもらわないと」
相棒という言葉にその機械への信頼と愛情を感じて、エテルの不安な顔は笑顔に変わった。
「さて、本題の機械を見てもらおうかな。これが粒子を測定できるセンサーだよ」
一同は以前ゼロが見せてもらった機械へと案内される。その機械を見た瞬間、エテルがまるで大人のように落ち着いた表情へと変わった。
「そう。君はみんなの希望なんだね」
そっと、機械へと近づき愛おしむように声をかけるエテル。周りの大人達はその雰囲気にのまれて言葉を失った。
「この子は大丈夫。みんながたくさんの愛と思いを込めてくれたから。今すぐ苦しんでる人達を助けに行けるよ」
その光景は理屈など無しで大人達の心を動かした。
「エテル君、ありがとう。これでたくさんの人を助けられる」
ゼロにお礼を言われて喜ぶエテルの隣で、ツチは次にすべきことを考えていた。
「すぐに病気の人達を撮影できるように動きましょう。ゼミのみんなも協力してくれるはずです」
「お願いします。うちもすぐに動けるように準備してあります」
慌ただしく動く大人達の中でエテルは研究室を見回すと、未来へと思いを馳せて両親の元へと走った。
「ここは素敵なところだね。僕、ここで機械達のことたくさん学びたいな」
輝く瞳に両親はその道の険しさを思いながらも「そうね」「それはいいね」と息子の夢を後押しする。
「おや。うちは大歓迎ですよ。でもそのためにはいっぱい勉強を頑張らないといけませんよ」
「大丈夫!ギアさんは凄い家庭教師だから!」
急に話を振られエテルに腕を掴まれ、ギアは戸惑っている。
その姿に両親は慌ててエテルを止めにかかった。
「エテル。ギアさんはプログラミングを教えに来てくれてるだけだよ。それも好意で教えてくれてるんだ。そんな無理を言っては行けない」
「そうよ。勉強なら塾でも何でも行かせてあげるから」
その説得にギアが大好きなエテルは「えー」と不服そうな声を上げる。そんな姿を見せられてはギアは可愛い生徒を見捨てられない。
「その……私で教えられる範囲なら教えますよ。もちろん受験対策として塾なんかは行かないといけないとは思いますが」
「いや、そんな、そこまでお世話になるわけには……」
「ご両親がお嫌でなければ協力させてください。子供の未来に関われるなら、こんなに嬉しいことはないので」
そこまで言われてはエテルの両親も断れない。短い期間だが家庭教師としてギアの誠実さや人柄はよく見てきたので、「無理はなさらないでくださいね」と両親は感謝を込めて頭を下げるのだった。




