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ジルバとゼロがそれぞれに新しい生活で奮闘している中、ギアのもとを訪れたゼロは久しぶりにナラと会っていた。
「感覚の数値化の研究はどうですか?」
「順調だよ。イチのおかげだね。今は学生それぞれに数値をとって、個々のデータを作れるようにしてるんだ。機械工学科や生命工学の研究室と協力して、個人の感覚を再現できる義手や義足の開発の話もでてるよ」
義手や義足という言葉に、ゼロの頭にジルバの姿がよぎる。腕付きが常に抱えている手脚を失うかもしれない恐怖。その万が一を救う方法に協力できているのかもしれないとゼロが考えていると、『私も嬉しいです』とイチからも喜びの声が上がった。
「そういえば、今度ツチ教授の研究室に行くんですよ。粒子センサーの試作品ができたらしいので、見せてもらいに」
「そうかい。それは楽しみだね。良ければ帰りにうちの研究室にも寄っていくかい?イチに兄弟を見せたいと思っていたんだ」
その提案にゼロより早くイチが反応した。
『会いたいです!ゼロ、行きましょう!』
その喜びようにミニイチを撫でながらゼロは行く意思を示す。
「でも大丈夫ですか?僕のことが大学にバレるかもしれませんよ」
「問題ないよ。イチの研究自体は大学ではしていないんだ。上の人間は君の姿まで知ってるわけではないし、その時間はゼミ生は来ないようにして見学者のふりをしたらいい」
案外大胆なナラにゼロは意外な一面を見たと驚く。だがずっと喜びの声をあげているイチのために、研究室の訪問を約束するのだった。
そして迎えた粒子センサーの見学の日。モガを案内して以来の訪問だが、ゼロのことを覚えていたゼミ生達は嬉しそうに話しかけてきた。
「みんな、あの時はありがとう」
「お礼なんていいよ。あなたのおかげでセンサー開発にやる気が出たしね」
「完成前に卒業しちゃった奴もいるからな。今度お披露目会するんだよ。今回はその練習だな」
「そういうこと。ほらほら。試してみて」
ラムネをくれた生徒がゼロをモニターの前に座らせ、ジュースを買いに走った生徒がカメラの前に立つ。そしてカメラの前で糸を出すと、その体の中を粒子が走る様がはっきりと映し出された。
「これが……モガの見てる世界」
「私達にはもっとキラキラした光で見えてるけどね」
映像の中の粒子はまさに粒といった感じで、細かい点が動いているだけだ。それでも今まで話で聞くことしかなかった粒子を見ることができて、ゼロの目は輝いていた。
「では次は私が」
そう言うと今度はモガがカメラの前に立つ。その体からたくさんの粒が溢れてきて、渦を巻いたり波のように動いたりする。
「凄い……これがモガの能力なんだね」
子供のようにはしゃぐゼロの耳にイチの声が響いた。
『この子はたくさんの愛をもらって作られたのですね』
どうやら粒子センサーのことを言ってるらしい。たしかにゼロが触れるとセンサーの機械からはみんなの愛や希望、夢が託されているのを強く感じる。
「君はみんなの希望なんだね。きっとこれからたくさんの人を助けていくんだろうね」
フワリと笑うゼロの頭には、喜びで溢れている言葉にならない声が響いていた。
センサーお披露目の成功に大喜びする研究室のみんなと別れて、ゼロはナラの所へ来ていた。
「待っていたよ。さあ、入って」
念のため眼鏡をかけて変装したゼロが久しぶりにナラの研究室に入ると、懐かしいイチの元本体が見えた。
「機械そのものはイチに使っていたものだからね。今フタバを起動するよ」
「フタバ?」
モニターに向かいながら作業をするナラに不思議そうに聞くと、少し恥ずかしそうな返事が返ってきた。
「ゼロ君、イチ、ときたから2にちなんだ名前がいいかと思って。変かな?」
「いえ。素敵な名前です」
『はい。可愛いです』
ミニイチに出たメッセージを見せるとナラは嬉しそうな顔をしてフタバの画面を2人に見せた。
『こんにちは。今日は何をしますか?』
機械的な挨拶のあと、いくつかの項目が表示される。新しい数値の入力、個人データの照会などの文字を目で追っていると、イチが何か話していることに気づいた。
「イチ?……フタバと話してるの?」
ゼロのその台詞にナラが不思議そうにミニイチを見ると、『はい。感覚の数値化を教えてもらっていました。フタバは素直でとても可愛い子です』と画面に出てきた。そのままゼロには何となくしかわからない機械同士の会話が続いていく。
「イチとフタバが会話しているのかい?」
「はい。僕にも何を言ってるのかまではわからないですが、何だか楽しそうです」
そう言ってゼロが嬉しそうにミニイチとフタバを見るので「そうか。ならしばらく好きにさせよう」とナラも静観することにした。
しばらくするとミニイチからピピッといういつもの音がする。
『ナラ。今まで私が記憶した感覚をフタバのシステムに合わせたデータに保存する方法を学びました。今すぐ送りたいのですがフタバの容量を超えてしまうので、ギアにメモリを増設してもらい一度私の中でデータを保管します。受け取る準備ができたらギアに連絡してください』
「ちょ、イチ、そんな勝手に、ギアさんの意見も聞かないで」
『ギアなら大丈夫です。金の心配はいらないと言うでしょう』
確かに言いそうだと思いながらも予想以上にやりたい放題するイチにゼロは慌てふためいている。それを見てナラは楽しそうに笑った。
ナラの研究室を後にして家へと帰ろうとするゼロ。その頭にはイチの機嫌の良さそうな声が響いていた。
「フタバに会えて嬉しかったみたいだね」
『はい。弟か妹ができた気分です。歳下の兄弟とはあんなに可愛いものなのですね』
「う〜ん、僕は一人っ子だからあんまり良くわかんないけど…」
そう言いながらゼロの頭に兄2人の顔が浮かぶ。いつも自分を可愛い可愛いと全力で愛してくれる優しい人達の笑顔が。
「可愛い…のかもしれないね。たぶん。きっと。いるだけで嬉しくなるほどに」
『はい。フタバがいるだけで私は嬉しいです』
まるで兄達のような愛を感じさせるイチに、「フタバのおかげでイチは僕より大人になっちゃいそうだね」とゼロも嬉しそうだった。
そんな明るい話題に囲まれるゼロと違い、少年が銃を振り回した事件についてコハクから話を聞くジルバは緊張していた。
「ひとまず取り調べは俺がずっとついて、途中からアカリさんも来てくれたしシバさんも動いてくれてる。悪いようにはならないと思うけど」
銃の事件はとにかく印象が悪い。社会で下に見られている腕付き達が、立場が逆転するような力を持つのだ。ただでさえ腕付きの人口が増えて声が大きくなってきている中で面白く思わない人達の流言も手伝い、銃の単語が出ただけで非難が巻き起こるのだ。
「しかし、あんな少年まで手に入れられるなんて…」
銃のことだ。ホムラの言葉に14班の面々の表情が厳しいものになる。
「それについてはセキトさん達が動いてくれてる。少年を恐喝しようとした人達は2班が全力で調べて余罪まで掴んだから、お灸は据えられたと思うけどね。俺達にできるのはここまでだ」
納得のいくものではないが、自分達にできることはした。きっとこれからも何とか飲み込まなければならない事件は山ほど出てくるのだろう。ジルバは覚悟を決めなければと拳を握る。
それを見ていたコハクが、話が終わり席に戻ろうとするジルバにそっと声をかけた。
「今度の休みは帰ってきたら?キトラが寂しがってるよ」
心の中を見透かされて、久しぶりに少しだけ反抗心が出てしまうジルバ。
「アイツが寮に入れって言ったんだろ」
「まあ。そうだけど。ジルバのためなら寂しくたって我慢すること、知ってるでしょ?」
ゼロと暮らせないとなり、実家に帰ろうかと考えたジルバに寮に入るように勧めたのはキトラだった。ルームメイトと新人同士で色々な話をするのも成長に繋がるだろうと説得して。
「……ゼロの顔見たいから帰る」
「そう。ならジルバの休みをキトラに伝えとくね」
そう言ってフフフと去っていくコハクになんだか負けた気がして、ジルバは不貞腐れながら席に着いた。




