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「今日から14班に配属になるジルバでっす。よろしくお願いします」
「こら。挨拶はちゃんとやれ」
見慣れた14班の面々に完全にダレた感じで着任の挨拶をするジルバ。その姿にウタハから呆れた声で叱責が飛んだ。
「だって〜。全く新鮮味がないんだもん」
「まあ腕付きの捜査官はだいたいうちかシエンさんの所に配属されるからね。仕方ないよ」
後輩ができて少し嬉しそうにするフチに諭されるが、ジルバは不満気に口を尖らせている。
「ならシエンさんトコでいいじゃんか。親代わりしてる訳ありの俺を班に入れたらコハクだって風当たり強くなんだろ」
どうやらこの辞令に不服なのはコハクを心配する気持ちもあるらしい。その優しさに少し嬉しそうにしているコハクに代わってシュカがドンと胸を叩いた。
「大丈夫。コハクさんはそんなの気にしないよ」
やはり腕付きの捜査官を率いる長である。どんな者でもドンと来いという器のデカさなのかと思いきや、シュカの話は違う方へと転がっていく。
「僕達を好き勝手暴れさせてるから、もうこれ以上風当たりが強くなんてなりようもないからね」
みんなそれぞれに心当たりがあるのだろう。申し訳なさそうにコハクに視線を送るが、見られた本人はあまり気にしていなかった。
「そもそも俺が規格外だったからね。今更気にしないよ。でも捜査官としての心得はちゃんとみんなから学ぶこと。とりあえずはウタハくんについてもらおうかなぁ」
その提案にウタハとフチから苦情が出る。
「えっ!なんで俺⁉︎ゼロのことが気になって指導に私情しか挟めねぇよ!」
「そうですよ!やっと後輩ができたんですから僕が教育係したいです!」
相変わらず言いたい放題の班員達にコハクは目だけ笑っていない笑みを浮かべる。
「ウタハくんはまだまだ精神面の鍛錬が必要だからね。ジルバ君の教育係を通してもう少し大人になりなさい。フチくんはホムラくんからまだ学ぶことがあるでしょ」
「じゃあ僕は〜?まだ一度も教育係やってませんよ」
コハクの迫力に臆せず手を上げるシュカには更に冷徹な視線が送られた。
「シュカくんは俺しか手に負えないでしょ。これ以上勝手な行動しないようにまだしばらくは糸で監視するからね」
「え〜」とそれでも不服そうにしているシュカに、いったい何をしたのだろうとジルバはこの配属に不安しかなかった。
「俺はウタハのカンフル剤か?」
「まあ、そう言うな。もしかしたらお前の方がアイツらより精神年齢が高いかもしれん」
少しげっそりした様子で話すホムラに、やっぱり不安しか浮かんでこないジルバだった。
そのままウタハに連れられ新人の仕事の説明や署内の案内をしてもらうジルバ。なんやかや言っても人のいいウタハは、自分が新人の時に困ったことなども含めて丁寧に話をしてくれた。
「一通り説明はしたが、何か質問はあるか?」
14班の部屋に戻ってきて理解の確認をするウタハにジルバが手を上げた。
「はい。ゼロのこと、いい加減過保護にするのやめてくれない?」
ウタハのほうは完全に私情を持ち込まないように接しているのに、この後輩は部屋に誰もいないのをいいことに一瞬で弟の恋人の立場を引き摺り出してくる。
「お前な……っていうか、別に過保護でもいいだろ」
「そのせいで俺はゼロと一緒に暮らせなかったんですけど」
グサリと痛いところを突かれてウタハが顔を引き攣らせる。
「いや、だって、それは、まさかこんなことになるなんて思わなかったし」
「俺も思わなかったよ。警察学校でたらすぐにゼロと甘い生活送れると思ってたのにさ」
グイグイと怒りを滲ませて迫るジルバ。
ウタハは完全にお手上げモードになっていた。
それはジルバの警察学校卒業まであと1ヶ月と迫った時のこと。寮から帰ってきていたジルバはゼロと2人で甘い時間を過ごしていた。
「あのさ。卒業も問題なさそうだし、配属もコハクんとこになりそうだから、もう言っていいかなと思うんだけど」
珍しくちょっと不安そうなジルバにゼロは優しく微笑みながら続きを促す。
「卒業したら一緒に暮らさない?」
それはゼロも考えていたことだった。ジルバは希望すれば寮に入れるが、別に自分で家を借りても実家に帰っても自由である。
配属がどうなるかわからなかったので2人とも言い出せなかったが、どうやら遠くに行くことはなさそうなのでやっと同棲を考えられるようになったのだ。
「うん!僕も一緒に暮らしたいと思ってた!」
断られることは無いだろうと思っていたが、自分の提案に喜んでくれるゼロにジルバのテンションも上がる。
「そっか!うん!そうしよ!今からだと家を探すのは大変だろうから、いったんここに帰ってきてゆっくり探してもいいしね」
「そうだね。兄さん達の時も家探しは大変そうだったし」
「あっちは勤続年数長いから給料も良いしそれなりに選択肢はあっただろうけど、俺達は安いとこ探さないとだなぁ。ちなみに初任給はこれくらいらしいけど、ゼロはどれくらいもらってんの?」
具体的な数字が出てきたことでゼロの表情が急に青ざめる。
「え?なに?どうしたの?」
「……僕、バイト扱いだしイチのことでほとんど働けてないからこれくらいしかない」
提示された数字はどう考えても2人で暮らしていくには足らないものだった。
「ご、ごめんね。生活費はカグラとトカゲが出してくれるし、必要なものはよく兄さん達が買ってくれるからお金を稼がなきゃって思ったことがなくて……」
そう言われてゼロの生活を思い返すジルバ。
確かに住む家はあるし食費光熱費は払ってもらっているのでかからない。日用品なんかも家にあるものを使うか兄達がくれたものを使っている。趣味も特に無いのでお金を使うのはスマホ代とモガやジルバと出かけたりする時くらいだ。
『……この家の連中のせいだ』
甘やかしに甘やかすこの家の人間達のおかげで、ゼロは全く自立心が育っていなかった。
このままではいけないとジルバは危機感を募らせる。
「ゼロ……」
ガシッと肩を掴まれ何事かと驚くゼロに、ジルバは真剣な表情で言い聞かせた。
「俺も節約したり家賃安いとこ探したりはできるけど、ごめんだけど給料だけは変えられないんだ。だからゼロも何か打開策がないか考えてみてくれない?」
でないと一緒に暮らせない、とは言えなかった。それはゼロを追い詰めてしまう。
「わかった。そもそも僕が無頓着だったのがいけないんだもんね。頑張るよ」
事態の深刻さが理解できたのか、ゼロはムンッとやる気を出している。
「ありがとう。でも1つだけ気をつけて。絶対に、ぜ〜ったいに変な仕事にだけは手を出さないでよ」
鬼気迫る勢いで釘を刺してくるジルバにゼロは不思議そうな顔をした。
「やだなぁ。僕だってもう大人だよ。簡単に変な仕事には引っかからないよ」
首を傾げる姿は無防備そのもので。ジルバは不安に埋もれそうになりながらも、それでもゼロの自立のためにはとグッと気持ちを堪えたのだった。
そうしてジルバがウタハへと恨み言を言っている頃。ゼロはギアの家で項垂れていた。
「お金が欲しいよ〜。全然仕事が見つからないよ〜」
『ゼロ。泣かないでください。ゼロが泣くと私も悲しい』
うわ〜んと子供のように喚くゼロにイチとギアがオロオロしている。
「まだバイトは見つからないのかい?」
「色々と応募はしてるんですけど、診察室の仕事とイチのことを優先するとどうしても条件が合わないって言われて」
本当は診察室の仕事の時間を増やせば話は早いのだが、イチ優先で仕事量を調節するために人を増やしたり色々としてもらった身では今更そんなこと言えなかった。
かと言って遅い時間の仕事はカグラ達から許可が出ず、バイト探しは八方塞がりの状態だった。
「前から言ってるが家なら私が買ってあげるよ。ちょうど下の階に空きがあるみたいだし」
おそらく億に近い金額がかかるであろう家を簡単に買うと言ってしまうギア。ゼロは詐欺にあったりしないだろうかと心配になってきた。
「ダメです。ギアさんに迷惑はかけられません」
「迷惑なんて。金の心配はいらないと言ってるだろ」
「そういう問題じゃありません。それにジルバは僕に自立して欲しくて今回のことを言ったんだと思いますし」
「……そうか」
ゼロの役に立てるかと思ったのに叶わなくて、ギアはシュンとしている。なんとなくそれがイチに似てる気がしてゼロは少し笑ってしまった。
「でもギアさんはこれだけイチの研究にもお金を出してくれてるのに、本当に資金に困りませんね」
「ああ。まあ金を稼ぐのは得意だからな。この間作ったアプリが意外と売れたから、イチのメモリを増設しようかと思ってる」
この商才は天性のものだろうなと思うと、ゼロはギアが無性に羨ましくなってきた。
「僕も何か才能があればよかったのにな。バイトじゃなくて自分で稼げる才能が」
「才能か……そうだ」
ギアが何かを思いついた。
その案にとても自信があるらしく、珍しく素直な笑みを浮かべてゼロへと自分の考えを披露した。




