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しばらくしてジルバが風呂から戻ってきた。
2つ並べられた布団の上に正座するゼロを見ると優しく微笑まれる。その表情はいつもと違い微かな色気を帯びていて、ジルバは心臓の鼓動が早くなった。
「イ、イチは?納得した?」
テーブルに置かれたミニイチを見ながらゼロに向かい合って座るジルバだが、浴衣からのぞく肌が眩しすぎてゼロのほうを向けない。
「うん。ちゃんと納得しておやすみしたよ。だいぶゴネたけどね」
そう言うわりには楽しそうなゼロが、そっと立ち上がってジルバに近寄ってきた。
「ふふ。意外とジルバの方が緊張するタイプだったんだね」
膝同士が触れ合うほどの距離で座り直し、まっすぐジルバを見て微笑むゼロ。自分の方がリードすると思っていたのにジルバは翻弄されっぱなしだ。
「なんでゼロはそんなに余裕があるんだよ」
「余裕なんて無いよ。自分の気持ちが決まっただけ」
目を閉じ自分の心を包み込むように胸の前で両手を握るゼロ。そこに輝く宝石があるように見えて、ジルバが手を伸ばした。
「ゼロ……」
だが、その手は恋人に届く前に止まってしまう。
「ジルバ?どうしたの?」
触れてもらえると思ったのに動かなくなったジルバに、ゼロが不思議そうな顔をする。
「……俺でいいの?」
呟くジルバの瞳はゼロと同時に何かを見ている。その表情が泣きそうなものに変わった。
「ゼロは、本当に俺でいい?俺は……捨てたのに。もらえなかったのに」
家族を、だろうか。心の一番土台となるべき親の愛を、どれだけ求めてももらえなかった。そして最後は自分で家族との繋がりを断ち切った。
そんな自分がゼロに触れていいのか。相手の全てをもらう行為を前に、ジルバは怖くなったのだ。
「……ジルバがいい」
そっと、ゼロのほうからジルバに触れる。伸ばされて届かなかった手を優しく両手で包み込む。
「ジルバ、言ってくれたでしょ。好きでもない相手とするなって。僕、ちゃんとあの約束守ってるよ。ジルバ以外とはしたくない。ジルバだから、抱いて欲しい」
包んだ手をそっと自分の胸まで持っていき、ゼロは心臓の鼓動をジルバに伝える。その早さはジルバと同じだった。
「それにね。イチが教えてくれたんだ。僕が何を求めてるか」
「イチが?」
「うん」
ゆっくり頷くと、ゼロは先ほどのイチの質問をジルバに話して聞かせた。
「なんでセックスしたいか?」
『そうです。本来性行為は子孫を残すためのものです。でも男同士では子供はできません。それなら、なぜゼロはジルバと性行為がしたいのですか?』
AIであるイチからしたら最もな疑問だった。
だが、するのが当たり前だと思っていたゼロはまさかの質問に考えこんでしまう。
「確かにそうだね。でも異性同士でも子供を作る以外でもするし、単純に気持ちよくなりたいとか、好きって気持ちを伝えたいとか?」
う〜んと考えだすとゼロはだんだんと思考の沼にハマっていく。
「でも好きでなくてもする人もいるしなぁ。好きでもそういう行為自体がダメな人もいるし。性欲?いやいや、それならジルバでないといけない理由にはならないよね」
どんどん深みにハマっていくゼロだが、ふとした瞬間に答えが降りてきた。
『それが理由ですか?』
ゼロの考えは能力で繋がっているイチにもすぐに伝わる。
「うん。僕、ジルバにありがとうって伝えたい」
その答えに至って、ゼロは急に雰囲気が変わった。愛を与える人の顔になった。
「生まれてきてくれてありがとうって。僕と出会ってくれて、愛してくれてありがとうって。そんな気持ちを伝えたい」
『言葉では駄目なのですか?』
その質問にゼロは少しだけ悲しい顔をする。
「多分、言葉じゃジルバの一番奥にある孤独には届かないから。だから一番深いところで繋がって、僕の全部を使って伝えたい」
どうやらイチも理解したようで、ゼロの頭に響く声がとても優しいものに変わった。
『ゼロがナラ教授に「イチを生み出してくれてありがとう」と言っているのを聞いた時、私はとても嬉しかったです。ジルバは悲しんでいます。ずっと泣いています。ゼロ、涙を拭いてあげてください』
「……うん。任せて」
そうして2人だけの約束を交わして、ゼロはミニイチの電源を切った。
オレンジの瞳からは自然と涙が溢れている。
それをゼロはそっと拭った。
「ほんとに涙を拭いてあげるって意味じゃなかったんだけどね」
そう言って笑うゼロの体をジルバが強く抱きしめた。
「俺が……ゼロを好きになったのは、どんなに辛くても逃げない強さを持ってたからだ。俺は家族のこと諦めて適当にごまかして見ないふりして逃げてた。でもゼロは自分の能力がわからなくてどんなに怖くても、立ち向かってた」
しゃくり上げながら必死に伝えられる想いは、ジルバからの愛だ。それがゼロを満たしていく。
「そっか。じゃあ、僕がジルバを好きになったのは、僕の強さに気づいてくれたからだね。信じてくれたからだね」
足らないものを埋め合うように。強く抱きしめあう2人は1つになることを望んだ。
そしてまるでそうなることが決まっていたかのように、2つの体が重なった。
翌朝。感じたことのないダルさの中でゼロが目を覚ますと、目の前に温かなオレンジ色があった。
「……ずっと寝顔見てたの?」
よだれを垂らしたりしてなかっただろうかと慌てて確認するゼロの額に、ジルバが優しくキスをする。
「うん。可愛かったよ。起きても可愛いけど」
甘えるようにあちこち触れてくるジルバにゼロは恥ずかしさが止まらない。
「ジルバのエッチ」
「え〜。ゼロのほうがエッチだよ。あんなに激しく求められるなんて思わなかったなぁ」
昨夜の行為を連想させるように体のラインをなぞられて、ゼロは頭の中に一気に記憶が蘇った。
「だって!ジルバ焦らしてばっかだし!」
「初めてだから丁寧にしたかっただけなのに。早く早くって可愛かったなぁ」
「それは……気持ちいいとこばっかり触るから……」
「上手だったでしょ?頭の中のゼロで何度も練習したもん」
ニコッと屈託なく笑う顔はまだまだ幼いのに、漂う色気は完全に大人のものだった。
「……もう孤独じゃないよ」
ふざけるのをやめて優しくゼロの頬に触れるジルバ。その瞳は柔らかく満たされていた。
「俺の中の、暗くて寂しくて悲しいところがゼロでいっぱいになった。だから、もう孤独じゃない」
その言葉を合図にゼロはジルバに思いっきり抱きついてキスをする。
「そろそろイチを起こさなきゃ。もう一回温泉に入るって約束だもんね」
「え〜。でも……」
ミニイチを取ろうとするゼロの腕を掴んで、ジルバはイタズラな笑みを浮かべる。
「風呂でもするよ。そのために風呂付きにしたんだし」
スススッとゼロの腰に手を滑らせるジルバ。
「えっ⁉︎そ!できないよ!もう体もたない!」
「そんなことないでしょ。期待する顔になってる」
抵抗して見せたゼロだが、たしかに図星だった。少し触られただけで体は昨夜のことを思い出して反応している。
「まあとりあえず楽しんで、そのあとゆっくり温泉に浸かるときにイチを起こしたらいいじゃん」
「……僕の体がもてばね」
「それは……俺も努力するよ」
全く説得力のない言葉を吐くとゼロを抱えて露天風呂へと向かうジルバ。
結局体力が尽きるまでやってしまったゼロは、ジルバと共にイチからの苦情を聞くことになるのだった。




