表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/62

34

『いや、すっごい怖いんだけど』


スイレン達の住む家のリビングで、怯えて冷や汗をかくツツヒの向かいにホムラが座っている。その様子は犯人を前にした猛獣のような圧力に歳を重ねて迫力を増した美しさが合わさって、ツツヒは蛇に睨まれたカエルのようである。

流石に見かねたスイレンが横からホムラに声をかけた。


「ホムラさん。取り調べじゃないんですから。ツツヒ君が怖がってますよ」


困ったように笑うスイレンにホムラは気合いが入り過ぎていたことに気づいた。


「す、すまない。モガ君に恋人を紹介したいと言われて緊張してしまって」


幾分態度は軟化したが、それでもまだ睨むような目つきにツツヒは緊張がとけない。


「そんなに緊張しないでくださいよ。結婚の挨拶ってわけでもないんですから。ただの交際の報告です」


スイレンと同じような顔をしてモガもホムラを宥める。「ああ。うん。わかってる」と本当にわかってるのか怪しい雰囲気でホムラが返事をした。




交際を始めて3ヶ月、何回かデートを重ねて順調に関係を進めてきたモガとツツヒ。毎回嬉しそうに出かけていくモガにホムラもスイレンも喜んで送り出していたのだが、ある日ポツリと「相手に会ってみたい」とホムラが溢した。

ゼロの周りの人達のような過干渉とは無縁のホムラが呟いた台詞に、モガはすぐに恋人に意思確認をして今日の顔合わせをセッティングしたのだ。


『すっごい美人だとか、凄腕の捜査官だとか、色々聞いてはいたけどまさかここまで迫力のある人だとは思わなかった』


ツツヒもモガの保護者のような立場の人達に会えることは喜んでいたのだが、あまりのホムラの圧力に少しだけ後悔しはじめていた。

ちなみにスイレンのことは「会えば秒で馴染める人だから何も気にしなくていい」とだけ言われていたのだが、その通り過ぎてもはや意識の外に置かれている。


「そうだな。ツツヒ君は空手と柔道のどっちが得意だ?あ、ボクシングとかでもいいぞ。俺は蹴り技のほうが得意だから、どちらかと言うとキックボクシング寄りかもしれないが」

「……はい?」


何を聞かれてるんだと呆気に取られるツツヒの横で、モガが盛大に頭を抱えている。スイレンも同じリアクションだ。


「あの、格闘技は……あまり経験がないのですが……というか、全く」

「そ、そうか!すまない!普通はそうだな!だが大丈夫だ!キトラさんに頼めば道場を借りれるだろう。そこで訓練すれば」


なぜ自分が格闘技の稽古をつけられる話になっているのだろうと、運動に自信のないツツヒは慌ててホムラを止めようとする。


「いや!すみません!お…私は、運動はあまり得意ではなくて!」

「え!あ、そうか…いや、俺こそすまない。あれだけ有名な大学に通っているんだ。きっと勉学に忙しい日々を送ってきたんだろう」


なんとかわかってくれたかとツツヒが胸を撫で下ろそうとした時、ホムラはとんでもない方向へ話を進めだした。


「なら護身術を教えよう!力の弱い腕付きにも教えられるように、俺も勉強はしてきた」

「ホムラさん、いい加減鍛錬から離れてください」


耐えきれなくなったスイレンがやっとパートナーを止めにかかる。モガはもはや呆れを通り越して肩を震わせて笑いを堪えていた。


「だが……俺は趣味もないし、一緒に鍛錬するくらいしかツツヒ君と親しくなる方法が」

「いや、あるでしょ。普通に会話したらいいじゃないですか。好きなものとか。家族の話とか」

「でも、大切なモガ君の恋人なんだ。話を聞くだけじゃなく何でも知っておきたいじゃないか」

「あんた驚くくらいお兄さんソックリだな!」


叫ぶスイレンも初めてアカリに紹介された時は3時間拘束されてありとあらゆる情報を質問攻めにされた。ホムラがなんとか止めて苦情を言った時に返された言葉が「大切な弟の恋人のことは全て知りたいじゃないか」だった。


「ツツヒ君ごめんね。ホムラさん、いい人なんだけどちょっとズレてて」


まだ笑いながら謝ってくるモガにツツヒは『この家はモガさんにとってとても居心地のいい場所なんだろうな』と、目の前で言い合いをするホムラとスイレンに感謝の気持ちが湧いてきた。


「あ〜あ。ケンカが始まっちゃったね。しばらく止まらないからお菓子でも食べてようか」


そう言ってモガに勧められた机の上のクッキーを食べたツツヒは、その美味しさに思わず感動してしまった。


「おいしい……」


軽い食感と控えめな甘さが後を引いて、ツツヒは人の家にお邪魔してるということも忘れて次々とクッキーを手に取っていく。


「それ、気に入ってくれたか?」


5枚目に手を伸ばしたところでホムラに声をかけられ、ツツヒは自分が遠慮なくクッキーを貪っていたことに気づいた。


「す!すみません!あまりに美味しくてつい!」

「……俺が作ったんだ」


先ほどまでの迫力が嘘のように、照れながら告げられた言葉にツツヒが驚きの声をあげる。


「え!ホムラさんが作ったんですか!どっか有名な店のを買ってきてくれたのかと思ったのに!」

「……その……お隣さんがとても料理上手で……せっかくなら自分で作ったものを出したいと思って教えてもらったんだ」


恥ずかしそうに、でも少しだけ嬉しそうに。

自分より遥かに歳上の人の可愛らしい姿にツツヒは思わずキュンとしてしまう。


「あの!料理お上手なんですか⁉︎」

「え?ああ。体が資本の仕事だからな。できるだけ自炊するようにしてるんだ」

「俺も節約のために自炊してるんです!でもレパートリーが少なくて飽きてて。だから料理を教えてくれませんか⁉︎」


思わぬ申し出にホムラの表情が華やかな笑顔に変わる。それは容姿の美しさと相まって一気にツツヒの心を掴んだ。


「俺でいいなら。時々食事を食べにきてくれるか?その時に一緒に作ろう」

「はい!お願いします!」


2人で嬉しそうに微笑みあう光景に、ニヤニヤとモガはスイレンへと近づいた。


「あら〜。さすがホムラさん。ツツヒ君すっかり虜ですね。スイレンさん心配なんじゃないですか?」

「何言ってんの。モガ君が選んだ人を俺が疑うわけないでしょ」


揶揄うつもりが思わぬ返しをされて、モガは不服そうにそっぽを向いた。


「まあ、当たり前ですけどね。それにホムラさんがスイレンさん以外に心を奪われるなんて有り得ませんし」

「もちろん。ホムラさんは一途で可愛い人だもん」


フフッと余裕の笑みを返されて、「いい歳してだもんとかやめてください」と悔しそうに文句を言うモガだった。




それからツツヒは本当に料理を習いにモガの家に来るようになった。家族のように思っている人達と恋人がすっかり打ち解けた様子をモガは嬉しそうにゼロに報告している。


「そのうちツツヒ君の実家にも行こうって話してるんだけど結構遠いみたいで。時間がある時にかな。私の両親にも会いたいと言ってくれてるし、親には散々心配かけたから喜んでくれるといいんだけど」


モガは一人っ子で両親はそれはそれは愛情を注いで大切に育ててきた。大学を出て医師として働いてると偽りダイナの所にいたことをモガが逮捕されたことで知った時は「気づいてやれなくてすまなかった」と泣いて謝られた。

それからはモガも何でも両親に話せるようになり、今は能力者専門の医者として働く姿を素直に喜んでくれている。ちなみにモガがツツヒを自分の罪に巻き込めないと考えた背景には、自分の罪を一緒に抱えてくれている両親に罪悪感があったからだった。だがツツヒのおかげで今はその気持ちも感謝へと変わったようだ。


「良かったね。きっとご両親も喜んでくれるよ」

「そうかな……ねえ、ジルバは元気?」


ゼロはモガにだけはジルバと家族のことを話していた。同志と言った言葉通り、ジルバの苦しみを支えたい心を相談できる唯一の相手として。


「うん。最近ね、よくキトラさんと手合わせしてるんだ。手加減なしだからいつもボコボコにされて帰ってくるんだけど。でもジルバ凄く嬉しそうで」


家族との離別以来、ジルバはキトラによく甘えるようになった。反抗していたのも甘えではあったのだが、それとは違い素直に鍛錬を強請ったり捜査官としての話を聞きたがったりとコミュニケーションをとりたがることが増えたのだ。キトラも嬉しそうにできる限り時間を作って相手をしている。


「警察学校に入るまでには、父さんとお義母さんにジルバを紹介しに行けたらいいな」

「いいね。きっとお父さん達も喜んでくれるよ。でもよく考えたらジルバが警察学校に入るまでもう2ヶ月もないんだね。……ゼロは大丈夫?」


夜一緒に寝ていることを言っているのだろう。ジルバが警察学校に入れば寮生活になるのでそれはできなくなる。


「うん。今少しずつ1人で寝る日を作ってるんだ。うなされることも無くなったし、イチもいてくれるからね」


自分の話題が出て、ピピッとミニイチから音がする。


『最近は悪夢を見る事も無くなりました』

「そっか。イチはゼロの夢も一緒に経験してるんだよね。寝てるわけではないのに寝てる感覚があるって不思議だね」

『寒い時のお布団の気持ち良さは格別です。出たくなくなります』


およそ機械とは思えない感想にモガが笑いをこぼす。


「お話部屋のほうはどう?楽しい?」

『はい。とても楽しいです』


お話部屋とは、ゼロを介さずにイチが人とやりとりをする方法だった。

話を聞いたウタハが周りに相談した所、ライカが学生相手にイチとチャットできる場所を作ったらどうだろうと提案したのだ。

今は週2回。学校のパソコンからギアの用意したイチと繋がれるサイトにアクセスしてもらい、希望する生徒に何でもいいので会話を楽しんでもらっている。処理能力やイチへの影響を考えて繋げるのは1台だけ、1人10分ずつで会話できるのは5人ほどだが、まるで人間のようなやりとりをするイチに希望者は殺到しているらしい。


「イチもいろんな話ができるのが楽しいみたい。時々影響を受けて口調が悪くなったり、物凄くマニアックなことを覚えてきたりするけどね。それも勉強だね」


まるで学校に通いだした子供を見守るようなゼロに、随分と成長したなぁとモガは感心してしまう。


「面白いね。本当に子育てみたい。ゼロの能力って実は機械を進化させるための凄い力なのかも」


随分と大それた事を言うモガに「そんな凄いこと僕にはできないよ」と笑うゼロだが、イチの中では文字にならないレベルで何かの認識が変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ