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『まだ学校の時間なのに、こんなとこ来ていいのかなぁ』
ナラとの話し合いのあと、仕事に行くカグラと別れてゼロとジルバは大学の近くの定食屋に来ていた。
「すっげぇ!ゼロ見て!ほんとに山盛りで出てきた!」
目の前に運ばれてきたトンカツやら唐揚げやらが積み上げられている皿に急激にテンションの上がるジルバ。それを見ているとゼロも学校を休ませたという罪悪感が少し薄らいだ。
「ここ1回来てみたかったんだ〜。口コミ通り味もおいし〜」
2人が来てる店はデカ盛りで有名な店だった。大学の近くにあるということで食べ盛りの学生の利用が多く、お昼時を過ぎても店内には大勢の客がいた。
「普通のサイズのメニューもあって良かった。僕じゃこれでも多いくらいだから、ジルバ、僕の分もちょっと食べてね」
「ゼロはほんとに食べるの少ないなぁ。それで足りるの?」
「うん。頑張ってるんだけどたくさん食べれないんだよね。……甘いものならつい食べちゃうんだけど」
そう言いながらゼロは自分の頬をフニフニと摘んでいる。
今でも小柄で華奢なゼロだが、ダイナのところにいる時はもっとガリガリに痩せていた。カグラの家に住むようになって、家族達に甘いものも愛もたっぷり与えられたおかげで少し肉づきがよくなってきたのである。
美人や可愛いといったタイプではないゼロだが、小柄に猫目でぷっくりした頬という容姿は愛らしさがあった。
『これって初デートになるのかな。……嬉しいな』
バクバクと皿に乗ってる山を凄い勢いで減らしながらジルバは満面の笑みでゼロを見ている。すると快活な雰囲気の店員が小皿を1つテーブルに置いた。
「坊主、いい食べっぷりだな!これサービスしてやるよ」
「いいの⁉︎ありがと〜!」
「はっはっは。可愛い坊主だな。そっちの兄ちゃんにはこれな」
そう言うと店員はゼロの前にはリンゴジュースを置いた。
「あ、ありがとうございます」
「おう!でも坊主はあんま学校サボんなよ。兄ちゃんと同じとこ通いたかったらちゃんと勉強すんだぞ」
高校を休んでることを見透かされてジルバは思わずむせる。しばらくゴホゴホと咳き込んだあと店員に向かって疑問を口にした。
「なんでサボってるのわかったの⁉︎」
「何年ここで店やってると思ってんだ。大学生か高校生かなんて見ればわかる。まあ、たまにはサボるのも必要だからな。後悔しない程度に青春を満喫しろよ」
はっはっはと豪快に笑いながら店員は去っていく。その後ろ姿を嬉しそうにゼロは見送った。
「いい人だね」
「うん。おじさんの許可ももらったし青春をしっかり楽しまないと。警察学校入ったらなかなか遊べなくなるし、今のうちにいっぱいデートしようよ!さっそく次の土曜に……」
楽しそうに話すジルバの動きが止まる。いつもの快活さが無くなり戸惑うような様子にゼロが優しく声をかけた。
「土曜は家族と面会?」
「うん」
「……まだみんなと会うのは苦手?」
「……うん。みんな真面目だからさ。たぶん俺のこと理解できないんだよ。でも真面目だから俺のことに責任持とうとする」
ジルバの家族は両親と兄が1人いるのだが、全員が公務員などのいわゆるお堅い職業に就いている。そのせいか3人とも常識が何よりで、ジルバが異常なまでに強いこともそれゆえに犯罪に手を貸してしまったことも結局全く理解できなかった。
それでも家族のことは家族で責任を負わなければならないという価値観でジルバと接してくるのだ。だからジルバも聞き分けのいい子のふりをして反省を何度も述べる。捜査官になりたい話もしたが贖罪のためとしか捉えてもらえず、未来への明るい話などさせてもらえない。そんな家族との面会の時間はジルバにとって苦痛でしかなかった。
「いっそお前なんて家族じゃないとか言ってもらえたほうが楽だよな。俺も自由にできるし」
『たぶんキトラさんにあれだけ反抗するのは甘えてるんだろうな』
本当の自分を晒して甘えるということを親にできなかったのだ。一番最初に自分の力を認めてくれたキトラが親代わりになったことで、発散できなかった反抗期を迎えているのだろう。キトラもそれがわかっているので接し方に悩んでいるのだ。
大人びているように見えてやっぱりまだ子供である恋人の頭をゼロは優しく撫でる。それが嬉しかったのかジルバは少し気持ちを持ち直した。
「ゼロは?親とどう?」
「うちは父さん1人だからね。能力のことで迷惑かけたくなくて離れて逆に心配かけちゃったけど、僕が見つかったことで安心して再婚できたし今は時々会うくらいかな。お義母さんもいい人だよ」
「そっか。良かった」
「……今度ジルバのこと恋人って紹介しようかな」
頬を染めて俯きながら呟くゼロ。店の喧騒にかき消されそうなその言葉を、ジルバの耳はしっかり聞き取った。
「ほんと⁉︎いつ⁉︎いつ行く⁉︎」
「えっ!そんな急には……」
「こういうのは善は急げだよ。今度の日曜は⁉︎」
「……それより先に許可をもらわないといけない人達がいるかも……」
自分を溺愛する2人を思い出してゼロが困った笑いを浮かべる。
「ウタハとキリかぁ。組手で勝てば認めてくれるかな」
「いつも僕の恋人は自分達より強くないと認めないとは言ってるけど、どうかな」
「どうせ打倒キトラでよく手合わせしてるんだし、聞いてみよう。その前にエネルギー補給だね」
すっかりいつもの明るさを取り戻したジルバが再び大盛りの皿を食べ進める。それを嬉しそうに見ながらゼロも箸を手に取った。
店を出たあとはゲーセンに行ったり、カフェに寄ったり、しっかりとデートを満喫して夕方には帰宅した2人。親達が帰ってくるまでは一緒に過ごそうとゼロの家のリビングでくつろいでいる。
『付き合うって正式に決まったし、ちゃんと話はしておかないとだよな』
何かを決めたジルバがキッチンを見ると、お菓子を手に持ちながら夕飯の前だからと頑張って我慢しているゼロの姿が目に入った。なんだかそれが可愛らしくて、こっちへおいでと優しく手招きする。
「ジルバ?何?」
「あのさ。ちゃんとゼロの気持ちを聞いとこうと思って。俺はさ、ゼロのこと今すぐにでも抱きたいんだけど、ゼロは?」
ストレートな質問にゼロが赤面する。怖がらせてはいけないとジルバは慌てて言葉を付け足した。
「その、今すぐって言っても今からじゃないし、そもそも嫌なら嫌って言っていいから!ただゼロの気持ちが聞きたいだけだから!」
あたふたと手を体の前で振るジルバが面白くて、それを見ているとゼロのほうが落ち着いてきた。
「僕ね。夢を見たんだ。何度も」
「夢?」
「うん。ジルバに抱かれる夢」
忙しなく動いていた腕がピタリと止まる。今度はジルバが真っ赤になっていた。
「それって……」
「僕もジルバとしたいな」
キラキラと、輝くように笑っているゼロ。いつもの不安も自信の無さもなくて、本当に満たされた笑みがそこにあった。
「じゃあ」
「でもまだダメ」
手を伸ばそうとしてまたジルバの動きが止まる。どう考えてもいい雰囲気だったのになぜかキッパリと断られた。
「え?今日はダメってこと?」
「ううん。高校を卒業するまではダメ」
思ったよりも長い期間にジルバから不満が漏れる。唇を尖らせてゼロに言い募った。
「なんで⁉︎長すぎない⁉︎」
「時間の長さじゃないの。大人としての僕の責任なの」
普段からは考えられないくらいハッキリ言い切るゼロだが、ジルバもなかなか引き下がれない。
「なんで〜?お互いに好きでしたいと思ってるならいいじゃん。……こんな言い方は好きじゃないけど、男同士なら子供ができる心配もないし」
「そういう問題じゃなくて、僕はジルバを無理やり大人にしたくないの」
「?大人に?」
「そう。まだ高校生なんだから、高校生として感じるものを大切にしてほしいの。子供にしかできない経験をいっぱいして、心がきちんと成長して、そんなジルバと僕は結ばれたい」
3歳しか違わなくても、自分に自信がなくてフラフラしていても、ゼロはジルバより大人だった。そしてジルバをとても大切に想っていた。
「卒業式終わったら秒で帰ってくる」
「ダメだよ。ちゃんと友達との最後の時間を大切にしないと」
「じゃあ旅行行こう!卒業旅行!」
「僕は卒業じゃないけどね。……でも旅行はいいかも」
「決まり!俺、バイト探そうかなぁ。どうせなら豪華な旅行にしたい」
「普通でいいじゃない。そんな無理しなくても」
「でもゼロの初めてもらうんだから、できる限りのことはしたい!」
「……ジルバの初めてをもらうんだから、それで十分だよ」
幸せそうに、本当に幸せそうにゼロは微笑んでいる。それはジルバの愛が与えた笑みだった。
「……キスはいい?」
「うん。僕もキスしたい」
ゆっくりと、初めての時とはまるで違う優しいキスを交わす2人。
そしてこの数十分後、帰宅したキトラにキスを繰り返す姿を目撃されて再びジルバとの大喧嘩が始まるのだった。




