魔術師ギルド
ということで、今回も説明回っぽくなりました。
せっかくの祝日だというのに、ねぇ。
でも今回だけで全体の3分の1くらいは言えたと思う。あとは・・・・って、これ前もやったなぁ。
「それではライバー様。ギルド長がお会いできるそうです。ご案内します。」
椅子から立ち上がるとグリフは案内人の後に続く。
ガリランドの町にある魔術師ギルドにグリフはこの早朝、突然訪問をすると約束もないがぜひギルドマスターかそれに近い人物に話がある、とだけ伝えた。
この突然の訪問を最初は迷惑そうに受けていた魔術師だが、どうやら上に話がいったのだろうか。にわかに動きがあわただしくなると、そう待たされることなく返事が来た。
まぁ、突然の訪問を考えればこの対応で文句を言うのは筋違いというものだろう。
まだ朝の日差しが入り込むギルドの長い廊下を二人で歩いていく。
さて、どう話を切り出そうか。
グリフがここを訪れたのには当然ながら深夜の会合と祖父のケインが語ったアイデアにもちろん関係がある。そして普段ならまだ夜のように暗い部屋にいるはずの自分が、こんな早朝から外出したのは、祖父が暴走する前になんとか、できるかぎり自分が介入することで穏やかに計画を終わらせたいと思っていたからだった。
しかし、ここに来ておいてなんだが。彼にはいまでもどうやったら自分の望むような結果に持っていけるか、確実なものなどなにもなかった。
だがこのまま老人の妄想に、自分達が踊らされているというのは……。
そのことを思うと、周期的に湧き上がりかけるなんともいえない怒りを、今はただ必死に鎮めるしかないのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
とにかく、だ。今からはじまる会談でなんとかいい材料を引き出さなくては。祖父が、ああやってはっきりと野心を表明した以上。理解されなかったなどとただ拗ねて終わることはないと彼は確信していた。
そしてそれは皮肉にも間違ってはいなかった。
ちょうどこの少し前、彼の弟は最悪の報告に絶望したところである。
本当にタイミングが悪い。
「すいません、はやかったですか。」
案内人の女性の声にグリフは思案から戻ってきた。
「なんでしょう?」
「いえ、申し訳ありません。私、事務やってまして。よく急がなきゃって慌てるものですから。」
ようやくなにを言っているのかわかった。本人は特に気にしてなかったが、自分の息が荒くなっていて、ついて行くのが大変ではないかと相手にいつの間にか気を遣わせてしまったようだった。
この体格であることの苦痛の一つだ。
「大丈夫ですよ、お気になさらず」
そういうが無駄なことは分かっている。案の定、彼女の足は先ほどに比べると足の運びが明らかにおちていった。
やれやれ、本当に気をつかわなくてもいいのだが。
まったく、いつだって外から俺にとっての不愉快が入り込んでくるんだな。昨日も来ていたあの隣の迷惑おばさん姉妹やら、予定を早めて戻ってきた祖父。そして……。
「それで、お話がある。と聞いておりますが。なんでしょうか。」
席に落ち着くと相手は早速グリフにそう聞いてきた。
この人物こそ、この町の魔術師ギルドのトップ。マスター ハリー・ゴードンである。
その風貌は細い、と言っては失礼かもしれない。とにかく普通にイメージする魔術師のひ弱さがぴったりの印象をもたせている。肌は少し黄色がかっており、頭にはすっぽりとフードをかぶっている。
ただ、そんな格好をしているのに、なぜかフードのなかの髪は長髪でなんだか見ていて暑苦しそうだ。夏などにはこの人はどうしているのだろうか?
「突然、早朝の訪問なのにこうして会っていただき。まずは感謝します。」
「いえいえ、ライバーさんには色々とお付き合いがありますから。これくらいなら全然問題ありませんよ。」
一応口ではこういうものの、ギルドマスターの顔には「それでなんでしょうか?」としっかり書かれている。
思った通り、学者肌で神経質な性質なのだろう。
要件を先延ばしになるような世間話など興味はないのだ。
「今日は私もそうですが、弟の事などいくつかお願いがありまして。そうそう、弟は今はこの町の共同学校に行っているのですが。ご存知ですか?。」
なぜかいきなりはぐらかすように、弟のフィンの事を話しだす。
「ああ、聞いてますよ。もうすぐ、といってもまだ2年は先ですが卒業ですね。成績もよいとか。」
そりゃそうだ、学校で習うようなことは家に呼んでいる講師達から何年も前に学ばせている。
それに笑顔でそういわれると、その裏ではきっと「どうせお宅で雇っている講師がとっくに教えていて、うちの学校で学ぶことなどないでしょうがね」と皮肉がまじっているように思え………これは少し考え過ぎだろうか?
「ええ、そう思っていましたが。どうやらもっと早くに卒業させてもらうことになりそうです。」
もしここにフィンがいたら、兄が言い出した事に驚いて口がパカーンと開いていたことだろう。
「おお、ということは家業の方を?」
「ええ、多少方向は違いますが。弟にはライバー家の未来をしょって立つ男になってもらいたいと思ってます。」
「そうですか、そうですか。それはよかった、よかった」
自分の前で何度もうなずいてみせるその姿を見て、少し複雑な気持ちになる。
どうせ、このえらそうな引きこもりじゃ頼りにならんしこれで安心ですねとか失礼なこと考えて居るのだろうか?
どうも今日の自分は自虐的になりやすいようだ。
彼はただ普通に喜んでくれているだけかもしれないじゃないか。
「こんなこと、おおっぴらには言えませんが。うちの学校に来るのはいわゆる普通のご家庭の子供達です。ライバーさんのようなしっかりとした貴族の方が通われるのは、こう…言い方は悪いですが、場違い。そんな感じがありまして。」
おいおい、ぶっちゃけすぎるだろう。グリフの顔に苦笑が浮かぶ。
魔術師ギルドと教会によって運営されている共同学校に、普通の貴族が通うことはない。
他の子供らと一緒の共同学校に行っただけでは学ぶことが圧倒的に足りないのだ。
だから貴族は専用の学校へ行き、朝から日が暮れるまで多くを学ぶ。そして当然、そういう学校はガリランドのような小さな町にはなかった。
フィンの場合はそれを補うために、特別に専門の講師を何人も雇って習わせていた。
そしてこの町にいる貴族を名乗る者達には、フィンのようにできずに一般人に混ざって生きるしかない者が多くいた。
「いやいや」
「ええ、本当に。でも成績も問題ありませんし。家の事情とあれば仕方ありません。いつでも言っていただければ、手続き致しますよ。」
やれやれ、ここは少し自重してもらうとしようか。
「それで学校への援助ですが」
「あ、ああ。」
グリフは若干マスターの顔が曇るのを見てとった。
「これはきちんと、弟が卒業するはずだった年までやらせてもらうつもりです。」
「おお、それは。それは」
冷たいのが背中を下りていたのだろうか、喜びの言葉が少なかった。
「ご安心ください、」
にっこりとグリフは微笑む。
ちょっと脅かし過ぎただろうか?正直言って、本番はここからなのだが。
「さて、それについては以上なんですが。他にもありましてね。」
「なんでしょう?ライバー家にはいろいろお世話になってますから。いつものように魔術関係の備品などでしたら多少お安くいたしますが。」
「あ、いえ。今日はそういうことではなくてですね。どう話せばいいのか……」
顎に手を置き、しばし悩んで見せる。
とはいえ、これはふりだ。どう切り出すかは決まっていた。
「ハンターギルド。確か、魔術師ギルドの業務に彼らとの関係がありましたよね?」
「ええ」
「すいません、間違った知識でお話ししたくないので。まず、ギルドとハンターギルドの関係について。ご説明いただけませんか?」
グリフがそういうと、ハリーは
「ああ、構いませんよ。確かに一般には伝わらなくて、わからないこともあるかもしれませんね。」
そう言うと、にっこりとほほえんだ。
「それで、ハンターギルドと我ら魔術師ギルドの関係についてでしたね。それならまずは我ら魔術師ギルドの役割についてざっくりとした説明が必要でしょう。」
そういうと、調子が出てきたのだろうか。
うきうきと話し始めた。
「我々魔術師ギルドは教会と深いつながりがあり、その延長で様々なことをやっております。」
グリフは席を立つと、水いいですか?と水差しを指す。
ひとつ頷くとマスターは話を続ける。
「それは大きく分けて3つに分かれます。ひとつは学問と研究の分野。ひとつは政治と軍事の分野、最後が奇跡の解明という分野です。」
水を入れたコップをマスター自ら持って席に戻るとグリフの前にどうぞ、と言っておいた。
「このうち、学問と研究にはフィン君がいっている共同学校の運営がはいってますね。」
「あの、ひとついいですか?」
つい疑問がわいて質問を入れる。
「なんでしょう?」
「確か魔術師だけが通う、魔法だけを学ぶ学校もあると聞いたことがあります。」
「ああ、そうです。そういうものもあります。魔術師としての本分。魔道の研究にあたります。正確にすべてを説明すると色々あるのですが、質問の趣旨から外れますからこの辺でいいでしょう。」
水を持ってグリフは一口だけ飲むのをみると彼の話は続いた。
「政治と軍事も、まぁ関係ありませんね。これはそのままで。政治的だったり軍事的な衝突などで力を発揮するというものです。」
次がいよいよ本題だ。
「最後があまり知られていませんが、ハンターギルドとのかかわり。それに教会が奇跡とよぶものの解明について携わっています。」
そう、それが今回の本命だ。
「しかし、教会が認める奇跡の解明ということなら。教会が自ら行うというのが正しいのではありませんか?」
この答えをグリフはすでに予想はしていたが、ここは素直に聞いてみることにした。
「ああ、それはですね…」
案の定、答える側も歯切れが悪い。
ハリーは声を低くして早口になった。
「教会と魔術師は深いつながりがあると先ほどは言いましたが、それは正確ではないのです。正しくは教会の下に魔術師ギルドがある、ということでして。」
「まぁ、歴史的に見てもそのへんはなかなか複雑なものがありますよね」
「そう、複雑なのです」
そう語ると、目や表情から感情の色がどんどん失われていく。
やはり冷静にはいられない事情のようなものがあるのだろうか。
「この三国連邦をはじめとした大陸の東方では、これでも大分ましになってきました。しかし北や西方諸国では未だに生まれた子が魔術を使うとわかると、その舌を切り。人ではなく奴隷として、物として扱うなどとする国がまだまだあるのです。」
なんだか楽しくない世間話になりそうな気配だ。
とはいえ、グリフもこういうような話を聞いたことはあった。自分は違うが、やはり魔術に深く関わる人にはそういう国があるという事実は心穏やかにはいられないのだろう。
「そうですね、そういうよその国の事情は伝え聞いてます。」
「そういう動きを緩和するようはたらきかけてくれているのが………教会なのです。」
つとめて平静に語ろうとしているのだろう。
だがそこには隠しようのない苦々しさのようなものが浮かんでいた。
まぁ、それも当然か。グリフはその理由はうすうす知っていた。
彼らの名誉を回復した教会が、実は最初に猛然と魔法を弾圧していたのだから。
「しかしだからといって、教会が魔法の類いをすべて魔術師にゆだねるとは素直に思えないのですが。」
今度こそ意地の悪い笑顔を浮かべてグリフは語りだした。
「そもそもですよ。はるか昔から教会は神の教えとやらを説く一方で魔術師の管理を強く訴えていたはずです。魔法は神の奇跡ではない、ゆえに魔術師は善にも悪にも簡単に染まる。危険な存在だと言ってね。」
「おっしゃる通りです。」
「あれを神の奇跡とはちがう、魔術師だからこそ使う技なのだと。可能であるならば、この世界から魔法という存在自体を抹消したいと願う人は教会にだって少なくはないでしょうな。」
グリフはいい加減、この方向に話が転がる事に飽きていた。
自分は別に世間話の延長に歴史や政治談議をしにきたわけではないのだ。教会と魔術師の政治闘争などに今は興味がなかった。そのせいか、語調にだんだんと危険な香りが、激しいモノがこめられていく。
「そう、そうですね。そう考える人がいるのも無理はないのでしょう。」
それに気がつかなかったのか、マスターはグリフの言葉を無理に飲み込むように、納得しようとしているようだった。
さすがに少し、気の毒に思えたので多少のサービスをしてあげることにした。
「おかしな話ですよ。魔法ってのは結局は力ということにつきる。極論を言えば、誰かが使う武器を選んで、握って、ぶん回す、それといっしょです。つまり魔法を扱える人間にとってそれはやり方さえ分かれば誰でもできるもの。」
グラスをとると残りを一気に飲み干してから机に戻して続ける
「だが、教会がいう奇跡の力とは願望、妄想の類いです。神が引きつけをおこすくらいの気持ちでおきた天災に、わざわざ変な理由をつける作業をするのが彼等の役目だ。分相応ではない野心を持つのは、彼等の教義からいってもふさわしいことではありません。」
ギルドマスターの目が大きく見開いた。
それは驚きによるものだった。自分がうっかりもらした教会への不満を、相手がしっかりと理解をしめしてくれている事が感じられたからだ。
「どうやら話が脱線してしまいましたね。戻しましょうか。」
「ああ、そうですね。そうしましょう。」
こうしてギルドマスター ハリー・ゴードンは遂に真実にはたどりつけなかった。
確かにグリフは魔術師ではない。
しかし、魔術師達と変わらぬ思いを、不満を教会に持つ理由が彼にもあったということを。
「そう、ハンターと奇跡の解明まで話しましたか。」
いったん区切る
「奇跡の解明などといいますが。これは一言でいってしまうと、人ならざる者といった存在を退治すること。これに尽きるのです。そしてこうしたことには我々魔術師の力は大いに役に立ちますので。」
「なるほど、なるほど。」
「しかし、だからといって我々だけでなんとかなるものでもありません。そこで専門としてのハンター制度があるわけです。」
「ほうほう、それはつまり必ずしも魔術師とハンターは組んで対処するということではないということで?」
「はい、求められれば手伝いは致しますが。やはりそういう専門家というのは独自の技を持ってそれで対処したいと思うもののようで。我々魔術師は大抵が、仕事の斡旋、依頼人との折衝といったことがどうしても多くなるのです。」
「それは知らなかった。意外ですね。」
ハリーは苦笑いを浮かべながら
「そう、これを話すと大抵は皆驚きます。それじゃあんた達はなんでいるんだ、なんて事を言ってくる人もいるくらいです。」
「そうでしょうね。依頼人にしてみれば、ハンターにくっついてきただけの魔術師なんて邪魔くらいにしか思わないでしょう。」
「おっしゃる通りです。気持ちはわかるのですがね。」
そういうと悩ましげに頭に指を当ててうつむくと
「実に頭の痛い話なんですが、ああいう専門家という人は一般常識のかけているところがありまして。あるべヒモスハンターなど、戦いやすいからという理由だけで平和な町の中に獲物を引きずり込んでから暴れさせた、なんて人もいます。彼らに依頼人の要望と一般常識にのっとった理性ある判断をするよう見張らないといけないのですよ。」
「それは大変だ。」
「ええ、本当に。だから我々の中の魔術師でも彼らとの折衝役だけはごめんこうむる。そう言う人は多いのです。」
グリフは考えた。
そろそろ知りたかった情報は一通り得られた。本題に入るなら今しかないだろう。
「説明をわざわざマスター自らしていただきありがとうございます。いや、本当にいろいろ知らないことが多かった。」
「いえ、我々の活動はもっと広く知られるべきと私は考えています。私の説明で魔法に理解あるライバーさんのお役に立ててればよいのですが。」
「いやいや、大変わかりやすかった。助かりました。」
そして、間髪いれずに身を乗り出す。
「それで、ですがね。魔術師ギルドというものの役割を知った上でお尋ねしたい事があるのです。」
いよいよ本題に入る時が来たのだ。
「なんでしょう、私でお役に立てる事ならうれしいのですが。」
グリフに、にこやかな笑顔で返してくる。
「私の知る魔法の少ない知識の中で、魔術師の中にも専門とする技術で呼び方がわかれていますよね?」
「ああ、はい。その通りです。」
「幻覚をあやつる幻術師。傷をいやす施術師。といったように、そうですよね?」
「ええ」
「今回、私はある魔術師に会いたいと思ったのでその仲立ちをお願いしたい。それにはきっとこの魔法ギルドにお願いするのが一番だと思ったのです。」
「ああ、なるほど。それで、どんな魔法の専門家なのでしょうか?」
「死霊術師です。」
一瞬で空気が凍ったような気がした。
その一言を聞いてハリーの顔がみるみるうちに真っ青へと変化していく。
それを見ながら、グリフはもう一度言葉を繰り返した。
「私は死霊術師に会いたいのです。会わせていただけますか?」
ということで、次回に続きます。
多分次も・・・・・がんばります、次回もよろしく。




