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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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モンスター(怪物)

今回は設定、みたいな話しになりましたね。

書いた本人にしてみたら最低限言っとかなきゃってことの3分の1くらいは書けたと思いました。

 夜中のライバー邸は周りと同じく窓に灯りは付いてなく、寝静まっているようだった。

それまで庭と居間へとつながるテラスで横になっていた、2匹の番犬達が体を起こすと、かるく低いうなり声を上げはじめる。


ウゥゥ


 向けられた視線の先にあるのは小さな庭の一角。

木々が生い茂り深い闇がかかっている。

 突如、カサカサと木々や葉を揺らす音がして、そんな闇の中から黒い衣装の太った男が姿をあらわした。

 犬達はその姿を見ると、うなるのをやめて静かに侵入者に近づき、男の足元に自分の体をこすりつけるようにして出迎えた。

「ただいま、騒がせたね。」

 そう犬達に話しかけながら、足元の犬達の横腹を手でさするこの男は、グリフィン・ライバーであった。

 先ほど町の広場で年上の友人との面会を終え、ちょうど今帰ってきたところであった。

(お前は分かっているのさ…)

 広場で友人が言った言葉を思い返す。


わかっているのか?これはチャンスなのだろうか?


 しかし、やはりどう考えても竜殺しが、かつての英雄が。その名声を掲げる貴族であるところの自分達が。

 ハンターギルドを、それもゾンビを狩るなどというのは笑い話、ひどいジョークにしか思えなかった。

 視線をむけた先で、自然と居間へと行きつく。彼はそこで繰り広げられた昼間のことを今度は思い出していた。



 外ではそろそろ日が沈もうというころ。

 ライバー家の居間では兄弟が椅子に体を投げ出すようにして横になっていた。

 その眼は疲れ果て、虚空を見つめている。

口からは「あー」「うー」と力ない唸り声も漏れている。


それは、いってしまえば敗者の顔だった。


 ライバー家へと帰還した祖父によって衝撃的な告白を受け、兄弟そろって説得を試みたのだ。

「おかえりなさい」とにっこり笑顔から「それでなにをはじめるって?」となったのだが、お互い冷静でいられたのはここまでだったような気がする。


「フィンには言ったんだが、ハンターじゃ。ゾンビのハンターを一緒にやろう。」

「……はっはっはっ、じいちゃん。冗談きついなー。」

「冗談ではない。真剣な話だ。」

「いやいや、ハンターって。じいちゃんはドラゴンスレイヤーの称号を持つ元傭兵でしょ。ハンターとかいきなり無理だって。」

「それにさ、そもそも最近は体の調子が、とかいってたじゃん?それなのに危ないことはやめようよ、おじいちゃん。」

 とりあえす最初は理性的に、あきらめるよう言ってみることにした。

「なにを言う。わしだってドラゴンスレイヤーと呼ばれた男。まだまだくだばるような年ではないわっ」

「くたばるって、そんなこと言ってないよ。」

「そうそう、それをいうなら年寄りの冷や水っていったほうがいいくらい。」

「キサマっ!わしの考えをよりにもよって年寄りの冷や水だとっ!?」

 激高して顔が真っ赤になりかけている老人に若者二人は慌てる。

「ちょっと、落ち着いて。怒ったら体に悪いよ。」

「他にどう言えっていうんだよ。まったく、フィンから聞いた時はとうとうボケたかと思ったわ。」

「ボ、ボケたじゃと!?このブクブクに太った肉の塊がなにをいうかっ。」

「あー、ひきこもってるからね。昔はスラッとしていたんだけどね。」

 おもわず老人の言葉に同意してしまい、兄弟の連携は早くも乱れを見せ始めた。

「ああっ!?なんで俺の話になるんだよ。」

「あー、そうか。ごめん」

 軌道を修正。

 とにかく、名誉ある竜殺しの一族がゾンビ退治などと気でも狂ったのか、とあんにほのめかしながら説得を続けて見たのだが、老人の意志は鉄か鋼か、というくらいに固かった。

「これはずっと考えていたことだ。ワシの残り少ない先を思うと。お前達の将来が心配だ、とな。」

 おもむろに真面目な顔で老人は孫たちへと語りだす。

「いや、それがハンターになるとか意味がわからない。その年でモンスター退治とかおかしいだろ。」

「そうだよ。だいたいゾンビとか僕等は専門家じゃないし、ハンターなんて無理だよ。危ないことはやめようよ。」

 しかし、若い方も負けてはいない。というよりそんなことで誤魔化されたりはしないのだ。ついに老人の口から本音がポロポロとこぼれ落ち始めた。

「わしはなぁ!お前達と一緒にもうひと花咲かせようと言ってるんじゃ!この男気をなぜキサマラは理解せんのだっ。若いくせに、この老人よりも枯れておるのかっ、情けないっ!」」

「やっぱり年寄りの冷や水じゃねーか。」

「そういう暑苦しいノリ。好きじゃないんだよね」

「オマエラー!」


 もう話し合いなんてどこかにすっ飛んで行ってしまった。

 結局、日が沈むまでひたすらグダグダとお互いの主張は平行線をたどり、祖父は自室へとpこもってしまった。もうすぐ夕食の時間になるはずだが、おそらく今日はもう姿を見せることはないだろう。

「不毛だー」

 グリフの口から言葉が流れ落ちるように漏れ出た。

「えんえんと同じことの繰り返し。じいちゃん、頑固すぎる。」

 あんだけこっちも無理という単語を繰り返したのに、最後まで「では、やめよう」とだけは絶対に言わなかった。しつこく「一緒にやろう」と、ずっと言っていた。

「どーすんの、グリフ?あれは諦めるつもりはないよ。そのうち絶対暴走して、こっちを巻き込んで。それぐらいで丁度いい、とか言っちゃって突き進むつもりだよ。」

「そーだろーねー」

 腕で目を遮りながら、力の抜けた声で弟に同意する。

「巻き込まれていいの?」

「よくない。嫌だー。」

「だいたい、ゾンビってなんだよ」

「本当だよなー」

「あんな弱っちぃモンスター。ハンターなんていらないだろうに。」

 フィンの頭の中には、昼に遭遇したあの老人のゾンビを思い出していた。

 しばし、2人は無言になる。

(あれ?グリフが返してこないな。寝ちゃったか)

 フィンは顔を動かして、兄の方へと向ける。するとグリフは体を起してフィンをじっと見つめていた。

 その目はなにやら弟の言動のどこかに不審なものを嗅ぎつけたようだった。

「いま、気になる言い方をしたな?お前。」

「なにが?」

「ハンターがいらないほど弱い、とはどういう意味だ?」

「え、いやだからさ。あの小話であるくらいだからってこと。」

「いや、そういう感じじゃなかった。なにを隠している?」

「え?」

「じいちゃんと話している時からどうもおかしいと思ってた。お前、ゾンビを見たことがあるのか?」

 フィンは昼の一件の事をまだ家族のだれにも話していなかった。

 もっと言えば、言うつもりもなかった。自分から言い出さなくても、ガリランドのような田舎町ならば噂にとっくになっているはずだ。どうせ明日の夜を待たずしてあのことについて知らない人間などこの町ではいなくなるだろう。

(よりにもよって、野良ゾンビを倒したその日に、じいちゃんにゾンビハンターになろうとか誘われるとは。笑えないよ)


 嫌だったが、なにかあると兄に嗅ぎつけられてはそのまま黙っていることなどできなかった。

 どうせ隠し通せるものでもない。昼間の騒動をフィンは包み隠さず、できるだけ自慢顔にならないよう冷静に状況について語って聞かせた。

「街中で、とはな。驚いた、なにもなくてよかった。」

「いや、本当にそうだね」

 わかっていたことだが、やはり兄は自分をちょっとでもほめようとはしなかった。

 そのことにちょっとガッカリはしたが、同時に確かにあの時、自分から出ていって大失敗したらいい笑い物ではあったろうな、とも思った。

 そんなさも大ごとではなかったという風に相槌をうつフィンをグリフはギロリとにらむと

「アホが。ゾンビはモンスターだぞ。その前に武器も持たずに立つなんて。」

 調子よくしすぎてしまい、説教が必要だと思われてしまったようだった。

「いや、でも僕の正義感が許さなくてさっ。」

「なにが正義感だ、お調子者め。…かまれたりしていないだろうな?」

「それは大丈夫。もしそんな下手を打っていたら、さすがに隠したりしないで言うよ。」

「そうだな、そうしてくれ。俺も馬鹿野郎と罵りながら、お前の頭を鈍器で叩き割るなんてのはごめんだからな。」

 なんか目に殺気が、っていうか今、本気で言っているよね。

「怖いこといわないでよ。」

「ならアホなことはするなよ。だいたい、なんでそんな馬鹿やったんだ。」

「だから正義感から………。」

「真面目に聞いてる、なぜだ?」

 あー、それはだね。困ったな。

 すぐに答えられないフィンの顔を見たグリフは

「…そうか、お前……まだ午後の授業で対人戦闘しかやってなかったな。前から化け物系もそろそろできる、やっておきたいとか俺にぬかしていたっけ。」

 あっさりと心を読まれてしまった。そしてニヤニヤと嫌な笑みをはりつかせながら

「ははーん。あれか。ドラゴンスレイヤーの孫ってことでいつか自分も、とか考えてたのか?それで刺激のないこの田舎町でちょっといい顔をしたくて馬鹿をやりたくなった、と。」

 そういうと、グリフは意地の悪い笑顔を満面に広げて

「おめでとう、若き英雄フィンレイ・ライバー。君の無謀な試みは10年先も皆の心に生き続けるだろうよ。」

 うう、思いっきり馬鹿にされてしまった。


「しかし、町中でゾンビか。めずらしいな。」

「へぇ、そうなの?」

「……お前、死体が動いてたらそれがゾンビです。とか思ってない?」

 思ってた。どうやら違うらしい。

 自分でもよほど驚いたのか、それが素直に表情に出てしまったようだった。

「やれやれ、せっかくだからこの際だ。教えてやるから覚えておけ。バカ者め。」

 はい、先生。お願いします。

「いいか、町の中で普通。動く死体を見たらゾンビだ、とは思わないもんなんだよ。」

「え、そうなの?ゾンビだぁ、とか言ってたからそうなのかと。」

「そりゃ一般人ならそうだろうが、ライバーの人間がそれと同じレベルじゃ困るだろ。」

「わかったよ、いじめないで教えてよ。」

 にっと再び笑うとグリフはとうとうと語りだす。

「実は町の中で見たら、普通はゾンビではなくグールを疑う。この2つは違うものだからな。」

「ほうほう、どう違うの?」

「グールってのはヴァンパイアに近い。魂をなくすが、生前の記憶を持つ。つまり思考があり、知恵がある。もちろんゾンビと似ているところもあるぞ。体は腐ってく、とか激しい飢えをかんじるとかな。あぁ、でも口にするのは自分と同じ死肉でないとダメだ。」

「ゾンビは違うの?」

「違うな。ぜんぜん。似ているところがあるだけだ。」

 そこでいったん切ると

「ゾンビは肉体に別のモノが入り、それが生前の記憶とまざりあって動く。そして生きている人間の肉を食べる。どうだ、違うだろ?」

 なんとなく言いたい事はわかった。

だが、まだ理解しきれていない気がする。

「町の中にいないっていうのは?」

「簡単さ。お前がしたあの小話を思い出せよ。」

「おじいさんが畑でゾンビを倒したってやつ?」

「そうだ。あれは町の中ではなく、畑のある町の外の事だっただろ?」

 そういえばそうだった。

でも、あれって意味があったのか。ぜんぜん気にしていなかった。

「おお、なるほど。でもそれって関係あるの?」

「あるよ。だから、町の外でもないとゾンビは目立つんだよ。」

 目立つ?どっちも死体なのに?

 ちょっと、というか言われてもすぐには納得できなかった。

「そうなの?」

「そうだよ。グールってのは考えるからすぐに理解する。正体がばれないように、そして同時に”餌場”の近くにいられるようにってね。目立たないように行動もするし、生きている人間にあわせることができる。」

「でも死体だよね?生きている人間のそばにいてばれないものかな?」

「まぁ、そうなんだけれども。ここで重要なのは、だ。ゾンビは自分が生きている人間にどう思われるとか、どんな不利になるのか考えられないということだ。」

 ようやくわかってきた。

「ああ、うん。そういうことか。」

「お前、あの時自分でえらそうに話しておいてそんなことも気がつかなかったのか。」

 本気で呆れているその顔から目をそらして

「ため息はいらないから。いやー、うっかりしてたなぁー」

 笑ってごまかしたが、ジト目でみられてしまった。あれ?そうするとどうなんだろ。

疑問がわいてきてすぐに口に出す。

「あ、そうすると。僕の相手がグールだったらどうなったんだろ?」

「ん、そりゃ簡単さ。」

 そういうとグリフはやれやれ、そんなこともわからないのかいと首を振りながら答える。

「相手はお前の不用心さで、ゾンビだと思っているとすぐに見抜くだろう。普通に見たり考えたりするからな。そこでわざとそれっぽい演技をする。お前はそれにだまされて、調子に乗ったところを反撃。あとは動かなくなったお前を家の中に引きずり込んでから止めを刺すだろうな。」

「うわぁ」

 思わず、声が出る。自分のあったかもしれない悲惨な最期をリアルにシミュレートされてしまい、ちょっと胃がキュッとしてしまった。

(もう絶対にあんな真似はしないぞ)

 心の中で固く誓う。


「それじゃ、グールの方が強くてゾンビは最弱ってわけなのか。」

「いやいや、だから違うんだって。わかってないな。」

 結論が出たと思ったら、どうやらまた違うらしい。

あっさり訂正されてしまった。

「なんで違うんだよ。だって、グールみたいに話したりできないんだろ?」

「そういうことじゃないんだよ。」

 何度目かわからないため息をつくと、グリフは弟の目を見ていう。

「いいか、あいつらは似ているようで本質が違うんだ。どっちが強いとかじゃないんだよ…そして、だから化け物なのさ。」


「化け物ってのはそれだけで恐ろしい存在なんだ。強い化け物はあれとそれで、弱い化け物こいつら、なんてものはないし。意味もない。せいぜいお前みたいにものを知らない奴が、噂だけを聞いて知ったふりするからそんな考え方をしてしまうのさ。」


 そう言うと、席を立って「レイラさーん。腹減ったよー」とメイド達がいる台所へと声をかけた。そっちの方角から女性の声で「お待たせしました。そろそろ出来ますよ」と返事が来る。

 フィンはグリフの言った化け物というものについてじっくりと噛みしめていた。

 あれっ?でも待てよ。

 なんでグリフはいつの間にこんなモンスターについての知識を持っていたんだろう?よく考えたらそっちの方がむしろ気になってきた。

 でもきっと普通に聞いても、自分には答えてはくれないんだろうなぁ。



 あの時と違い、あたりは闇に沈んでいる。

 後学のためになるだろうと、少し偉そうに語ってしまったっけ。

気分よく弟に語って聞かせている自分のその時の姿を思うと、苦笑いしか出てこない。なんて偉そうなブタ野郎なんだろうな、と。

 再び、犬達に触れておやすみ、とだけ伝えるとグリフは素早く体を家の中へと滑りこませた。その後ろ姿は屋敷の闇の中へと吸いこまれ、すぐに見えなくなってしまった。

次回更新は明日になります。

感想、アドバイス、その他。募集中であります。

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