ライバー家の兄弟
えー、とうとう記録を更新してしまい、量が六千に届きました(苦笑)
よろしくお願いします。
(さて、どうしようか?)
フィンレイ・ライバーは立ち止まって考える。
左には地下室への入り口がある。メイド達を呼び戻すならこっちだ。
右には2階へ上る階段が。こっちをいくなら兄を呼ぶことになる。
祖父の衝撃の帰還はさきほどの宣言により、早くも災厄レベルの危険な問題へと変わろうとしていた。
ここでメイドを呼ぶならば問答無用でお医者だ。それも頭専門の医者がいる、そんなのがこの田舎町にいるのかわからんけど。
兄を呼ぶなら………まぁ、なんかいい考えがないかと、2人仲良く並んでウンウン頭を悩ますことになるだろう。
(決めた!)
元気よく、階段を選ぶと2階へとフィンは登り始める。
医者を呼んだらそれこそ逃げ道がなくなる。
もう顔も思いだせない父親が、でかい態度でかえってきてお爺ちゃんをボケよばわりし、兄と祖父がそれに対してふざけるなと怒鳴り返す。その一方で、フィンの方を向いてお前は何を考えているんだと責めるだろう。そしてメイド達は………。
まぁ、とにかく酷いことになるのは間違いない。
それならば、兄を呼んであの人にこれからの方針を”とりあえず”決めてもらうのがいいだろう。第一、そっちのほうが自分も楽だ。
フィンの兄、グリフことグリフィン・ライバーは年が7つほど上でその人物は……かなり特殊であることで知られている。
あれだ。弟からみるとそんなことはない、と思うのだけれど外から見るとそうでもないというやつだ。
彼は日中、カーテンをしめ、暗く閉め切った部屋にはいったままなのである。そして、たまに部屋から出ても必要最小限の指示を出し、必要なことをたんたんと終わらせるとまた戻る。
そう、彼はひきこもっていた。
おっと、こう表現すると普通にダメ人間でしかないな。
しかしこういうことはこの時代でも本当に迷惑なのだ。はっきりいって存在自体がトラブルの元なのである。
当然だ。普通、兄とおなじくらいの人たちはすでに社会に出て、両親や親族について商売や家業について学んでいる。
それが日中から閉じこもり、人の前に出なくなり、親ともほとんど挨拶を交わすこともないとなるともう最悪だ。普通の人がこういう若者が自分の近所に住んでいると知ると、いろいろとわけのわからない理由を想像してしまうものらしい。
いわく、日頃あやしい神へと祈りをささげ。なにを生贄にささげようかと思い悩み。窓からのぞく外の世界を獲物を野獣のように光らせて見る。そして満月の晩にあわせて町に出ると、少女や子供をさらって生贄の儀式をおこなうのだ、と考えるのだ。
冗談だと思うだろう?
でもそうじゃないんだな、だってそう言う人達がさっきまで我が家を訪れていたのだから。
あのお隣のバーサ姉妹はこの町きっての我が兄の、つまりグリフのファンなのは間違いない。なにせ教会に駆け込むと、グリフを名指しで邪教の信徒だと何年か前に兄を訴え。それからもずっと、彼女等の熱い視線、というか監視の目を光らせている。
ちなみにその時も大騒ぎにはなったが、彼女達がグリフがもっていると思っていたものは結局どこにもなかったので、この話はなかったことになった。
まぁ、普通ならここで「あのババァ」と恨みの一つでも、もらすところだが。そこはドラゴンと戦った男とその孫達である。嫁き遅れの熟女姉妹の視線など屁でもないということらしい、放っておいて好きにさせていた。
愛する兄の部屋の扉に近づくとフィンは足を止める。
嫌でも出てくるため息が一つ、これだよ。
なにがと問われると、これ、これなのですよとしか言えないのがつらい。が、毎回ここにくるとそう感じてしまうのだから仕様がない。
僕の部屋の隣、そびえるように立つ扉の模様は普通のものであるはずなのに、なぜか妙に迫力があるように感じる。そして不思議なことに、まだ十分に日の光がさしている時間帯なのに、この部屋の前だけいつも影が差すのである。
そして、かつて邪教の信者と訴えられた部屋の住人のイメージとあいまって余計におかしな雰囲気をこの廊下がかもしだしているのだ。
なんとか余計なことを考えないように、軽い気持ちでフィンはその扉を調子よくノックする。
「おい、ひきこもり。むかえにきたぞ。おじい様が帰還されたのに挨拶にも来ないとは失礼な孫め。」
反応なし、中に動きのようなものもなし。
まぁ本番はこれからだよね。
「お隣の夫人達がまた文句言いに来たよ。ライバー家の孫が2階で今日もおぞましい神々への儀式がとりおこなうために処女を連れ込んでいるってさ。」
当たり前だが、これは会話にインパクトをもたせたくて言っていることである。間違っても本人の目の前でフィンはこんなことを言ったりはしない。
もし、そんなことをしたら次の瞬間、自分がどんなことになるか考えるだけで恐ろしい。
しかし普通に「お兄ちゃん出てきて。助けてよ」と言っても素直に出てくるほど中にいるのは優しい人ではないのだ。
「いい加減にしろっ。聞いてる?」
反応がないのは困った。もしや本当に中にいないのだろうか?
なにげなく視線を扉からはなし、くるりと二階の廊下を見まわす。うす暗いこの部屋の前と違いそこには光が差し込む昼間の家の中、そういう普通の光景であった。
なにもかわりはしない、いつもの姿だ。
そしてフィンが視線を戻すと、さっきまで固く閉ざされていたはずのドアが開いていた。そりゃもう信じられないが、本当に全開だった、まるではじめからそうだったとでもいうように。
わずかに目をはなした一瞬の出来事だった。
フィンの息が、目が、動きが恐怖と凍りつくように張り詰めた緊張から嫌でも止まる。
それは気配も、音もなかった。それなのにこの扉はいつのまにか。そう、最初からそうであったかのように開いている。
そして部屋の中はというと、まだ真昼だというのに真っ暗な穴があいているかのように一寸先すら見えない。
本当に嫌な部屋だ。
なぜか知らないが太陽はこのドアの中にだけは光の侵入を許さないような気がする。
ざわめく不安でフィンの心臓は恐怖の鼓動をうっている。
参ったな、これ。本当に怖くなってきたのかも。まだ人がいる気配もしないし。
このままだと部屋の中に頭とか突っ込んだり、入らなきゃならなくなるのかな。
「帰ってたのか、うるさいのがいるようだから下のことは気がつかないふりをしていたんだ」
突然、それも思ったよりも近いところから声がした。
それがいきなりだったので、フィンの体が驚いてびくっと全身が波打つ。
暗い闇の中から、縦と横に大きな体が浮き上がってくる。ボタンをしめ、服を整えながら部屋から出るだけでこの迫力である。いったいどこの大魔王様だよ。
その姿は身長は170をこえ、体格は印象として縦ではなく横に太い。はっきりいうと、その横幅からデブといっても差支えないが、実際はそれほど贅肉でたるんでいるわけではない。
たぶん、この人の首が太くて短いせいで、余計にそう見えるのかもしれない。
「こわいっ。本当に怖いわー」
フィンは自分の感じる恐怖心をはらうように非難が八割、びびってるのが二割の抗議をあらわす。
なんという笑えない恐ろしさ。そりゃ、この男を見て隣人の女性が騒ぎをおこすわけである。
そんな少しビビっている弟を見てグリフは ふん、とひとつ鼻を鳴らし。その細長いすこしたれている目で鋭くこちらのひきつった顔を射ぬいてくる。
そこには兄の「なにをびびっているんだよ」という呆れのようなものが見てとれた。
ああ、そうですよ。びびってましたよ、だって本気でおっかないんだもの。
むしろあんたは自分の浮世離れしたその雰囲気を何とかしろよといいたい。
言っても、無駄だろうけどさ。
「それで、うるさいのはもういないのか?」
「うん、追い払っておいたよ。」
「おお、よくやった。あんまりしつこいなら、お前を蝋人形にしてやろうか、とかまた挑発してやろうと思っていたんだ。」
「やめてよね、笑い話にならないから。グリフの場合は特にさ。」
以前、家に配達に来た女性に応対しただけで悲鳴を上げさせた男である。
それが本気であのうるさいオバサンに「お前も〜」とかやったら、やっぱりあれは悪魔だったなどとまた騒がれかねない。
「ふむ、そういえばじいちゃんがどうこう言っていたな。なにかあったのか?」
さすが頼れるお兄さま。こっちが困っていることに何となく理解してくれたらしい。
しかし、どう説明しようか?「じいちゃんがハンターギルドつくるっていってる。しかもゾンビ専門の」といえば話は簡単だが、この人もたいがいまともとは言い難いところがある。「それはいい、賛成だ」とか言い出されたら面倒だ。
ここは慎重に話を進めなくてはいけないだろう。
「それについては、どういったらよいのか。説明がなかなかに難しい。」
とりあえず、顎に手を当ててみたりしてフィンは悩むふりをしてみる。
シャツのボタンをしめながら、兄の顔にはハテナマークがぽつぽつとあらわれだした。いいだろう、ついでにここでこの人の常識を図っておくことも重要だ。
「兄ちゃんは”昼間のゾンビとじいさん”という小話を知っているかな?」
「ああ、あのゾンビに出くわした農家のじいさんの話だろ?」
「そうそう」
ここでいったん切る。そして
「なんだかんだはじまって、ある昼下がり。じいさんは畑仕事をしていたのですよ。」
一応最初から話すとながくなるので、はしょっりつつ調子をあげて始めた。
「青い空には雲ひとつない。ああ、今日も暑いと爺様は額に汗していたわけです。するとしばらくして気がつく。あれ、誰かがこっちへひょこひょこ歩いてくるな、と。」
「ゾンビだろ」
「そう、それがゾンビだった!」
パチンと手を叩いて盛り上げる。
するとなぜか不満そうにグリフは言う。
「どうせならそこは変えてほしかった。普通じゃないか。」
「変えちゃうのかよ、いいけど。どうすればいいと?」
ついついフィンも調子を合わせて聞き返してしまった。
「そりゃ、あれさ。太陽の下、美人のおねーさんがゾンビに追いかけれられて走って逃げていた。そんな感じにさ」
「………へぇ」
「絶対こっちの方が面白くなるって。爺さんの前によろよろとゾンビが出てきました、よりもいい。」
変なことを言い出して、そっちにくいつこうとしだしたグリフを見て不安を覚える。イカンなぁ、どうも思ったより向こうのノリもいいな。ならばこっちは冷静にならないと。
「戻そうか…ゾンビを見てじいさんはいった。あれれ、こりゃたまげた。こんなところに迷って出てくるなんてー。」
「……おねーさんが半裸で走ってくる方がいいだろ、絶対」
「こりゃこのまま放っておくのはかわいそうってもんだ。そう言うと、手に持ったクワをもってゾンビへと逆に近づいていく。」
「でさ、おっかけるゾンビの頭にはなぜかおねーさんの下着が張り付いていたりしてさ。想像を掻き立てるわけよ。お前らさっきまで何をやっていた、みたいなね。」
「こんなもうすぐお仲間になりそうな、俺みたいな年寄りの前に出てくるとは。とにかく安らかに眠ってくれ、そういうとクワでもって攻撃!」
そういうと、フィンは腕を振り上げ声を大きくする
「ドカン!強力な一撃はゾンビを殴り倒した」
そうして下着を履かずに逃げる半裸のおねーさんという兄の幻想を吹き飛ばす。
「ぽろっと首が落ち。ゾンビは動かなくなりましたとさ。そして再び土の下へと埋められたのです。めでたしめでたし」
「そういう話だったな。それがどうした」
「この話の教訓は?」
教訓だと?首をひねりだすグリフをじっとフィンは見る。
多分、大丈夫だと思うんだが。
「そうだな。いくつかあるが、やはり有名なのはあれだ。ゾンビはちょろいってことだな。なんせ、年寄りの一撃で倒すことができるくらいに弱い。」
さすがである。一発で狙った所へとこの人は着陸してくれた。
「そうだね。この話はゾンビが弱いと言っている。子供でも勝てるとすらいわれる。」
「で、それがどうした?」
グリフは「こいつ、なにが言いたいんだ?」と顔をしかめている。兄は不満顔だが、ようやくここにきてフィンは準備ができたと思い、急に声を低くして兄へと爆弾を投下した。
「おじいちゃんが帰ってきて居間にいる。なんでも決めたことがあるらしいのだよ。」
ここで素早く息次をして続ける。
「僕らと一緒にハンターギルドを立ち上げるつもりだって。それもゾンビ専門のやつを。」
さすがにこれは兄の予想をはるかに超えていたようだ。
2人の間に沈黙が流れた。
「すまん。なにを………なにが専門だって?」
どうやらあまりの事に肝心な部分を聞かなかったことにしてしまいたいらしい。
顔を早くもゆがめている兄に現実を再び伝える。
「ゾンビだ。子供でも、じいさんでも倒せるという、弱いと有名なゾンビ専門のハンターになるんだってさ」
理解すると同時にグリフは頭を抱えた。
「なぜ………止めなかった……」
「止められなかった。だから呼びに来た。」
「……それは………ぶん投げているだけだ。ああ、そういうことか。」
そして顔を上げると、僕の事を役立たずだの馬鹿だのアホだのブツブツ言いだした。
ひどいなぁ。でも、僕の心はちょっぴり安心をおぼえたけど。
服の乱れをただすと、もうこちらに構わずグリフは自分の部屋の前からさっさと廊下へと歩きだす。
こちらも置いてかれまいとその後ろをつく。
いきなりこちらの扱いがペンペン草になった。ついついフィンは心の中でこっそりと悪態をつく。
おいおい。それならこっちも考えがあるぞ。
近いうちに絶対あの部屋の中をひっくり返して邪神像の二、三個みつけだしてやるからな。
そのあとは当然、近衛兵に通報してくれる。躊躇することなく、ね。
裁判のときには証人席に座って、あの優しかった兄がどうしてこうなったと大粒の涙を流すんだ。
もちろんこんなやばいことを自分の口に出しはしなかったし、後ろにいるから本人を直接睨みつけたりもしなかった、はずだった。
なのに、突然こちらにグリフは弟へと振り向くと
「ひとつお前に言っておく。」
そこでひとつ大きく息を吸い込むと
「お前が探しても、そんなものは出てこない。愛する弟よ、オバサン連中とおなじ轍をお前も踏むなよ。」
とだけ語ると。またすたすたと歩き出した。
僕はそのすぐ後ろにつくことはできなかった。
今度こそ僕の魂は凍った、そんな感じがして足がすぐには動こうとはしなかったのだ。
今回で主人公であるライバー家の人間がそろいました。今後は彼らは何を困っているのか、また対ゾンビ組織を本当にやるのかを焦点にすすめていくことになりそうです。




