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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
3/36

3話です。

 それは数日前のこと。


  冷気とは違う涼やかな空気が満ちる山々がのぞく窓から、暖かい光が差し込む昼下がり。

山荘の中を忙しく歩きまわっている女性がいた。

 その女性はたまたま通った部屋の中の主の様子をのぞきみる。


あら、寝てる。


 最近、いっそう気難しくなっている老人は長椅子に揺られ、陽だまりの中で静かに眠っているようだった。どうやらこのまましばらくは静かにしてくれそうだ。ならば今のうちにやれることがたくさんある。

 確認を終えると静かに扉を閉めて彼女はその場を去った。再び部屋の中では静かな寝息だけが聞こえていた。

 眠っているのは白髪の老人だった。

 そしてその手に握られていたのは一冊の本、タイトルは「キオリー山の竜の物語」とある。どうやら読んでいる途中で眠ってしまったらしい。

 どんな場面を読んでいたのだろうか、ページはだいぶ後ろの方を開いていた。


       ◆       ◆        ◆


 ああ、ああ。

 なんということだろう。

 いま一人の戦士が大地へと力なく崩れ落ちる。あれほど力強かった腕にふたたび力が込められることはない。その姿に絶望し、それまで勇敢に剣を振っていた仲間たちは立ち止まると声もあげられない。

 見回してみれば、赤く割れた大地の底で溶岩はたぎって熱を吹き上げ、そこから黒煙は天へと昇っていく。そしてその先には、あかるく大地を照らす太陽も海を思わせる青い空もない。おおわれた雲は黒煙と同じように黒く濁り、それがいっそ天上に真っ黒な大地を作っているようだった。

 このような地獄に、やはり希望はないのだろうか。

 

「まだだ。友よ、顔を上げろ!」


 突然、彼らの悲しみを切りさく力強い声があがる。その声にはじかれるように静かに下にうつむきかけていた仲間たちは声の主を見る。空の一点をにらみつけて立つ男がそこにいた。

 彼の名はライバー。

 その手には2本の剣が握られており、片方はいましがた倒れたばかりのあの友の剣であった。


「我らが裂けた大地を乗り越え、燃えたぎり大地を踏みこえたのはなぜかっ。忘れたか!」


 その力強い声は訴えた。その言葉にそれぞれの胸にはこれまでの旅の苦難、その数々がよみがえってくるだろう。そう、それはすべて今日のこの時のためだったはず。

しかし、どうしようというのか?

 我らは力の限り戦った、そして彼が、ドラゴンスレイヤーとなると思っていたあの男は大地に倒れたままもう動くことはない。終わりだ、我々は負けたのだ。

 希望はもうないはずなのに。

 そんな絶望する友人達の心を気にかけるでもなく、ライバーの視線はついに彼らに向けられることはなかった。なぜなら彼の前に立つ敵は再び、そうだ、彼の前へと戻ってきたからだ。


 羽ばたく音はどこか不快で、呼吸のたびに吐き出される息にはチロチロと炎がからみついている。見上げるその姿の雄大さはさすがというべきか。

 キオリー山の主、黒炎の竜はゆっくりと大地に再び降り立つ。仲間の死にうつむく人間たちを見て勝利を確信したのだろうか、はげしい息遣いにはどこか笑い声を含んでいる。


「愚か者たちよ。挑戦する者たちよ、死を持ってきたぞ。さぁ、次はお前達だ!」


 竜の口から発せられる人の言葉はあきらかな嘲笑がはいっていた。


「邪悪なるものよ。俺に与えてみろ!」


 ライバーは叫ぶと同時に体を竜へと投げ出した。


 波打つ巨体にしがみつきながらライバーは吠える。


「お前をののしる声はわが友だけではない。ここにもいるぞ!さぁ、ここからたっぷり聞かせてやろう!」


竜の巨体にしがみつくと、すぐにその体をとらえようとせまってきた竜の手を潜り抜け、器用に脇をぬけ背中へと移動する。逆手に持った剣を崖につきたてるピッケルのように使い、固い竜の鱗へとつぎつぎと打ち込んでいく。


「お前が持ってきた死はお前自身にくれてやる、わが友の剣が宣言通り。お前の首をこんどこそはねてくれよう!」


 竜の巨体はもだえ、うねり、のたうつ。

 とびついた人間を振り落とせぬ苛立ちからだろうか、その口から怒りがもれてくる。

 そのたびに大地は揺れ、地の底から暴れる溶岩がはげしく岩棚をたたく。


「私にはわかるぞ。お前に、もはや力はない。わが友はお前の牙をすでに抜いていたのだ」


 まるでそれを抗議するかのようにひとたび大きく竜の体は自分で大地にたたきつける。


「おお、感じるぞ。お前の苦痛を、お前から流れだす血が心地よいぞ。」


 叩きつけようと大地へ、振り払おうと宙へ。そんな怒りの竜のこころみをことごとくすりぬけ、いつの間にか背中から首へと飛び移るとそのまま竜の頭へと軽々と駆け上がっていく。

 なんというその絶技。体にとりついた間に竜の流す血を浴び続けたライバーは、いつのまにか真っ赤に染まり、まるで人とは思えぬ姿であった。

 最後に頭にとりつくときは、よりにもよってのたうつ竜のあごにぶら下がる。キオリーの竜はこれはしめたと思ったか十分な力と速度で自らの顎を大地にたたきつけた。しかしその時にはライバーの体はそこにはなく。竜はただ大地に自分の頭を激しく叩きつけただけであった。


「さぁ、最後だ。覚悟はいいか。」


 静かに宣言するライバーは竜の頭のにある角に腰かけていた。自らの剣は投げ捨て友の剣は逆手に両手でしっかりと握り持つと振り上げる。

 それを目の端でとらえた竜はが吠えた。


「貴様に会いに戻るぞライバー!死せるものの世界から亡者の軍団を引き連れて。忘れるな、わが名はキオリーの……」


       ◆       ◆       ◆


 そこで老いたドラゴンスレイヤー、ケイン・ライバーは目を覚ました。

 それは懐かしい過去、かつての名声の証と若かりし頃の物語。

まさかあの時の記憶をこの年になって夢に見るとは。

 だがまて、おかしいぞ。死者の軍だって?


 体を起こそうとする、体がきしみ力を入れた腕の何ヶ所からは鈍い痛みのようなものがくる。 自分も年をとった。当たり前だ、もうすぐ七十だ。痛みとよけいなことを頭から振り払う、集中しなくては。

 死者の軍を連れてもどる、確かにそう言った。なぜこんな大事なことをいままで忘れていたんだ。

 ここしばらくは、衰えた自分の姿に落ち込んでいた。が、そんな場合ではなくなった。まちがいない、遠くない日。奴等が、恐るべき死者の軍とともにこの地上へと戻ってくるのだ。夢の中でそう言っていたじゃないか!!

 こうしてはいられない。

 急いでその時にむけて備えを、準備をしなくてはいけない。


「レイラ夫人、来てくれ。はやく、はやく!どこへいった。」

 苛立ちがわきあがる、いやいや癇癪など起こしている場合ではないぞ。まず、まずは……。

「どこだ、レイラ。帰るぞ、明日だ。いや今日にもだ。準備はできてるか。」

 次第に頭の中では壮大な計画が、次々と姿をあらわしてくる、自分の四肢にも力強さを感じる。

「我が孫たちに会わなくては!」


 竜殺しと呼ばれた英雄も六十をこえてはや数年。

 かつての姿はもうなく、気力も弱ってきていた。

 だがそれも今日で終わりである。今、老体に流れる血はかつて若かったころのように熱く燃えあがっていた。

文字数が、量がぜんぜん減らないよっ。

今回はこの半分で終わっていいくらいのはずなのだけど。

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