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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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脱出

次回、いよいよ一応の最終回。

 通路に飛び込んだ4人はさらに狭く上へと続く道を速足でかけていく。通路だったそれも次第にまたゴツゴツとした岩肌のあるものへと変わっていった。

それに足を取られないよう、ということか。誰も何もしゃべらなかった。


「ヤバイな。」

「なんだよ?」

「壁だ」


 道は突然なくなっていた。4人の前に無機質な壁が無情にも進路をふさいでいる。


「はぁっ!?なんだよそれ。ここまできてそれはないだろうがっ」

「やかましい!」


 感情的なファーギーの声にイラッとしてグリフは黙らせる。

 どういうことだ、これは?


「あ、鍵穴みたいなのがあるんじゃない?」


 フィンの言葉にはじかれたようにグリフは壁に手をやると表面に指を這わせ始める。

この男に鍵穴を見つけることができるのか?いや、見つけてもそれを開けられるのだろうか?

しかし、そんな疑問をぶつける前にグリフの口が開いた。


「フィンレイ、ファーギー」


 2人に呼びかける。


「時間がいる。後ろを止めろ。退却の合図を送るまで、だ。」


 その言葉にすぐさま2人は来た道を戻る。


「わかるのか?」


不安そうに聞いてくるケイン老にかるく頷き返すとグリフは作業を続けた。


 あああああああああああ


 丁度その瞬間。広間の方からあの不愉快な叫び声があがりここまで響いてきた。




 白目をむいていたそれはゆっくりと目玉を動かした。

その眼に映る世界になにを感じたのだろうか?

アンブラ、その体はかつてそう呼ばれていた女性のものだった。

 それは次に、ゆっくりと首をひねる。体を起こす。

あちこちに顔を巡らし、それはまるで何かを探しているようにも見える。

 そして最後に映ったあの光景が目の前に広がる。

 不思議な事に、どうにも抑えることのできない衝動が彼女の体の中に生まれた。


ああああああああああああああああ




「すぐにここまでなだれ込んでくるぞ。」


緊張したファーギーの声だが。しかし、すぐにその顔がゆがむ。


「くそっ、くそっ」


 それはとても少女らしい弱さを感じさせるものだったが、通路の行き止まりの方角から罵声が飛んでくる。


「うるさいぞクソアマ!泣き叫びたいなら、さっきの部屋まで戻ってやってこい」

「ああっ!?デブはこっちみてしゃべるな。息が荒くて気持ち悪いんだよっ」


 彼女の方も負けじとそう怒鳴り返す。

 無理もない、あれだけの数がここにも来たらどうやっても長くは持たない。その時は、さきほどまで床で絶望に満ちた最期を遂げた連中に自分も仲間入りするのだ。ファーギーでも少しは弱気になる。

 固い顔のフィンは何も言わずにその横で剣を抜いていた。




「あったぞ」


 その言葉に反応してケインが横から顔を出す。


「本当か!?どこじゃ、わからんぞ。」

「待って、これは………ちょっと変わってるね。」


 汗が滝のように流れ落ちていうグリフの顔も真剣だ。

なにかをはめ込むような形をしている、だが目でそれが確認できない。普通の壁だ。手で触って初めて違和感がわかる。

(これはまたはっきりとしているな。)

 ここからは時間の勝負だ。

 腕輪を手に持つとその感覚を覚える。

 次に目をつぶると心を落ち着かせ耳を澄ます。一気にその深い場所まで潜っていく感覚と、しだいに闇の中から聞こえてくるあるべきものではない、いるべきでもない者達のささやき声が聞こえてくる。

 そして、ゆっくりと壁と腕輪を指で撫でながら目を開ける。



 いつの間にか自分だけ違う場所にいることを理解した。

さっきまでの洞穴はおろか、一緒にいた少年と少女、そして祖父の姿はそこになかった。さっきまで遠くから聞こえた死者達の叫び声も、今はない。

 ただの小部屋にグリフは立っていた。

 その小部屋には出口がなかった。

 いや、それどころか部屋の雰囲気じたいがまったく違ってはじめてみるものだった。四方を囲む壁はのっぺりしたうす暗い壁ではない。白色に鈍く光っていて、部屋の中央には長椅子がひとつと小さな机がおいてあった。そう、まるで人が1人でくつろげるだけの空間がそこにはあった。

 そしてどうやらすでに誰か人がいたのだろうか。湯気を立てるティーポッドとカップが置いてある。


「これがメッセージ、か」


 グリフはつぶやく、すると


「そうよ。案外早かったわね。やっぱり”私達”はダメだったようね。」


 声の主はいつの間にか彼の横に立っていた。それも、あの広間で死んだはずのアンブラだった、しかし、その顔は死者のそれではなく生気にみちている。表情もこうしてみると豊かで、服もいつの間にかゆったりとした白いものにかわっている。


「ああ。俺は嫌だとも言ってたな。初対面なのに随分と冷たい態度じゃないか。さすがに傷ついたよ。」


 それを聞くとアンブラはけらけらと笑い


「あら、それはごめんなさい。でもね、こんなことになるまで何が起こってるか気がつかなかった私のせめてもの抵抗なの。許して頂戴。」


 先ほどまで敵となっていた相手であったはずなのに、彼女の態度は不思議となれなれしく。

まるで”なにか”から解放されたとでもいうような、そんな雰囲気である。

 そんなアンブラはグリフの横を通り過ぎると、椅子に腰を掛けて足を組んでからグリフを見上げる。


「で、その抵抗とやらをわざわさ俺に宣言したくてこんなおかしな場所を用意して待っていたのか?」

「それは少し違うわね。」


 そういうと彼女はさらに色っぽくなった口元に指をもっていくと


「あなたには聞きたいことがいっぱいあるから用意したの。もしちゃんと答えてくれるならちょっとしたプレゼントも用意してあるわ。これは嘘じゃない。本当はここであなたに意地悪をして出口を潰しておくこともできたのだけれど…。」


 意地悪げな顔でふふふと笑みを浮かべながら


「でもあなた、そんなことになったら本気ですべてを叩きつぶそうとするでしょ。そうなると私が恐れていたあの方々を呼び寄せてしまう。彼らは全力であがらって見せるあなたの存在に大いに喜ぶわ。でも反対にそれを恐れた私には何の価値も見出したりはしない。結局は私に待っているのは永遠の苦しみだけになる。」


 その言葉にすこしとまどったようで、グリフは困った顔をして腕を組む


「あんたとはそれほど会話はなかったが。どうも、今のあんたを見ると変わっているなという印象だ。よくそれであの連中に気にいられたもんだな。」

「ありがとう、それは紛れもなく私へのほめ言葉よ。月の光に導かれし兄弟よ。」


 ふん、グリフは鼻で笑っただけだった。


「壁が邪魔してこっちは急いでる。お前が聞きたいことって何だ?」

「わかった、手間は取らせないわ。本当よ……あなたにどんな力があるのか私にはわからない。それに聞いても教えてはくれないでしょう?ところで、私と違ってあなたは今回のような出会いがあると知っていたのではないかと思ったの。違う?」

「おもしろくもない質問だ。答えは、そうだその通り。お前のような奴と出会うことはわかっていた。俺にはそれを教えてくれる知り合いがいた。彼女はこれまでも俺に警告を与えてくれた。そしてそのたびに大きな事件がおこった。今日も、そうなった。」

「なるほど最高の友人の忠告は大事よね。」

「いいや、違うな。」


 皮肉っぽく口をゆがめる


「俺は一度としてその警告を聞いたことはなかった。それは今回も、だ。」


 呆れたように首を振ってアンブラは苦笑した。


「ひどいのに見つかってしまったみたいね、私は。どうもそんな答えを聞いてしまうと、次の質問の意味はなくなってしまったような気がするけど。まぁ、いいわ。」


 真顔になると、じっとグリフの顔を見る


「あなた、私を殺しに来たの?」

「今更答えても本当に無意味な質問だな、それは。だが、いいだろう。答えよう。」


 グリフの顔に影が差す


「ああ、まわりには殺すなとはいっておいたが。結局俺はお前をひどく苦しめてから殺しただろう。お前は町の人間を使ってじいちゃんでパーティをやろうとした。それを許す理由はないな。」

「そう、やっぱりそうよね。」


 なにかすっきりしたように笑顔を見せる。


「約束よ。この場所と私の知識を残しておく。すぐにあなたになら使いこなせるはずよ。それとあなたに面白がるであろう情報も残しておいてあげる。」

「随分と気前がいいな、驚いた。」

「そうでもないわ、実はひとつお願いしたいこともあるの。でもそれは内緒。どうせその時が来れば、わかるし。それにまたここに客人として来てもらいたいものね。」


 そういうと、アンブラは席を立った。


「もっと色々とお話ししてもいいのだけれど。あなたは急いでいたのだったわね。とりあえず、お別れよ兄弟。そこまで送るわ。」

「お前はこの後どうなる?」


 背を向けて聞くグリフに、立ちあがったアンブラは自虐的な笑みを浮かべ


「わかるでしょ、兄弟。私たちは普通の人とは違う。力はあっても時までは止められない。そして魂に安らぎは訪れはしない。だから私はこの腕環に自分をいれたの、自らを閉じ込めた。

 ここにいる限りモリガンは私に手を出せない、それだけを慰めにしてね。それもあなたの情けにすがってはじめて実現するのだけれど。それだけよ、流れる時間がわたしに残された色を失わせるその時まで。」


 彼女の告白の最後を、グリフはもう聞いてはいなかった。

 独白するように語るアンブラの声を背に見えない扉を抜け、そこから出て行った。純白に輝く壁と床にかこまれた、1人だけの世界になる。彼女は再び椅子にゆったりとかけると、目をつぶる。自然と、鼻歌など始めてしまう。

 これほど心安らかにいられる時間を持ったのはいつ以来だったか?敵もなく、味方もいない孤独な世界だが今はそれがとても嬉しかった。

 そう、彼女は幸せを感じていた。




 感覚が戻ってくるのを感じた瞬間。

 手が触れている壁になにか型をはめるようなものが表れていた。


「やった!」


声と同時にグリフは反対の手に握っていた、あの輪っかをそこに押し込んだ。ゴト、なにかが外れた音とわずかな振動が伝わってきた。




「ちくしょう、きりがねぇぞ!」


 ファーギーの嘆きの声があがる。

すでに通路にはゾンビが姿をあらわして、こっちに向かって次々にむかってきている。せまいこととかなりの急こう配であることが幸いして、倒した奴から蹴飛ばすことでずるずると坂道を落ちていく。

 戦い方としてはぶった切ってから、(上半身を)蹴飛ばすというのが基本になる。とにかく足元に爪と頭をのこした奴を置いておかないことが重要だった。とはいえ、足だけになったそれがいまだにもがく様を見るのはクルものがあったし、気持ちのいいものではない。

 入れ替わり立ち替わりしながらの危なっかしい、フィンとファーギーの連携も今はうまくいっているようだったが。それもいつまでもつかわからなかった。


ゴトン


 そんな時、なにかが落ちるような音が背後からすると壁が奥にずれてゆっくりと穴が、道が開いて出口が表れたことを理解した。

 それを察知してさっそくいこうと身をひるがえそうとしたファーギーの肩にフィンが邪魔をすると叫ぶ。


「まだだ!合図があるまでそこから動くなっ」


 それにカッとしたのかギリッと歯をかみしめたファーギーはこっちを殺しかねない顔を向けてきたが、今のフィンはその程度では負けていなかった。


「いいか、聞くんだこのアバズレっ」


 そこまで言って一気に剣を振りおろして不幸なゾンビの首を胴体から吹っ飛ばす。


「まだ動くなっ。そのかわいい尻が僕と違う方向を向いて走り出そうとしたその時は、その足に飛びついてあいつらの中に一緒に飛び込んでえさになってやる。」

 そう言い切ると逆に睨みつける。


「僕らが壁なんだっ。わかったら、ガタガタ騒がないでぶっ殺せ、それしか出来ないんだろうがバカ女!」


 一瞬、変な顔をしたがファーギーは斧を持ち直すと


「おお、やってやる!お前もあたしを置いてこうとしたら、そのケツに新しいのを2つこさえて奴等の前に置いていってやるからなっ!」


 もうほとんどヤケクソだった。



 

 時間はかかっているが、後少しだった。

状況は良くなり始めている。このままならば脱出できるだろう。

 だが、奴らを連れて上には行けない。退却のタイミングが重要だ。


「グリフ、孫よ。聞いてくれ。」


 それまで黙ってそばにいたケイン老が語りかけてきた。

 この忙しい時に、このじいさまはいったいなんだというのか。


「お前達には本当にすまなかったと思っている、こんなことに巻きこむべきではなかったんだ。」


 うん?グリフは突然の反省文的話し方に頭の中がハテナマークでいっぱいになってしまった。どうやら薬が切れてくると、この危機的状況を見てなにやら考えるところが出たらしい。


「わしがあんな夢を見なければ。とにかく全部わしがわるかったんだ。」


 グリフはなにやら言葉の中に怪しげな雲行きを感じた。


「だからわしを置いてお前達だけでも逃げろ、お前たちならあいつらから簡単に逃げられるはずだ。」

「じいちゃん、なに言いだすの?」


 逃げるも何も、今めのまえで出口がちゃくちゃくとその姿をあらわしている最中だと言うのに。


「わしが残る。お前達が外に脱出する間、見事奴らの餌になることで時間を稼いで見せる。」


 ああ、ああ。じいちゃん、なんでそう毎度毎度ここぞというところではずしてくるのかなぁ。

 もうすぐ出口の扉が開き切る。


「えっとね、謝罪は聞いた。それと餌になるのとなにが関係しているのさ。」


 正直、グリフもこの時は一杯いっぱいで余裕なんてかけらもなかった。

だから自分の祖父の自己犠牲の理論はまったく理解できなかった。

 しかも、ケインの手を取ろうとしたら振り払われてしまった。


「わしは決めた。残る。お前らだけでも生き延びてくれ」


 まったくこの年寄りは。時間がないという時に、この調子ではきっと素直に説得なんて出来ないだろう。そう判断すると、グリフはぱっと腕輪を型から取り出すと、自分の体を扉の向こうに置いた。


「わかったよ、じいちゃんは好きにすると言い。」

「うむ」


 わかってくれたか、なにやら満足げな老人の顔に拳を叩き込みたい衝動を抑える。

その間も扉はゆっくりおり始める。


「2人とも、準備しろ。」


 そこでいったん切る。


「合図したら走れ、俺をすり抜けたらそのまま外に出るまで振り向くな。いいな!」


 後は待つだけだ。

 扉はそろそろ4分の1ほど閉まりかけている。それにどうも速さが変わったような気もする。


「フィン、ファーギー来い!」


 その瞬間、フィンは剣を相手に思いっきり投げつけるとそれはみごとに相手の頭に半分まで突き刺さった。その後に出口の方へと振り返るファーギーと同じくフィンも恐ろしい速さで走り出した。

 ケインは思っていた。そうだ、お前達には未来があるのだ。この老人を置いて明日へ向かうんだ、と。

 だが、そんな老人の感傷を打ち破る指示が出口から飛んだ。


「じいちゃんを忘れるなっ」


 2人がケインの横を通り過ぎたのはこの瞬間だった。フィンとファーギーはそれぞれが腕に手を回すとケインの体を持ち上げてひきずるように、そのまま出口へと勢いよく走り抜けていく。それに驚いてさっそく抗議の声を上げようとするケインだったがそんなこと若者達の知ったことじゃない。

 風のように出口を抜けた3人の後ろ姿を確認してからグリフは扉の中に目を戻す。

進路ふさぐ門番がいなくなったことで早くもゾンビ達はこちらへとむかってきている。

 グリフの影から突然大量の黒煙が噴きあがる。

 それは彼の左半身にまたたくまに絡みつくが、これまでとは比べ物にならないほどの量と濃である。そしてそれが絡みついた彼の左手が変化する。真っ黒で、鋭利な爪のー

あの世界にいた、シーザーの身体を貫いて引き裂こうとした獣の腕が、禍々しい姿があらわれた。

 その手を一閃、通路にこちらに歩いてきていたゾンビとの間の空間を引っかく。


ジャッ


 鋭い音に混じってなにかを一度に大量に断ち切るような音がした。

それが終わるとグリフもすぐに皆の後を追って歩き出す。その姿からは、もう慌てることはないという確信にあふれており、それに合わせるように漆黒に染まった獣の腕の黒煙が、まるでひもとかれた包帯のように。煙となって再びグリフの影へと戻っていき、同時にその姿も元の人間のものへと崩れようとしていた。

 ゆっくりと出口の閉まる中、その向こう側からはもうなにも音一つ聞こえてくることはなかった。

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励みになりますので。

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