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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
32/36

遭遇

 男は目を覚ました。

 なぜだろう、今自分は寝ていたのか?なんで?

 だが、まだ頭がぼーっとする。なんだこれ、重いな。

 名前、そうだ自分の名前。テオ、そうだ。テオドール…………なんとかだ。まぁいいさ。すぐに全部思い出す。

あたりを見回すが暗くてわからない。体中も動くと痛みがそこかしこから主張しだしたので動くのをやめた。なんでこんなに痛いんだ、まるで体が半分だけ地面に叩きつけられたかのようだ。とにかく下半身は動かすことがまったくできなかった。

 確か、そうだ。連絡が入って急いでここへきたんだ、みんなと。

 なんでもここ数日、うちらを嗅ぎまわっているのを捕まえたって話だったがなぜ自分達が呼ばれたのかは分からない。

10、いや20人か。とにかくそれくらい一緒だった。

 入り口で中に連絡を入れて、それで……そうだ。通路が今日はなぜか暗かった。おかげで頭や足を壁の出っ張りに打ち付けてしまう奴が続出して皆ぶーぶー文句を言ってたっけ。

テオも例外なく足の指先を岩に打ち付けてしまい。くそっなどと罵っていた。

 そう、その時だった。道の4叉路に通りかかった時。周囲で凄い音が………

 だんだん、なにか霧が晴れるような。そんなスカッとした広がりを目が覚めるような感覚を覚えた。

 違う、音じゃない。あれは声だった。

 もやのかかっていた視覚がきれいにはっきりと元に戻っていく。

 あいつらだ!あの音もなくない廊下に立ちつくしていた変な奴等が急にこっちを見ると大声を張り上げて。それでみんな一瞬うごけなかった。

そしたらあいつら、次々と湧き出してきて……俺たちはどうすることもできなくて。武器を抜こうとして隣の奴をぶった切った奴とか、抜いても振り回せるような空間も使える腕もなくてパニック起こす奴とか。

 そしてテオは転がり起きた先でたしか。あいつらに、喰われた?あれ?

 あわてて自分の体を確かめようと痛みをこらえて上半身をふたたび起こした。節々から苦痛もさることながら、それはショックな映像が目の中に飛び込んできた。

 腹から下がなかった。俺の腹から下が、ない。内臓がはみ出て、一部は踏まれたのだろうか、潰れていて。なのに”なにも感じない”、あれ?

 そして気がついた、自分はもう息をしていないということを。


「あああああああああああああああああ」


 テオの口から湧き出て止まらない叫び声は、正気だけではなくまるでそこに人としてのなにかも一緒に体から飛び出していくようでもあった。




「この先が目的地、だったはずだよ」


 T字路で右を指す。ちなみに左側からはなんともいえない「あー」とか「うー」とかいう声が響いてきて嫌な雰囲気しか漂ってこない。グリフはその方向を見てボソッとつぶやいた


「そうそう上手くはいかない、か」


 多分、ゾンビ達がここまで降りてきていないことを言っているのだろうとフィンは思った。


「しょうがない、作戦変更だ。俺とフィンでこれから奴等を奥まで連れていく。ファーギーは先行しろ。俺達があいつらと一緒になだれ込むから、あとはアドリブでじいちゃんの救出、ボスを確保。これでいく。」

「意外と穴が多そうな計画だね。」

「きっと穴のひとつひとつも大きいぜ。」


 2人の言葉を聞こえないふりをするグリフ。


「女が隠し通路について知っている。脱出には必要だから殺すなよ?いいな?」

「ああ、出口は他にあったのね。最初からそういえばいいのにさ。」


フィンが愚痴るが、相変わらずこの男は気にするそぶりを見せない。


「わかってるよ。そっちこそ餌になっておいしく齧られながら戻ってくるんじゃねーぞ。」

「おいおい、誰に言ってるんだよ。この中で一番仕事している人間にいう台詞じゃないぞ。」


 それには異議があったのでフィンは口をはさむ。


「でっかいトラブル引き起こしてくれたに訂正した方がいいよ。」

「うるさい、茶化すな。役立たず。」


 そうやって兄弟が場を考えずに互いの親睦を深めていると。

 すると、なぜか顔を少し赤らめたファーギーが「おい」と改まって声をかけてきた。

はて、なんだろうか。兄弟はハテナマークをつけて彼女を見ると、今度ははっきりと頬を赤らめながら


「いっておくけど、さっきのは…ちょっとしたアレだ。うかつだったんだよ。」


 いきなりのことに兄弟はファーギーがなにをいっているのか、最初はわからなかった。


「えーっと、なに?」

「困った、うかつなお前はもう十分見せてもらったからどれのことかわからんぞ。クソ共の相手をさせられそうになったことか?護衛なのになんもしなかったことか?それとも、身の危険を感じて1人だけ喜んでいた事か?」


 にぶい男共に、ファーギーは声を少し荒げて


「さっきのことだよ!さっきの、あの、お前に抱えられた時の、ことだ。」


 どうやら羞恥心はまだ残っているらしく、だんだんと涙目っぽい言い方になっていった。

男共もそれに気づいてか。ああー、とようやく納得した。


「グリフに抱き締められてハァハァしたことだってさ。」

「そりゃわかるさ、なんせ言わせたのは俺なんだから。イッたのは久しぶり、とかそういうドン引きの告白なのか?」

「ちょっと、それはさすがに…」

「いやいや、いるんだぞ。男の数だけ気にしてさ。ある日、変なの相手に違う性癖に開眼しちゃう、ってやつがさ。」


 なんだかおかしくて、2人でついついからかってしまった。ファーギーはさらに顔を真っ赤にしてたが、意外に真面目な話だったらしく続けて


「グーッ!クッ。そうだよ、ちょっとみっともないことしたあのことだよ。それで…あたしはさ…別にそう言うのはごめんってわけでさ。その………」


 なにか必死に伝えたいようだが、よくわからない。それはグリフも同じだったらしく、早々に飽きたか


「あー、もうぐちゃぐちゃうるさいんだよ、ビッチ。まだお姫様気分か?」


 などと切り捨てる。「なっ」といって声もないファーギーに対してグリフは冷たく


「いいか、アドリブ多いがこれが反撃するチャンスなんだ。上手くやれ。ドジ踏むなよ、役に立たないならお前はいらない。口はいい、行動で示せ。」


 そう聞くと、ファーギーは口を真一文字にキュッとしめると「ああ」とだけ答えた。どうやら必死に感情を抑えようとしているらしい。


「それじゃ、また後で。」

「見つからないようにね。」

「じいさんがバラされるのに遅れるなよな、バカ兄弟」


 そうやって3人は2手に分かれていった。




 うす暗い通路には相変わらず人の姿はなかった。


「人影はない、おかしいな。」

「いいじゃねぇか。どうせ嫌でも顔を合わせられるさ。」 


 そこでフィンは先ほど感じた違和感を今のうちに聞いておこうと思った。


「ねぇ、兄ちゃんは時々だけどファーギーにおかしな言いかたしたり、態度をとるよね。なにかあるの?」


前に立って、前方を探りながら進むグリフはそのままの姿勢で答えた。


「ああ、そのことか。よく気がついたな。それはだな……。」


ウオオオオオオオオオオオオオ!


 その時、この世のものとは思えない叫び声が聞こえて2人の横を通り過ぎていった。大分近づいているようだ。


「しかし、ここって結構大きいんだね。」


 恐怖と緊張を少しでもなくそうと、フィンは話題を変えた。


「そうだな、蟻の巣穴みたいだな。」

「そういえば知ってる?」

「なにがだ」

「いや、あの連中の組織の名前。」


 フィンの何気ない質問に、グリフは苦笑した。


「なんだ、知りたいのか?」

「いや、別に。でも知ってるのかなって。」

「なら知る必要はない。明日の朝には意味のなくなる名前だからな。」


おおおおおおおおおう


 今度はさらに近いところから声がした気がした。


「近いな、どうだ?」


 フィンがひと息つく、目では分からなかったが微妙に通路は坂になっているようだった。


「大丈夫、まだいないね。」


 こちらもふぅと息を弾ませるグリフに聞いた。


「やっぱり普通に脱出した方がよくない?」


 グリフはぺろりと唇を舐め


「お前もお馬鹿な子だね。入口の方向から変な声が聞こえるのに。そっちから外に出たいなんていうとはね。それに、じいちゃんはどうするんだよ。」

「それは、ほら。僕が戻ってファーギーとなんとかする、みたいな感じでさ。」

「なんだ俺だけのけものか?」

「そうじゃないけど…」


 フィンは口ごもる。

 正直に言えば、じいちゃんのことも心配だがグリフの事も心配していた。さっきもそうだったけど恐ろしく強いのはわかってる。

 でもそうはいっても、今も自分の横で太った体のままフーフー言ってるのを聞いていると、ここらが限界なのではないか。この後まっている戦いには参加するのは危険ではないだろうかと思ってしまうのだ。


「なめるなよ、バカ弟め。デブでも気合いを入れればできないことはないっ」

「へぇ、やりすごそうとそのへんの隅に身を寄せて影に隠れたりとか?」


 なぜか、フィンのその冗談は受けたようで楽しそうに返してくる。


「ああそうさ、天井にだって俺は身軽に飛びついてみせるぜ」

「よく言うよ」


 2人は互いの笑顔を見合わせた




(ここか)

 この時、ファーギーはいよいよ見たことのある場所に近づいていることを確信していた。

 その入口らしきところには見張りらしき3人がなにごとかひそひそと話しこんでいるのが見える。

(さて、どうする)

 ファーギーはもう一度のぞいてあたりに目を配る。人がいて灯りがあってなんにもなし、か。


「仕方ない、やるなら一気に。これしかないよな。」


残念ながらあまり頭のよくない自分では、他にやれることはほとんどないことに気づかされる。

 しかしばれないようにしろという注文がある。少しでも騒がれるのはまずいな。

 部屋の中から大勢があふれだして、慌ててファーギー地上に向かって逃げて。その先で化け物を連れて走ってきたあの兄弟に出会う。最悪だな、そんな間抜けな最期はごめんだ。

 といっても、ここでもたもたしててもしょうがない。どの道あいつらは処理しなくちゃいけないわけで。


「それじゃ、行くか」


 自分で勝手に納得するとファーギーは両手に手斧をに握りこむのを確認してから3人の前にそのまま飛び出していった。




 それは兄弟にとって本当に突然の事だった。

通路を曲がった先に広がっていたのは、まさに地獄といってもよい風景だった。

少し広めにとられたその場所ではあちこちにかつて人間だったものが座りこんで、さっきまで生きていた人間の体を、腕を、足を、臓物を引きちぎったものを口に運んでいた。

 血肉と糞便、ほかにも腐ったような悪臭と共にその暴力的な映像がフィンの五感に直撃した。

 胃は早速中身を全部吐き出そうと震え、いやどちからというとひっくり返ったが、肝心の他の部分がまだ硬直していてそれができない。そんな事を必死で考えながら、必死に理性をつなぎとめようとした。

 さすがのグリフもショックのようで、口をゆがめて匂いに耐えながら惨劇を見ている。

(いっそ最初に吐いていられたら、楽だったんだろうな)

 そんなことを考えていたら、グリフに腕を掴まれて奴等に気づかれないよう後退する。

 少し離れた場所まで行くと気が緩んだのだろうか?フィンは壁に寄りかかるとずるずると腰を落として座りこんでしまった。キツかった、本当にヤバかった。


「おい、大丈夫か?」


 グリフがこっちの顔を覗き込んでくる。自分はそんなにひどい顔なのだろうか?


「流石にね。ちょっとやばかったよ。」

「そうだな。お前が叫んだり吐いたりしたら本当にヤバかった。よく我慢したよ。」

「それより驚きだよ。家を出る時、食べてたのはグリフだよ。あれ見ても平気だったの?」


 弟のその言葉にグリフはすぐにはどう返したらよいかわからなかった。

まさかあそこにいる奴等とたいして変わらないことを、自分はさっきまでやっていた、とはさすがに弟には言えなかった。


「どっちかというと大汗かいてる今の自分が嫌、かな。」

「今日は久しぶりに運動したね、すぐに痩せるんじゃないの?」


 フィンはいつものように憎まれ口で元気をアピールしたかったが、声はかすれて震えが出てしまった。


「そうだな、明日の飯はレイラさんにはいつもより多めにしてもらわないとな。」


 たぶん、それは深く考えないでされた返答だったのだろうが飯、食べるというキーワードが、フィンの脳内で先ほどのショッキングなシーンが繰り返されてしまった。腹から湧きあがる胸のむかつきは限界でとうとう通路にむかって吐いてしまった。

 崩れるように背中を丸めて、ゲーゲーはくと、なにやら腹の中が空っぽになった気がした。これで少し楽になったのだろうか、とても不愉快に思えるけど。


「悪いけど、肉と魚はごめんだ。すくなくとも3日は絶対に。見たくもないね。」

「そうか、それは全部俺がもらうから心配するな。」


 背中をさすっていたグリフは妙に優しい。フィンの手をとると再び座らせる。


「一休みだ。俺も疲れたよ」


 並んでへたりこむ兄弟のお互いの息遣いだけが通路に響く。

 あれは、あれはきっとそうなんだろう。


「ねぇ、あれがゾンビなんだね」

「ああ」


 簡潔に短い答えだった。

 そうか、あれがそうなんだ。

 あの日に軽い気持ちで倒した老人ゾンビには感じなかった恐怖を、不快感をいまたっぷりと味わっていた。

なんだよあいつら、おっかないじゃないか。化け物はクワで一発とか誰が言ったんだよ。

 グリフに顔を向ける。フィンよりも荒かった息がもう整えられている。


「ねぇ、兄ちゃん」


 グリフはフィンの顔を見る


「数がいるだけで凄い破壊力だ。おっかないね、あれ」


 それを聞くとこの怖い兄はすぐに悪い顔になってニヤリとすると


「ゾンビをなめるなよ、じいちゃんが言うことに間違いはなかったな。」

「まったくだね。」


 目をつぶるとまだあの光景が、耳にはあの声がよみがえる。

 ムカつくことにかわりはないが今度は大丈夫そうだ。


「ねぇ、僕達。あれのハンターになるっていうんだよね?」

「そうだ。」


 ああ、そこはNOと言ってほしかったのに。思わず頭に手をやるとむぅーと唸りながら髪をかきまわす。


「こんなことになるとは思わなかったのにィ」


 そんな弟を見ていたグリフは


「弟よ。おめでとう。これがお前の新しい戦場だ。」


 それはどこか楽しげにも見えた。

 なんだよ、自分だけ楽しそうに。


「あんたの、でもあるよ、なに他人事みたいに言ってるんだよ。」


 そう言うと、手を差し出す。それを握るとお互い立ちあがった。

 だが、グリフは笑みを浮かべたままそのことには何も言わなかった。


「よし、休憩終わり。行くぞ、あいつらを全員連れて行かなきゃならない。」

「ファーギーは上手くやっているかな?」

「ミスって捕まってたらあの女、今度こそおっぱいとケツをもみしだいてくれるわ」

「またやるの?」

「………なんだ、やりたいならお前に譲ってやる。思う存分やるといいぞ。」

「生まれが貴族なので家の方針で紳士たれ、といわれてます。破廉恥行為はお断りします。」


 だんだんお互い調子が出てきたようだ。


「走れるか?もう吐くなよ。飛びだしたらすぐに逃げないとあいつらの餌になるぞ。」


 ああ、兄ちゃん。それも聞きたくなかったよ。


「でも走ったら、向こうが追いつけないんじゃない?」


 フィンの言葉にグリフは少し驚いた顔をした


「お前……お前やっぱり知らなかったんだな。いいか、確かにあいつら一匹の時はよろよろしてる。でも集団だと変わるんだよ。むろん走りはしないが、かなりの速さで移動するんだ。つまり、途中で足をとめたり怪我したりするとまずい。ちゃんと覚えておけ。」


 次から上から目線でいわれても安易に知ったかするのはやめよう、フィンは強くそう思った。




「どうも、元気ですかー!!」

「おいっすー!」


 元気よく、朗らかに場違いな声をかけながら奴等の前に姿をさらす。

 正直、これだけでも冷汗ダラダラだった。

 なんといっても、なんでかわからないけどいっせいに顔がくるっとこちらにむいて確認した時は、もういちど腰から力が抜けるんじゃないかとヒヤヒヤしたくらいだ。一瞬、両方の動きが止った。

 いや、違う。そうではなかった。止まったような中で、奴等の口が一斉にゆっくりと大きく開かれていく。


ぁぁぁあああああああああああああああっ!


 凄い声だった。

 それぞれの口の中から、何かおかしなものが飛び出してきているんじゃないかと思うほどの恐ろしいあの声を張り上げ出したのだ。


「逃げるぞ、遅れるなよ」


 グリフの言葉が耳に入るとフィンの体が反転して足が勢いよく動きだす。

 凄まじい叫び声を背に、弟、兄と並んで走りだす。

焦って転ばない、足を止めて吐かない。ただそれだけを念じながら。

よかったら読後、感想等をお願いします。

励みになりますので。

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