第7章 反撃開始
ということで最終章をはじまります。
アンブラは落ち着かなかった。
先ほどから今夜の準備をしている間も、どうしても湧き上がる不安を抑えることができなかったからだ。
ライバーの奴等はまんまとこちらの呼び出しに疑いもなく応じて、罠にも引っ掛かった。そして自分達の事も本当に知らなかった。すべてが予想の範囲の中での出来事だった、それなのにだ。
なぜか気持ちが一向に晴れないのはなぜだろう。
自分の神経質さに、ため息が出る。
その時だった。雷にうたれたような衝撃を感じた。
なにかはわからない、でも確かに悪いことが今近くでおころうとしている。
脳裏になぜかシーザーの顔が浮かんだ。
その表情は驚きと恐怖が張り付いて固まっている。
なに?どうしたというの?
イメージの中の彼に声をかけようとすると、その姿がみるみる壊れていった。
これだ、間違いない。
「だれかっ」
アンブラは声を張り上げて人を呼んだ。
「急いで牢へ行ってちょうだい。見張りを。人を増やして。外の連中を全部呼び戻すの。」
突然、激しく感情を乱しながら叫ぶアンブラに周りは驚いた。
「アンブラ、一体どうしたと言うんだ。人は集まってきている。落ち着いて。」
そう声をかけるが、彼女の様子はすでに明らかにバランスを欠いたものとなっていた。落ち着きなく獣のようにぐるぐると歩きまわり、彼女はなにかにおびえ始めている。ぶつぶつとつぶやき、爪を噛み、目は次第にうつろになっていき宙を漂よわせる。尋常な様子ではない。
「ああ、ああ。」
とうとう顔を覆うと、しくしくと泣き出した。
周りも彼女がなぜそんなに取り乱すのか分からず、どうすることもできない。
「なんだというんだ、一体。」
「暗き神々の交わる場所では、かの方々はのぞき見る。ああ、なんてことなの。」
まだなにを言っているのかわからないが、ようやく目の焦点だけはあってきたようだった。
「外の連中はどうしたの、まだ戻らないの?」
「少し前にも連絡をだしたばかりじゃないか。すぐに皆、ここにくるさ。」
「しかし、確かに少し遅いな。そろそろ何人か、ここに戻ってきてもおかしくないはずだが。」
「おいっ!」
不安そうな男の声でまたアンブラのすすり泣きがはじまる。
「大丈夫だ、どうしたと言うんだ。今夜の儀式は出来るのか?」
アンブラはその言葉に落ち着いてきたのか うんうんとうなずくがまだ取り乱すのを隠そうとはしなかった。
決着は意外に早く着いた。
ファーギーとシーザーの一騎打ちは初めこそ調子よかったものの。すぐに技量の差が表れて、男はファーギーに押され始めた。
その激しい攻撃は言うだけあってフィンの目から見ても一撃の重さはとても女性のものとは思えない威力を感じさせた。しかし、なんて独特の戦い方なのか。
頭から飛び込んで距離を潰し、そのあと振りまわされて次々と相手を襲う両手の斧は無茶をやっているようで見事に制御して見せている。
(こういう戦い方もあるのか)
兄と祖父が、彼女の実力を認めていた事をようやくフィンも理解しなくてはならなかった。
その間に、徐々にシーザーは防戦一方へとなっていく。
そして終わりが来た。
再び距離を潰され、「ふっふっ」と2度息を吸い込むとファーギーの振う斧の2つの刃は、連激となって彼に襲いかかる。それを受け、流し、下がろうとしたシーザーの左肩を斧がついにとらえたのだ。深く肩をえぐったその一撃は想像以上に強烈だったようで、左腕の先は一気に力を失って垂れ下がる。。どうやら皮一枚で繋がっているだけのようだった。
その傷の痛みに声を上げる間もなく次の瞬間には、シーザーは胸に叩き込まれた必殺の一撃をうけて、言葉もなく崩れ落ちていった。
「終わったぜ。」
倒れたまま動かない相手も見ないで、肩で息をするファーギーの静かな勝利宣言がなされた。
動かなくなった男の身体にペッと唾を吐くと、ファーギーは牢からでてきた。
その彼女に勝利をたたえることなく、声がかかった。
「さて、それではお二人さん。これからどうしよう?」
明るくそう聞いてくるグリフに2人は鼻白む。
「ぬけぬけと、おめーはよー」
「嫌味だよね」
切り替えて明るく問いかけるグリフに2人は白い目を向ける。
すると、グリフはまるで傷ついたとでも言う風にたじろいでみせ
「なんだよ、それ。皆の意見を広く聞こう、そうおもったんだけどなぁ。」
「自分でさっき、大将とられてなにやってるって言っただろうが。反撃しかないんだろ。」
「どのみち今夜中になんとかする、とか言ってたし。外にも助けは呼べないようなこと言ってたし。助けるならそれしかない、とは思うけど。」
「とりあえずあたしの道具は戻ったし、あんたらの手にも剣はある。戦えはするけど、考えて動かないとなぁ。」
「頼れる君等の言葉、力強い反撃の意志に。お兄さんは涙があふれるのを抑えられないよォ。」
今度は薄く笑みを浮かべながら、演技たっぷりに目の端などを指ですくって見せるグリフを2人は気持ち悪そうに見る。
「はぁっ!?なんかいきなりお前、ウザイな。なにを………」
「ちょっとまって。なんかおかしい。」
フィンが手でストップとやりながら、会話を中断させる。
ファーギーの顔に(なんだよ?)と書いてあるが、フィンは長い付き合いから、このグリフがわざとらしく隠し事をしていることをアピールしているのに気がついたのだ。
「何か、隠してるね?言ってよ、別に怒らないからさ。」
「こいつがか?」
「そう。だいたい逃げ回ってたとかじゃないよね。服の返り血はここに来る前のものだよねぇ。なにをしたんだいっ、お兄様?」
自分で話していてだんだんと声が大きくなるのを止められなくなるが、相手はまるできにしていない。
むしろその言葉を待っていたかのように、わざとらしく腕を組み悩ましい顔つきで顎を撫でながらグリフは答えた。
「さすがだ、弟よ。この服についた何人もの哀れな犠牲者達の返り血からそれを読み取るとはっ。さて、その答えだが ……… 君達、ちょっと耳を澄ませてもらえないか?」
そう言われて一同は黙りこんでみる。
一体何が聞こえると言うのだろうか。
ぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁーーーーーーー
遠くで誰が出しているのかわからないが、聞いていてよくない叫び声がかすかに聞こえた。なんでよくないってわかるかって?だって、とっても悪い予感がしたから、それで充分だった。
「おい、ありゃなんだよ。」
少し不安そうにもらすファーギー。フィンは額に青筋立てて今度こそはっきりさせようと再び聞きだしにかかる。
「グリフ、ここにくるまでになにをやってたのかな?」
なぜか2人には目の前のデブがなにかをしてここに来たことは理解したが、正直いうと聞きたくないとも思った。
「では今から反撃の計画を発表する。」
「反撃ですか?それに計画ときたか。ずいぶんいきなりだね。」
「そうだ、なにしてたか。いってないぞ。」
「確かにここに来るまで色々あった。でもそれはこれから君達に話す計画の一部だったと言うことを聞けば理解してくれると思う。」
「ああ、そうですか」
「お前、納得するのかよ!?」
驚くファーギーに、ため息をつきながら諦めた顔を兄にむけフィンは言った。
「それはあれですか。自分のやったことを説明したら、僕等に言い訳してるみたいになるのはとても嫌だ、と。」
「うん。それも、ある。」
「それならカッコつけて反撃計画というなにやらあやしいビッグな作戦を遂行するためにおこった、ちょっとばかりの不都合。そんな感じにしておきたい、みたいな。」
「それも、あるかな」
「つまりどういうことだよ?わかんねぇんだけどっ」
ここにきてイライラしてきているファーギーを無視するように兄の顔をジト目でみながらフィンは言った。
「つまり………トラブルだ。でっかいトラブルが今も起っているんだね?そりゃもう洒落にならないようなやつが。それで僕等も危ないけれども。このどさくさにまぎれて、一気に全部ひっくり返そう。違う?」
そんな弟を兄はいきなりヒシと抱き寄せると涙を流さんばかりの演技たっぷりに
「おお、弟よ!お前を愛しいと思う、これがそのゆえんだよ。お前が今みたいな馬鹿でマヌケで可愛くない弟じゃなくて、女だったならなぁ!すぐにも俺の嫁さんにして子供をバンバン作るのにっ!」
「そうなったら妹になるだけだし、グリフみたいなヤバい趣味の変態なんて絶対嫌だから別の男とさっさと結婚するね。それで、違うの?違わないの?」
「つれないな、お前……ちなみにお前の言うことは全部正解だ」
「はぁ!?えっ!?な、なんなんだよっ」
フィンは何を言ってるのか分からず、混乱している娘に気の毒そうに
「残念だが諦めてほしい、ファーギー」
「そうだぞ、ファーギー。俺がいろいろとお前を助けてやったんだしな。」
「多分時間はそんなに多くない。今から頭に来るけど、このデブにきりきりと計画とやらをはいてもらうから。拒否、反論はなしでお願い。」
「そォだぞ。抵抗は無意味だ!」
ボー然と兄弟の顔を交互にあきれ顔で見ていたファーギーは
「ふっ、ふざけるなっ!確かに、確かに。いや、拒否も反論も認めないって!?」
「ああ、ああ。そこまで、そこまで。落ち着いて。気持ちはわかるよ、僕も全く同じ気持ちだ」
怒りと不満が塊となって噴き出す前に邪魔をしてフィンは説明する。
「お願いだから、理解してほしい。この人は何を考えてそんな、バカ!やったのか絶対に言うことはない。でも、こんなムカつく言い方でも考えがあると言うことはちゃんと用意はしているということで。僕等の所に来たのも準備ができたと判断したから来たんだ。」
グリフの顔を見る。とても幸せそうにニコニコしているのが本当に腹立たしい。一発くらい先に殴ってもいいと思うのだが、そんなことしようとしたら絶対ひどいことをするのだろう。
「さぁ、さっさと話してよ。時間ないんでしょ?なにすればいい?」
「お前、ここのボスにあってるはずだ。」
「よく知ってるね。その通り。」
「じいちゃんは今、そこにいる。そうだな?」
「多分ね。そう思うよ。」
「お前、この部屋からどう行けばそこにつくか。わかるよな?」
「まぁ、一応ちゃんと覚えてますよ。」
「よし。それでは説明する」
コホン、とひとつ咳払いをすると
「作戦目標は2つ。ひとつはじいちゃんの救出。大事な事だ、もうヘマしてくれるなよ?そしてもうひとつだが、ここにいるやつらの女ボスを捕獲、及びそれを邪魔する存在達を殲滅する!」
「なんだって!?」
フィンとファーギーは思わず声がはもってしまった。
「その後、2名を連れ我々はここより脱出。自宅に帰還した後は、女は監禁。拷問はあとまわしにして、教会をはじめとしたいくつかのつてにここの事を報告する。以上だ。」
「なにを言いだすんだよ。いろいろ説明もすっ飛んでいるし。」
「そんなの出来るはずない。馬鹿なのかっ。」
「なんだよ、2人とも。全然理解してないな。返事がおかしいぞ?」
「おかしいのはてめぇの方だ!」
「ちゃんと説明しないと、わからないっていってるんだよ。」
「それはこれから言う。心配はわかる。どれほどの人間が関わってるかは不明だが、どうやらこれからじいちゃんでバカ騒ぎを連中はやるようだ。これを急いで阻止しないといけない。なのにこっちは2人と哀れなデブしかいない。」
「自虐してごまかすなっ。でも外に助けを呼ぶ時間もない、わかってるよ。」
「そうかい。さて……ここで2人には発想の転換というものを求めたい。なぜここの連中が俺達を捕えたのか?結論から言うと、うちらの話を聞いたからびびった。つまり将来の脅威に対しての先制攻撃だったわけだ。あらら、俺達。ここまで奴等に先手を取られ過ぎてるよね。」
「ほうほう、それはそうかもね。で、なんでそれがわかったの?」
弟のしつこいその問いには答えず、グリフは続ける
「我々の反撃は効果的に、そして確実でなければならない。俺はそう考えた。しかし君達もわかってる通り、状況は不利だ。そこで俺は援軍を作ってきた。」
今の兄の台詞の中に不穏でおかしい単語が混じっているのは、誰が聞いてもわかることだった。
「なんだって?」
「言った通りだ、ビッチ。俺がお前等が牢の中でマヌケに見世物になっている間。一生懸命に無理をして援軍を作ってたといったんだ。」
「えっと、ファーギーも僕もよくわからないよ。それって戦場でどっかから兵をスカウトした、とかそういうこと?」
「なんだ、それ?そんな器用な事はしなかったよ、大変だしね。楽な方法をとった。」
楽に援軍を作った?嫌だ、ぜんぜん聞きたくない。
「ゾンビをどんどん作って、やつらにどんどん襲わせた。バンバン食われてたから今頃凄い数になってるぞ。で、じきにここにも来るって寸法だ。」
「はぁッ!?」
はもり声が洞窟の壁に響き渡る。僕ら、口から魂が飛び出していたかもしれない。
男達はいまだに荒れているアンブラに距離をとって頭を突き合わせていた。
「上は?」
「また1人行かせた、なにか手間取ってるようだ。返事も誰もこない。」
「牢の様子は?」
「まだ・・・・・いや、来たぞ」
部屋に駆け足で駆け込んできたいかにも山賊風の格好をした男は
「ダメです、みんなやられました。」
到着早々、そういって首を振る。まさか脱獄された?
「どういうことだ、なにがあった?」
「それが……あそこは多分、ダメです。」
「?」
「……多分とはなんだ。何を言っているんだ?牢にいる連中は、シーザー達はどうした。」
報告にいら立ちはじめる男達を押しのけて、アンブラはかけよってきた。
「待って、どんな状態だったの。聞かせて」
「おい、アンブラそんなことはどうでも…」
「ダメよ、普通じゃないはずよ。話して。」
ここにきてまた不安定になっているようだ。
「教えなさい。どうだった?」
その熱心さに男はぽつぽつと答えた。
「実は………牢にはいきませんでした。あそこはもうダメです。」
「なんだと!?どういうことだ」
「実は、近くまで行った時。その方角から恐ろしい怒号と剣の音が響いてきたんです。激しかったけど長くはなかった、すぐに音はしなくなったんです。あそこには10人近くがいってました。もし無事だとしても、あんな騒ぎがあったんです。むこうからこっちに知らせが来ているはずです。」
首をすくめながら言う。それほど恐ろしい声だったということか。
「まさか逃げていたという奴が、入ってきたのか?そして仲間達を助けに来たと?本当だろうか。」
「聞いた通りよ。上は今、魔法による遮蔽を展開している。中に入ったら感覚を狂わされ、もう外には出られない。あとはここへ降りてくるしかない。おかしくはないわ。」
「なぁ、今日はやめた方がいいんじゃないか?」
「馬鹿野郎。今さらそんなことできるか。上はさっきまで捜索隊を出していたんだ。夜だから灯りが必要で派手に火を焚いていただろう。装置を動かし続けられない以上、それらを全部片付けねばならん。無理だ。」
「つまり、いまからここにいる我々が逃げても意味はないということだ。すでにライバーに顔を見られた奴は多い。やつらを生かしておくと町の連中に知られ、教会にばれるだろう。それで我々はおしまいだ。」
「なら、ヤるしかないだろ。それしかない。」
たった3人の若者を恐れて全てを投げ出すという考えは彼らには当然だがなかった。
「今、じいさんの孫達はあそこにいるのは間違いないのか?」
「まだ牢にいるかと、多分ですが」
「なんで見てこなかった!役立たずっ」
はっきりとしない答えにとうとう怒りだす男を止める者はいない。
とはいえ、戻ってきた男にしても。これ以上言いようがなかった。
それに正直なところ、あえて表現をぼかして報告したが。あの時、怒声と断末魔の飛び交う争いの音にむかって、なおもゆっくりと近づこうと思った彼の足を止めたのは。部屋の中から、廊下に勢いよく飛び込んできた丸い物体をみてしまったからだ。それは、あそこにいた荒くれ者の1人の頭部だった。
(こりゃ、とてもこの先には進めない)
この時、彼にこのまま戻って報告するのを決心をつけさせた。
だが戻ってきた男にとっても、ここでの話の展開にはいささか驚いていた。彼にしてみれば、上の連中を戻して数で圧倒すればいい。当然そう考えていたのだ。
しかし、実際はなぜかここから撤退すると言う話しも出るし、さっきからいつも恐ろしく自信に充ち溢れているアンブラは取り乱してばっかりだ。
なにが彼等を、そう”恐れ”させているというのだろうか。
「それくらいにしておけ。そいつが戻ってきたからいえる事だ。帰ってこなければ中に侵入されて動いていた事などわからなかったしな。」
「むむむ」
ようやく出た擁護者にホッとする。
「よし、できるだけ人を集めろ。あいつら、こっちにじいさんを取り戻しに来るかもしれん。ここで取り押さえよう」
その言葉に男達がうなずくなか、感情的に反対を叫ぶ者がいた。
「だめ、そんなことしちゃだめよ」
「おい、なにをいうんだアンブラ」
一向に理解を示さない男達についに苛立ちが限界に来たのだろうか、アンブラは金切り声にも似た絶望した声を張り上げた。
「あれは、私達を破滅させるために来たの!戦ってはおしまいなのよっ」
ではどうしろというのか、困惑する周りの中でアンブラだけは誰に何かを言うわけでもなく1人でブツブツとつぶやくだけだった。
突然、振りかぶったファーギーの拳がすごい音を立ててグリフの顔面に叩き込まれた……ようにフィンには見えた。
だが、そうではなかったようだ。
顔を殴った側のファーギーは自分の拳に振り回されるようにバランスを崩してつんのめり、グリフは殴られたはずなのに涼しい顔でその手をつかむと暴れる彼女を抱き寄せた。
「ふざけんじゃねぇ。放せよ、このクソブタがっ!」
「ひどい言い草だ。突然殴りかかった後で罵るなんて」
「うるせー、なにが計画がある、だ。あたしらの逃げ場がなくなってるじゃねぇか!」
「あら、ホントだ。ゴメンネー」
「ぶっ殺してやる、このオカマブタッ!いちいちムカつくんだよっ」
後ろから抱きすくめられるような形の中、ファーギーの片方の手はつかまれ、もう片方は体ごとそのブクブク太った腕にはさまれて振り回せない。こうなると、頭か足でも使って暴れるしかないのだが、おかしなことにこのデブに抱えられると思うように力が入らず、ファーギーはただその手から逃れようと激しくもがくだけだった。
「ふふん、何だお前?自分の身の危険に興奮するタイプか?ドMだねぇ」
「うるせー、変態野郎」
首筋の後ろから顔を近づけて囁くグリフに罵声を浴びせるが、いまいち迫力が足りない。というか、なんだろうか?本当に身体の力が抜けてきてないか?
「ちょっと、2人ともじゃれてないで話を進めようよ ……どうやってそんなゾンビを用意したんだい?」
「気が付いたらそこにいた。いや、本当だって。信じて。」
まだもがくファーギーを抱きすくめながら、おどけて返すその姿から答える気がないなとフィンは判断した。
「それじゃ、あと1つだけ。女ボスを確保、とか言ってるけど。言い方からすると要するに誘拐して監禁するってことだよね?そんなことをする意味、あるのかなぁ?」
暴れるファーギーの体の反応を楽しんでいたグリフは、フィンがするその質問を聞く中でだんだんと表情が一変していく。
それは恐ろしくておっかない、あまりみたいとは思わない兄の顔だった。
「いいか、フィン。俺のすることに意味はある、すべてにおいてな。」
表情は人間の顔がはがれおち、いつもは決して表に出すことはない、隠されていた獣の如き凄惨さが影という形であらわれてくるようだった。
「ここには普段、笑顔であいさつして、世間話する。そんな町の奴らがいる。顔も知らないクズ共もいるがそれはどうでもいい。そいつらが今夜じいちゃんでパーティするっていってる。俺達のじいちゃんで、だ。これを許せるか?許せるわけねぇだろうがっ」
次第にドスの利いた低い声になって、自分に向けられたわけではない殺意は一陣の風のように漏れ出てフィンとファーギーの体を通り抜けていく。
(ああ、やっぱり。怒ってるんだ、滅茶苦茶に)
その恐ろしい兄の様子に、なぜかフィンは心が休まる気がした。
「知っていたか、フィン?その女、あの女は死霊術師だ。皮肉だよなぁ。探した相手が向こうから寄ってきて、こっちを邪教のパーティのメインにわざわざ俺達を選んできたわけさ。笑えるだろ?笑ってやろうぜ、これから俺達で」
うぅ、ファーギーの口から熱い吐息と共に苦痛も混じった声が漏れ出す。
いつしかおさえつけていた腕には力が入り。その手首を、体を、締めあげて苦痛が身体を駆け回り始める。その腕の先にある指は舌の上で味わうかのようにゆっくりと、美しい曲線を描いているファーギーの腹部をなぞっていく。
「俺達を爺ちゃんと一緒に皿の上に盛りつけようとした全員、ゾンビ共の胃の中に放り込んでやる。生きながら肉を裂かれ、血をぶちまけ、中身を貪り喰われる。そんな地獄に俺達から招待してやるんだよ。」
遂にその指は腹部をこえて胸へとたどり着くと、強い力でそのふくらみを掴む。
感じていた不快感は別のものへと転じてファーギーの体の中を這いずり回り、あげていた罵り声はやんで必死で熱い息を吐き出すことしか出来なくなっていた。その変化を彼女はわかっているのだろうか?
「そしてあの女、あいつはゾンビにはやらん。俺が、俺達がもらう。生きて血肉を貪り喰われる恐怖が優しく思えるほどの未来を用意してくれるわ。」
(俺がって。どこの大魔王さまだよ、この人は)
ちょっと呆れながらも、めずらしく本心をむき出しにする兄の姿にフィンは嬉しく思った。
いいだろう兄ちゃん、それに時間もないと言ってたしね。
「わかったよ、それでいこう。でさ、そろそろ目の前でいちゃつくのやめてくれないかな?真面目な話ができないじゃないか。」
「あれ?そうかな」
「そ、そうだ。はやく、はやくこれ。放せよっ」
すこーしとろんとしかけた目とか、いってるわりに言葉に力がないとかあったが、ファーギーはようやく言葉を話した。
グリフの顔はすでに元の仮面が戻され、なにやらいたずらっぽい顔と変な手つきでファーギーの体を使って遊び始めている。
「んー、なんならここで決戦前のお約束の一発やってくかい、フィン君。昔の人は言ったというぜ?男が戦いに出る前に、戦いで敵を殺しつくした後にっ。女を抱くのは、それとーぜんのことってさ。このおにーさんとおねーさんでやさしーくリードしてあげるしさ。どうよ、記憶に残る思い出の一ページに。」
「断る。人生最後の一ページにそれは最悪だ。」
間髪いれずに即答する弟を横目みると、ようやくぞんざいにグリフはファーギーを解放する。
「さて、それでは諸君。反撃の時間だ。」
よかったら読後に感想などをお願いします。
励みになりますので。




