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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
29/36

暗転

なんだかだんだんやりたい放題になってきた気がします。

そんな6章も次が最後。

「お待たせしました。皆さん。」


 それぞれが沈黙していた牢屋の前にシーザーが男達を引き連れやってきた。

牢の中のフィンとファーギーは一斉に立ち上がる。


「今夜はあなたのために特別に用意しましたよ。ドラゴンスレイヤー」

(まさかおじいちゃん!?)

 フィンの中の危険信号がひと際高くがなり始める。

こいつら、そういえばなにやら邪神を崇めているんだった。


「なんだよ、おじいちゃんに何をする気だっ!誰が許すかっ」


 カッとなって格子を突き破らんばかりの勢いで声を上げる。そんなフィンをみて愉しそうにわざわざ目の前に立ち顔を近づけるとシーザーは


「怖くないぞ、少年。ドラゴンスレイヤーの孫といっても、力がないから爺さんを守れもしない。口だけってのは、残念だな。」

「兄ちゃんが、グリフがこれを知ったら許さない。お前等死ぬぞ」


 ギリギリと歯を食いしばる。


「自分がダメならお兄ちゃんがってね。かわりにやってくれるといいな、お前はそこにいるだけだが。」


 態度がムカつく、そのさげすむ目がムカつく。なにより今スグこいつをぶちのめせない自分に腹が立ってきた。


「でもまだ見つけてないんだろ、グリフを?」


 しぼりだすようにいうフィンのその言葉を聞き流すとシーザーは男達に手を振って合図する。

 牢のカギが開けられる間も、ケイン老はそれを気にしていないというように目を伏したままじっとすわっていた。それはフィンから見て、諦めて自分の運命を受け入れたようにも見えた。

(おじいちゃん、諦めるなよっ)

 フィンはそう声をかけたがったが、今の自分の非力さを思うとその言葉の無力さに唇をかむことしかできない。



「あなたは御隠居もお兄様もまもれなかったのですよ?」

 あの時のエリーが自分に行った言葉を思い出す。

「あなたが綺麗に終わらせていれば、グリフがわざわざ出ていくことはなかったのでは?」

 わかってる、わかってるんだよ。

 それができないからこんな目にあってるんだって。



 ケインはたいした反抗も見せず、牢から連れ出される。そして両の脇を鎧で武装した男達に抱えられる様に引きずられて部屋から出ていってしまった。竜殺しといっても、それも遠い昔の事。今の彼になにかするという考えはなかったようだった。


「可哀そうだが涙あふれる老人と孫の感動の別れはナシだ。でも気にするな、きっとお前のお兄ちゃんがなんとかしてくれるさ。」


 抵抗を見せない老人の後ろ姿に頭に血がのぼるのを我慢していたフィンだったが、それにも限界がある。シーザーの嬲る(なぶる)ような言葉についに体中の血が沸騰するのさえ感じる。

 それをムカつく笑みを浮かべて見ていたシーザーはくるりと身をひるがえしながら


「まぁ、そう怒るなよ。今からお前にもいいものを見せてやるからさ。」


 なにがいいものだ、そう言おうと思ったが急に頭の中で冷静になれともう一人の自分が怒鳴りだす。


なんだ?なにか見落としたのか?


 それはすぐに分かった。来たのは10人近かった悪党面の男達は、じいちゃんを連れ出した2人を置いてまだここから動こうとしていないことに。

 なんだ?まさか!?嫌な予感がした。

 ファーギーの牢の前に移動しながらシーザーはニコニコと極上の笑みを浮かべていた。


「やぁ、お嬢さん。おぼえてくれてるかな、酒場にいた君に声をかけたんだけど?」

「はぁ!?誰だよ、お前。」

「あらら、忘れられちゃったか。残念。」


 わざとらしく肩を落とすと、涙をぬぐうふりをする。他の男達もそれを聞いてゲラゲラ笑っている。


「でもこうしてまた君に会うことができて………まぁ、ちょっと変わった場所ではあるけどね。嬉しいよ。」


わざとらしく周囲を見回しておどけて見せる。今度も男たちは笑うがそこにはなにか黒いものを感じずにはいられない。

(おい。おい、こいつらまさか)

 その空気の中にフィンは危険なモノがだんだん濃くなってきたことを感じた。


「ライバー家の皆さんはどうするかすぐに決まったんだけどね。君に関してはちょっともめたのさ。」


 彼女のはいっている牢はフィン達のと違い、多人数を押し込める広さがあり、その中央に立っていたファーギーはゆっくりと壁際へと下がり始める。段々とこいつらが何を考えているのか、嫌でも想像できてきたらしい。


「僕としては、是非考え直してもらって。僕の新しい護衛としての契約を、と思ったんだけどね。」


 悲しそうな顔で首をいやいやしながら演説を続ける。


「アンブラがねぇ。彼女が言うんだよ。若くて美しい君に罵倒されたのは許せないって。おかげで僕の意見は却下されちゃったんだよね。」

「なにがいいたいんだよ、オカマ野郎」


 なにかを抑えるように低い声でファーギーは言った。


「ああ、それでね。ここには僕をはじめとして、君のような魅力的な女性をあまり大声では言えないような遊び方をするのが好きな連中もいるんだよ。で、そういう割とひどい連中に君をあげるってことになった。」


 フィンの中に駆け回っていた熱は一気に冷めていく。こいつ、なにをいってるんだよ!?

 いつもは威勢のいいファーギーもその言葉に顔が蒼くなる。


「そこで……ああ、紹介しよう。そこにいるディブ君。彼はこういう分野じゃ色々経験しているという豪の者でね。」


 そう言って男達の中にいる一人を指す。ディブという男は、壁にもたれてニヤニヤしていたが紹介を受けると、ファーギーを見てウインクなどしてみせる。


「彼に言わせると、どんなに屈強な女性でも。こういう趣味の連中にかかると長くはもたないんだって、知ってた?それを聞いたらさ、君みたいな美人の最後を思うと悲しくて悲しくて。あ、もちろん興奮しながらってことね。」

「うるせー、変態野郎」

「変態野郎、まぁ。事実だからね。ああ、酷いこと言われちゃった。それで……そう、これから実は爺さんをアンブラが儀式でひねり殺すんだけどね。正直言って、僕等はそういうのは美女じゃないと嬉しくないんだよ。だから時間までとりあえず、君でイケるところまでやってみようって話しになったんだ。」


 とても楽しそうなその顔の後ろにならんだ獣達の顔には嗜虐的な笑みが広がっていく。


ふ ざ け る な っ!!


 牢の中でひたすらそう心の中で繰り返していたフィンはついに我慢できずに声をあげた。

 ふざけやがってこいつら、じいちゃんを連れていって生贄にするとか言って。しかも続いてファーギーを目の前で、だと!?

 こんな屈辱的な思いをしたのは彼にとって生まれて初めての経験だったかもしれない。


「おいおい、貴族の坊ちゃんが騎士道精神を発揮して怒ってるぞー」

「そいつも混ざりたいんだよ。気持ち、わかるぜ。」

「ごめんなー、お前の分は残ってないんだよ。見るだけで我慢してねー」


 下品な笑いが起こり、口々にあざけりの声が上がる。

(ふっざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな…)

 手に持った格子を激しく揺らす。そこにカエルのように飛びつくと全体重を乗せ力を込める。ゆっさゆっさとゆさぶるように鉄の棒を引っこ抜かんと暴れる。身もだえるようなその姿は、鎖につながれた獣がのたうつ姿にも似ていた。


「やれやれ、彼は怒ってばかりだね。」


 首を振ってやれやれ、としている間にも、男達はファーギーの牢のカギを開け放つ。

 そこにするっと、シーザーは体を滑り込ませる。男たちからは歓声が上がった。

(あの野郎、ふざけやがってふざけやがって!)

 さらに激しく格子をフィンがゆさぶりをかける。


「さ、お嬢さん。まずは僕からだよ。この後に待ってるのは外にいるムサイ顔の奴ばかりだ。」


 ここで男達から反論のブーイングが楽しそうに上がる。


「失礼諸君。本当の事だ。だからせめて…最初くらいは僕がいい夢みせてあげてもいいんだけど?」


 ファーギーはすでに牢の奥へと下がり、腰を落とし拳を握って油断なく相手を睨みつけている。といっても、結局相手がその気になって数で来られては今の彼女が素手だけで対抗などとてもできない。もはや時間の問題ともいえる危機であった。


「ふざけるなっ、このボケ共がぁっ!!」


 渾身の力と声を振り絞ってフィンはまだ暴れるのをやめない。

 シーザーとファーギーに声をあげる者たちの中にも冷静なモノたちはいた。そいつらの目が少し驚きで目を丸くする。フィンの牢の格子が今ぐらついたように見えたのだ。そして今もフィンは格子にへばりつくと体を打ち続けながら、可能ならば自分を縛る拘束を振りほどかんとのたうちまわっている。それを受け、鉄の格子もあり得ないほどはっきりとギシギシと軋む音がする。

(ドラゴンススレイヤーの一族、もしかしたらやるかもしれない)

 そう思うと、このまま放っておくわけにはいかなかった。



「おい、坊主。まぁ落ち着けよ。」


 一心不乱に格子を相手に暴れているフィンに声がかかる。


「どうだ、お前。チャンスがほしくはないか。」


 その言葉にようやく、暴れるのをやめるフィン。


「俺がお前を出してやるよ。騎士様。頑張って暴れれば、もしかしたら彼女を救えるかもしれないぜ?」

「なんだよ、ディブ。女よりガキがいいのか?」

「最初を譲っちまったら、ムラムラしていけねぇ。ちょっと俺と遊ぼうじゃねぇか。」


 フィンの血走った眼の前に平然と自分の顔を近づけて煽ってみせる。


「まずは俺からだ。どうだ?そこで彼女を俺達が楽しむ間そうやって暴れてれば満足。誇り高い騎士ならそうじゃねぇだろ?」

「すぐ開けろ、お前ら全員ぶっ殺す!」


 すぐに何かが爆発しそう、そんな目をしてフィンは吠えた。


「ああ、いいぜ。さすが貴族。そうでなくちゃな、騎士様は女性のピンチを救うものさ。」


 そう言うと


「シーザーさん。そういうわけでこっちも楽しんでイイっすよね?」

「おいおい、これから僕のショーがはじめるってのに。そっちも我慢できないってどうなんだよ。いいよ、こっちはじっくりと時間をかけるから。とりあえずそっちで盛り上げてよ。」

「そうこなくちゃ」


 そう言うと手で合図する。ディブの手に鍵が投げ渡された。



(全員ぶっ殺す)

 祖父を連れて行かれ、目の前で女性を嬲るなどと宣言して笑っている奴等にフィンはそれしか考えられなかった。

 それは慢心といってもいいだろう。

わずか数日前、初めて自分の力を理解し。ようやく慣れというものをわかりかけた彼の失敗。

 それはすぐに形となって表れる。


 手早く牢のカギを開けられると、ディブは一つ後ろに下がる。

(出て来いってか)

 いいだろう、すぐに目にも見せてやる。

 そう思いながら、フィンはかがむと小さい出口に体を潜り抜けて外に出ようとする。

その瞬間だった。

 ディブは素早く接近して、無防備に体をかがませているフィンの襟首をつかむと激しく音を立てて格子に叩きつけた。

膝をつく態勢で叩きつけられ、体中を痛みが駆け抜ける。

(やばい、これはっ)

 自分のうかつさ、冷静さを失っていた事に気がつくがもう遅かった。

押し戻されると、再び格子に体を叩きつけられた。痛みが顔を中心にあちこちから伝わってくる。

 続いて下腹に衝撃が襲った。無様に押しつけられたフィンの体に拳がめり込んだのだった。


 僕はバカだった。

 自分が入っていた牢のドアは小さく、体を屈まないと出られない。

その事にこそ注意が必要だったのに。煽られたことで、すっかりそのことを忘れていた。

 鈍い痛みで自分がいきなりミスをしたことを理解したが手遅れだった。

「さぁ、可愛がってやるぜ。」あわててなんとかしよう、離れようとするが相手の力は想像以上に強くしっかりと掴まれて無理だった。

 ヤバイ。でもこれ以上何ができる?

 フィンは心の中で兄にあやまった。

ごめん、兄ちゃん。どうやらまたぼくはしくじったらしい。悔しくて悔しくて、でもどうにもできないでいた。


 遂にフィンを牢から引きずり出された。あとは転がしてその上へと馬乗りになるだけだ。その後は拳を、フィンがピクリとも動かなくなるまで何度も振り下ろされることになるだろう。

 これまでも荒事に携わってきた男の拳である。甘さなどない。この態勢で10発もパンチを繰り出せばいくらフィンでも殺されてしまう、そんな拳をふるうのだ。

屈辱と怒りで数発は耐えることはできるかもしれない。だが、それも限界がある。

(殺すのはまずいらしいから、たっぷり可愛がってやるよ)

 掴んだ胸ぐらでフィンを振りまわすと、勢いよく頭突きを入れる。

「どうした坊主。元気がないなぁ」

 転がるように倒れ込むフィンに声をかける。

さぁ、フィニッシュだ。


 男達は勢いよくぶちのめされている少年を見て興奮した声をあげる。

これは前菜だ。

 今夜はどこもかしこも豪勢な獲物の料理でいっぱいだ。

 シーザーは男達の熱狂を横目に笑う。

 この娘は言ってみればワインだ。今は目で味わい、舌で転がすまで我慢しないと。

 メインは今頃、アンブラの手によって調理にかかっているころだろう。


最高だった。


 転がったフィンの上になると、ディブの目はよくフィンの顔を焼きつける。

 そこにある怒りとそれが晴らせない不満が、そしてなにより悔しさに歪む表情がたまらない。

(ほらよ、たっぷり味わいなっ)

その顔に1発。

そして2発目

フィンの腕は突っ張り、ビクンと体が波打つ。

3発目、ついにその目から光が消えたかに見えた。

 だが、ディブの中ではこれでやめようと気はかけらもなかった。確かに殺してはまずい、でも死なないならそれでいいんじゃねぇか?

(あと2発ってところか、それくらい大丈夫だろ)

 あっさりそう考えると続く4発目


ドンッ!


 突然、彼の後頭部に衝撃が走ってその勢いでふり下ろした拳の狙いがずれてしまう。拳は地面にめり込み岩にぶつけられた激痛が走る。

(痛ぇ、誰が邪魔しやがった。もうちょっとイケそうなのによぉ)

 激痛に顔をゆがめながら体を起こす。


 その直前までディブに声援を送っていた男達は驚きで凍っていた。

つい一瞬前までのあの熱気はどこに行ったのだろうか?

 それは今のディブの姿にあった。


ディブの後頭部には手斧がいつの間にかニョッキリと生えていたのだ。

 違う、そうではない。

 少年を組み伏せ、仕上げにかかった仲間に大喜びしていた観衆の頭の横を凄い勢いで飛翔する手斧が通り抜け、吸いこまれるように彼のその後頭部へと突き立っていったのだ。

 誰が邪魔をした?

その事実に思いつくと、男達は慌てて振り向く。


 そこに立っていたのはグリフだった。

あの罠にかかって以来、姿を消していた最後の1人がなぜかそこに立っていたのだ。

 片方の手はなにかをなげたそぶりをみせており、反対側の手に同じ形の斧を持っている。その顔は服は、誰のものかは分からないかなりの量の返り血がついている。

そして

そして笑っていた。

 とても暗く、その目の奥には燃え上がる炎が見える。それはとても恐ろしいものに見えた。

やっと来ました。やっと言うこと聞いてくれた感じです。

ということで、次回も暴力バイオレンス多めに頑張ります。


よかったら感想等、頂けると嬉しいです。

励みになりますので。

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