囚われたそれぞれ
片方が暴れる中、もう片方はってお話。
同じ洞穴の深い闇の中、怪人が静かに反撃の血祭りに狂い始めた頃。
彼の仲間-祖父、弟とその護衛は仲良く牢の中へと放り込まれていた。
フィン達が放り込まれた牢屋というのは、洞窟にできたでこぼこな部分に格子でしきって空間を作った簡単なものだ。そのためだろうか、そのほとんどは1人はいれば動ける部分がほとんどないという大変窮屈な大きさだった。
ケインとフィンはそこへそれぞれ1人ずつ入れられたが、ファーギーはそれを嫌がるとなぜかすんなりと数人が余裕で入れる広さの空間がある大きな牢へと入れられた。
その間、休むことなく罵声の声をあびせていたファーギーだったが、男達が仕事を終えさっさと部屋を出ていってしまうとさすがに黙り込んだ。
これはもう、覚悟を決めないといけないかもしれない。そんな状況であった。
1人は捕まらなかったが、どうやらむこうにはそれも想定内のことだったらしいし。なにやらこちらに対してやたらに強気だったのが気になった。というよりも、今の自分達の有様では気にするしかなかった。しかしそれは同時に、彼等の心に恐怖がゆっくりと忍び寄ってきていることの証でもある。
3人は互いの牢の中で口を開くこともなく、静かに黙り込んでいた。
ケインは、さっきからここにいた信者らしき連中の中に、ガリランドの町で見たことのある顔がちらほらあった事に気が付いていた。
どうもこの騒ぎは奴等の念入りに計画された罠だったようだ。
家の者達が異変に気がついたとしても、きっとここにたどりつくのは難しいだろうし、もしここまで来たとしてもそれまで自分達が無事でいられる可能性は少ない。
なんということなのだろう。自分の思い付きが知らないうちに孫達をこのような危険な罠の中に放り込んでいたなんて。
これが自分の望んだことなのか?あの夢はこの運命を伝えるものだったということか?
そう思うと、この老人はここにきて激しく打ちのめされていた。
もしかしたらあの夢はひょっとしたら自分の勘違い、老人の見た夢、妄想と最初に切り捨てた孫達の言うとおりでしかなかったのかも。
昔の自分も傭兵時代には色々な事を見てきたし、きりぬけてきたはずだった。なのにこの危険にはまったく役に立たなかったではないか。
見て見ろ、老いぼれ。気が付いたら、フィンが、少女が、自分と一緒に牢屋にぶち込まれている。そしてグリフは行方不明、捕まえたのは邪教の教団。どう考えても望みは薄かった。
まだ体が動いて若かったころの自分であればここから打つ手の一つや二つはあっただろう。だが今はすっかり老いて役立たずのお荷物だ。
だからといってこのまま諦めて連中の好きにさせるわけにはいかない。
もしチャンスがあるのなら、自分が犠牲になってでもこの子らを外に逃がしてやらなければならない。老人の中でそんな密かな決意がなされていた。
ようやく一息ついて冷静になると、ファーギーもようやく理解してきたことがある。
久しく忘れていた感情、恐怖である。
当の本人は気が付いていなかったが、もうすっかり一杯一杯だったりする。今だって必死に落ち着こうとしているが、そうしなければ獣のように荒い息を吐いてぐるぐると牢の中を歩いて、格子に飛びついてわめきたいはずだ。
深く考えないよう、気を紛らわせるつもりで壁や床に逃げ道はないかとさがしてみたりもした。だが、そんなものがあるわけがない。むしろ血や爪のかけらといったものや引っかいた跡らしきものを見つけただけで余計に気分が悪くなってしまった。
仕方なく今度は記憶を振りかえって気を紛らわせよう考える。
なまじ目と耳が良かったせいもあるが。さっきの偉そうなイカレた女の後ろにある祭壇には血のこびりついた短剣があったし。その向こうには血にまみれた服があったのが見えた。多分あれは女性ものだった。となると、自分の運命の行く先も見えてくる。
そんなのは絶対にお断りだ。
だが、だがどうすればいいと?
確かにあの良く寝ていたデブは捕まらなかったが、あいつがここまで助けに来てくれる?
ここにはあいつの弟もじいさんもいる。あるかもしれない、でも自分は?
ただの他人だ、寝たわけでもない女のために騎士道精神を発揮するようなタイプにも見えない。まったく、こうなることがわかっていたならこの数日の間にでもじいさんかガキをたらしこんでおけばよかったのに。自分のうかつさに唇をかむ。
いや、そもそもあいつらのいい様を聞くと追い立てられたデブはそんな事を考える暇もなく逃げ出す、ということも考えられる。血がつながっていると言っても人間、自分の命が大切だ。見捨てるだろう。
つまるところ、自分の未来はどの道詰んでいるのである。
面白そうとおかしい貴族についていった後のこの数日間がどうやら神様ってやつがくれた、自分にとって最後のご褒美だったらしい。
いい酒、風呂に入り放題、悪くない料理はただ、メイドが下賜づく。確かに自分のような女にしたら夢見たようなおいしい生活であった。
なんだろう、そう思ったら鼻がツンとした。
まさか泣きたいのか?このあたしが?
そして思い出す、あの夜のことを。あの仲間だった奴等を。
「はァ!?お前が傭兵だと?」そう言う顔は驚いたというより呆れたといった風だった。
そして同時に周りの男共が一斉に笑いだす。それは嘲笑。
「おいおい、勘弁してくれよ。」「もっといい方法があるぞ、路地に立ってみろ。お前ならあっというまに小金を持った連中が列を作るさ。」「ははは、そりゃいい。”使えなく”なったらそれで稼がせてやろう。」その言葉に”女達”は誰も言い返せなかった。
まだその顔に幼さが残るファーギーもまた、怒りに震えていた。
その手にそっと伸びてきた手が包むように―
嫌な過去だった。そしてきっと最悪の最後をあたしは迎えるのだろう。
フィンも最初はファーギーがごそごそしているのを見て、なにかないか、どこかに抜け道はないだろうか、とあたりを探ってみたがなにも見当たらなかった。
早くもやれることが尽きてしまい、どうしようと考える。
自然、さきほどの自分の姿を思い出していた。
「言っとくが、次やったら殺す。」
そして、顔の中央に叩きこむ肘先からの衝撃。十分な手ごたえがあった。
ふらふらとよろめき倒れる男。自分に向けられた刃の数々になぜか動じなかった自分。
そして、「行け」とうながされ歩き出す中。動かなくなったその体……できたての死体の横をじっと見つめながら通り過ぎる。
(怖くないな)
改めてその時の事を思い出し、その時の感想をもらす。
怖くない?本当に?ただ場の異様さにのせられて大きな気になっているだけではない、と?
(酒場では無様だとさんざんいわれたのに)
数日前の酒場で暴れたことを思い出す。うっかり、相手を殺し。殺し合いになってしまった。そのことに泡を食って、冷静さを失った自分。
寝込んだ後で何かが変わったのだろうか?
(もしかしたら)
そう、もしかしたら次はもっとうまくやれるかもしれない。
それはどう考えても今の状況から、現実逃避を加えた妄想といってもいい現実味のない考え方ではあった。それなのに、彼は本気でそう考えていた。
ある意味において、この場所で彼だけが一番ポジティブであるといえるだろう。
いや、単に馬鹿であるという可能性もないわけではないが。
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