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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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その頃

冒頭、前々回にもどってます。

「わかってる。」


グリフは弟に淡々とそう返す。手荒な目覚めではあったが、不思議と感情は何も乱れることはなかった。。

 ああ、やっぱりそうか。そんな風にしか思わなかった。

これは罠で、これから敵の攻撃が始まる。どうする?先制攻撃を受けた後で反撃するか?

 世界が徐々に傾いていく。

 ファーギーが、ケインが、フィンが。慌てながらバランスを取ろうとしているのがわかる。だがそんなことは出来はしないだろう、無力だ。

 しかし、周りがそんなでも自分だけは変わらない。

 ただ席に座って、動かない。微動だにしない。

あっちこっちにといよいよ叩きつけようと暴れはじめるが、グリフの大きい体は不自然に座った場所からピクリとも動こうとはしなかった。

 この感覚は地面の下へと引きずり込まれているようだ、もうすぐこの箱もそこに飲み込まれる、そして衝撃が襲うはず。

 世界は暗転するーー


 そして暗転したままになった。


 あれ?

来ると思った衝撃がない、おかしい。


「あれ?」


 今度は声に出して見る。声は出ているようだ。

 でも今度は誰も反応がない。というか、人の気配が全くない。

 ここにはフィンも、ケインも、ファーギーもいない。

居るべき人々が消えたことが自分にはわかった。

なぜ?

 考えるまでもない。そういうことなのだろう。


 試しに座ったままの自分の姿勢を見てみる。

真っ黒だ。なにに座っているのかわからない。自分のまわりも黒くてどこになにがあるのかわからなくなってる。

 両足を伸ばし立つ試みを始める。足の裏に地面の感触はずっとあった。なにかはわからないが座っていたものからも尻を上げる。


ふむ、立てるな。


 試しに座っていたあたりに手を置こうとするが、ひらひらと宙をつかむだけで自分がさっきまで座っていたものはなぜかなくなっていた。



 ここはあの”約束の大地”

 19人の神々の遊び場

 素直にそう認識した。理解できたのだ。



 それは劇的な世界の崩壊であり、一新だった。

暗闇に囲まれたそこはガラガラと音を立てて崩れていくと隠れていたものが姿をあらわす。

 天頂に一本の白い線によって分けられた空が昼と夜とを分けている。

すがすがしくも冷たい空気が肺に入り込むのがわかる。

 山があり、森があり、川があり、生きモノがいる。

だが、これはいつも目にするものとは違うのだ。

 ここにいるのは現実の動物のようにふるまう、気持ち悪い存在達。


 なにもかもが反吐がでるものばかりの風景を、彼は再び目にしていた。


「お前をここへと招いたのは私だ。」


 後ろからぶしつけに声をかけてきたものがいた。

グリフが向けた視線の先にいたのは、あの恐ろしい女神のモリガンだった。

 以前、アンブラの前に現れた時とはその姿は違う。不思議な鈍い輝きを見せる紺色のドレス。髪は大胆に巻き上げられ、銀のティアラがまさに女王と呼ばれるにふさわしい風格を感じさせる。

 だがその神々しさもグリフの目から見ると違うらしい。

(パーティ会場でも行くのか……)

その程度の感想だった。



 なにも答えないグリフを興味もないと言わんばかりにねめつけながら、モリガンは勝手に話を進める。


「今、お前は”この場所”にしか存在しない。」


つまり、今頃フィン達は自分がいなくなったことを知って慌てているということか。面倒な事を。

 女神はそんな”人の都合”などどうでもいいらしく、鋭い視線を向けてくると


「しばらく会わない間に、おもしろいことになっているな。グリフター」


 その名前で呼びかけられるとグリフの顔にはそれまで多少あった感情の揺らめきはなくなり、ただモリガンの姿を目に移したまま動くことも口を開くこともしない。


「いいだろう、知っての通り。私は”お前にだけ”は興味がない。他の連中のように馬鹿騒ぎの遊びに参加するつもりもない。」


 一歩一歩、踏みしめるように歩きだす。そして美しいラインを描く顎をくっと動かしてついてこいとグリフに合図した。



「お前は今回の事、賢者から言葉をもらっていたのだったな。」


 森の小道を2人は縦に並んで歩いている。


「その言葉はまさに金言といっていい。それをまた踏みにじる、か。相変わらずの愚か者め。バカだのアホだのというのもそこまで行くと褒め言葉にしかならん、狂っているな。」


 女神にそう評されても特に興味なさげにグリフは森の中へと視線をやる。

 雌鹿が、じっと2人を見ている。

(だが、あれは本物ではない。)

「そんなお前を見て馬鹿共はまた大喜びするだろう。まぁ、よい。最初に言った通り、私はお前を呼んだのは別に話があったからだ。」


 道の先はいつしか小川のそばへとつながっている。


「それはなにか?簡単だ、呼んだのは馬鹿にこの私が哀れっぽく縋りついて願いを聞いてもらうためだ。」

「よくわかりませんね」


 ようやく答えた声は暗い


「そうか?お前もあの女と同じようにバカの振りをしたいのか。そんな奴はたまにいるが、愚か者同士が出会うとなると、どんな喜劇が始まるか興味があるな。」

「………」

「話すのは嫌か。いいだろう、早く終わらせよう。」


 滝の音が聞こえてくる。激しい水音だ。


「お前の前に立ちふさがるのは我が下僕達だ。そのなかに性質が悪い女がいてな、最近私から多くの知識を引き出していった。」

「そうですか。それがどうだというのです?」

「なんだ、冷たいな。ようするに少し与えすぎた、ということさ。そいつらとこれから出会うお前には、そう。”私”は”期待をさせてもらう”、そう言っておく。」

「あんたの期待、裏切られるかもしれません。」

「そうかもな、だがお前のような男にそのつもりはないのだろう?」


 返事はない、口にしなくても当然だとでも言っているようだ。

女神は歩みを止めると振り返る。


「わかるな?トボケても駄目だぞ。お前にふさわしい、神が食い散らかした残飯の後始末をやれと女神さまが醜い貴様に直々に申し伝えているのだ。光栄だろ?感謝しているか?震えながら喜びの涙は?足元にひれ伏し、キスしてもよいのだぞ?」


 グリフは黙ったまま、表情ひとつかえることはない


「そうだな、どうでもよいか。」


 モリガンは天を仰いで大きく伸びをする、息を豊かな胸に入れるその姿は本当にただの人間の女性にしか見えない。


「余計なことだと思うか?しかし、こうしなければお前はきっと死ぬよりもっとひどいことをあの者達にするかもしれん。私にはそれがわかる。これでも神だからな。そして……それは私にとっても不都合。そういうことだ。」


 再び体をグリフへとむけると


「それでは返事を聞かせてもらう。」


 そういう姿は神々しいまでの美しさを放つが、反対にその目は誘い込むようないやしい輝きに満ちている。そう、まるで求めるならばいますぐにでも全てを与えるとでも言うように…。



「あんたは自分の契約した相手が邪魔になり。始末したいが自分の手を汚せない。なのでたまたま近づいてきた俺を使うことにしたが、性格的に素直に言う事を聞くとは限らない。

 だから、わざわざこの瞬間に俺を呼び寄せ”お願い”をした。

 いいのですか?あなたのやりようは強引以外のなにものでもないですよ?」

「私は神だぞ。そのくらいは人間と違って、おまけしてもらうつもりさ。いつものように、な」

「こんな介入すればむこうも気づくかもしれない。抗議されるとまずいのでは?」

「ほう、それを狙ってお前は下僕に時間をやると、やさしく待ってやるというのか?家族を放っておいて?」

(よくいうよ)

 どうやら敵はこの女神からよほどのものを受け取っていったらしい。


「あんたの希望は聞いた。だが約束はしない。俺が言えるのは以上だ。」

「それでよい。では、とっとと戻るがいい。ここに長居はしたくなかろう」


 すぐにグリフは踵を返すと歩き出す。

一歩

二歩

三歩目を踏み出した時に大きな体の男の姿はこの世界からはかき消えていた。

 それを確認すると、再びモリガンはどこかにむかって歩き出した。



 自分の目が、まぶたが閉じられている事がわかったので開く。

相変わらず暗い闇の中に自分は立っていたが、先ほどとは違うところもある。

 つぶれかけ、ひっくりかえった馬車の残骸が目の前にある。どうやらここは暗い部屋の中のようだった。

(戻ってきたのか)

 もしかしたらまだ悪夢の中にいるのではという思いが少しある。


ガチャ


 足のつま先に何かがぶつかる。見るとそれは、あのファーギーの愛用の2本の手斧だった。

 グリフはそれを拾い上げ、手に持つと軽く振ってみる。

(さて、あれから時間はどれくらいたった?まぁ、あの邪神様が関わっているんだ、こっちの全てが手遅れということはないだろう)

 鼻をクンクンと犬のように嗅ぐ。

普通の人間ならば、そんな匂いでわかるはずがないのだが。

この先の方向から人の気配があるのを感じた。まずは”そこからあたってみよう”か。

ということで、反撃の狼煙が上がるのもあと少しとなりそうです。

それではまた次回。


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