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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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悪い予感

いよいよ4章最後になります。

 再び洞窟の祭壇の前にアンブラは立っていた。

今回のアンブラはあの時とは違い、黒いローブを身に着けている。

 他に前回と違うところはないかというと、部屋の中には新たにかなりの大きさの石棺が2つ運び込まれ祭壇の前に置かれていた。

 その彼女が目で合図を出すと、次に起こったのはどこにいたのか部屋の中に次々と人が入ってくる。彼等は同じようなローブで顔を隠しており、それぞれが口を縛った皮の袋を手に持っていた。それをアンブラの前に来ると足元に置いて部屋を出ていく。

 次々と並べられていく袋はまたたく間に列をなし、その様子をアンブラは間違いがないかどうかとじっと見ているようだった。全ての荷物がそろったのか最後の1人が部屋を出ると、アンブラはまた誰かにむかって合図をする。すると、どこからともなく石が重々しくずらされるような低く引きずるような音がすると、ひと際大きな音をたてすぐに静かになった。

 たぶんこの部屋の入り口を閉じたのだろう。


 アンブラはその中に1人残ると、何事かをむにゃむにゃと呟きながら集中を開始する。

それは前回と違い、普通の魔法を使うための予備動作のようであった。

 口の中で抑揚のない言葉が次々と紡ぎだされているがそれが何を言っているのか、はっきりとは分からない。

それは時に高い音になったり、低い音になったりして変化する。


するとどうだろう。

目の前の石棺がゆっくりと宙へ浮かびはじめた。

左右に浮かぶ2つの石棺を結ぶ線があるとしたら、その真ん中めがけてアンブラは自分の手をかざしてゆっくりと上げていく。

 それにあわせた石棺が上昇を止めるころには、アンブラの額には玉のような汗が浮かんできていた。

この時、口から流れていた言葉が終わると薄眼を開け、宙に浮いている棺を確認する。

(いいだろう、次)

 そして、自分の前に並んだ袋へもう片方の手をかざす。

新しい言葉が再び口から流れ出てくる。

すると、今度は並べられた袋の方角から音がした。


パサリ


それは一つだけにはとどまらず、つぎつぎときれいに並んでいる袋の中から音がする。音がした袋は、みるみるそのふくらみをなくしていくとまるで最初から何も入っていなかったというように、力なく床へとくずれていった。

 そうした事がしばらく続く。

 しばらくして、床にはカラになった袋だらけになるとゆっくりと宙に浮いていた石棺はその高さを下げはじめた。

(完成したか)

 床に降りた2つの石棺を見てアンブラは満足そうな笑顔を見せていた。



 仕事を終えたアンブラが、床に散らばっていた空の袋を集めていたところ、先ほどの重々しい石が引きずられる音がすると部屋の中にシーザーが入ってきた。

 彼はアンブラがちょうど仕事を終えたところだと理解すると、近づいてきて笑いかける


「アンブラ、聞いてくれ。面白い事がわかったぞ。」

「あら、なにかしら。とても嬉しそうね。」

「ああ」


 ほんとうに嬉しいらしく、口の端がはねあがる。


「獲物の情報が入ってきた。」




 それまで彼の話をだまって大人しく聞いていた彼女だったが


「なんですって!?}


 何かを聞いて思わず驚いた声がアンブラの口から飛び出す。

その姿に満足そうにシーザーが笑う。


「そう、俺も驚いたよ。だが、間違いない。ライバー家は理由は分からないが死霊術師を探している。魔術師ギルドはそれを聞いてパニックになっているそうだ。」

「なぜ?理由は?」

「はっきりとは言わなかったらしい。まぁ、魔術師達も怪しんだろうし。全てを明かさなかったんだろうね。」

「いつ?」

「あの日の朝の話だそうだ。」


 アンブラは顔をしかめる。なんだというの?この感じは。


「まだあるんだよ。」

「まだ?」

「ああ、なんと最初に酒場で選んで目をつけていた女がいたのを話しただろ。そいつがそのライバーの家に今、転がり込んでいる。」

「あなたが酒場で声をかけたという?」

「そう。ま、あの連中のおこした喧嘩騒ぎのせいでチャンスを逃してしまったけどね。」


 アンブラの中で生まれた不快感はみるみるうちに大きくなっていく。生贄に選んだ両方が一緒にいる?しかも彼等の片方は死霊術師を探しているとか。

 なんだろう、まるでお互いが引き付けあっているかのようだ。



 アンブラはついに黙ってしまった。

 冷静に、頭の中でこの不快感の、違和感の原因は何かを探ってみる。

 このガリランドに姿を隠して根付いているのは、死霊術師アンブラを中心に存在している”暗き神々”の一柱。モリガンを崇めるいわゆる暗黒教団。

 この存在は公にはまだ知られていないはず。

 衛兵だけではない、教会にも魔術師ギルドの中にも信者はいるので何かがあれば情報はみんなはいってくる。

 向こうは知らないが、このあたりにいる死霊術を使うのは自分くらいしかいないので、多少は動いてもばれるようなことはなかったはずだ。なのに、おかしい。

なにがおかしいかわからないが、なにかおかしなことがおきようとしているような感じがする。


「シーザー、そういえば一つあなたに聞いていなかった事があるわ。」

「え?なんだい急に」


 アンブラが期待通り驚いて満足していたシーザーだったが。その後、黙ってイライラしはじめた彼女の態度にどうしていいかわからなかった。それが突然、自分の方へとむけられてきて少し怖くなった。


「私に隠している事、あるんじゃない?」

「俺が?ないよ。あるわけないじゃないか」

「本当に?」


 参ったな、何なんだよ。

彼女のこのしつこさには、時々ではあるがうんざりさせられる。

 きっと魔術師というものの性分なのだろう。どこか浮世離れしていて、疑い深い。

 そんな彼女に振り回されるのは嫌いではないが、こうしてなにも言わないのに追及されるのは気分のいい話ではない。


「本当さ、一体なにが気になるのさ。」


 シーザーの顔を見て、何事かを考えこむアンブラ。


「その女、なんで目をつけたの?」

「君が僕につけてくれた用心棒の3人の話からだ。最近、あそこの酒場でえらい美人が暴れてまわりに煙たがられているって。しばらく前に町に来て、毎日入り浸っているが男漁りでもしてるんじゃないか、と。それで流れ者だろうと思ってね、理由はそれだけさ。」

「そいつがなぜライバーのところに?」

「知らないよ、もし調べるというならもっと時間がかかる。そこまでする重要な事なのか?」

「気にならないの?」

「ならないな。貴族のところに転がり込んだのは確かに驚いたが。そもそも、女1人だったし。傭兵だったんだろ。腕か、それとも体か。とにかく売りこんだものを相手の貴族達が気にいったんだろうさ。他になにがある?」


 そもそもライバー家はこの田舎町にいる”かつての有名人”のひとつだ。彼の言うとおり、ただの偶然、そう考えるのが自然なのかもしれない。


「魔術師ギルドはどうなの?」

「困ってるってさ。教会の目があるからおおっぴらに協力していいものかどうかとね。だが、この田舎町では数少ない魔術師たちへの理解者の1人だそうだから、あっさり断って怒らせたくない。こんなところだろう。」

「私の事は知られてないのね?」

「それは大丈夫だ。この町であんたを売るような人間はいないよ。」

「そうね」


 シーザーの言うとおりだ。この田舎町で世間からひっそりと身を隠して今日まで生きてきた。

 あらゆる危険をよせつけないよう、気を配ってきたのだ。いつか誰かの手に落ちるかもしれないという恐怖に怯えて。国に、町に、教会に、ギルドに。だからこそ今の自分がある。



モリガン



 突如、あの傲慢で恐ろしい女神のことを思い出した。

 そうだ、ここしばらくであった事の中でおかしいのは彼女の事だった。

彼女は”暗き神々”の中でも善悪定まらない、ふり幅の大きいところがあるとされているではないか。あの鬨の不自然な呼び出しは、もしかしたら彼女がこの私の未来を予知したからではないだろうか?

 私と会って話しておきたいという気にさせた、そういうこと?


「シーザー、こんなことは聞きたくないけど。ひとついいかしら?」

「なんだい、アンブラ。あんたに隠すことなんてない。なんでも聞いてくれ。」

「私と一緒に女神に会った時、私は先に戻ったわ。あの後、なにがあった?」

「……アンブラ、それは。」


 シーザーの顔がゆがむ。

 そうだろうな、アンブラは思った。

シーザーをモリガンの元へと導いたのはアンブラだが、モリガンとどのような契約をしたのかはまでは彼女は知らない。また、知られるということは恥ではなく、自分の弱点を公開することにもなりかねない。

 いうなれば、無条件で命を差し出せということにも近かった。いくらなんでもいきなり「お前の命を私にささげろ」と言って言うことを聞かせるのは難しい。それに下手をしたらシーザーとの関係もこじれるかも。これは少し先走り過ぎた質問だったかもしれない。



「わかったわ、ごめんなさいね。質問を変える。あの方となにを話した?なにを語っていた?」

「そういわれてもな。おかしなことはいってなかったが。」


 ダメだ。心の中でアンブラはそう判断した。

彼はこの危険を理解していない。いくら自分が訴えても、きっと目の前に迫ってきたとしてもまだわからないままだろう。


「なぁ、アンブラ。確かにあいつらが死霊術師に用があるなんて言っているとは思わなかったからおびえるのも仕方ないと思う。だが、ちょっと過敏すぎるんじゃないか?」


 これはシーザーなりの優しさなのだろう。

今の彼女にとってはまるで役に立たないものだが。


「そうね、驚いたものだから。ごめんなさい、シーザー。」

「それじゃ、予定通り進めてもいいよな?」

「まかせるわ、こちらも用意は終わった。あとは時間が必要なだけ。」


 それじゃ、そういってアンブラにキスするとシーザーは部屋を出ていった。



 備えなくてはいけない。

 アンブラは暗い目でそう自分に言い聞かせた。

もし、ライバーの人間達が危険であるならば。自分はあらゆる手を使って負けない方法を、あの傲慢な女神の手に落ちない手を見つけなくては。

話がちょっと動かなくなってきたかもしれないと、危惧してます(苦笑)

感想などがありましたら、是非書いていってほしいと思います。それでは次回。

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