発会の儀
あまりにも女っけがないのは問題だ、とは思いませんが変なのが増えます。ヒロイン枠に入るかどうかはかれからの気分次第、かな。
突然現れ宣言した相手にどうしていいのか、誰もがためらっていたが。その中で一番早く動いたのは、いささか意外な人物であった。
「すいません、あなたどなたですか?」
メイドの獣娘。エリーは相手の女性にそう問いながらも、目はちらちらとこちらを、つまりライバー家の男達の顔を見ている。
なに、その気になる目は?フィンは最初、その視線の意味がわからなかった。
「わしじゃないぞ。わしは3年前にふられたのが最後じゃ!」
ケイン老がいきなりエリーに向かって怒ったように言いだした。
3年前だって?
そう言われてフィンはようやく理解した。
なんだよ、女の話しかよっ!
あの天然メイドはここにいる誰かに関係ある女性だとおもっているというわけか!?
「ぼ、僕は違うよ。純愛万歳。乙女心、最高っ」
誤解されたら負け。なぜかそう思って、フィンはあわてて自分の身の潔白を主張した。
どうやらエリーは信じてくれたらしい、その目がじーっと残るグリフだけを注目しだした。
「なんだ?」
痛い視線を浴びせられるのはさすがに不愉快らしく、不満顔で聞くがエリーは何も言わない。
するとグリフは早口で
「俺は抱いただけの女なんて覚えてない。聞かれても答えられん。」
……胸を張って、この人は何を言っているんだ?
「それで、この女性はどうでしたか?」
平然と相手の女性を指して聞くエリーもひどい。
「悪くなさそうだ。だが俺の知らない体だなァ。」
「信じられないほど失礼な連中だな。あたしは商売女じゃないよ。デブと寝る理由もないし。」
相手の女性も少し機嫌が悪くしたようだ。いや、それも当然か。
そういえば、あそこからはさっさと出てきてしまったので礼の一つも言ってなかった事を、いまさらだがフィンは思い出した。
「あの、さっき助けてくれようとした人ですよね。あの時はありがとうございました。」
「いいよ、別になにをしたわけでもないし……でもさ、お前。最初はなかなかやるなと思ってたけど、剣はさっぱりだったなぁ」
ざっくばらんに返されたそれは思った以上にフィンの繊細な心にざっくりときた。
なぜみんなして僕の傷口をえぐるんだっ!
「おお、そうかそうか。あの時のお嬢さんだったか。」
「ああ、いたな。そういえば。」
地味に傷ついているフィンを置いて、この時ようやく思い出した失礼な2人だった。
「で、君。なんの用?」
どうやら誤魔化そうというのだろうか、グリフはとぼけてみせた。
「だからあたしもその…なんだ、ゾンビのやつに入れてくれよ。」
だがどうやら彼女は簡単にはあきらめるつもりはないらしい。
スカウト来たっ、と喜んでいるじいちゃんと、どーでもいいとおもっているエリー。
そして胡散臭い奴が来たと顔をしかめる兄弟達。
どうしよう?このままとぼけてごまかせないかな、フィンは抵抗してみる。
「いやいや、いきなりそんなこと言われてもさ。だいたい誰だか知らないし。」
「なんだい。酒場でせっかく助け舟出した仲じゃないか。貴族ってのはこれだから恩知らずだと嫌われるのがわからないかね。さっきの礼はいったい何だったんだい?」
やれやれというように、相手が呆れてしまったのを見て恥ずかしくなったのかフィンは慌てて取り繕うようなことを口走ってしまう。
「いや、そうなんだけどね。ちゃんと感謝はしてるし。っていうか、なんでここまで僕等についてきたの?」
「え?ああ、あんたらに興味があったんだ。」
可愛らしい顔で無邪気に答えられてしまい、フィンも「ああ、そうですか」と思わず納得してしまいかけてしまった。いかんいかん、これではいかんのだ。
「それで……どこから聞いていた、のかな?」
「えっと、暗い顔してお前がウジウジやってたところ、かな…なぁ、あいつ、ガキのくせにウジウジして腹が立つよな。あたしちょっとイライラしたぜ。」
そういうとフィンを指して、早くもなれなれしくケイン老やグリフ達に話している。うう、なんか傷つく、この人とはうまくやってけない気がする。
いまいちあしらいきれていないどころか、ペースを握られてしまっている弟では分が悪いと思ったのか。ここでグリフが出てきて話し始める、どうやら選手交代ということらしい。
「それで、本気で言ってるのか?」
いがいにも真剣な顔をしてそう聞いた。
「うん。そういうの多分得意だと思うし。腕には自信があるぜ。なんならだれか、その辺の1人、今すぐにでも殺ってくるけど。」
ジョークなのか本気なのか、相手の物騒な返事を無視してグリフは続ける。
「それはいい。それより魔法や死霊術の知識はあるか?」
「見たらわかるだろ、殴り専門」
「家族や仲間は?」
「1人だよ…いい男なら、女の過去になんて興味はないはずだろ?」
意味ありげな目線の彼女は、なんだか突然色気が増したようにフィンには思われたが、兄はそれにはまったく反応を見せないで質問を続けた。
「生まれは?」
「知らない、流れ者だしね。」
「そうかもな。だがそれでは納得できない、と言われたことはなかったのか?」
「そんな時はそういう連中が好きそうな作り話で十分さ。お望みなら後であんたらにも持ちネタをいくつか披露してもいいよ。それに小娘の深刻な不幸自慢なんて、酒とベットがセットでもなけりゃ聞きたいとは思わないだろ?」
「斬った人の数は?」
「そういうの、いちいち覚えてない。」
「わかった。ならゾンビと対戦した事は?」
「あー、ないな。そういえば。」
そこまで一気に聞くとグリフはふうむ、と言って唸った。
えっ?今の質問で、なにか悩むような箇所があったっけ?とりあえず、失礼のないようにやんわりとお断りをして別れたらいいじゃない。
それなのにグリフはなにやら考え込んでいる。
いや待て、考えてもいるようだがなにやら怪しい目つきで相手の体を上から下へとなめるようにいったりきたりして観察しているようだ。
(こっ、このっ!エロかよ。いい女だからとか、エロそうだからとかでまさかいいぞ、とか言うんじゃないだろうな!?)
むこうもその事に気がついたのだろうか、微妙に胸を突き出し手を腰にやりしただけではなく、あの可愛らしい笑顔でにこにこと愛想を振りまきだした。
なぜかはわからないが、悔しい事にそれはとても可愛らしく思えた。
だからこそである。この弟は、グリフのそういう最悪なところを思い出し、顔に血がのぼってくるのを感じた。これは正当な、正義の怒りに他ならない。
いいだろう、それならその前にこの僕の手でこの話を叩き潰してやる。いつものあんたのように「うっせ、さっさと消えろ。このアバズレ」とか言えばどんな女だって一発だ。
「よしっ、いいだろう。仲間になってくれ。」
わずかに遅かった。フィンが罵声を吐こうと息をすぅと吸ったところで、グリフがずばっと答えてしまったのだ。
「なに言ってるの!?」というフィンと同時に彼女は拳を握って「やった」と喜ぶ。
「じいちゃんもいいって言うし。それにわかるだろ?3人じゃ手が足りないからな。」
なぜか柔らかに苦笑する兄に「いやいや、たったそれだけで決定していいものなのかっ?」と抗議するべきであったが。その隣でじいちゃんが上機嫌で、うんうんとうなずいているのを見ると、それもためらわれてしまった。
「では聞かせてほしい。君の名前は?何と呼べばいい?」
「ファーギーだ。そう言われてた。よろしくなっ」
あーあーあああーーー
僕の頭の中はもう限界だった。
ギリギリだ、ギリギリなのだ。
あの昨日までの日常は明日からもうないのだ。いや、正確には今日からないが正しいのか。なんてことだ、なんということなんだっ。
そうやって頭を抱えて嘆いていた僕の不幸はこれで終わりではなかった。
「ほうほう、そんな面白いことがあったのか……おい、フィン!お前、大活躍だったそうじゃの。」
ハッとした時はもう手遅れだった。
いつのまにか、エリーがおじいちゃんに例のゾンビ撃退事件の顛末をはなしてしまったらしい。
おじいちゃんの言葉とあのにこにこ顔のメイドを見て僕の空っぽの胃がキュっと、はっきり悲鳴を上げた気がした。
「な、な、なんで今、それをっ」
「あっ、それあたしも見てたぜ。宿への帰りだったな。」
あろうことか、続いて意外な伏兵が姿をあらわした。僕はもうめまいを感じ始めている。
そのファーギーの隣にいたグリフがすかさず弟を顎でさしながら
「そうか、その時のこいつは実際どうだったんだ?俺も聞いただけだから知りたかったんだ。」
「なんか逃げてる連中の中から、かっこつけた奴がでてきたなーくらいの感じだった。うふ、そういう意味なら今日とあんまり変わらない、かな。」
知り合ったばかりの2人なのにもう息があってるというのか。ニヤニヤと嫌な笑いを顔に張り付かせて僕をいたぶり始めた。
やめてー、もうやめてー!
「そうか、今日と変わらない、ねぇ。」
皮肉たっぷりに頷きながらグリフはフィンの顔を見つめてくる。
「そうかそうか、だからお前。わしが最初の話した時は嫌がったんだな。」
おじいちゃん、それは違います。本当に心底嫌だっただけです。もっと深刻な問題がそこにあったのです。
しかし、ケインはそんな弱っていく孫の心の絶叫などかけらも理解するつもりはないらしく、うんうんとうなづきながら
「だが聞くのだ。こういうことも、いつか振り返った時。あれが運命であったと理解することもあるんじゃ。これは貴重な経験をしたのだぞ。」
経験って何ですか!?
貴重ってどうしたらわかるのですかっ!?
「それにいいか、ゾンビをなめてはいかんぞ。お前等のような若いのは巷の噂に流されてな。よく強いだの弱いだのとモンスターを評するけれどもなぁ。それは間違いじゃ……」
とか言ってなぜか説教はじめちゃってるし。
なんだよ貴重って。貴重品っていったらもっと輝いているものじゃないか。僕の経験なんて泥だらけで洗っても洗っても土しかこぼれ落ちていかないんですけど。
もう殺せっ、僕をいっそ殺してくれー!
「帰ろう、帰るんだ。とにかく早く帰るんだ。」
いつしかフィンの事件で盛り上がる連中からはなれたいとの思いから、列の先頭に出てブツブツつぶやきながらフラフラとあるくフィンであった。
しかしそんな後ろから付いてくる声を彼は自宅の門をくぐるまで、遂に降り払うことはできなかった。
次回から少し違う話しになりそうです。




