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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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悪人

今回で3章最後になります。


 グリフが床に叩きつけた小男はピクリともしない。きっとこの先も、もう動かないのだろう。


「死んだ、のか?」


 仲間が2人も目の前で、兄弟それぞれに素手で殺されたという事実がチンピラ達には信じられなかった。しかもそのうちの1人は見ている前であっさりと、一瞬でそれをやってのけたのだ。


「なんてことをっ」

「ふっ、ふざけやがってこいつらがぁ!」


 ようやく出てきた言葉も恐怖が色濃くどこか寒々しい。

 そんな背筋を走る冷たい汗を忘れようとするかのように、声を上げると男達はようやく武器を握ると勢いよく引き抜いた。

 しかし、そんな殺気立ち始める彼等の事など気にするでもなく、グリフはフィンの顔を見つめたまま、もういちど繰り返した。


「やれよ。お前の手にはもう剣があるだろう。」


 それは実の弟へ、死の宣告をつげているようにも思えた。



「うわァァァァ」


 声をあげて、剣を振りまわしてフィンは残る3人に突撃した。

 それはもうひどいものだった。始めて剣を握った素人のように滅茶苦茶に剣を振りまわしていた。そんな事で人は斬れるわけがない。自然と相手と距離をとって見合うことで、こう着してしまう。

 本当なら彼は剣を10歳の時から使い方を学んでいた。こんな使い方など一度だって学ばなかったし、やったことなどなかった。

 しかし、兄から告げられた「お前が始めたことだろう」と「全員殺せ」という命令はこの弟の中で大きな恐怖を生みだし、その心を狂わせていた。

(ひどいな、なんて様だよ)

 グリフは弟の無様な戦いを見て心の中で嘆いて見せる。ここ数年間、みっちりと選び抜かれた講師達から人間の壊し方について、たたきこまれていたはずなのに。これが初めての実戦だからであろうか?恐怖でびびってしまい、まるで見る影もない。



 当たり前のことだが、この時あのブタ顔の男は怒っていた。

 この朝っぱらから、のこのこ近づいてきた爺さんは、自分はドラゴンスレイヤーだとかお前らみたいなチンピラでは話しにならん、などと散々こっちを馬鹿にしてきた。

 あんまり調子に乗るものだから軽くからかっておしおきしてやろうとしたら、横から飛び込んできたそいつの孫にどつかれて。

 その孫にも世の中の教訓というのを教えてやろうとしたら、今度は仲間を殴り殺され、女に馬鹿にされ。

 さらに新しく現れたデブが、またあっさり仲間を目の前で殺してしまった。

 自分達のような、目についた哀れな商人を殺して略奪するだけの小悪党が。

 なんでこれほどヒドイ悪夢に自分達が巻き込まれなければならなかったのだろうか、さっぱりわからない。

 正直言って、ひどく笑えない負のスパイラルにはまってしまったとしか言いようがなかった。

 人死にまで出してしまった以上、このまま引き下がることなど出来なかった。

 田舎の山賊にも、それなりのメンツというものがある。ボケ老人とその孫達によって笑い物にされては自分達のような職業は生きていけないのだ。

 なのに先ほどまで観客と一緒になって騒いでいたはずの老人が、いつの間にか姿を消していることに気がついた。たぶん、こっそり連れ出したに違いない。この2人だけは絶対に逃がすわけにはいかなかった。

 見たところ、武器を持っているのはへっぴり腰だし3人でかかればきっと倒せるだろう。だが、ここで重要なのはもう1人は何も持っていないで観客になっているということだった。

 そこで剣をめちゃくちゃに振り回すあのガキを追いまわすと見せかけ、離れたところで余裕をみせているあのデブを。あのわけのわからない兄貴の頭を弟より先にこの手のメイスで、まずは粉々にしてやろうと考えた。


 グリフはおもむろに近くの机の上にあったワインボトルを手に取ると、その口をクンクン嗅ぐ。

 どうやら飲めそうだと思ったのだろうか、それをあおり始めた。なかのアルコールがいっきに喉を焼きながら通って、体の中へと落ちていく。

(ひどいな、飲まないと見てられんぞ)

 へっぴり腰の盗賊達と同じレベルで腰が引けている自分の弟の無様な姿をみて、グリフはいらだちを募らせていた。


 そんなグリフが再び瓶をあおるのにあわせ、ブタ顔の巨体はフィンから相手を変えると、強烈な一撃をその頭部に向かって繰り出した。

 しかしその手に持つエグイ突起物のついた武器は、その相手を捕えることなくむなしく空を切ってしまう。


「遅いんだよ」


 いつのまにか振り下ろされるメイスのその軌道から体を移動させていたグリフは、手に持った瓶を持ちかえて、それを思いっきり襲撃してきた相手の頭へと振り下ろした。


ガシャン


 逆に自分の側頭部を襲った衝撃に、たまらずブタ顔の巨体は片膝をつく。続いてグリフは鋭利な形となった瓶の残骸をその首筋へと容赦なく突きこんだ。

 残骸が首筋の表面を激しくかき回してから離れると、一瞬の間があってみるみるうちに首すじは真っ赤な血が皮膚からあふれ出し始める。それをどう感じたのか、彼はあわてて首の傷口に手でおおって押し止めようとするが、もう手遅れである。

 その巨体の後ろにゆっくり回るとグリフは、後ろからブタ顔が持っていたメイスを簡単に奪い取ってしまった。

 それに気づくことなくシューシューとなにか空気が漏れるような呼吸をしながら、首の傷口を手でふさごうとしているブタ顔。そんな哀れな相手の後頭部に無表情のグリフは振りかぶったメイスを叩き込んだ。


ぱきゃっ


 グジュグジュと、叩き込まれた場所からいやな血のあぶくを吹き出し、巨体はゆらりとバランスを崩そうとする。放っておけば、そのまま床に崩れ落ちていっただろう。

 しかしもう一度、さらに大きく力を込めた一撃が襲う。


バクッ


 情けの欠片かけらもないその強烈な一撃は、とうとうブタ顔の頭部を破壊しつくした。それまで固く守っていた骨はその形を保てず、傷口のなかに白いかけらとなって見えている。

 そしてその力強い衝撃で、一部はかけらとなって中身と共に周りに飛び散った。それは比較的間近でそれを見ていた観客達に降り注ぐ。

 その一部始終を目にして、さすがに口をふさぎ、目をそむけるものが出るがまだその数は少ない。

 ようやく崩れ落ちることを許された巨体の横には、ずるりとその中身が - 脳味噌が垂れ下がるように床へとぶちまけられていった。



 いつの間にか兄の手によって敵が残り2人になったことを、この時のフィンはわからなかった。

 しかし、見合っていた2人の後ろに突然グリフが姿をあらわすと、その後頭部に無言でメイスを振り下ろすところを見て気がついた。

 相手が倒れる瞬間、片方の目玉がポロリとこぼれおちるところがフィンの脳裏に焼きつく。

 しかも、そんな倒れた相手の上に立つと、グリフはさらに情け容赦なくメイスをふるって念入りにトドメをさしている。さっきまで自分に殺気立っていた人間がみるみるうちに破壊されていく様をフィンはしっかりと見てしまった。


 最後の1人は仲間が倒れ、自分だけしか残っていない事を悟ると武器を手放して片膝をつき


「助けてくれ、降参する。命だけは」


 と懇願し始めた。

(終わった。やっと終わったんだ)

 その姿を見て安堵したフィンは剣をゆっくりと下ろした。事態は最悪の死人をだしてしまったが、これでもういいだろう。終わったんだ。


 そんなこと全然なかった。


 グリフは止めを刺したことを確認すると、命乞いをする最後の1人の顔を見る。

 一歩、グリフがなにげなく踏み出した時。フィンは自分の認識が間違っていることを理解した。

 兄はこの哀れな最期の生き残りに慈悲をかけるつもりなどないのだと。

 それまでいきなり動きだしたグリフによる残酷ショーに言葉もなかった観客に火がついたようにいっせいに殺せと口々に叫び始めた。やめろ、煽るんじゃない!


「ちょ、まって」


 フィンは慌てて兄の体に取りすがろうとしたが、それを察知したのだろうか。フィンの手をするりと抜け、そのまま勢いよく半泣きで命乞いするチンピラに馬乗りになり、相手の顔面を再び粉々にする作業をはじめる。

 その瞬間、酒場をつつむ興奮は最高潮となった。


 言葉にならない、哀れな断末魔と、飛び散る血、砕ける骨の音がヤケに生々しくフィンの耳から脳を刺激していく。



 先ほどまで酒場を覆っていた熱狂がウソのようだった。

 人々は振われたメイスによってゆっくりと破壊されていく人体のショッキングなシーンに次第に冷静になったのか、騒ぎはいつしか収まり次第に目をそむけはじめていた。

 あまりにひどいそれを見て、床に吐く者まで出てきた。


 グリフはようやく満足したのか、立ちあがるとカウンターのむこうにいる店主のもとへとずかずかと近づく。そしてカウンターに血と肉と骨がこびりついたメイスを叩きつけるように置き、短く


「おい、店主。酒だ。」

「なににしましょう?」

「一番高いのを頼む」


 そして出てきた盃を一気にあおる。

 それが終わると、グリフはすかさず懐から金貨を1枚取り出してみせた。


「あいつらの葬式代だ。それと早朝イベントの打ち上げだ。余った分はここの全員におごろう。」


そういうと初めて人の波を、壁を見回しながら大声で


「お前等、高い酒を飲むなら早い者勝ちだ!急いだほうがいいぞ。」


と言い放つ。

 静まり返った店の中はそれを聞いて喜びの声が上げる。

床に転がる5つの無残な死体など、どうでもいいと放って置いたまま、カウンターへと殺到する。


 フィンはボー然とただ見ているしかなかった。

 自然とその手にあった剣は力なく床へと滑り落ちていく。

 だんだん体の力が抜けていきそうになる中、そんな弟の横をすり抜けざま兄はその手をとると、出口へとめざして早足で歩いていった。


 こうして、紅雀亭のひどい朝は終わりを告げた。


 

 ファーギーは思った。

(なんだよ、これ。滅茶苦茶じゃないか)

 あのじーさんも滅茶苦茶だったが、孫達は特にひどい。だが、とても興味をひかれる連中にも思えた。

 たしかあの老人、あの連中とはなしていたがどんな内容だったのだろうか?へんな男なんて無視して聞いておくんだった。

(あとをつけて見るか?)

 この町に来て初めての刺激的な経験に、このまま別れてしまうというのはもったいない気がする。

 1人を引きずるようにして酒場から出ていく兄弟の後ろ姿を見失わないよう、ファーギーもまた、馬鹿騒ぎに揺れる店の中をするすると抜け出口を目指した。






「シーザーさん。女が外に出ます。」


 ファーギーに声をかけたシーザーという若い男はこの時、用心棒の3人の傭兵と共に外へと出ていくファーギーの後ろ姿を見送っていた。


「しょうがないさ。あきらめよう。あんな面白い事が始まっては、俺の印象もふっとんでしまっただろうからね。」


 ファーギーと話した時よりも明らかにその顔には危険な感じが増していた。


「それにしても凄いね。貴族らしいけど、問答無用で全員やっちゃったよ。こわいねぇ」


 シーザーはそう言って笑うが、どちらかというとこれは愉快だといっているようでもあった。


「あの老人、見覚えがある。確か、ドラゴンスレイヤーのケイン・ライバーでは?」

「ライバー?知っている。確かに生きていればあれくらいの老人でもおかしくはないな。」

「しかし、最強の称号の持ち主も年には勝てないか。」


 3人はそういうとクックックッと笑い声を洩らす。

 そんな彼らを横目にして、シーザーはいった。


「いやいや、僕は感心したよ。さすがだよね、竜殺しの血は一族にも流れているんだね。」


 その言葉を聞いて3人は黙りこむ。続けて


「僕は彼らに興味持っちゃったよ。」


 シーザーは邪気に染まりきった笑顔でそう感想を口にした。


「次もいつものように女にしようと思ってたけど、いいのがいるじゃない。このつまらない田舎町にもさっ。」


 その頭の中は、すでにどうやって彼らをその手におさめるのか。回転を始めているようだった。

終わってみたら意外に話が進まなかったのでは、と思わなくもない。

ではまた次回。

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