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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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救いの手、本当に?

3章4話になります。

ひどいところで前回は終わりましたが、残念ながら夢ではないので続くのです。ガンバレ、主人公。

 先ほどまで早くやれ、もっとやれと騒いでいた人々の声はリング上の様子が変わったことを敏感に察知してしだいに小さくなっていった。


「このガキィ…」


 静まった紅雀亭に響いた男達の憎悪に満ちた声でフィンはようやく我にかえる。

 5人組(いまはもう4人になってしまったが)の目は嫌な輝きを見せ、フィンをじっと見つめている。

 おのおの手はゆっくりとそれぞれの獲物へと延びている。

(しまった。僕は剣を持ってない)

 そうだった。

 慌てて家を飛び出す際、必要な事だとエリーを先にグリフのもとへ出したことでうっかりなにも持たないでここまで来てしまっていた。場所やあらゆる状況を想定するなら、身を守る剣くらい持ってくるべきだったのに。

 さらにまずいことになった。

 観客達もうすうす事情は察したようで、この意外な展開を大いに楽しんいるようだ。

 そう、喧嘩はいよいよ殺し合いになるのだともう理解しているのだろう。目の前で始まるであろう惨劇の予感に震えながら、その時が来るのを今か今かと声をひそめて待ち望んでいた。


 いよいよ追い詰められてしまった。

しかも、もう引き返すことができないところまで来ている。

 兄ちゃん、援軍を連れて可愛い弟を助けるなら今が最高のタイミングだぞっ。




(やっちまったね。ここらが限界かな?)

 ファーギーはここまで、このイベントを楽しく見させてもらっていた。

 馬鹿な老人がくたばるだけだったら見る価値もなかった。けなげに飛び込んできた孫が袋叩きになったとしても、それでも面白くない。だがこいつは5人を前にして戦った。貴族という割には生きが良かった。

 いいねぇ、面白い。

 正直、喧嘩だったらもう終わるところだ。

あいつらはガキにいいようにされただけ、バカ共の完敗だった。

 しかし、子供を相手に死人が出てはあいつらも本気で殺そうとするだろう。そうなると武器を持たない少年の勝ち目はぐっと低くなる。いや、多分負けるだろう。

 別にそれを放っておいても心は痛まないが、なんだかこのショーには色々助けられたような気がする。

 だがらこそ、わざわざ見物料がわりに助けてやろうという気も起きようというものだ。




「キーッ、クックククッ」


 突然降ってくる変な笑い声にこの場にいた皆が、一斉に声の主へと目を向けた。

 それまでの空気が、興奮が変わった瞬間から、次に始まるであろう少年を八つ裂きにされるのを静かに待っていた観衆たちのなかにあって彼女だけは違っていた。

 美しい、というよりかわいらしいその顔には嘲笑がはっきりとあわれていて、そしてなぜかとても楽しそうに見えた。

 ちなみにフィンが彼女を見た時の最初の感想は美人ではなく、綺麗な足だなぁということだった。本当に剥き出しの2本の足を見てエロいな、と思わずに綺麗だなと思った。

 上階からゆっくり、階段にはりついている連中をかき分け降りてくる。彼女は傭兵なのだろうか?あまり見たことのない不思議な質感の鎧は大胆に肩をのぞかせ。そして、そこからすらりとのびる2本の足は剥き出しとなり必要以上に扇情的なデザインをしている。

 その目は大きく印象的で、笑い声はとてもかわいらしいものだった。


「なんだ、お前」

「素人のガキ相手に、刃物を持ち出そうとはたいした悪党よねって思って。どこまであんたら雑魚なんだい?」


 声は可愛いのに、出てくる言葉はびっくりするくらい鋭く、汚かった。

 そりゃそうか、ここはそういう場所だよね。美人の援護でちょっと希望が持てたのだろうか、フィンはそんな風にこの状況をどこか達観して見ていた。


「姉ちゃん、言葉には気をつけろよ。」


 余計な横やりで場を乱されただけではなく、そこに浮かべた侮蔑の嘲笑は自分達に向けられていることにいらだちをかくせないか。山賊の1人が歯をくいしばるように警告する。


「ハッ!」


 だが、そんな男に対して相手にしてられない。そんなふうに彼女は鼻で笑うと、ジャスチャーでお手上げをしてみせる。

 今度は正面からはっきりと馬鹿にされていることを感じ、並んでいるアホ共の殺気がフィンから方向を変えはじめた。


「朝っぱらかじいさんとガキにいいようにあしらわれた揚句。簡単にぶち殺されたマヌケのために命のやり取りをしようっていうから馬鹿だっていってるのよ。」

「なにっ」

「嫌だ、こわーい。子供相手に喧嘩してたおじちゃん達がこっちをにらんでるー」


 フィンの顔はこの言葉に衝撃を受けた。

 えっと、綺麗な足の可愛いこのお姉さん。

 どうやら火を消しに来たんじゃなくて勢いをつけにきたらしい。

 突然現れたこの助っ人がなにを考えているのか、完璧にフィンは理解した。ああ、終わった。終わっちまったんだ。騒ぎになる、殺し合いが始まっちゃう。


「いい加減にしろよ、いきなり出てきて俺達の事を好きに言いやがって。」

「あら、なに?自分のモノの振り方くらいわかってるってわけ?それじゃ聞いてみましょうよ。」


 そういうと彼女は2階のテラスで観戦していた夜のサービス専門の女性達(まぁ、娼婦ですね)に大声で聞いた。


「あんたたち教えてよ。こいつら自分の腰のモノの使い方はわかっているってさ。本当?」


 その言葉に観戦していた連中はどっと笑いだし、女達はへたっピー、○漏野郎、金はやく払えーとか騒いでいる。

 男達の顔がさらに険しくなった。


「自分のモノだって使えないのに、女の扱いなんて期待できるわけないか。キキキッ」

「このアバズレぇ。」


 押し殺した声には我慢の限界を匂わせていた。


「なに、あたしと踊りたいの?それならちゃんと男の方から誘ってちょうだい。やり方わかるかな?」


 その誘うような声は危険な響きと戦いの予感に喜びを見出しているようだった。




 爺ちゃんを止められず、酒場で喧嘩に巻き込まれ。

 その喧嘩で死人を出し、そしてさらにこれから助っ人参戦して被害拡大。

 僕のせいで、僕らのせいで。

 フィンは暗澹たる気持ちでもはや勝手に進む状況をなかば呆然と見守るしかなかった。

自分はいったいどこで間違えてしまったのだろうか?

 先ほどから、脇で観客と一緒に余計な合いの手や挑発を口にしているじいちゃんがまたごちゃこちゃいっているが、その言葉の内容が今のフィンの頭の中には入ってこない。

 正直、いますぐにでもこの場から背を向けて一人、逃げ出したかった。




「おいおい、なにをやっているんだよ。」


 それは突然店の中に表れた巨体。今のフィンにとっての希望。

 大きな溜息と共に腰に手を置く、仁王立ちの兄がそこにいた。

(お兄様がいらっしゃった!騎兵隊の到着だっ!)

いつもは憎々しいあの顔も、凶悪な雰囲気もいまはとっても頼もしく思える。



 入口の人だかりの中、自分のでかい図体をねじ込み人の中を強引にかき分けていく。

「なんだこいつ」といいたげな目線が向けられるが、そんなものをいちいち気にするつもりはない。

 人の波を抜けると、そこではパーティの如く乱痴気騒ぎが繰り広げられていた。

 じいちゃんは、なにやら「貴族をなめるな」とか「お前ならやれる」とかずっと周りの観客と一緒になって騒いでいる。どうやら怪我もなく、元気に楽しんでいるようでなによりだ。

 観衆が喜ぶ舞台の上ではすでに開演してから随分が時間がたっているようで、床に転がっている奴、えらく物騒な顔をしている奴に、なにやら自分から火事場に飛び込む面倒な挑発し合っているようだった。


 そして

 そしてこの事態を前にボー然としている弟は、混沌の中であらわれた自分を見て「助かった」とホッとしてあからさまに喜んでいるようだった。どうやら時間稼ぎに頑張ってくれたようだが、ちょうど限界だったのだろうか。こっちを見て救われたような顔をする弟は、いつものように俺に押し付けて楽になれると思っているのだろう。


ああ、どいつもこいつもっ!


「何だよ、デブ。お前もこいつらの家族かよォ?」


 嗜好が邪魔する声に気がつくと、胸がむかつく酷い面がそこにあった。

 新たにあらわれた登場人物に、さっそく小男はすたすたとグリフの前まで来て、臭い息をたっぷりと吹きかけながら、その顔を近づけてくる。


「貴族の兄ちゃんよォ、答えるのは考えてからにした方がいいぜ。」


 うるさい奴だ。

 ひょいと顔をずらして弟へ話しかける。


「なにがあった?」


 小男はそれを自分が無視されたと思ってカッとなったのだろう。


パチン


 音と共に小男がグリフの横っ面を勢いよく張り飛ばしていた。

 それはあんまりにも見事に決まってしまい、それをみてあちこちから笑い声が漏れてくる。というか、実際に助太刀を申し出た綺麗な姉ちゃんも笑っていた。

 グリフは動かなかったが、その目には何も映っていないようだった。

(やばい、やばすぎるよ)

 フィンはこれからのことを考えて恐怖した。

(ありゃ、これはまずいかもしれん)

 いつしか観客に混じって騒いでいたケイン老だったが、新たに登場したこの上の孫がこの事態の後にすることを思ってようやく心配しはじめた。

(なにあいつ?トロイなぁ)

 笑ってはいたが、ファーギーは盛り上がってたところに水を差されていい気持ではなかった。


「おめぇの馬鹿弟がよォ、なにをしたのかって?教えてやるよォ」


 怒りにまかせて顔を近づけるとグリフに唾を飛ばしながら小男は続けた。


「俺達の兄弟を殴り殺しちまったんだよ。ああ?どうするんだよ!お前はよォ。」


 押し黙り、反応を見せない相手をみて調子に乗ったのだろうか。

 ペッと自分の手に吐き捨てた唾には、きっと口の中が切れたのであろう。血がまざっていて、それを丁寧にグリフの顔、頬に擦りつけて広げだした。


「俺らはさぁ。どう責任とるのか、ぜひにも聞かせてもらいたいぜデブ。今すぐにでもなぁ。」


 その時、グリフの感情のない目がようやく自分を殴った相手の顔をじっと見た。


(こりゃ、やめさせないと大変な事になるわい)

 さっきまでフィンの喧嘩を周りと一緒になってはやしていたケイン老だったが、グリフが登場してからのあの小男の振る舞いは目に余るというのを越えていた。

 なによりまず相手が悪い。

 周囲では言葉もないグリフにさっそく野次が飛んでいるが、それもまずい。

 いまでこそ見る影のないひきこもりになってしまったが、あの孫の10代での所業の数々はまともということばの間逆をいっているものだった。このままであるはずがない。すむわけがない。

 そう思って、自分がいよいよその中に入ろうとした時だった。

 老人のその手を横から伸びてきた手が止める。

見ると、そこには我が家の獣娘。メイドのエリーがいてにっこりとほほ笑みかけていた。

(グリフがよこしたか。わしらをつれだすつもりか)

 だが、それは少し違っていた。

 ケインの手を握ると、グッと力が入り人の中をかき分けて出口へと向かう。それに抵抗するように、おい、ちょっと待てと声をだすが。周りの声にのまれてしまった。

 エリーはこのまま老人だけを外に連れ出すつもりなのだ。

 彼女にはわかっていた。だってこれからおきることを、彼はきっとこの老人には見せたくないだろうと思ったから。



 笑い物にされている兄を凍りついてみていたフィンは思った。

 なにかしないといけない。これはまずい。でもなにをすればいいの?

 さっきから自分の目の前でおこっている事はすべて悪夢だった。

 そうして悲観しながら、フィンはなにも動けないままその時が来た。




 目の前で口汚くののしる相手の顔にこつんとグリフが頭をぶつけると、小男はギャッと声をあげて一歩後ろにたたらを踏んだ。

 その時である。


パキャッ!!


 凄い音だった。

 いったいこの時、何がおきたのかわかったものはここにどれほどいたであろうか?

わずかにうまれた2人の隙間を、一陣の風のようにグリフの拳が下から跳ね上がるようにして小男の顎を吹き飛ばしたのだ。その後のそれぞれの姿勢は、その一撃の異様さをおしえていた。

 さっきまでグリフに顔を近づけていたはずの小男だが、気がついてみるとグリフに背中を向けて立っていた。

 つまりあの音と衝撃の後で、さらに一歩後ろにしりぞいた結果。グリフに対して正面から向かいあっていた体が、いつの間にか尻をグリフに向けていたのだ。

(お、俺の顔が消えた!?)

 小男の頭の中はパニックだった。

 口が、いやあごの感覚がまったくないのである。そして口の中にはさきほどよりもさらに激しく血の味が広がっていくのを感じていた。

 事実、小男の口の端から次々と血がすじとなって流れ出ていく。


「ふぉ!?ふぁふぁれ?」


 いきなりの出来ごとに静まりかえる店内に、グリフはまるで気にしないというように小男の隣に立つと。

 まず、ファーギーの方へ声をかけた。


「すまないが、お嬢さん。あんたには遠慮してもらおう。」


 それを聞くとファーギーは両手を挙げた。

しょうがないね、とでもいいたかったのであろうか。

 続いて、小男の腰から下がる剣を無造作に手に取って抜くと


「フィン、これだ」


 といって抜き身の剣を弟に放り投げてきた。


「こ、これって。なに?」


 かすれた声をようやく絞り出すフィン。

 それをグリフは無表情に見返すと


「決まっているだろう、あと3人だ。はやくヤレ。」


 あまりにあっさりと凄い事を言われてフィンの頭の中は、思考がとうとうショートする。


「え、あれ?…でも……3人って。4人じゃ?」


 そう、その通りだった。

5人組との喧嘩でフィンがうっかり1人を殴り殺してしまったのだから、残りは3人というわけがない。兄は知らずに頭に血を登らせて数を数え間違えてしまったのだろうか?

 そうではなかった。

 その言葉を聞くと、グリフは隣に立っている口からあふれる血を必死に手で押しとどめようとむなしい努力をしている哀れな小男を見た。

 そしてその襟首を片手でむんずとつかむと、一気にその腕を真上へと一杯一杯にのばした。

 小男の体は、まるで大人に釣りあげられた子供のようにいとも簡単に、無慈悲に飛び上がるとそこから一気に後頭部から固い床に叩きつけられていた。


バグンッ


 たった今、自分の手で床へと墜落した相手のことなど見ないですっと立ち上がると、グリフは再びフィンに言った。


「これで3人だ。」


 フィンは体の底からわき上がる恐怖を感じた。

それは今、自分の兄が目の前で殺人を平然といとも簡単におこなったことではない。

 兄が自分に何を要求しているのか、ようやくここにきて正しく理解できたから恐れたのだ。

 そう、兄は。グリフが望むのは………。


「どうした?3人だ。早くしろ。」


 そういうと恐怖に震える弟を見る感情のない目が、冷たく輝きだした。


「お前が始めた事だ。それともここでやめるのか?」

次回で3章終了。

感想など、書いてくれるとやる気につながります。できましたら反応ください。

それではまた。

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