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ゾンなめ。  作者: 鷹雪
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13/36

乱闘

戦闘回は短い、とか前に書いたけどやっぱ気のせいだったかも。

だんだん増えていきそうだなぁ。

ドンッ!


 出口に向かって後ずさっていたフィンとケイン老だったが、突然フィンは後方からきた衝撃で、自分が何者かに突き飛ばされたことを理解した。

(誰だっ!?)

 とっさに浮かぶのは後ろを振り返れ、そいつの顔を見ろという命令だったが、自分の中の冷静な部分が、それだけはやめろ、それどころではないだろうと叫ぶことで欲求を押さえ込む。

 そしてそれは正解であった。

 突き飛ばされたフィンはよろよろと前につんのめると、怒り心頭の5人の中にむかって、今まさに突っ込もうとしていたからだ。


「ふんっ」


 最初の1人はあのブタ面だった。うなりを上げる巨体にふさわしい太い腕をふりまわしてくる。その棍棒のような腕をフィンは間一髪でさけることができた。

 しかし、そのせいであろうことか、5人が固まっている中に自分が本格的に突っ込んでしまったのだ。つまりまんまと5人の作る輪の中に入り込んでしまったことになる。


 当然、前後だけではなく左右からも腕や足がフィンの体へと伸びてくる。

 次々と体のあちこちに痛みが走るが、今はそんなことを気にしてはいられない。すぐさま頭を低くして左側に立つ奴の腰に彼はタックルを決めた。

 それは勢いが足りず踏ん張られてしまったが、フィンの反撃はこれで終わりではない。

 相手はしがみついてきたフィンの体を振り回して、再びボコボコにしようとするが今度は逆にそれをさせないように体重を落とすと半端によたよたすりしかなく。このおかげで囲んでいた輪が形を変え崩れる。

 その間にもフィンは手を相手の足に這わせて下におろすと足首のあたりをつかんで勢いよくすくい上げた。

 見事に男はひっくり返るが、それを喜ぶ暇はない。すぐ後ろには追ってきた連中が迫っていた。

 急がねばならない、フィンは近くにあった机をわざとひっくり返すと、机の上にあった皿や料理といったもの倒れた男の顔に落ちてきた。

 固くて、暑くて、冷たくて、なんか刺さってといった激痛に男は顔を押さえて呻く。

(よし1人)

 それは確認のつもりだったが、フィンは少し安心してしまったかもしれない。

 あのブタ顔の男が無造作に延ばされる手は、後ろからフィンの髪の毛をつかもうとしていたのだ。が、間一髪でフィンはその手を払うと、思いっきり相手の足を踏む。


「いてっ」


 今のは危なかった。どうやらこっちの動きを封じたところで、袋叩きにしてやろうというつもりだったのだろう。フィンはこの相手にも止めをと手近にころがっていた椅子を手をのばす。

 瞬間、グッとつかんだ椅子から力が反対の方向にかかるのを感じる。そっちを見ると椅子を渡さんと別の奴に空いた方の椅子の足を掴まれていた。

(くそっ、邪魔するな)

 それは余計なことだった。さっさと諦めればよかったのに、ここまでちょっとだけうまくいっていたものだから彼はこの時、判断を誤った。次の瞬間、回復したブタ顔が前蹴りを放つとフィンの体を吹っ飛ばしたのだ。



 ファーギーはここまでのフィンをすべて見ていた。

 あのガキ、たいしたもんだったけどまだまだ甘いね。あのへんなジジイの孫って言ってたか、ガッツはある。あれをちょいと仕込めば、あたしの相棒にしてやっても………。



 まったく信じがたい話だったが、孫が複数のゴロツキ相手に喧嘩が始まると同時にその祖父がやったことは、観衆に自分も混じることだった。

 この騒ぎの原因を自分が作ったということも、もしかしたらこの老人はわざとやったのではと思えるほど、その姿からは楽しんでいるように見える。

 「ああ、駄目。そりゃいかんよ」孫がチンピラと椅子を持って取り合いをはじめるとそう口にし、直後に吹っ飛ばされるのを見て「そりゃ、そこは根性。立てっ立てっ!」と声援を送る。

 しかも、なぜか周りの見知らぬ連中共とも仲良くなっており。「じーさん、孫の勝利を願って一杯どうだ」とか言われて酒瓶を渡されるとそれをあおり、「じーさん、孫は大丈夫かよ」と聞いてくれば「おうっ、見てわからんか。あれくらい余裕じゃ。」などと自分は何もしていないのに豪語する始末。

 もっとも、今のフィンにしてみればこの老人が自分もこの喧嘩に混ざろうなんて考えないだけでもよかったと、そう考えなくは無い。



 フィンが拳を振り上げると、眼前に立つ男も拳を振りかぶっていた。

 振り抜いたお互いの拳は途中でわずかに交差し合うと、その狙いをずらし互いの顔を捕えることはできない。

 体勢を素早く整えると続けて反対の拳が振りかぶる。今度もお互い同じ形となった。

 しかし、相手はもう一度拳でフィンの顔を狙ったのに対し、フィンは相手の顔ではなくその伸びきった腕を巻き込むように脇に挟み込むと、がっちりとロックする。

 一瞬、勢いよく固められた腕がひねり上がり激痛が相手に体の中を走ってその動きを止める。

 痛みに歪んだその顔めがけてフィンは情け容赦なく頭突きを勢いよく叩き込んだ。


「うわあああああ」


 勢いよく鼻がひしゃげるとそこから一気に血がふきだしてくる。

 続いて相手の胸を上腕でつくと「おぶっ」と声をもらしながら息を吐く。さらにもう一撃をと手を振り上げたフィンめがけて横から突撃してくる奴が1人。

 しかし、どうやらフィンはそいつのことは気がついていたらしい。鼻血野郎を今度はあっさり解放すると、すっと体をひるがえしてよける。そのせいで結局フィンをつかまえきれずに駆け抜けていく相手の体にできるだけ自分の体重を乗せ、押し出すような蹴りで突き飛ばした。

 狙いが外れた所に、フィンの体重分さらに勢いを増すそいつの体は危ういバランスをとりながら、色々と散らかっていた机の上へと無様な姿勢で突っ込んでいった。

 フィンは派手に自爆する男を見ようともせず、よろよろと起き上がろうとしていた別の男の元へ素早く駆け寄ると。その横っ面に思いっきり拳をめり込ませる。

 起き上がろうとしたところへの強烈な一撃に再び相手はひっくり返る。

正直、フィンは多数のならず者を相手にここまで見事な大暴れをやってのけていた。

(ブタ顔、あのデカイのはどこだ!?)

 先ほどからひょろいのやら、ちっちゃいのや、自分と同じくらいなのしか見ていないことが気になった。

 周りではすでにやんややんやのお祭り騒ぎで、観客と声によって近くにいないと瞬時に敵だと判別できないくらいにフィンは混乱しかけていた。その時、わずかな瞬間だが本人は無意識のうちに足をまた止めてしまっていた。

 すると、後ろから伸びた手が彼の体の前に回されるとがっしりと握りこむ。

 相手はいつの間にか、後ろにいたのだ。がっしりとその太い2本の腕の中についに捕らえられ、抱えられてしまったフィン。

 いわゆるベアハグと呼ばれるこの技で身動きが取れなくなると、ブタ顔はフィンの体をそのまま振りまわす。フィンの体は人形のようにあがらうこともできずに締めあげられながら、あちこちの酒場の備品にぶつけるように振り回されてしまう。



 酒場の外ではようやくこの時、エリーを連れたグリフが馬に乗って到着していた。

 酒場の方からは朝にしては珍しく、わーわーと騒がしい声がしていて中で何かが暴れているような様子が見てとれた。


「どうやら、面倒な事になっているようだ。」


 感情を押し殺すようにグリフは率直な感想を口にする。

恐れていた事態になってしまった事をグリフはこの時理解した。


「あらら、これは大変な事になりましたね。衛兵さん、呼んできましょうか?」


 なんだか天気の話をするかのように、気軽な感じでエリーはそういう。

 まったく、こいつは。


「いや、いい。俺が入って納める。そして2人をさっさと連れ出す。」


 そうだ、それが面倒がなくていいだろう。今からでも、きっとやりようはあるさ。

 馬からエリーを下ろすと、自分もさっさと降りた。重いのを2人ものせた上に走らせてしまって悪かったな、と馬の首筋をなでて労をねぎらってやる。そして手綱をエリーに渡しながら


「遅れて入ってきてくれ。騒ぎの様子を見て2人を連れだすんだ。」

「私も一緒にはいってもいいのですが。」

「いや、いい。言われた通りにやってくれれば。」


 そう言うと、1人。酒場の入り口へと向かった。

ああ、どうしてくれようか。グリフはだんだん腹の奥底で今にも吹き出しそうな、すぐにもわき上がる激しい怒りをすでに感じていた。



 そいつの髪を引っ張ると、フィンの振り上げた足が顔面にめり込ませた。

 フィンのいるここはいつの間にか即席のリングとなっていた。そしてその周りでやいやいと観戦して声を張り上げている連中が壁となっている。さっきからその中に自分の祖父がまじって、大喜びで声を張り上げているのが腹立たしいものがあるが。

 しかしこうなったらもう、衛兵が来るか援軍が来るかしないと自分も祖父も無事にここを離れることはできないだろう。

(いつまでこれが続けられる事やら)

 まだ余裕はあるとはいえ、5対1である。残念だが達人でもない自分がこのままで勝利するというのは難しい話だとわかっていた。その限界が来るのも、もうすぐだろう。

 いったん休憩というように、フィンと男達は見合う。

 肩で激しく息をする、すでに体のあちこちから鈍い痛みは絶えず信号を発して感じている、顔もいい感じにはれてきた、シャツのボタンもいくつか吹っ飛んで伸びかけている。帰ったらメイドたちのため息が今から目に浮かびそうだ。

 とにかく、限界が少しでも先になるよう。今は手を出してあがくしかない。


 そんな彼の戦闘計画ファイトプランはすぐに崩れ去ってしまう。


「おい、おい」


 なにやら床に倒れている仲間に声をかけていた5人組の1人が、真っ青な顔をしてこちらに振り向いた。


「こいつ、死んでる」


……えっとあの人、今なんて言った?


「死んだ。このクソガキが殺したんだ!」


 僕が自称、ワルイ山賊を名乗る人間を今、殴り殺したってこと?

それを理解するのに多少の時間がかかり、体は凍りついたように動きを止めてしまう。

 僕は今、人を殺した。

 よくわからなかったので、もう一度繰り返してみた。

 この手で殴って殺したんだ。

 

 ショックから頭の中はボウとかすんでしまったが、なんだかそれはとても恐ろしい出来事のように思えた。

昨日は老人の姿をしたモンスターに対して無慈悲な攻撃を与えていた自分が。この一言を繰り返しただけで、体の芯から震えが来るのを感じていた。

はい、ということで凄い終わりかたしてしまいましたね。

次回をお楽しみに。

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