3章 ジョソウ
今回から新章に突入です。
ちょっと大人しくしすぎていたので、この辺から飛ばしていきたいと思ってます。
グリフは魔術師ギルドの入り口で頭を抱えていた。
わかっていたことだ、あの老人を、祖父を自分達が止められないであろうことは。
しかしそれが翌日とは、こんないきなりとはっ。
そうだ、そう考えること事態が甘かったのだ。昨日の自分達の反応を見て、あの老人がどう考えるのかもっと気をつけておくべきだった。
困った、このままだと騒ぎになる、最悪だ。
とにかくここにいても時間を無駄にするだけだ、すぐこの場で決断しなくては。
「エリー」
グリフはいつものように、にこにこ顔でかたわらにたつライバー家のメイドに聞いた。
「ここまでどうやってきた?馬か?」
「はい、そこの角に。フィンレイを追いますか?」
「ああ」
急がなくてはならない。とにかく時間が欲しい、せめて自分が到着するまで何事も起ってなければいいのだ、それは無茶か。だが、どうしても間に合わないというその時は。
その時間を稼ぐくらいの活躍を今の弟に期待してもいいだろう。
その期待された方の弟、フィンはこの瞬間を必死に走っていた。
間違いなく、今の彼は自己最高の速さで町を駆け抜けていえう自覚があった。
だが起きぬけで朝食抜きだった、それが正直つらい。これが一日だらけようとして寝坊したことへの罰ではないかとちらと思ったりする。
曲がり角をできるだけ速度を落とさないように、と突っ込むと。その向こうからきていた男性の驚いた顔が一瞬目に飛び込んできて焼きつく。
とりあえず激突は避けられた、しかしありえないだろ。
こんな朝早くに共同学校をサボった貴族の次男坊が、猛然とあまりよろしくない連中のたむろする場所へと走っていく姿が目撃されるとか。これが目立たないわけがない。
きっと町の噂は昨日の武勇伝から、明日は問題児とか、不良とかに変わってしまうのだろう。
その情けなさ、というか自分でもわかる落ちっぷりに泣けてしまいそうだ。
そんな彼が現在向かっているのが、酒場「紅雀」亭である。
この大きくない町でも、あまり柄のよろしくない連中が集まる場所がひとつあった。それこそが酒場「紅雀」亭である。
ちょっとした立派な屋敷程度の広さの、3階建てがそれだ。
ここには安酒狙いのごろつき連中はのぞいても、傭兵やハンター、賞金稼ぎといったあたりはまだましで。なかには殺し屋や山賊など物騒な連中なども、時々姿を見せていた。
彼らは大小違いはあれ、いわゆる今をときめく札付きのワル共である。
そこへあろうことか、巷に伝え聞く伝説のドラゴンスレイヤーと同じ名前を名乗る老人が表れて、だ。
「わしと一緒にゾンビハンターにならないか?」なんて言ったらどうなるだろうか?
間違っても、そんな老人を彼等が笑顔で応対してくれるはずがない。そして(きっとおじいちゃんはそう思っているかもしれないが)「おお」と彼等がリスペクトとやらをしてくれるなんてこと、絶対にない。
どうなるかというとだいたいこんな感じ、カチンときてなんだよこの爺さん、ってなる。その後のことは今朝の彼らの気分が少しでも良いことを祈るしかない。
いやいや、もし全てが手遅れでもっと最悪の状況になってしまったら、例えばあの老人が冷たい体で我が家に帰宅なんてことになったら。
死ぬ、殺される。
まず真っ先にあの酒場にいるやつをグリフは絶対に許さない。血の海になる、それだけで終わるか?いやいや、そんなわけがない。きっとこっちをみて、間に合わなかったお前にも責任がある、とかなんとか言うのだろう、きっと。
自分は死刑だ、問答無用で有罪確定だ。あの兄なら間違いない。
そんな最悪の光景は恐怖となってフィンの心の中で徐々に大きく、かき回していった。
紅雀亭がフィンの視界に入った時の気持ちは、とても言葉にしようがない複雑なものだった。
苦しい、汗かいた、もう疲れた、面倒くさい、でも間に合ったか?前へ進もうとすると足がもつれあやうく通りを歩く馬の前に転がり出そうになった。
危なかった。現場を前に事故に巻き込まれたらそれこそ笑えない。フィンは足を止めると、息を整え、周囲をうかがいみた。
まだ朝だというのに店の周りは、いつものようにどよんとした空気がただよっている。
そして、角を凄い速さで曲がってきて転びそうになった少年に向けられた数々の視線は不信をあらわにした冷たいものばかりだった。思わず、びびってしまい咳払いなどしてごまかしつつも身体をすくめてしまう。
さて、本当に僕は間に合ったのだろうか?中にはすぐに入らなくてはならないだろうか?エリーはちゃんと兄に会って話してくれただろうか?まさかあのボケメイド、「あら、フィン様。なんでしたっけ?」とかやってないよな?
彼はここで一息つき兄達と合流できればと思ったが、現実は彼にそんな楽をさせるのを許さなかったようだ。
わっと店の中から声があがったのが聞こえたからだ。
絶対、おじいちゃんのせいだ。
なぜか確信した。そしてそう思ったら、ここまできたフィンレイ・ライバーに動かない理由はなかった。
店に駆け込んで最初に見た光景はなかなかショッキングなシーンだった。
ブタ顔の筋肉ダルマがいて、なぜかそいつがじいちゃんをつかんで大きく体の上へと持ち上げていた。当たり前の話だが、子供のようにあやしていたわけではない。
これからまさにどこかへとあの老人の細い体を叩きつけてくれようという、バックブリーカーの態勢にあったのだ。
(殺される!?)
そう思ったらすぐにフィンの体が反応した。
「ぅおおォー!」
フィンに躊躇なんてなかった。
そのまま手近にある酒場の机にかけのぼるとそのまま体を宙へと投げ出した。
今回、珍しく短かった!
でも多分次回はまたいつもの調子にもどりそうです。




