第8話 すれ違い
朝日が昇る。
レオンは誰よりも早く起きると、木剣を手に取った。
素振り百回。
走り込み。
腕立て。
腹筋。
最後にもう一度、素振り。
これが毎朝の日課だった。
「レオン!」
父が家の前から呼ぶ。
「今日からアレンの訓練を始める!」
「はい!」
レオンも返事をした。
「僕も行きます!」
父は少し考え、首を横に振る。
「いや、お前は家の手伝いを頼む。」
「……え?」
「アレンには才能がある。今のうちから鍛えてやりたい。」
レオンは黙った。
「分かりました。」
そう答えるしかなかった。
◇
庭では父がアレンへ剣を教えていた。
「そうだ、その調子だ!」
「すごいぞ!」
アレンは初めてとは思えない動きを見せる。
レオンは洗濯物を干しながら、その光景を見つめていた。
(僕も……教えてほしかったな。)
そんな言葉は胸の中へしまう。
父に悪気がないことは分かっていた。
才能のある弟を伸ばしたい。
それだけなのだ。
◇
夕方。
レオンは一人で木剣を振っていた。
「百九十八……百九十九……二百。」
そこへアレンが走ってくる。
「兄さん!」
「今日ね! 父さんに褒められた!」
「そっか。」
レオンは笑顔で答える。
「よかったね。」
「うん!」
アレンは嬉しそうに家へ戻っていった。
その背中を見送りながら、レオンは木剣を握り直す。
「僕は……」
空を見上げる。
「僕のやり方で強くなる。」
誰も教えてくれないなら。
自分で考える。
誰も期待してくれないなら。
自分が、自分を信じる。
木剣を構える。
「僕は天才じゃない。」
一歩踏み込む。
「だから――」
剣を振る。
「誰よりも努力する。」
乾いた音が、夕暮れの空へ響いた。




