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第7話 弟たち

魔力測定から二年。


 七歳になったレオンは、毎朝欠かさず木剣を振っていた。


「九十八……九十九……百!」


 最後の一振りを終え、息を吐く。


 腕は痛い。


 手のひらには豆もできていた。


 それでも、昨日より少しだけ剣が軽く感じる。


「レオン!」


 家の中から、母の声が響いた。


「すぐ来て!」


「何かあったの?」


 慌てて戻ると、母は寝台に横たわっていた。


 その腕には、小さな赤子が抱かれている。


「弟よ」


「……弟」


 レオンは恐る恐る顔を覗き込んだ。


 小さい。


 驚くほど小さい。


 赤子は目を閉じたまま、レオンの指を握った。


「……」


 胸の奥が温かくなる。


「かわいい」


 父が笑った。


「今日から、お前は兄だ」


「僕が……」


 前世では、一人っ子だった。


 兄になるのは初めてだ。


 レオンは赤子の小さな手を見つめた。


「名前は?」


「アレン」


 母が優しく答える。


「アレン・フェルディスよ」


「アレン……」


 レオンはその名を繰り返した。


「よろしくね」


 赤子は何も答えない。


 ただ、指だけは離さなかった。


     ◇


 それから三年。


 家族はさらに増えた。


 次男のアレン。


 そして三男のルーク。


 二人とも、よくレオンの後ろをついて回った。


「兄さん、待って!」


「僕も剣やる!」


「危ないから、木の枝にしよう」


 レオンは二人に短い枝を渡す。


「こうやって握るんだよ」


「こう?」


「うん。足はもう少し開いて」


 弟たちは楽しそうに真似をした。


 家の裏庭には、三人の笑い声が響く。


 レオンは、その時間が好きだった。


 前世では得られなかった、兄弟との日々。


(今度こそ)


(この家族を大切にしたい)


 心から、そう思っていた。


     ◇


 だが、弟たちの才能が分かるまで、時間はかからなかった。


 アレンが五歳になった日。


 父が魔力測定用の水晶を差し出した。


「手を置いてみろ」


「うん!」


 アレンが触れた瞬間。


 水晶が眩しく輝いた。


「……これは」


 父の表情が変わる。


「平均の五倍以上ある」


「本当に?」


 母も驚いて水晶を覗き込んだ。


「すごいわ、アレン!」


 家の中が喜びに包まれる。


 アレンは嬉しそうにレオンを見た。


「兄さん、僕すごい?」


「うん」


 レオンは笑った。


「すごいよ」


 その二年後。


 ルークも測定を受けた。


 結果は、アレンを上回った。


「二人とも、とんでもない才能だ」


 父は興奮を隠せない。


「将来は高級冒険者にだってなれるかもしれない」


 母も嬉しそうに弟たちを抱きしめた。


 少し離れた場所で。


 レオンは、自分の手を見ていた。


 平均以下だった自分。


 誰よりも努力してきた。


 それでも。


 弟たちは、生まれながらにして遥か先にいた。


「兄さん?」


 アレンが振り返る。


「どうしたの?」


「何でもないよ」


 レオンは笑った。


 弟たちは何も悪くない。


 むしろ、誇らしかった。


 だからこそ。


 胸の奥に生まれた小さな悔しさを、誰にも見せたくなかった。


     ◇


 その夜。


 家族が眠ったあと。


 レオンは一人、裏庭へ出た。


 月明かりの下で木剣を握る。


 一振り。


 二振り。


 腕が重くなっても、止めない。


「弟たちは天才だ」


 小さく呟く。


「僕は違う」


 木剣を振る。


「でも」


 もう一度。


「だからって」


 さらに一度。


「諦める理由にはならない」


 弟たちが十回で覚えるなら。


 自分は百回。


 百回で足りないなら。


 千回。


「僕は天才じゃないから」


 汗が地面へ落ちる。


「何回もやるしかない」


 月の下。


 平凡な少年は。


 誰にも見られない場所で、剣を振り続けた。

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