↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/104

第87話 胸の奥の疑問

【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―

茶々蔵(ちゃちゃぞう)と栄善(えいぜん)、そして哀伝(あいでん)は、御用牢(ごようろう)へと向かっていた。


道中、静かな足音の間を縫うようにして、哀伝がぽつりと言葉を漏らす。


「……ねぇ、栄善。これ、杏歌(きょうか)には絶対に言わないでほしいんだけどさ……」


「……どうしたのだ、哀伝……」


哀伝の真剣な表情に、栄善も茶々蔵も目を釘付けにした。


「僕、路傍斬(ろぼうぎ)りを取り押さえたでしょ? あのとき……僕が見た感じ、あの路傍斬り、本当の狙いは最初から杏歌だったんじゃないかって……そう思ったんだ」


その言葉に、茶々蔵の額にわずかな皺が寄る。


栄善も小さく息を呑んだ。


「……な、なんということじゃ。過去に杏歌が襲われたとき、栄善たちの話からすると、わしらは殿である栄善を狙うはずじゃった。じゃが、たまたま後ろにいた杏歌に標的を変えたのだと思っておったが……」


「……哀伝は、なぜそのように思ったのだ?」


栄善の問いに、哀伝は一拍置いてから口を開いた。


「あのとき、僕は路傍斬りが襲ってくるのを瞬時に察知したんだ。幼い頃は、もう襲われた後で気づけなかった。だけどね……」


哀伝は、一度目を閉じ、あの光景を思い返すように静かに答えた。


「路傍斬りは、真っ先に杏歌に狙いを定めてた。あの一瞬、僕の目には、迷いなく杏歌に向かうその姿がはっきりと映ったんだ」


哀伝の言葉に、栄善と茶々蔵は思わず驚きの表情を浮かべた。


そのまま、哀伝は静かに言葉を続ける。


「……栄善は、あの場にいてどう思った……?」


「……私は……」


栄善は言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。


「……哀伝の言うことも確かだ。其方の勘は恐ろしく鋭い。だが……私には、どうしても気になることが一つある」


「……気になること?栄善、その“気になること”って、一体何?よかったら、僕たちにも教えてくれないかな?」


哀伝と茶々蔵は小さく微笑む。


その笑みに背中を押されるように、栄善は言葉を紡ぎ始めた。


「過去に路傍斬りが現れたときも、そして今回も……路傍斬りは、必ず私を見据えていたのだ。あれは勘違いなどではない。視線を──確かに感じた」


栄善の言葉に、哀伝と茶々蔵は息を呑む。


「……初めは、無差別に通りすがりの者を狙っているのだろうと、私は信じて疑わなかった。それが路傍斬りのやり方なのだと思っていた」


哀伝と茶々蔵が静かに頷く中、栄善は言葉を重ねた。


「だが、今回、私は確信を得た。路傍斬りの視線は間違いなく私へ向けられていた。狙いは定まっていたはずだ。……となれば、本来狙うべきは殿である私のはず。杏歌は私の後ろにいたがゆえに、狙われたのだという考えが、どうしても拭えぬのだ……」


哀伝は優しく栄善の肩に手を置き、穏やかに声をかけた。


「……栄善、話してくれてありがとう。確かに、その疑問も無視できない証拠だよね」


茶々蔵も静かに微笑む。


「……哀伝、すまない。決して、哀伝の意見を否定しているわけではないのだ」


「な〜に言ってんの。そんなことくらい分かってるよ。僕たち、何年幼馴染やってると思ってるの?」


「……ふっ、それもそうだな」


二人とも目を合わせ、そっと微笑む。


その後、哀伝が表情を引き締め、口を開いた。


「さてと……この疑問の真相は、本人に話してもらうのが一番だよね」


三人は扉の向こうを見据える。


木の格子越しに、薄暗く湿った牢《ろう》の空気が漂う。


床にはわずかに敷かれた藁《わら》が見え、低い天井が圧迫感を与えていた。


「では……栄善、哀伝、参るぞ」


茶々蔵の声を合図に、三人は覚悟を決めるように、ゆっくりと牢の中へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。