第80話 守るべきもの
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
緊急会議が終わったあと、栄善と茶々蔵は、重役や幼馴染である私たちを会議の間に残し、雲祈が口にした「敵」の存在について密かに話し合った。
大納、蒼月、雲祈、綿花に関しては、変に不安を煽らないように──二人はその配慮も忘れてはいなかった。
これと言った有力な情報や具体的な策があるわけではない。
だけど、今まで知り得なかった情報を仲間たちで共有することは、何よりも大切だった。
私たちは、このお城を──そして、この国を守り抜かねばならないのだから。
その後、私と哀伝、七左衛門、団丸は、私の部屋でこの件について話し合った。
「う〜ん……僕が不可解なのは、どうしても栄善と小梅を婚約させないといけないのかってところなんだよね〜」
哀伝は両手を組み、額に皺を寄せて考え込む。
部屋の空気は、静かに張り詰めたままだった。
その沈黙を破るように、七左衛門が小声で呟く。
「……確かにだな。あれほどの情報を流してまで、婚約をさせる必要があったのか……」
団丸は腕を組み、仁王立ちで答える。
「だけどその情報、どうやって流したんだろうな?」
私は少し身を乗り出して頷く。
「まさにそこなのよね……たとえその情報を掴んでいたとしても、どうやって知らせるのかしら?敵が城内に潜んでいたとしても、そんなに簡単に抜けられるはずがないわ」
哀伝が口を開く。
「だけど、敵が城内にいるとは限らないからね〜。仮に外にいるとしたら、この国の中から探すとなると、かなり困難になっちゃう……」
哀伝のその鋭い言葉に、部屋の中は一瞬、静まり返る。
私たちはお互いに視線を交わし、どう動くべきか考えを巡らせる。
部屋の中にも晩秋の冷気が忍び込み、静かな緊張が肌にじんわりと伝わった──
未来を見据えるには、覚悟が必要だった。
七左衛門が微かに笑みを浮かべる。
「……俺たちは、今、自分たちにできることを精一杯取り組もうぜ」
団丸も拳を握り締め、力強く頷く。
「おう!そうだな!おいらは外回りや訓練中に、怪しいやつがいないか確認するぞ!」
その二人の元気な言葉に、私も哀伝も自然と微笑みがこぼれた。
この国のため──そして、自らを顧みず、国を守ろうとしてくれた大切な幼馴染、栄善のため。
大きなことはできないかもしれない──だけど、今、私たちにできることを精一杯やろうと、胸の奥で強く決意した。
「まぁ……仮に小梅が何らかの理由でその情報を知っていて、栄善のことを好きだから権力を使った、なんて可能性もあるかもね」
「哀伝の言う通り……昔、行事のたびに小梅がお城に来ていたとき、ある日を境に栄善にくっついて回ってた記憶があるわね……」
私は思い出したように小さく息をつく。
「……本当にそうだとしたら……それはまたやっかいな話だな……」
「権力を使うなんて、許されないことだな!」
団丸はむっと頬を膨らませ、むくっと立ち上がる。
その勢いで、今にも襖を壊しそうになる団丸を、哀伝と七左衛門が必死に押さえた。
「団丸、落ち着いて、ね?」
「何やってんだよ、お前は……」
私は深く息をつきながら、その暴れん坊を宥める。
「まぁまぁ、団丸。まだ、小梅が敵だって決まったわけじゃないんだから、落ち着いて」
団丸は一瞬、きょとんとして考え込む──と思いきや、すぐに表情をほぐし、豪快に笑い声を上げた。
「……そっか、それもそうだな!がははははー!」
その笑い声は、張りつめていた部屋の空気をふわりと和らげ、思わず私たちも笑い声を上げた。
「ぷはははは〜!杏歌の団丸の宥め方、犬をあやしてるみたいなんだけど〜」
「くくくっ、おい哀伝、ゴリラが犬をあやしてどうするんだよ」
「ぷっ!それ、反則七左衛門!」
思わず肩が震える。そう、怒りで──
「……七左衛門……なんですってー!!」
「体力ゴリラが追いかけてくるぞー!二人ともおいらに続けーー!!がははははー!」
団丸の掛け声に、哀伝と七左衛門も部屋から飛び出す。
私は息を切らしながらも、少しだけいつもの日常が戻ったようで、胸がじんわり温かくなった。
***
幾日かが過ぎたある日──婚約者の小梅が、正式に私たちのお城に住むことになった。
その知らせは、お城に新しい風を運ぶと同時に、胸の奥に小さな緊張と予感を残した。
晩秋の季節はあっという間に色を変え、落ち葉を静かに舞わせながら去っていく。
そして、静かな気配をまとった冬が、お城の中にそっと訪れていた。




