第78話 崩れ落ちる未来
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
──どうして、こんなことに……
御殿の間の前で、私は息をひそめて、その様子を見守っていた。
中には、栄善と茶々蔵だけ。
襖で仕切られ、細部は伺えない。
けれど、緊張の空気が静かに、それでも確かに流れ出してくるのを感じる。
胸がざわつく。
──お願い、どうかうまくいって。
両手をぎゅっと握り、指の先まで力が入る。
祈ることしか、私にはできなかった。
襖越しに漂う香炉の香り。
静寂の中に微かに響く紙の擦れる音。
そのすべてが、心をひりつかせる。
そんな私の様子をふっと感じたのか、哀伝がそっと腕を回し肩を寄せる。
柔らかな温もりに触れ、胸の奥が少しだけ落ち着く。
けれど、それでも鼓動は早いまま──
しばらく経ち、襖がわずかに軋む音と共に、ゆっくりと開けられた。
その向こうに姿を現したのは、栄善と茶々蔵、そして朽葉ノ国の方々。
緊張の空気が、ふっと室内から外へ溢れ出す。
「では、娘のことをよろしく頼みますよ」
朽葉ノ国の姫君、小梅の父の声が響く。
その声に、小梅もふわりと笑い、柔らかな声を返す。
「準備が整ったら来るからね。お昼の甘味、とても美味しかったわ」
言葉を残してご一行は去っていく。
静かな足音が妙に耳に残り、心の中でまだ小さく波を立てている。
襖が閉まるその瞬間まで息をひそめ、次の動きを待った。
室内の静寂が、胸の高鳴りを際立たせる。
……俯き、何も言葉を発さない栄善と茶々蔵。
「……栄善……茶々蔵……?どうだったの……?」
声は震え、心の奥でざわつく不安が広がる。
先ほどの小梅の父の言葉が、胸の奥で微かに重くのしかかる。
まさか……そんなはず……
私の願いとは裏腹に、栄善の口から衝撃的な言葉が静かに放たれた。
「……小梅と婚約をする」
その瞬間、今まで見えていた希望の光も、未来の輝きも、音もなく消え去るように感じた。
胸の奥がひりつき、鼓動が止まったかのように響く──




