第66話 騒がしい広間
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
綿花がお城へ戻ると、廊下には春風と杏歌の姿があった。
綿花に気づいた春風が声をかける。
「おっ、綿花。文書は無事に公儀飛脚へ届けられたか?」
「はい。廊下で雲祈さんに出会い、飛脚さんの屯所まで案内してくださいました」
綿花の話を聞き終え、春風はやれやれと頭をかきながら、軽くため息をついた。
「そうか、よかった。それにしても、あいつは私に戻った報告もせず、綿花を案内したのか」
春風の苦笑いを微笑ましく見つめながら、杏歌はくすりと笑った。
「ふふっ。雲祈らしいわね。それに綿花は、座学のときに屯所へ行ったことがなかったのよね。ごめんなさいね、不安だったでしょう?」
「いいえ。私のときは時雨さんに教わったのですが、忙しくて結局行けなかったんです。だから、雲祈さんに案内していただけて、とても助かりました」
「ふふっ。それならよかったわ」
三人で微笑み合ったあと、綿花が小さく微笑んで口を開いた。
「文書作成も無事に終わったので、諭作さんからいただいた山茶花団子を皆さんにお分けしますね」
「そうだったな。ちょうど小腹も空いた頃だ。綿花、私も手伝うよ」
「いいわね。なら私は、みんなを広間に案内するわ。哀伝はもう商談を終えたのかしら?」
こうして三人は、それぞれの役目を果たすべく動き出した。
*
広間に集まった皆のもとへ、綿花がそっと山茶花団子の箱を運んでくる。
箱を開けると、中には色とりどりの山茶花を模した、美しく愛らしい団子が整然と並んでいた。
その愛らしい姿に、皆の顔に自然と笑みがこぼれる。
「……わぁ〜」
「……綺麗だね」
綿花と春風は一つひとつ竹皮に包みながら、丁寧に団子を手渡していく。
団子が一つ、また一つと皆の口へ運ばれ、笑顔が広がり、感謝の声が広間にあふれ、柔らかな温かさが場を包み込んだ。
そこへ、雲祈の元気いっぱいの声が加わった。
「あぁ〜、なんて美しい山茶花団子でしょう。それを、お美しい杏歌様と一緒にいただけるなんて……私はなんて幸せ者でしょう〜!」
「……ったく、お前は本当に、任務を終えたとは思えないほど元気だな」
「ほっほっ。春風、本当じゃの。雲祈の元気のよさは計り知れぬな」
茶々蔵はにこやかに笑い、雲祈のはしゃぎぶりを見守る。
「まぁ、杏歌のこととなると……と言ったところかしら? 杏歌、あなたすごい部下を持ったものね」
「……えぇ、そうね。まぁ、雲祈が元気になるのなら、それはそれでよかったわ」
杏歌は優しく微笑み、広間の様子を静かに見守った。
諭作への感謝の声が広がる中、大納が小さく、ぽつりと呟いた。
「今日は雲祈に先を越されてしまったな、蒼月」
「そうだね、大納。先輩として、先手を取られてしまったね」
悔しそうな二人をよそに、雲祈は胸を張り、得意げに手を腰に添える。
「はっはっはっ。本日、綿花さんと任務をご一緒しましたし、公儀飛脚さんの屯所へも伺いました!」
「ふふっ。雲祈さん、今日は本当にありがとうございました。心強かったです」
「いえ!先輩として当然のことをしたまでです!」
「……くぅ〜、私も雲祈の今の言葉を綿花さんに言いたかった」
「……私もだよ、大納。悔しいけど、私たちはこれからだよね」
そのやり取りを見守る先輩たちは、三人の成長を頼もしく感じ、自然と微笑んだ。
「それにしても、山茶花団子は本当に美味しいわね」
「本当ですね、杏歌様!このまろやかな甘さ、私はもう、とろけてしまいそうです〜」
その雲祈の言葉に続いて、広間のあちこちから「美味しい!」という声が上がる。
皆、笑顔を浮かべながら山茶花団子を頬張り、思わず頬がほころぶような幸せな雰囲気が広がった。
そんな和やかな空気の中、春風がふと思い出すように口を開いた。
「そういえば杏歌。哀伝は、まだ商談が終わりそうになかったのか?」
「えぇ、もうすぐ終わりそうな様子ではあったんだけどね」
そのとき、広間の襖が静かに開いた。




