第65話 公儀飛脚・虎鉄さん
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
雲祈に手を引かれ、綿花は軽く小走りでついていく。
やがて目の前に現れたのは、城内でもひときわ活気のある公儀飛脚たちが出入りする屯所だった。
「さぁ、綿花さん!こちらですよ!」
雲祈の明るい声に背中を押され、綿花は一歩ずつ屯所の中へ足を踏み入れた。
「あっ、虎鉄さん!文書をお預けに参りました!」
雲祈の声に促され、綿花は少し緊張した面持ちで一歩前に出る。
「……こちらです」
そう言って文書を差し出した。
「おお、雲祈だべさ。それと可愛らしいお嬢ちゃんか。文書だな。よし、今確認するから、ちょっと待っててけろ」
虎鉄は堂々とした体格でにこりと微笑み、封の裏に押された印を丁寧に確認する。
「お、蔵の印も二か所ついてるし、間違いねぇべ。宛先は朽葉ノ国だな。おらに任せてけろ」
綿花はほっと息をついた。
どうやら、思っていた以上に肩に力が入っていたようだ。
その様子を見て、雲祈もにこにこと笑って肩を揺らした。
「虎鉄さん、こちらは交易使者の綿花さんです。私の後輩でございます。今後ともよろしくお願いしますね!」
虎鉄はにこりと微笑む。
「あなたが綿花さんだべさ。おらは虎鉄だ。おら以外にもあと三人いるだべさ。こちらこそよろしくけろ」
綿花は少し照れながらも、虎鉄の穏やかで親しみやすい態度に安心感を覚えた。
「綿花さん、公儀飛脚の皆さんはとても話しやすく、面白い方々ばかりなのですよ。また私がご案内しますから、ご紹介させてくださいね」
「ふふっ。はい、ありがとうございます」
「じゃあ、おらは松風さんのところへ公儀札を貰いに行くだ」
「では、綿花さん。私たちも蔵の方を通って帰りましょう」
「ふふっ。そうですね」
こうして三人は雑談を交えながら、蔵へと向かった。
蔵へ向かう途中、前方で荷物を抱えてよろよろと歩く諭作の姿が見えた。
「あれ……諭作さん?」と雲祈が声を上げる。
諭作は荷物を抱えながら腰をさすり、苦笑いを浮かべた。
「これは皆様方お揃いで。栄善様からご依頼のございました色奉書をお届けに参りました。……あたたたたっ」
「諭作さん!本日お店へ伺ったときも腰が痛いとおっしゃられていましたが、大丈夫ですか?」
「ほほほっ。なぜか今日は一段と痛みましてな。ご心配をおかけして申し訳ないですな」
「諭作さん、大丈夫だべ?無理しねぇでけろ」
「ほほほっ、虎鉄さん。お気遣いありがとうございます」
諭作はそう言いながら、また腰をさすった。
その様子を見ると、雲祈はすぐに歩み寄る。
「諭作さん、色奉書は松風さんのもとへお届けなのですよね?それでしたら、私がお持ちしますよ!」
そう言うと雲祈は、諭作の抱えていた荷物をそっと受け取った。
「これは、これは雲祈様。ありがとうございます。助かります」
「いいのですよ、これくらい。困ったことがございましたら、この私にお任せください!」
雲祈は綿花の方を振り返り、にこりと笑った。
「私はこのまま松風さんのところへ参りますので、綿花さんは先に戻っていてください。遅くなってしまっては皆様が心配されるかもしれませんから!」
綿花は小さく頷いた。
「分かりました。では先に戻って、諭作さんからいただいた山茶花団子を皆さんで分けながら待っていますね」
「はい、ありがとうございます!」
綿花は諭作の方へ向き直り、軽く頷いた。
「諭作さん、お大事になさってください」
「ほほほっ。ありがとうございます、綿花様」
「虎鉄さんもありがとうございました」
「綿花さん、こちらこそ。これからもよろしくだべさ」
こうして、綿花は雲祈たちと別れ、静かな城内の通路を歩きながらお城へと戻っていった。




