第6話 新しい風
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
だっだっだっだっだーーーー!!
地響きのような足音が廊下を駆け抜け、一直線にこちらに迫ってくる。
え……なに……?
勢いよく襖が開けられた。
「起きろーー!!杏歌ーー!!朝だぞーー!!がははははーーー!!」
その声の主──元気いっぱいの団丸が、まるで嵐のように部屋に飛び込んできた。
「勝手に入ってくんなー!」
驚いた私の顔を見るなり、哀伝はお腹を抱えて大笑い。
「ぷはははは〜!杏歌の驚いた顔、面白すぎてお腹痛いんだけど」
なんなの、こいつら朝っぱらから〜!
「何やってんだよ、お前ら……団丸、俺らは今から現場だろ。遅れるぞ」
さすが救世主、七左衛門!
「団丸と七左衛門、行ってらっしゃい〜」
「おう!哀伝と杏歌も頑張れよー!じゃあなー!」
なんだったのよ、一体……
朝からどっと疲れたわ。
そして、私と哀伝もそれぞれの持ち場へと向かった。
*
仕事も一区切りついたところで、気晴らしに外の景色でも眺めようと、廊下に出たそのとき、元気な声が響いてきた。
「あっ、杏歌さん!こんにちは!」
「仕事は終わられたのですか?」
「大納と蒼月じゃない。気晴らしに外の景色でも眺めようと思ってね」
勘定補佐の御子柴 大納。
勘定使者の院瀬見 蒼月。
雲祈と同じ頃に入った、勘定班の二人。
同期の三人は、すぐに打ち解けたみたいで、無邪気に笑い合っている姿をよく見かける。
柚寧が探してきたというだけあって、本当にしっかりしてるのよね。
「早く杏歌さんのようになれるよう、私も精進いたします」
「雲祈が羨ましいです。また色々と教えてくださいね」
「えぇ、もちろんよ。二人ともまたね」
可愛い後輩たちが増えて、私も嬉しいわ。
「さすがは杏歌だな。昔から賢くて頼りになるお前だから、後輩たちも憧れるんだろうな」
「春風、みんな昔からそう言ってくれるけど、私、そんな自覚ないんだけどな」
私は昔から、しっかりしてるとか賢いだなんて言われて育ってきた。
将来は、このお城を担う『外交』になるとか、色々とね……
昔から、つい詰めてしまう性格に問題があると思うんだけど、だからこそ後輩や上司にも頼られることが多いのかもしれない。
「だが、お前は仕事を詰める癖があるからな。あまり無理するんじゃないぞ。私はお前の上司なんだから、何かあればいつでも頼れよ」
「……うん、ありがとう春風。頼りにしてるわ」
私の上司なんだから──この言葉が、私の心の奥深くに響く。
「あれ、春風さんと杏歌様ではないですか!お二人とも、休憩中ですか?」
「あぁ、少しな。雲祈、外回りご苦労だったな。報告書もあるだろうが、お前も無理するなよ」
「春風さん、ありがとうございます!私は今、杏歌様のお姿を拝見できたので、疲れなどなくなってしまいました。あぁ〜、杏歌様〜」
なんだか今にも踊り出しそうな雲祈……
本当に疲れていたのやら……
「お前は、なかなか癖のあるやつに好かれるな」
「……光栄だわ」
ぶっ飛んでる雲祈のおかげで、私も春風もつい笑ってしまった。
ほんの少しだけ肩の力が抜ける。
「いい息抜きになったな」なんて、二人で顔を見合わせて笑い合った。
私たちはそれぞれの書斎へと戻り、残りの仕事にも励んだ。
***
それから、三週間後。
交易の場にも、ようやく新たな顔ぶれが加わった。
「四乃森綿花です。本日より交易使者を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「綿花よろしくね。何かあったら、先輩の僕になんでも聞いてね〜。僕たちの上司は、常に酔っ払ってるからさ〜」
「何〜言ってんだよ、哀伝。俺だって、やるときゃやるんだよ」
四乃森 綿花。
彼女は、時雨がようやく見つけてきた交易使者の女の子。
時雨の行きつけの飲み屋で、最近働き始めた綿花をどうやら彼が引き抜いてきたらしいの。
なんでも綿花は、商人たちの間で『交渉が上手い娘がいる』と話題になっていたそうで、時雨は『これはもうこの子しかいねぇ!』って思ったそうよ。
まぁ、連れてきたときも、べろべろに酔っ払ってたんだけどね……
「綿花ごめんなさいね。あのお店で働いていたところを、急に連れてきちゃって……お店の方たちは、大丈夫だったの?」
「杏歌さん、ありがとうございます。はい。時雨さんは大将と長年のお知り合いのようでしたし、『時雨さんが困っているなら』と、快く送り出してくださいました。私もいつかお城でお務めすることに憧れていましたので、とても嬉しいです」
「そう。それならよかったわ」
「綿花さん!私は雲祈です!こちらに入って日が浅いのですが、困ったことがあれば、何でも聞いてくださいね!」
「あっ、雲祈だけずるいではないか。綿花さん、私は雲祈と同期の大納です。部署は違いますが、どうぞ頼ってくださいね」
「私も雲祈と大納の同期で、蒼月と申します。可愛い後輩ができて、嬉しいです」
ふふっ。
みんな、後輩ができて嬉しそうね。
これからは、ますます賑やかになりそうだわ。
こうしてまたひとつ新しい風が、私たちのもとへ吹き始めた。




