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第6話 新しい風

【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―

だっだっだっだっだーーーー!!


地響きのような足音が廊下を駆け抜け、一直線にこちらに迫ってくる。


え……なに……?


勢いよく(ふすま)が開けられた。


「起きろーー!!杏歌(きょうか)ーー!!朝だぞーー!!がははははーーー!!」


その声の主──元気いっぱいの団丸(だんまる)が、まるで嵐のように部屋に飛び込んできた。


「勝手に入ってくんなー!」


驚いた私の顔を見るなり、哀伝(あいでん)はお腹を抱えて大笑い。


「ぷはははは〜!杏歌の驚いた顔、面白すぎてお腹痛いんだけど」


なんなの、こいつら朝っぱらから〜!


「何やってんだよ、お前ら……団丸、俺らは今から現場だろ。遅れるぞ」


さすが救世主、七左衛門(しちざえもん)


「団丸と七左衛門、行ってらっしゃい〜」


「おう!哀伝と杏歌も頑張れよー!じゃあなー!」


なんだったのよ、一体……

朝からどっと疲れたわ。


そして、私と哀伝もそれぞれの持ち場へと向かった。



仕事も一区切りついたところで、気晴らしに外の景色でも眺めようと、廊下に出たそのとき、元気な声が響いてきた。


「あっ、杏歌さん!こんにちは!」

「仕事は終わられたのですか?」


大納(だいな)蒼月(そうげつ)じゃない。気晴らしに外の景色でも眺めようと思ってね」


勘定補佐の御子柴(みこしば) 大納(だいな)

勘定使者の院瀬見(いせみ) 蒼月(そうげつ)


雲祈(うんき)と同じ頃に入った、勘定班の二人。


同期の三人は、すぐに打ち解けたみたいで、無邪気に笑い合っている姿をよく見かける。


柚寧(ゆね)が探してきたというだけあって、本当にしっかりしてるのよね。


「早く杏歌さんのようになれるよう、私も精進いたします」


「雲祈が羨ましいです。また色々と教えてくださいね」


「えぇ、もちろんよ。二人ともまたね」


可愛い後輩たちが増えて、私も嬉しいわ。


「さすがは杏歌だな。昔から賢くて頼りになるお前だから、後輩たちも憧れるんだろうな」


春風(はるかぜ)、みんな昔からそう言ってくれるけど、私、そんな自覚ないんだけどな」


私は昔から、しっかりしてるとか賢いだなんて言われて育ってきた。


将来は、このお城を担う『外交』になるとか、色々とね……


昔から、つい詰めてしまう性格に問題があると思うんだけど、だからこそ後輩や上司にも頼られることが多いのかもしれない。


「だが、お前は仕事を詰める癖があるからな。あまり無理するんじゃないぞ。私はお前の上司なんだから、何かあればいつでも頼れよ」


「……うん、ありがとう春風。頼りにしてるわ」


私の上司なんだから──この言葉が、私の心の奥深くに響く。


「あれ、春風さんと杏歌様ではないですか!お二人とも、休憩中ですか?」


「あぁ、少しな。雲祈、外回りご苦労だったな。報告書もあるだろうが、お前も無理するなよ」


「春風さん、ありがとうございます!私は今、杏歌様のお姿を拝見できたので、疲れなどなくなってしまいました。あぁ〜、杏歌様〜」


なんだか今にも踊り出しそうな雲祈……

本当に疲れていたのやら……


「お前は、なかなか癖のあるやつに好かれるな」


「……光栄だわ」


ぶっ飛んでる雲祈のおかげで、私も春風もつい笑ってしまった。


ほんの少しだけ肩の力が抜ける。


「いい息抜きになったな」なんて、二人で顔を見合わせて笑い合った。


私たちはそれぞれの書斎へと戻り、残りの仕事にも励んだ。


***


それから、三週間後。

交易の場にも、ようやく新たな顔ぶれが加わった。


四乃森(しのもり)綿花(めんか)です。本日より交易使者を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」


「綿花よろしくね。何かあったら、先輩の僕になんでも聞いてね〜。僕たちの上司は、常に酔っ払ってるからさ〜」

 

「何〜言ってんだよ、哀伝。俺だって、やるときゃやるんだよ」


四乃森(しのもり) 綿花(めんか)

彼女は、時雨(しぐれ)がようやく見つけてきた交易使者の女の子。


時雨の行きつけの飲み屋で、最近働き始めた綿花をどうやら彼が引き抜いてきたらしいの。


なんでも綿花は、商人たちの間で『交渉が上手い娘がいる』と話題になっていたそうで、時雨は『これはもうこの子しかいねぇ!』って思ったそうよ。


まぁ、連れてきたときも、べろべろに酔っ払ってたんだけどね……


「綿花ごめんなさいね。あのお店で働いていたところを、急に連れてきちゃって……お店の方たちは、大丈夫だったの?」


「杏歌さん、ありがとうございます。はい。時雨さんは大将と長年のお知り合いのようでしたし、『時雨さんが困っているなら』と、快く送り出してくださいました。私もいつかお城でお務めすることに憧れていましたので、とても嬉しいです」


「そう。それならよかったわ」


「綿花さん!私は雲祈です!こちらに入って日が浅いのですが、困ったことがあれば、何でも聞いてくださいね!」


「あっ、雲祈だけずるいではないか。綿花さん、私は雲祈と同期の大納(だいな)です。部署は違いますが、どうぞ頼ってくださいね」


「私も雲祈と大納の同期で、蒼月(そうげつ)と申します。可愛い後輩ができて、嬉しいです」


ふふっ。

みんな、後輩ができて嬉しそうね。

これからは、ますます賑やかになりそうだわ。


こうしてまたひとつ新しい風が、私たちのもとへ吹き始めた。

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