第58話 太陽に照らされて【綿花編】
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
雲祈さんと煎承さんのお店へと向かう。
「いやぁ〜、杏歌様のお好きな山茶花団子〜。ご一緒に召し上がれると思うと、嬉しくてたまりません〜!」
そう言う雲祈さんは、いつもの調子で今にも踊り出しそうなほど楽しげだった。
私はふと気になり、普段から疑問に思っていたことを雲祈さんに尋ねた。
「……雲祈さんは、杏歌さんのことがお好きなのですよね?」
「はい!好きです!」
雲祈さんは輝く笑顔で自信たっぷりにそう私に告げた。
私は俯きながら、静かに口を開く。
「……けれど、お城の皆さんは気づいているはずです。哀伝さんと杏歌さんが、両想いであることを」
何も答えない雲祈さんの隣で、私は俯いたまま言葉を続けた。
「……賢いあなたなら、そのことは既にご存知のはずです。それなのに、なぜ毎日想いを寄せているのですか?」
それに……哀伝さんと杏歌さんの間には、私たちには見えない深い絆のようなものが感じられる。
杏歌さんはいつも強がっているけれど、その心が哀伝さんに向かっていることは一目瞭然。
敵うはずのないことくらい、分かっているのに……どうして……
なかなか言葉を発さない雲祈さんを不思議に思い、私は隣へ目を向けた。
すると、雲祈さんはきょとんとした表情を浮かべていた。
「……あの、雲祈さん。ごめんなさい、失礼なことを聞いてしまいましたよね」
再び俯く私に雲祈さんは元気よく口を開いた。
「私は杏歌様のことが好きです!しかし、それは恋心ではなく、尊敬の念なのです!」
自信満々に言い切る雲祈さんに、私は思わず小さく呟いた。
「……尊敬ですか?とてもそんなふうには見えないですけれど……」
そんな疑問を口にした私に、雲祈さんは迷わず答えた。
「はい!なぜ皆様がいつもそうおっしゃるのかは分かりませんが、私は杏歌様のことを、尊敬の眼差しで見ております!」
「……そうなんですか。そこまで尊敬されるなんて……きっかけは何かあったんですか?」
「はい!私が初めて杏歌様に出会ったあの日。あの日から私と杏歌様の運命は動き出したのです!哀伝さんにきっぱりと物申すあの姿勢、あの鋭い眼差し!あの凛々しさと言ったら……あぁ〜もう、今思い出すだけでもお美しい〜!」
そう言いながら、雲祈さんは両手で頬を押さえ、嬉しそうに顔を左右に揺らした。
「……はぁ、そう……ですか」
それが尊敬の眼差しであるようには見えなかったけれど、幸せそうな雲祈さんを見て私はそれでもいいかと思った。
そんなことを考えている私に、雲祈さんがさらりと言った。
「それに──杏歌様って、真っ直ぐではないですか」
「……え……」
不意のその言葉に、言葉を紡ぐことができなかった。
「杏歌様は何事にも一直線なお方です。例え幼馴染であっても、間違っていることは間違っているとはっきり申し上げる──あの姿勢」
静かに私の方へ向き、耳を傾けている私を見ながら、雲祈さんは言葉を続ける。
「杏歌様はこの国を支える家系のお方です。だからこそ、そんな真っ直ぐな方に付いていきたいと心の底から思いました。そして、部下として共に国を支えていきたい──この人の下で働く未来を想い描きました。そのとき、私は確信したのです。この国はきっと素敵な国になる、と!」
日差しを受け、眩しいほどに輝く雲祈さんの笑顔。
曇り一つない太陽のようなその笑顔を見て、私は思った。
この人もまた、真っ直ぐな人なのだと。
心の中を覗けるとしたら──きっと、この人の心は透明な水のように澄んでいる。
そして、杏歌さんも。
昨夜、廊下で出会ったとき、表情の硬かった私に屈託のない笑顔で声をかけてくれた。
「……ふふっ。そうですね。私も杏歌さんはとても真っ直ぐな方だと思います。そして、雲祈さんも」
雲祈さんは耳を澄ませるように身を乗り出し、すぐに口を開いた。
「いやぁ〜、杏歌様とお似合いだなんて言われて私はとても嬉しいです〜!もう、綿花さん正直なのですから〜!」
……前の会議のとき、七左衛門さんに同じことを言われていたけれど、本当に雲祈さんって都合のいい耳をしている。
ふと気づけば雲祈さんはにこやかに顔を上げ、私に向かって声をかけた。
「綿花さんはしっかりしていて、皆様がとても助かっているとお聞きしていますよ!これからも、この国のために精一杯励みましょうね!」
あまりに真っ直ぐなその言葉に、思わず肩の力が抜ける。
「……ふふっ、はい。ありがとうございます」
「煎承さんのお店は、もうすぐですよ、綿花さん!」
弾む声に顔を上げると、柔らかな陽射しを受けた雲祈さんが太陽のように眩しく笑っていた。
私はその隣に並んで、てふ紙屋へと歩を進める。
胸の奥に残るのは、静かな温もり。
真っ直ぐな想いに照らされながら今日もまた、一歩前へ。




