第54話 朝の誘い 外へひとつ
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
夜更けの会議から二日後の朝──
書斎で私は、一つの書類を仕上げ終えたところだった。
「よし、朝のうちに片付けると気持ちがいいわね」
両手を広げ、肩をゆっくり回しながら体をほぐす。
そのとき、襖の向こうから声が聞こえた。
「杏歌〜。僕だけど、開けていい〜?」
「いいわよ、哀伝」
襖がぱっと開き、にこにこ顔の哀伝が顔を出した。
「おっはよ〜、杏歌〜。もう朝から仕事してたの〜?」
「えぇ、少し片付けておこうと思ってね。でも見てよ、もう一つ仕上げたのよ」
そう言いながら、私は仕上げた書類をそっと哀伝に見せた。
「さすがだね、杏歌〜。朝一番で、もう一つ仕事終わらせちゃうなんてさ〜」
「ありがとう、哀伝。ところで、哀伝はどうしたの? 今からだん吉のところでしょ?」
「うん、そうなんだ〜。ねぇねぇ、杏歌〜」
相変わらずにこにこ顔の哀伝は、私に向かって言った。
「杏歌も一緒に、だん吉のところへ行かない? 仕事も一つ終わったんでしょ?たまには息抜きしようよ」
そう言いながら、哀伝は私の手をそっと引く。
ふふっ。
昔からこういうところ、本当に変わらないんだから。
「えぇ、そうね。それもいいわね。だん吉にも会いたいし」
「やった〜!だん吉も杏歌に会えるの、きっと喜ぶよ。午前中までには帰るから、そのあとまた仕事も頑張ろうね!」
「ふふっ。それは嬉しいわ。えぇ、戻ったらまたお互い頑張りましょうね。春風にも一言伝えておくわ」
仕事、か。
そういえば──と思い出す。
昨夜、廊下で顔を合わせた綿花。
いつもより少しだけ表情が硬かったのよね。
初の一人任務だもの。無理もないわよね。
「そういえば、綿花はもう任務に出たの? 昨夜、声を掛けたらすごく緊張してるみたいだったから」
「うん、さっき出たよ〜。緊張してたけど、なんとか大丈夫そうだった。僕も応援して送り届けたからね!」
哀伝の言葉に、胸の奥の小さな緊張がふっとほどけた。
綿花なら、きっと大丈夫。
「ふふっ、そう。それなら、よかったわ」
こうして私たちは朝食を済ませると、そのまま町へと繰り出した。




