第50話 夜更けの会議―余白―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
「ちょっと、雲祈〜。僕の杏歌だよ?そんなにいつまでも手を握らないでくれる〜?」
そして、びよ〜んと勢いよく私と雲祈の手を引き離す哀伝。
完全に自分の世界に入り込んでいた雲祈は、一瞬びっくりして目をぱちくりさせた。
すぐに現実に戻ったのか、ぽかんと哀伝を見つめ、声を上げた。
「……あぁ〜またしても、私と杏歌様の愛を切り裂く曲者が!」
その光景を目にした時雨は、豪快に笑い声を響かせた。
「だっはははは〜っ!いつ見ても、雲祈と哀伝、おめぇら最高だな〜!」
「ったく、本当相変わらずだなお前たちは。しかし雲祈。残念だが、お前はまだまだ哀伝には敵わないな」
その春風の言葉に、雲祈は思わず食い気味に返す。
「なぜでございますか、春風さん!」
春風はふっと笑みを浮かべ、静かに答えた。
「なんせ、あの国相手に金額の話まで持ち込んだ男だ。これはそう簡単にできることじゃない。私たち奉行でさえ、ここまで持ち込めるかは怪しいだろう」
その言葉に、みんなの視線が哀伝へと集まる。
雲祈もどこか誇らしげな顔を浮かべていた。
「……ふむ。それは誠に確かでございます!」
春風はさらに続ける。
「私は幼い頃から哀伝を見てきたが、こいつの頭の回転の速さや物事の理解力は並大抵じゃない。そして……杏歌に対する強い想い。こいつは杏歌のこととなると、敵に回すと本当にやっかいだと思うぞ」
「確かにだな。それに哀伝は武術も強いからな。雲祈、お前こてんぱんにされるかもしれないぜ」
「おう、本当だな!それに体力ゴリラの杏歌に説教できるのは哀伝だけだったもんな!」
……団丸、体力ゴリラは余計なのよ!
って、げぇーー!!
また余計なことをぶり返すんじゃないわよ〜!!
「哀伝よぉ〜、そういえばあのとき、おめぇ教えてくれなかったよな〜」
時雨のその問いかけに、私の心臓はばくばく鳴り始めた。
やめてー!
もうその話しないでー!
哀伝、絶対言うんじゃないわよ!!
「へっへっへ〜ん。時雨、何言ってるの?この僕だよ?杏歌を大人しくさせるなんて、ちょちょいのちょいだよ〜!」
そう言って、哀伝はどこか得意げな笑みを浮かべる。
……あぁ、もう!
なんか前にも見たことある展開なんだけど〜!!
一人そわそわしている間に、時雨が口を開いた。
「まぁそうだな、哀伝。おめぇは本当にすげぇよ。俺の部下として誇りに思うぜ。暴れ馬もおめぇにしか大人しくさせられねぇな」
「そうだよ、時雨〜。暴れ馬を手なずけられるのは、この僕だけなんだから〜!」
そう言葉を交わしながら、時雨と哀伝は顔を見合わせ、楽しげに笑い合っている。
そのやり取りに、私はそっと胸をなで下ろした。
あぁ、良かったわ。
あの日のことは──どうやら話されずに何事もなく終わりそうね。
……って、おかしいじゃないの!!
「あんたたち…… “暴れ馬”って、どういう意味よ〜!!」
思わず拳を振り上げる私に、その場のみんながどっと笑い出した。
「おめぇは、どう見たって暴れ馬だろ」
「ゴリラに馬に、お前も大変だな」
「ゴリラと馬……珍しい組み合わせね」
「あなたがたとえ動物でも、かまいません〜」
「ぷはははは〜、僕、お腹痛いんだけど」
「くすくす、杏歌は時に凶暴であるからな」
「くくくっ、凶暴って、栄善。怒られるぞ」
「がはははー、杏歌はゴリラと馬だったのか!」
「蒼月、聞いたか!杏歌さんの正体を!」
「うん、聞いたよ大納!貴重だよね!」
「綿花、ゴリラと馬は何を食べるのかの?」
「茶々蔵さん、やはり果物や草ではないかと」
……この人たち、なんなのもう。
こうして縁談を断る話は、みんなの同意を得て無事まとまった。
笑い声が残る中、私たちは最後の議題へと移るのだった。




