第48話 夜更けの会議―宣言―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
──だが、その声が紡がれるまでに、わずかな沈黙があった。
栄善は真っ直ぐ前を見据えている。
灯りに照らされた横顔は静かで、けれどその奥に揺るがぬ決意が宿っていることを、私は知っている。
その沈黙に、どれほどの覚悟が込められているのかを。
やがて栄善は、静かに言葉を落とした。
「この件は、茶々蔵と杏歌、哀伝、団丸、七左衛門にはすでに伝えてある」
一度、息を整えるように間を置く。
「皆に後から話す形となったこと、まずは詫びたい。……すまぬ」
そう言って栄善は、みんなに向き直り深く頭を下げた。
その姿を、みんなは真剣な面持ちで見つめる。
栄善はゆっくりと口を開いた。
「私は、後に控える対縁の儀で……縁談を断るつもりだ」
──!!!!
栄善から告げられた言葉に、場の空気が一瞬凍りつき、みんな驚きの表情を浮かべる。
その沈黙を破るように、栄善は静かに、揺るぎない声で言葉を続けた。
「もちろん、朽葉ノ国との交易は我が国にとって欠かせぬものだ」
短い言葉が、会議の間に小さな緊張を走らせる。
私は胸の奥で、じっとその重みを受け止めた。
「だが、一国に依存しているだけでは、現状は何も変わらぬ。私たちが今目指している未来は、身分制度廃止という大きな改革だ。長年続いてきた常識を打ち破るには、殿である私が大きな行動に出る必要があると考えている」
その真っ直ぐな言葉に、みんなは静かに耳を傾けている。
私も、言葉の一つ一つを胸に刻み込むように聞き入った。
「そして、縁談と権力を切り離す──それが、私の決意だ。
縁談と権力が結びつくこのしきたりに、いつまでも縛られていては、私たちも国の者たちも、自分の気持ちの赴くままに自由に生きることなどできないのではないだろうか。
この縁談こそ、流れを堰き止める大きな滞りではないだろうか」
みんなは息を呑み、栄善の次の言葉を待った。
「もちろん、私が殿としてこの国を導く以上、自分勝手な取り組みをするわけにはいかぬ。殿となった時点で、その覚悟を背負い、物事を考え、進めていかねばならない」
場には重く、凛とした空気が流れ、誰もがその言葉を胸に刻んでいるようだった。
私は小さく息をつき、覚悟の深さに改めて気づく。
「縁談を断る以上、我が国もまた、この国の民を守るため新たな交易の道を切り開いていかねばならない。そのため、哀伝にはすでに他国との新たな米の交渉を進めてもらっている」
その名を呼ばれた哀伝は、穏やかな表情のまま、静かに一度頷いた。
「その交渉は、まだ確定には至っていない。だが、いずれ実を結ぶと考えている。
哀伝は、一筋縄ではいかぬと名高い国を相手に、すでに金額の話まで進めている。
こちらの希望額にはまだ届いておらず、やり取りの最中ではあるが──
これは、他国との交易の和を広げる大きな兆しだと、私は見ている」
それを聞いた室内には、大きなどよめきが起こった。
そのどよめきは明白──哀伝が、あの手強い国との交渉を進め、しかも金額の話まで詰めているという事実に、誰もが驚きを隠せなかった。
これは本当に、すごいことなの。
「そして、こちらの都合で朽葉ノ国の民を苦しめるわけにもいかぬ。米の取引を行わなければ、国として大きな打撃となる。
そのため、米の取引は継続しつつ、また新たな物資の交易も模索するつもりだ。もちろん、詳細は話し合わねば分からぬ。しかし、朽葉ノ国とは今後も良好な関係を築いていきたいと、私は考えている」
その言葉を聞き、室内は静まり返った。
みんなの視線が栄善に集まり、口を開く者はいない。
言葉の一つ一つが胸に届き、覚悟の重さがじんわりと伝わってくる。
しばらくの沈黙の後、張りつめた空気の中、栄善は静かに口を開いた。




