↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/104

第47話 夜更けの会議―転機―

【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―

私はそのやり取りをそっと見守る。

二人の落ち着いた所作が、なんとも頼もしく感じられた。


「はい。栄善(えいぜん)様、時雨(しぐれ)さん、かしこまりました。時雨さん、明後日はどうぞよろしくお願いします」


「おぅ、綿花(めんか)。俺がみっちり教えてやるからよぉ〜、しっかり付いてこいよ」


その言葉に、綿花の強張っていた指先がわずかに緩んだ。


「午前中は溜まってる書類の承認をしねぇといけねぇんだ。午後からきちんと教えてやるから待ってろよぉ〜」


綿花は小さく頷き、胸の内で明後日の段取りを整えている様子だった。


「はい、午後からですね。予定を合わせておきます」


その様子を見た栄善は、軽く微笑みながら告げる。


「それならば、綿花。其方に初めての一人任務を与える。塩の増量に伴い、荷まとめ用の紐が追加で必要になる。午前中のうちに諭作(ゆさく)の店へ行き、必要な本数を購入してきてもらいたい。よいか?」


綿花は深く頭を下げ、決意を込めて答えた。


「はい、諭作さんのお店で紐の購入ですね。かしこまりました」


綿花の瞳に、かすかな光が宿る。


初めての一人任務──緊張と期待を抱えたその小さな背中に、思わず目を細めてしまった。


そんな綿花を見て、雲祈(うんき)、大納(だいな)、蒼月(そうげつ)も、そっと声をかける。


「ほぉ〜綿花さんもついに独り立ちですな」

「あぁ、明後日は記念すべき日だな」

「本当だね、応援していますからね」


その声に、綿花は小さく息をつき、安堵の色を浮かべるように微笑んだ。


私たちもまた、その小さな笑みに、そっと微笑み返すように見守った。


和らいだ空気の中、栄善は穏やかな眼差しのまま次の指示へと移る。


「そして、雲祈と哀伝(あいでん)。雲祈は、輸送に必要な麻袋の調達を。哀伝は、だん吉(きち)のもとへ赴き、増量分の方針を伝えてくれぬか?」


雲祈はぱっと顔を上げ、胸に手を当てて、力強く応じた。


「もちろんですとも、栄善様!この私に、お任せください!」


ふふっ。

雲祈ったら、やる気いっぱいね。


そのあふれる熱意が、夜の会議(かいぎ)の間(ま)に軽やかな空気を運んでいるようだった。


「明日は別の任務がございますので、明後日、伺わせていただきます!」


その言葉にも、雲祈らしい元気さがにじみ出ていた。


それを聞いた哀伝が、にひひと笑った。


「相変わらず元気だなぁ〜雲祈〜。任せてよ、栄善〜。あと僕も明日は手が離せなくてさ。明後日になりそうだけどいい?」


栄善は二人を見つめ、柔らかく頷く。


「あぁ、もちろんだ。二人とも、感謝する。よろしく頼む」


すると雲祈が、こちらに視線を向けた。


「あぁ〜杏歌(きょうか)様〜。私が任務に出ている間、しばしのお別れです〜。毎日寂しい限りですが、あなたのためと思い、励んでまいりますからね!」


雲祈の今にも踊りだしそうないつもの調子に、夜更けまで積み重なっていたみんなの疲れが、ふわりとほどけていくようだった。


「お前はいつも元気だな」

「春風(はるかぜ)の言う通りだわ」

「杏歌、あなたは曲者に人気ね」

「ちょっと柚寧(ゆね)〜、それ僕も入ってない〜?」

「哀伝、おめぇもに決まってんだろうが〜」

「杏歌は、体力ゴリラだからな! がははは!」

「体力ゴリラと曲者、関係あんのか……?」

「七左衛門(しちざえもん)さん、調べる余地はありそうです」

「そうだね、大納。何か分かるかもしれない」

「綿花、調べるとしたら食べ物かの?」

「はい、謎が解き明かされるかもしれません」


……なんか、失礼なこと言ってる人たちもいない?

疲れてるから、空耳かしら?


みんなの賑やかなやり取りを聞き、栄善はくすりと微笑んだ。


「雲祈は本当に面白いのだな」


その笑みの余韻を保ったまま、栄善は落ち着いた声で口を開いた。


「そして後は、勘定班は予算の確認を。団丸(だんまる)は訓練隊の隊員を動員し、運搬と保管場所の整理を進めておいてくれ。物資輸送の護衛は七左衛門、道の危険箇所の確認も頼む」


栄善の指示を受けたみんなの横顔が、灯りの下で、一層頼もしく映った。


準備が着々と進む様子に、栄善の顔にはほのかな安堵の色が浮かんでいた。


「では、塩の増量についての話は、これにて一区切りとしよう」


栄善は一呼吸置き、静かに言葉を続けた。


「……次の議題に入る」


その真剣な眼差しを受け、場の空気が一瞬、張り詰める。


みんなは思わず互いに顔を見合わせた。


「どうしたんだろう……?」

そんな微かなざわめきが、そっと場を包む。


知っている私たちは、胸の奥で静かに覚悟を整えていた。


茶々蔵(ちゃちゃぞう)と、幼馴染の私たちだけが知る秘密。


今度の対縁(たいえん)の儀(ぎ)で、栄善が朽葉ノ国(くちばのくに)への縁談を断ること──


その話が、今まさにみんなの前で語られようとしている。


私たちは、思わずごくりと息を呑んだ。


そして、静かな夜の灯りの下で栄善がゆっくりと口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。