第45話 結局、いつもこうなる
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
あの頃を思い返すと、今もなお懐かしさが込み上げてくる。
「ふふっ。今思えばそんなこともあったわよね」
「あぁ、本当だな。しかし杏歌。お前も災難だったな。よりによって、時雨に部屋を間違われるなんてな」
「春風、そりゃ〜どういう意味だよ」
「どういう意味も何もないでしょう。それに、一番うるさかったのは時雨、あなたではないかしら?」
「ぷはははは〜、柚寧の言う通りだね。さっき雲祈たちに『うるせぇな〜、餓鬼ども』って言ってたけど、時雨も十分うるさいじゃん」
その哀伝の発言に、みんな思わず笑い声を上げた。
「杏歌、ご苦労さんじゃったな。良い教育係じゃった。みんながこんなにも立派に成長したのは、お前のおかげじゃ。みんなも素晴らしい取り組みじゃった」
「茶々蔵の言う通りだな。杏歌も皆も、ご苦労であった。雲祈、大納、蒼月。後輩の綿花を、よろしく頼む」
茶々蔵と栄善の言葉を聞いた三人は、嬉しそうに頬を緩めて微笑んだ。
「綿花さん。今のお話の通り、私たちは杏歌様のもとでしっかりと学ばせていただきました」
「そうです、綿花さん。栄善様もこのようにおっしゃられていますし、いつでも頼ってくださいね」
「雲祈と大納の言う通りだね。綿花さん、しつこいようですが、困ったことがありましたらいつでも手を差し伸べますからね」
三人は、先輩らしく綿花にそう告げた。
「私たちに任せなさい」と言わんばかりの頼もしげな顔をしていた。
綿花は、頼もしい三人を見つめ、くすっと微笑んで言った。
「はい、頼りにしています。杏歌さん」
……えぇーーーーー!!
みんなの声が、一斉に廊下に響き渡った。
「まぁ〜今の話を聞いてると、一番頼りになる杏歌に聞いた方が間違いないよね〜」
「やっぱり杏歌、お前は後輩たちの憧れの的だな。上司として誇りに思うよ」
哀伝はにひひっと笑い、春風は小さく微笑みながら静かに口を開いた。
雲祈と大納と蒼月の目は、まるで豆鉄砲を食らったかのように点になっていた。
その光景を見て、時雨が思わず笑い出す。
「だははははっ〜!おめぇらよ〜、なんだよその目は、だはははは〜っ!」
時雨の笑い声に、三人は慌てて顔を見合わせた。
「……杏歌さん、私たち今、とても“頼られてる感”出てましたよね?」
大納の問いに、私はにやりと笑った。
「まぁ、まだまだ三人は、私の雛鳥ってところかしら?綿花に頼られるようになる日までしっかりと面倒見てあげるから安心しなさい」
「さすが僕の杏歌〜、かっこいい〜っ!」
「いやぁ〜杏歌様〜、素敵です〜、もう離れられません〜」
そのとき、春風がふっと私の手元を見て呟いた。
「そういえば杏歌。その手に持っている書類の束は私に届ける分じゃないのか?」
「あら、そうだったわ!話し込んじゃってすっかり忘れてたわ」
「哀伝と綿花、おめぇ〜らもそろそろ諭作のところへ行かねぇ〜か」
「そうだったね綿花。頼れる人がはっきりしたことだしそろそろ行こうか」
「ふふっ。はい、哀伝さん」
そうして、それぞれの持ち場へと戻っていくみんな。
雲祈、大納、蒼月の三人は、哀伝の言葉を聞いてぐさっ!──と再び胸に矢が刺さったかのような表情を浮かべていた。
やっぱり頼りになるのはこの人だ。
この人には、まだまだ敵わない。
三人は心の中でそう思った。
……約一名は、そんな中でも浮かれていた。
(あぁ〜、杏歌様〜さすがです〜)
最後の最後に、すべてを持っていくのは結局、杏歌なのであった。




