第44話 杏歌の座学【午後・公儀飛脚編】③
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
「飛脚札とは、飛脚が本物であることを証明する札なの。桂ノ国の飛脚である証明が必要ってことよ。そのため飛脚札にはみんなが付けている家紋と同じ刻印が刻まれているの。その札と文書を門番が確認して門を通すのよ」
「本物であることの証明、良き響きですな」
「あぁ、私は少しぞくっとしたな」
「文書の重みをより実感するよね」
「そうでしょ?そして、その札は蔵の管理者の松風が金庫で大切に保管しているのよ」
「さすが松風さん。蔵の番人ですな」
「本当だな。たくさんの責任を担われている」
「松風さんの管理のお陰だよね。すごいな」
「ふふっ。松風は蔵の管理の達人だからね。飛脚札は飛脚の方が松風のところへ受け取りに来て、持ち出しの記録を松風が専用の帳簿に書き入れるの。誰がいつ使ったかが分かるようにちゃんと管理しているのよ。報告の流れは文書のときと同じよ」
三人は顔を見合わせ、ふむふむと頷きながら内容を深めているようだった。
……みんなこれでやっと門番の説明が繋がったと思ってくれたかしら?
「みんな、どう? 前に説明した門番の話と、今の内容は繋がってきたかしら?」
「はい、杏歌様!もちろんですとも!『後でちゃんと説明するから待っていて』と言ってくださった通り、とてもよく理解できました!」
大納と蒼月も同じように声を揃えて答え、私は安心した。
「それならよかったわ。夜間に文書を届けなければならない場合の話をしたと思うけれど、そういった緊急時にも対応できるように屯所は城内に設けられているの。ただし、茶々蔵や栄善の許可がある場合でも、門を通る際の決まりは今の説明と変わらないから、その点はしっかり覚えておいてね」
「もちろんですとも、杏歌様〜!」
「しっかりと覚えておきます!」
「私も忘れません!」
「ふふっ、みんなありがとう。今日の座学はこれで終わりよ。よく頑張ったわね。最後に公儀飛脚の方々がいる屯所へ案内するわ。その後、終礼をして終わりにしましょう」
「やったーー!!」
みんな憧れの公儀飛脚に会えるのが嬉しいみたいで、きゃっきゃっと騒ぎながら楽しそうにしていた。
特に雲祈は、飛脚の方たちと馬が合うみたいで、すぐに打ち解けていたわね。
確かに、飛脚の方々は明るくて面白いのよね。
案内が終わると、私たちは終礼のために再び私の書斎へ戻った。
*
……えっ?
……な、なんなのこれは……!!
「ぐぉ〜っ、ぐぉ〜っ、すぴ〜……ぐぉ〜」
酔っ払っていたのか、呑んだくれた時雨が私の書斎でいびきをかいて寝ている。
……こんの、酔っ払い〜!
人の書斎で何してんのよ〜!!
「ちょっと、起きなさいよ!」
肩を揺さぶるも、時雨はまるで石のように動かない。
「……全然起きないな、時雨さん」
「……うん、それにすごいお酒の匂いだよ」
大納と蒼月も、思わず「え?」って声が出そうな顔をしていた。
……無理もないわ。
初めて見るでしょうから。
大納たちも手伝ってくれたけれど、時雨はまるで動かない。
途方に暮れていると、そこへこの男が立ちはだかった。
「ちっちっち。杏歌様、この私にお任せください」
「……えっ、雲祈?」
何かいい策でもあるのかしら?
自信満々に前に出た雲祈に、みんなが注目する。
「……それはずばり……起こすためには──」
そう言った雲祈は、決意を決めて時雨の元へと走った。
しかし、勢い余って足をもつらせ、思わず転びそうになる。
……いや、転んだ。
そのまま雲祈の体は勢いよく時雨のお腹へとのめり込んだ。
「……ぐほっ、いでーーーーー!!!」
あまりにも痛かったのか、顔を真っ赤にした時雨が飛び起きた。
「……雲祈、何してんだ、てめぇ……」
「いや〜ん、襲われる〜」
その一連の流れがおかしくて、私たちは声を上げて笑った。
それに釣られて、よく分かっていない時雨も笑い出す。
「だはははは〜っ!」
その賑やかな声に誘われて、みんなが私の書斎へ姿を現した。
栄善なんて、時雨の大声を聞いて「雷が落ちたようだ」なんて言ってたのよ?
ほんと笑っちゃうわ。
こうして、座学は賑やかに幕を閉じた。




