第40話 杏歌の座学【午後・門番編】③
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
「この文書を届ける役目は別にあるけれど、その話は後ほどするわね」
「承知しました、杏歌様!」
「ふふっ。それと他国へ出す文書の確認は、基本的にお城と国境の門番が担うことになるわ。先ほど通行帳簿の話をしたけれど、文書用の帳簿も別にあって、文書はそちらの帳簿で管理しているのよ」
「ふむふむ、文書用の帳簿か」
「大納、気になるでしょ?お城の門番と国境の門番は、桂ノ国が他国へ文書を出す際に、決まりに沿った正式な文書かどうかを確認するの。まずは、その条件を満たさないと各門を通すことはできないわ。それは以前説明した通りよ。そして、桂ノ国から他国へ文書が届けられる際には、お城と国境の門番は必ず栄善に報告するようになっているわ」
「杏歌さん、どのようにして栄善様へ報告するのですか?」
蒼月の問いに、雲祈と大納も考え込むように首を傾けた。
「それはね、基本的には開門時間内に届けられるから報告は朝組の役目になるの。そして、お城と国境の門番は、夜組と交代したあとにお城へ戻り、まず口頭と帳簿で蔵の管理者の松風へ報告するのよ。
その後、松風から茶々蔵へ、さらに茶々蔵から栄善へと報告が上がるわ。茶々蔵と栄善は、その日に出す他国への文書を把握しているから、帳簿と照らし合わせて確認するの。
門番での確認は最初の段階の確認。そして、最終の照合でも必ず確認を行うことで、偽文書を防ぐ仕組みになっているのよ」
大納が、はっとした様子で口を開いた。
「なるほど!お城と国境、両方の門から報告が上がるなら、辻褄が合わないとおかしい……それに、門番の方々は二名体制ですし、どちらか一人が手を染めようとしても、もう一人が必ず見ている。そういう意味でも、簡単には動けませんね!」
「おぉ〜、大納。頭が冴えていますな!」
「うん、これなら確実に防げるよね!」
さすが大納ね。
門番通だけあって、理解が早いわ。
「その通りよ、大納。私が言いたかったことをちゃんと説明してくれたわ。助かったわ、ありがとう」
再び子犬みたいに嬉しそうに笑う大納に、雲祈がぶーぶー言っていた。
けれど、騒いでいたと思ったら今度は雲祈が口を開いた。
「しかし杏歌様、緊急時などで夜間に文書を出さなければならない場合は、どう対処されるのですか?国を長く支えていく上で、そうした事態も起こり得ると思うのです」
……まったくこの子ったら。
ふざけているかと思えば、必ず核心を突いた問いをしてくる。
本当、どこかの誰かさんにそっくりだわ。
「えぇ、雲祈。確かに、過去にもそういった事例はあったわ。夜間に文書を届けなければならない場合も、茶々蔵と栄善の許可があれば届けられるのよ。
ただ、今の説明はまだ“文書を届ける役目”の話に入っていないから、少し分かりにくいかもしれないわね。でも大丈夫。後でちゃんと説明するから待っていて」
私が説明し終えると、雲祈が両手をばっと顔に当て、首を左右に振り始めた。
……雲祈、一体どうしたのかしら?
大納と蒼月も同じように首を傾げ、雲祈を見ている。
「雲祈、どうしたの?大丈夫?疲れちゃったなら、少し休憩しましょうか?」
私は心配になり、雲祈にそう問いかけた。
けれど、返ってきた言葉は拍子抜けするものだった。
「……もう〜、杏歌様〜。凛々しくて、お美しくて、心強くて、そして確かなご説明。あなたは一体どこまで私を魅了するおつもりですか〜」
がくっと肩が落ちた。
……そういうことね。
体調に問題がないなら、よかったわ。
「確かに、今の杏歌さん、さすがって感じでかっこよかったよな!」
「うん!私たち、こんなに素晴らしい人から教わっているんだなって、誇らしく思うよね!」
みんなにそんなふうに褒められて、私は少し照れてしまった。
「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。みんな、ありがとう。私もこんなに素敵な子たちに教えられて光栄よ」
場がほっこりとした空気に包まれた。
──穏やかな時間の中で、私はそっと息を整えた。




